影が一つ多い   作:怪盗エンペラー

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5月22日 変化

 

 

 

 最近、ユイナちゃんの周りに人が増えた。

 

「ユイナさん、この問題どうやるの?」

「すまない、ノート見せてください! 写せなかったところあって……」

 

 気づけば、席の周りにはいつも誰かがいて、自然と小さな輪が出来ている。

 

「ミヤちゃん、昼休みなのに邪魔してごめん! 次赤点取ったらマズくて……」

「えっ、全然大丈夫だよ!」

「……ごめん、ミヤ。すぐ終わらせるから、まってて」

「ううん、気にしないで! ……私、先食べてるからさ。ゆっくり教えてあげて!」

 

 軽く手を振ると、周りの子たちが「ありがとう!」って安心したように笑う。

 ユイナちゃんはそのままノートに目を落として、説明を始めた。

 

「ここは、この数式をこんな感じで変えて……」

「え、なにそれ。すご……」

 

 すぐに、周りの空気が勉強モードに変わっていく。

 私はその輪から少しだけ離れて、自分の席に戻った。お弁当を開く。いつもと同じ中身。

 

 ……うん。別に、いつも通り。

 

 こういうの、よくあるし。困ってるなら助けるの、ユイナちゃんらしいし。

 

 むしろいいことだよね……うん。

 

 味はちゃんといつも通りなのに、なんか……ちょっとだけ静かだな、って。

 

「……」

 

 少し離れたところで、ユイナちゃんが誰かのノートを覗き込んでいる。

 落ち着いた声で、丁寧に説明して。

 

 なんだろ。今、声をかけたら会話が途切れそうで。

 

 なんとなく、今そこに入っていくのは違う気がして。

 

 私はもう一口、静かにお弁当を口に運んだ。

 

 

 

 

 放課後。

 チャイムが鳴って、教室の空気が一気にゆるむ……はずが、今日は少し違った。

 

「……ミヤ、ほんとにいいの?」

「うん、大丈夫! 今日家のことやらなきゃでさ」

「……そう」

 

 机を寄せて、ノートを広げて。気づけば、簡単な勉強会みたいな空気になっていた。

 

「ユイナちゃんこそ、キツくない?」

「……なにが?」

「ずっと教えてたし、疲れてるでしょ?」

「うぅん」

 

 ユイナちゃんは、ほんの少しだけ視線を落としてから。

 

「大丈夫」

 

 それから、ゆっくりと顔を上げる。

 

「せっかくなら、みんなの期待に応えないと」

「……そっか」

 

 ユイナちゃんは、そういう子だ。

 頼られたら、ちゃんと応えようとする。

 だから、みんな集まるし。だから、あの輪ができる。

 

「……無理、してない?」

「うん……大丈夫」

 

 うまく伝えてるか、自信はなかったけど。

 

「また明日」

「またねー」

 

 教室を出る。後ろで、机を動かす音と、誰かの声。

 振り返れば、まだ教室のドアは開いていて。

 

 家事、か。

 

 ぽつんと、その言葉が頭に浮かぶ。

 別に、嘘じゃない。やらなきゃいけないことは、ある。

 

 ……でも。ほんの少しだけ。

 

 教室の中に、自分の席が見えなくなった気がした。

 鞄を持つ手が震える。

 

 

 

 

 

 ——本当は、一緒に帰りたかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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