「君の主観ではそうなのかもしれない」
壮年の男は静かに言った。
「だが観測された結果からは、そうは思えない」
「……」
言葉が詰まる。
若い男が続ける。
「さらに、もう一つ確認されている事象があります」
画面が切り替わる。
別のグラフ。
今度は波形が連続している。
「同時刻帯、別地点」
「公園です」
「……」
嫌な予感がする。
「この場所で、同様のエネルギー変動が複数回発生しています」
「発生源は――」
一拍。
「あなた自身です」
「……は?」
「対象は自己」
淡々とした説明。
「あなたは自身に対して能力を行使しています」
沈黙。
壮年の男が口を開く。
「確認する」
「女性に接触した後、公園に移動し」
「自身に対して何らかの能力を使用したな?」
「……」
答えられない。
否定できない。
沈黙が、そのまま肯定になる。
壮年の男は続ける。
「観測された事実を並べる」
「対象のエネルギーが減少した」
「直後に、あなた自身のエネルギー変動が発生した」
一拍。
「これは何を意味する?」
「……」
分かっている。
言われるまでもなく。
分かってしまう。
「……」
壮年の男が、言葉を選ぶようにして言う。
「他者から減少したものを」
「自分に補填している可能性が高い」
さらに一歩踏み込む。
「つまり」
「それは“救助”ではなく」
一拍。
「強奪ではないのか?」
「……っ」
喉が詰まる。
言い返せない。
理屈としては、完全に通っている。
「……」
「違うって言えよ」
頭の中で、自分に言う。
だが。
言葉が出てこない。
壮年の男は追い打ちをかけない。
ただ、結論だけを置く。
「だから拘束した」
沈黙。
重い空気が落ちる。
「……で?」
俺は、ようやく言葉を絞り出す。
「これからどうすんだよ」
壮年の男は、迷いなく答える。
「選択してもらう」
一拍。
「だがその前に」
視線がわずかに動く。
若い男に合図を送る。
若い男が頷き、端末を操作する。
「前提条件の説明を行います」
画面が切り替わる。
図のようなもの。
ネットワークのような構造。
「アガルタに所属する能力者は例外なく」
「“レッドライン”と呼ばれる能力の影響下に入ります」
「……レッドライン?」
「個体名です」
若い男は淡々と続ける。
「レッドラインは感染型の超能力者です」
「通常、超能力は他者に伝播しません」
「例えば」
指先で図を示す。
「火を発生させる能力者の火を浴びても」
「その対象が火を出せるようになることはありません」
「視力を強化する能力でも同様です」
「他者に影響は与えても、能力そのものは共有されない」
「能力は本来、個人に閉じています」
一拍。
「ですがレッドラインは例外です」
「その能力に“暴露”した能力者は」
「同じ影響下に入ります」
壮年の男が引き取る。
「ただし条件がある」
「対象が能力者であること」
「そして同意があることだ」
「……同意?」
若い男が頷く。
「強制ではありません」
「自ら受け入れる必要があります」
「そして一度接続された能力者は」
「他の能力者を同様に接続させることが可能になります」
「結果として、能力者同士のネットワークが形成されます」
画面の図が拡大される。
点と点が線で繋がっていく。
「このネットワークによって」
「複数の機能が共有されます」
壮年の男が言う。
「恩恵と制約だ」
若い男が続ける。
「まずメリットから説明します」
一拍。
「一つ目は、言語能力の共有」
「レッドラインに接続された能力者は」
「他の接続者が持つ言語能力を、そのまま使用可能になります」
「英語、中国語、その他あらゆる言語を」
「学習なしで扱えます」
「発音、文法、ニュアンスを含めて完全に再現されます」
「……」
「日常生活、業務、交渉、すべてにおいて有利に働きます」
「二つ目は、治安当局からの監視の解除」
若い男の声が少しだけ硬くなる。
「あなたは現在、超能力犯罪の容疑者です」
「仮に解放された場合でも、監視対象になります」
「能力は公式には存在しないため」
「表立って処理はされませんが」
「裏では常に監視される」
「能力を再度行使すれば」
「今度は処分対象になる可能性が高い」
壮年の男が補足する。
「だがアガルタ所属者は別だ」
若い男が続ける。
「レッドラインの影響により」
「接続者同士には強い仲間意識が発生します」
「仲間に迷惑をかける行動は抑制されると考えられています」
「そのため各国は」
「アガルタ所属者を“管理済みの能力者”として扱います」
「結果として、監視は解除されます」
一拍。
「三つ目は、能力の活用機会」
「能力に応じて、適切な配置が行われます」
「関連企業、専門部門などです」
「通常では得られない環境で能力を使用できます」
沈黙。
若い男が続ける。
「次にデメリットです」
「一つ目は、能力の報告義務」
「あなたの能力の詳細を申告する必要があります」
「できること、影響範囲、条件、すべてです」
「隠匿は許されません」
「二つ目は、義務の発生」
「アガルタは互助組織です」
「所属する限り、能力の行使によって」
「社会維持に協力する義務を負います」
「……強制か?」
壮年の男が答える。
「ある」
「レッドラインの制約によってな」
若い男が続ける。
「三つ目は、配置の制限」
「能力次第では、職業や所属が変更される可能性があります」
「自由度は制限されます」
そして最後に。
「ただし」
「搾取は発生しません」
壮年の男が言う。
「構造的に不可能だからだ」
「接続者同士は仲間意識を共有する」
「仲間を搾取する行動は成立しない」
沈黙。
「……どう聞いてもカルトだな」
俺は吐き捨てる。
壮年の男は頷く。
「そう見えるのは理解している」
「だが現実だ」
沈黙。
そのとき。
「……あ」
頭に別のことが浮かぶ。
「今、何時だ」
若い男が即答する。
「午前九時三十二分です」
「……は?」
一瞬、固まる。
「……やべえ」
嫌な予感が一気に膨らむ。
「無断欠勤だろうが!!」
思わず叫ぶ。
沈黙。
二人が一瞬だけ顔を見合わせる。
壮年の男が言う。
「あなたの会社には連絡が入っているはずだ」
「婦女暴行容疑で拘束したと」
「……は?」
完全に止まる。
数秒。
思考が追いつかない。
「……終わったな」
天井を見る。
「俺の社会的信用」
「……」
息を吐く。
諦めに近い感覚。
そして。
顔を上げる。
「……もうアガルタ入るしかないだろうが!!」
半ば叫びだった。
壮年の男は、わずかに肩をすくめる。
「合理的な判断だ」
「合理的じゃねえよ!!」
「だが現実だ」
沈黙。
数秒。
「……分かったよ」
諦めたように言う。
「入る」
一拍。
「ただし」
壮年の男がわずかに目を細める。
「条件があるようだな」
「一つだけだ」
俺は言う。
「残業ありありの配送業は勘弁してくれ」
沈黙。
そして。
壮年の男が、わずかに笑った。
「歓迎する」
「その条件については、我々も同意見だ」
若い男が、ほんのわずかに笑った。
せめて5000字位は齟齬なく省略なしで出力できるもんだと思ってたからまいりました。
少し話の書き方考えます。