次の日の放課後。
チャイムが鳴るより早く、誰かが椅子を引いた音がした。
私はちらっと隣を見る。昨日と同じように、静かに荷物をまとめているユイナちゃん。
……よし。
心の中でぐっと気合いを入れて、勢いのまま声をかける。
「ユイナちゃん、一緒帰ろ!」
勇気を振り絞って誘う。
昨日、ユイナちゃんの帰り道が気になって。ほんのちょっとだけ後ろを歩いてみたら、方向が同じだったんだよね。
「……」
あれ。ユイナちゃんが、少しだけ動きを止めた。
え、まって。これ、やらかした?
ギア上げるタイミング、完全にミスった?
「……」
ど、どうしよう。今から「ごめん、やっぱいいや」とか言うのも変だし——
って焦ってた、その時。
「……うん」
ほんの少し考えるみたいに間を置いてから、
「ミヤと帰るのが、いいと思った」
ふわっと、落ち着いた声。顔を上げると、ユイナちゃんがこっちを見ていた。
——え。
一瞬、言葉の意味が遅れて届く。それから、じわっと胸の奥があったかくなった。
「ほんと? やった!」
なんだ。ちょっと勇気出して良かったじゃん、私。
校門を出て、並んで歩き出す。
さっきまでの教室の空気が嘘みたいに、外は少しだけ自由で、風が気持ちいい。
「ユイナちゃんってさ、家この辺なの?」
「うん、もう少し先」
「そっか! じゃぁ、結構一緒に帰れるね」
「そうだね。 ……その方が、楽しそう」
すぐに返って来た言葉に、なんだかホッとする。
ちゃんと会話になってる。
「部活とかどうするの?」
「まだ決めてないかな」
「わかる! いっぱいありすぎて迷うよね。運動部もいいし、文化部も楽しそうだし……」
話しながら、ついテンションが上がる。
「でも私、朝弱いから朝練あるところは無理かも……」
「ふふ、それは大変そう」
ユイナちゃんが小さく微笑んだ。
「ユイナちゃんは? 中学の時なんかやってた?」
「……」
ユイナちゃんって、なんとなく——
静かで、落ち着いてて、姿勢も綺麗で。後ろでまとめた髪とか、あの雰囲気とか。
ほら、こう……お茶を点ててそうっていうか。
茶道部、とかすごく似合いそう。
それか華道とか。とにかく、しとやかで上品な奴。
どことなく、育ち良さそうだし。 ……うん、絶対そういう系。
なんて、勝手に想像していたら。
「……中学は、陸上してた」
——え?
足が一瞬、止まりかけた。
「り、陸上?」
「うん」
あまりにもイメージと違いすぎて、思わず聞き返してしまう。
だって、え? この落ち着いた雰囲気で走ったりするの? それも結構ガチなヤツ。
「い、意外……」
「そう?」
「うん。なんか、もっとこう……」
言いかけて、ちょっと迷う。お嬢様ぽいって言っていいのかな。
「茶道部とかやってそうなイメージだった」
結局そのまま言うと、ユイナちゃんは目を丸くして——
「ふふ」
小さく笑った。
「よく言われる」
その言い方が少しだけ柔らかくて、さっきまでの印象とほんの少しだけ重なる。
でもやっぱり、どこか違う。
……陸上、かあ。
頭の中で、さっきのユイナちゃんの姿と、「走ってる姿」を無理やり重ねてみるけど、うまく想像できない。
——でも。
どこかで、見たことがある気がした。初めて会ったはず……なのに。