影が一つ多い   作:怪盗エンペラー

6 / 13
5月7日 人気者

 

 

 

 ある日の放課後。窓から入ってくる風が、少しだけぬるくなっていった。

 気づけば、上着を着なくても平気な日が増えていて。校庭の緑も、前より濃くなっている。

 

 私は、頬杖をついたまま、外を眺めていた。

 

 隣の席のユイナちゃんは、相変わらず姿勢よく座っていて、静かにノートを見ている。

 

 ……の、はずなんだけど。

 

「ユイナさんって、やっぱすごいよね!」

「学年一位とか普通にヤバくない?」

「どうやって勉強してるの⁉」

 

 その周りには、なぜか人だかりができていた。

 

 ……そう。この間のテストで、ユイナちゃんは学年一位を取った。

 

 それが発表されてからというもの。こんな感じで、やたら人に囲まれるように。

 

「えっと……」

 

 ユイナちゃんが、少しだけ視線を泳がせる。

 

「特別なことは、あまり……」

 

 いつも通りの落ち着いた声。でも、ほんの少しだけ歯切れが悪い。

 

「ノート見せてもらっていい?」

「放課後、教えて欲しいんだけど!」

「今回の数学のテストさ!」

 

 質問が次々飛んできて、ちょっと困ってるのが……。

 

「え、すご……」

「字、きれい~!」

「先生より分かりやすい!」

「……あ、ありがとう」

 

 周りのテンションが高くて、ちょっと圧がある。

 でも、完全に嫌そうってわけでもなくて。むしろ、ほんの少しだけ嬉しそうで。

 

「……」

 

 あれ。今の、なんだろ。

 ノートが綺麗なことも、説明が分かりやすいところも、一緒にお出かけしたことも。

 

 なんでだろう。私の方が、先に知ってたはずなのに。

 

「……」

 

 やだな、これ。

 自分でもちょっと面倒くさい。そう思いながら、ふと視線を上げると。

 

 ——ぱち、と。

 

 ふいに、視線がぶつかった。

 

「あ」

 

 一瞬だけ時間が止まる。周りはまだ騒がしいのに、そこだけ切り取られたみたいに静かで。

 ユイナちゃんは、ほんの少しだけ目を見開いて。

 

 それから、少し困ったような顔をした。

 

 ほんのわずかに、眉が寄って。どうしていいか分からない、みたいな。

 

「……ごめん、ちょっといい?」

 

 胸の奥に残っている、さっきのモヤっとが消えない。

 でも。このまま見ているのも、なんか違う。

 

「ユイナちゃん……この後ちょっと用事あってさ」

 

 軽く笑いながら。

 

「だから、あんまり長くは無理かも」

 

 断るんじゃなくて、時間がないようにする。

 

「……あ、そっか!」

「ごめんね、ユイナさん」

「また今度教えて!」

「うん、またね」

 

 ユイナちゃんが小さく頷く。さっきより、少しだけホッとした顔。

 そのまま人が散っていって、教室が静かになる。

 

 

 

 

 

「……ありがとう、ミヤ」

「え? あー、全然」

 

 いつも通りに笑って返す。軽く手を振って、誤魔化すみたいに。

 

「ミヤがいて、よかった」

「そ、そう?」

「うん……どう答えればいいかのか、分からなかった」

「え?」

「みんな、一気に来て……ちょっと怖かった」

 

 ……そうだよね。やっぱり、苦手よね。ああいうの。

 

「じゃぁさ、困った時は……私を呼んで」

「え?」

「そしたら、助けるし」

 

 言葉にした瞬間、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。

 

「……うん。頼ってもいい?」

「もっちろん!」

「ありがとう、ミヤ」

 

 ユイナちゃんが、少しだけこちらを見る。

 

 嬉しい、はずなのに。どこか引っかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。