ある日の放課後。窓から入ってくる風が、少しだけぬるくなっていった。
気づけば、上着を着なくても平気な日が増えていて。校庭の緑も、前より濃くなっている。
私は、頬杖をついたまま、外を眺めていた。
隣の席のユイナちゃんは、相変わらず姿勢よく座っていて、静かにノートを見ている。
……の、はずなんだけど。
「ユイナさんって、やっぱすごいよね!」
「学年一位とか普通にヤバくない?」
「どうやって勉強してるの⁉」
その周りには、なぜか人だかりができていた。
……そう。この間のテストで、ユイナちゃんは学年一位を取った。
それが発表されてからというもの。こんな感じで、やたら人に囲まれるように。
「えっと……」
ユイナちゃんが、少しだけ視線を泳がせる。
「特別なことは、あまり……」
いつも通りの落ち着いた声。でも、ほんの少しだけ歯切れが悪い。
「ノート見せてもらっていい?」
「放課後、教えて欲しいんだけど!」
「今回の数学のテストさ!」
質問が次々飛んできて、ちょっと困ってるのが……。
「え、すご……」
「字、きれい~!」
「先生より分かりやすい!」
「……あ、ありがとう」
周りのテンションが高くて、ちょっと圧がある。
でも、完全に嫌そうってわけでもなくて。むしろ、ほんの少しだけ嬉しそうで。
「……」
あれ。今の、なんだろ。
ノートが綺麗なことも、説明が分かりやすいところも、一緒にお出かけしたことも。
なんでだろう。私の方が、先に知ってたはずなのに。
「……」
やだな、これ。
自分でもちょっと面倒くさい。そう思いながら、ふと視線を上げると。
——ぱち、と。
ふいに、視線がぶつかった。
「あ」
一瞬だけ時間が止まる。周りはまだ騒がしいのに、そこだけ切り取られたみたいに静かで。
ユイナちゃんは、ほんの少しだけ目を見開いて。
それから、少し困ったような顔をした。
ほんのわずかに、眉が寄って。どうしていいか分からない、みたいな。
「……ごめん、ちょっといい?」
胸の奥に残っている、さっきのモヤっとが消えない。
でも。このまま見ているのも、なんか違う。
「ユイナちゃん……この後ちょっと用事あってさ」
軽く笑いながら。
「だから、あんまり長くは無理かも」
断るんじゃなくて、時間がないようにする。
「……あ、そっか!」
「ごめんね、ユイナさん」
「また今度教えて!」
「うん、またね」
ユイナちゃんが小さく頷く。さっきより、少しだけホッとした顔。
そのまま人が散っていって、教室が静かになる。
「……ありがとう、ミヤ」
「え? あー、全然」
いつも通りに笑って返す。軽く手を振って、誤魔化すみたいに。
「ミヤがいて、よかった」
「そ、そう?」
「うん……どう答えればいいかのか、分からなかった」
「え?」
「みんな、一気に来て……ちょっと怖かった」
……そうだよね。やっぱり、苦手よね。ああいうの。
「じゃぁさ、困った時は……私を呼んで」
「え?」
「そしたら、助けるし」
言葉にした瞬間、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。
「……うん。頼ってもいい?」
「もっちろん!」
「ありがとう、ミヤ」
ユイナちゃんが、少しだけこちらを見る。
嬉しい、はずなのに。どこか引っかかっていた。