最近、ユイナちゃんの周りに人が増えた。
「ユイナさん、この問題どうやるの?」
「すまない、ノート見せてください! 写せなかったところあって……」
気づけば、席の周りにはいつも誰かがいて、自然と小さな輪が出来ている。
「ミヤちゃん、昼休みなのに邪魔してごめん! 次赤点取ったらマズくて……」
「えっ、全然大丈夫だよ!」
「……ごめん、ミヤ。すぐ終わらせるから、まってて」
「ううん、気にしないで! ……私、先食べてるからさ。ゆっくり教えてあげて!」
軽く手を振ると、周りの子たちが「ありがとう!」って安心したように笑う。
ユイナちゃんはそのままノートに目を落として、説明を始めた。
「ここは、この数式をこんな感じで変えて……」
「え、なにそれ。すご……」
すぐに、周りの空気が勉強モードに変わっていく。
私はその輪から少しだけ離れて、自分の席に戻った。お弁当を開く。いつもと同じ中身。
……うん。別に、いつも通り。
こういうの、よくあるし。困ってるなら助けるの、ユイナちゃんらしいし。
むしろいいことだよね……うん。
味はちゃんといつも通りなのに、なんか……ちょっとだけ静かだな、って。
「……」
少し離れたところで、ユイナちゃんが誰かのノートを覗き込んでいる。
落ち着いた声で、丁寧に説明して。
なんだろ。今、声をかけたら会話が途切れそうで。
なんとなく、今そこに入っていくのは違う気がして。
私はもう一口、静かにお弁当を口に運んだ。
放課後。
チャイムが鳴って、教室の空気が一気にゆるむ……はずが、今日は少し違った。
「……ミヤ、ほんとにいいの?」
「うん、大丈夫! 今日家のことやらなきゃでさ」
「……そう」
机を寄せて、ノートを広げて。気づけば、簡単な勉強会みたいな空気になっていた。
「ユイナちゃんこそ、キツくない?」
「……なにが?」
「ずっと教えてたし、疲れてるでしょ?」
「うぅん」
ユイナちゃんは、ほんの少しだけ視線を落としてから。
「大丈夫」
それから、ゆっくりと顔を上げる。
「せっかくなら、みんなの期待に応えないと」
「……そっか」
ユイナちゃんは、そういう子だ。
頼られたら、ちゃんと応えようとする。
だから、みんな集まるし。だから、あの輪ができる。
「……無理、してない?」
「うん……大丈夫」
うまく伝えてるか、自信はなかったけど。
「また明日」
「またねー」
教室を出る。後ろで、机を動かす音と、誰かの声。
振り返れば、まだ教室のドアは開いていて。
家事、か。
ぽつんと、その言葉が頭に浮かぶ。
別に、嘘じゃない。やらなきゃいけないことは、ある。
……でも。ほんの少しだけ。
教室の中に、自分の席が見えなくなった気がした。
鞄を持つ手が震える。
——本当は、一緒に帰りたかった。