影が一つ多い   作:怪盗エンペラー

2 / 13
4月8日 帰り道

 

 

 

 次の日の放課後。

 チャイムが鳴るより早く、誰かが椅子を引いた音がした。

 私はちらっと隣を見る。昨日と同じように、静かに荷物をまとめているユイナちゃん。

 

 ……よし。

 

 心の中でぐっと気合いを入れて、勢いのまま声をかける。

 

「ユイナちゃん、一緒帰ろ!」

 

 勇気を振り絞って誘う。

 昨日、ユイナちゃんの帰り道が気になって。ほんのちょっとだけ後ろを歩いてみたら、方向が同じだったんだよね。

 

「……」

 

 あれ。ユイナちゃんが、少しだけ動きを止めた。

 

 え、まって。これ、やらかした?

 ギア上げるタイミング、完全にミスった?

 

「……」

 

 ど、どうしよう。今から「ごめん、やっぱいいや」とか言うのも変だし——

 

 って焦ってた、その時。

 

「……うん」

 

 ほんの少し考えるみたいに間を置いてから、

 

「ミヤと帰るのが、いいと思った」

 

 ふわっと、落ち着いた声。顔を上げると、ユイナちゃんがこっちを見ていた。

 

 ——え。

 

 一瞬、言葉の意味が遅れて届く。それから、じわっと胸の奥があったかくなった。

 

「ほんと? やった!」

 

 なんだ。ちょっと勇気出して良かったじゃん、私。

 

 

 

 

 

 校門を出て、並んで歩き出す。

 さっきまでの教室の空気が嘘みたいに、外は少しだけ自由で、風が気持ちいい。

 

「ユイナちゃんってさ、家この辺なの?」

「うん、もう少し先」

「そっか! じゃぁ、結構一緒に帰れるね」

「そうだね。 ……その方が、楽しそう」

 

 すぐに返って来た言葉に、なんだかホッとする。

 

 ちゃんと会話になってる。

 

「部活とかどうするの?」

「まだ決めてないかな」

「わかる! いっぱいありすぎて迷うよね。運動部もいいし、文化部も楽しそうだし……」

 

 話しながら、ついテンションが上がる。

 

「でも私、朝弱いから朝練あるところは無理かも……」

「ふふ、それは大変そう」

 

 ユイナちゃんが小さく微笑んだ。

 

「ユイナちゃんは? 中学の時なんかやってた?」

「……」

 

 ユイナちゃんって、なんとなく——

 静かで、落ち着いてて、姿勢も綺麗で。後ろでまとめた髪とか、あの雰囲気とか。

 ほら、こう……お茶を点ててそうっていうか。

 

 茶道部、とかすごく似合いそう。

 

 それか華道とか。とにかく、しとやかで上品な奴。

 どことなく、育ち良さそうだし。 ……うん、絶対そういう系。

 

 なんて、勝手に想像していたら。

 

「……中学は、陸上してた」

 

 ——え?

 

 足が一瞬、止まりかけた。

 

「り、陸上?」

「うん」

 

 あまりにもイメージと違いすぎて、思わず聞き返してしまう。

 

 だって、え? この落ち着いた雰囲気で走ったりするの? それも結構ガチなヤツ。

 

「い、意外……」

「そう?」

「うん。なんか、もっとこう……」

 

 言いかけて、ちょっと迷う。お嬢様ぽいって言っていいのかな。

 

「茶道部とかやってそうなイメージだった」

 

 結局そのまま言うと、ユイナちゃんは目を丸くして——

 

「ふふ」

 

 小さく笑った。

 

「よく言われる」

 

 その言い方が少しだけ柔らかくて、さっきまでの印象とほんの少しだけ重なる。

 でもやっぱり、どこか違う。

 

 ……陸上、かあ。

 

 頭の中で、さっきのユイナちゃんの姿と、「走ってる姿」を無理やり重ねてみるけど、うまく想像できない。

 

 ——でも。

 

 どこかで、見たことがある気がした。初めて会ったはず……なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。