ーーー
は、AIの出力限界がきてそこでわけたことを示します。
目を開けた瞬間、光が刺さった。
白い。
やけに白い。
視界いっぱいに広がる天井が、現実感のないほど均一な白で塗りつぶされている。
「……」
瞬きをする。
焦点が合うまでに、少し時間がかかった。
頭が重い。
意識が、水の中から浮かび上がってくるみたいに鈍い。
呼吸を一つ。
肺に入る空気がやけに乾いている。
消毒液のような、ほとんど無臭に近い匂い。
病院か――と一瞬思う。
だが、すぐに違和感が浮かぶ。
静かすぎる。
機械音がない。
人の気配も、足音も、話し声も。
何もない。
完全な無音。
「……?」
ゆっくりと首を動かす。
視界の端に、白い壁。
角。
継ぎ目。
すべてが整いすぎている。
生活感が、まるでない。
そこで、ようやく気づく。
体が重い。
いや――
「……動かない?」
違和感が確信に変わる。
腕に力を入れる。
起き上がろうとする。
――持ち上がらない。
「……は?」
反射的にもう一度、力を込める。
だが、腕はぴくりとも動かない。
そこで初めて視線を落とす。
胸の上。
ベルト。
黒い。
太い。
肩口から、腕を押さえつけている。
腹部にも一本。
さらに下。
太腿。
膝。
足首。
何本も。
規則的に、隙間なく。
ベッドに固定されている。
「……なんだよ、これ」
声が出る。
自分の声なのに、妙に遠い。
喉が渇いている。
舌が張り付くような感覚。
唾を飲み込む。
やけに時間がかかる。
記憶を辿る。
昨夜。
仕事から帰った。
風呂に入った。
飯を食ったか……いや、食ってないかもしれない。
そのままベッドに倒れた。
そこまでは覚えている。
――その後がない。
「……おい」
声を出す。
思ったより小さい。
もう一度、息を吸う。
「おい!」
今度は少し大きく。
だが、返事はない。
音が壁に吸い込まれる。
反響すら薄い。
妙に密閉された空間だと気づく。
「誰かいねえのか!」
さらに声を張る。
叫びに近い。
それでも――
何も返ってこない。
数秒。
いや、もっとか。
時間の感覚が曖昧になる。
自分の呼吸音だけがやけに大きく聞こえる。
心臓の音が、遅れて耳に届く。
ドクン。
ドクン。
焦りが、少しずつ形になる。
「……なんだこれ」
もう一度呟く。
状況が繋がらない。
誘拐?
病院?
事故?
考えようとして、どれも現実味がない。
そもそも――
こんな拘束の仕方が普通なわけがない。
「……おい」
もう一度、低く呼ぶ。
返事はない。
代わりに。
視界の正面。
壁の一部が、わずかに明るくなった。
「……?」
最初は光の反射かと思った。
だが違う。
ゆっくりと。
本当にゆっくりと。
黒かった面が、内側から発光するように明るくなっていく。
線が走る。
四角い枠が浮かび上がる。
ディスプレイだと理解するまでに、一拍かかった。
「……は?」
何だこれ。
そう思った瞬間。
映像が、点いた。
---
映像が、点いた。
最初はノイズだった。
黒に近い灰色の粒子が、ざらついたまま画面を埋める。
チリ、と小さな電子音。
そのあと、ゆっくりと像が結ばれていく。
輪郭。
光と影。
机の直線。
椅子の背もたれ。
空間の奥行き。
まるで水面の向こうを覗き込んでいるみたいに、像が揺れて、定まる。
「……」
息を止める。
画面の中に、部屋があった。
こちらと同じように無機質な空間。
余計なものは何もない。
壁、床、天井。
中央に置かれた机。
その手前に、椅子。
二脚。
そして――人影。
一人は、スーツ姿の男だった。
四十代か、五十代か。
年齢は曖昧だが、落ち着いた雰囲気が先に立つ。
髪は短く整えられ、白髪がわずかに混じっている。
背筋はまっすぐ。
椅子に座っているのに、姿勢に緩みがない。
視線が、こちらを向いている。
正確には――
カメラを通して、まっすぐこちらを見ている。
その横に、もう一人。
若い男。
二十代後半か、三十代に届くかどうか。
スーツではない。
落ち着いた色のジャケットに、無地のシャツ。
手元には端末。
視線は画面ではなく、その端末に落ちている。
こちらを見ていない。
二人の間に、会話はない。
ただ、準備が整うのを待っているような、妙な“間”があった。
「……」
無意識に息を呑む。
そのとき。
スピーカーから、音が出た。
ノイズが一瞬だけ走る。
チ、と小さな音。
それから。
「――内海恵さん。聞こえますか」
低く、抑えた声。
壮年の男のものだった。
音質はクリアだ。
距離を感じさせない。
まるで、すぐ隣で話されているみたいに耳に入ってくる。
「……」
一瞬、返事が遅れる。
自分に向けられた言葉だと理解するのに、わずかに時間がかかった。
「……聞こえてるよ」
短く返す。
声が少しだけ硬い。
喉の乾きがまだ残っている。
「何だこれ」
視線を逸らさずに言う。
「どういう状況だ」
壮年の男は、すぐには答えなかった。
ほんの一拍。
こちらの反応を測るように、沈黙を挟む。
その間も、視線は動かない。
カメラ越しだというのに、妙に“見られている”感覚が強い。
やがて、男が口を開く。
「あなたは現在、拘束されています」
簡潔な説明。
余計な言葉がない。
「……それは見りゃ分かる」
苛立ちが滲む。
視線だけで、ベルトの拘束を示す。
「理由は?」
問い詰めるように言う。
間。
ほんのわずか。
だが、意図的に置かれた間だと分かる。
それから。
「婦女暴行の容疑です」
「……は?」
頭の中が、一瞬で真っ白になる。
音が消える。
視界が、少しだけ遠のく。
「……は?」
もう一度、同じ言葉が口から出る。
理解が追いつかない。
「今、なんつった?」
壮年の男は繰り返さない。
ただ、言い換える。
「昨夜、あなたは女性に接触し、危害を加えた疑いがあります」
淡々とした口調。
感情が乗っていない。
それが逆に、現実味を持たせる。
「ふざけんな」
反射的に言葉が出る。
「俺は何もしてねえ」
声が強くなる。
抑えきれない。
「意味わかんねえこと言ってんじゃねえよ」
画面の中の二人は、動じない。
若い男は相変わらず端末を見ている。
壮年の男だけが、まっすぐこちらを見ている。
「……」
否定もしない。
同意もしない。
ただ、一拍。
その沈黙が、妙に長く感じる。
やがて。
「その主張は理解する」
静かに言う。
「記録しておく」
「だが」
言葉が切り替わる。
「こちらにも説明がある」
そのタイミングで。
若い男が、初めて視線を上げた。
こちらを見るわけではない。
画面の横。
おそらく、何か別のモニターを確認している。
そして。
端末を、軽く操作する。
画面の一部が切り替わる。
グラフ。
波形。
意味の分からないデータ。
「前提から説明します」
若い男が、初めて声を発する。
平坦な声。
感情の起伏がほとんどない。
「この世界には“超能力”が存在します」
「……は?」
思わず声が漏れる。
今の流れでその単語が出てくるのは、さすがに予想していなかった。
若い男は気にした様子もなく続ける。
「確認されている現象は多岐にわたります」
端末を操作する。
画面の端に、いくつかの映像や数値データが切り替わる。
「例えば、何もない空間に火を発生させる能力」
画面に、何もない場所から火が立ち上がる映像。
一瞬で消える。
「電気を発生させる能力」
火花が散る。
空中で閃光が走る。
「体を動かさずに物体を移動させる能力」
机の上の金属片が、誰にも触れられずに滑る。
「空間的な距離を無視した移動」
映像が切り替わる。
人影が、一瞬で消える。
別の場所に現れる。
「生体機能への干渉」
心電図のような波形が表示される。
急激に乱れ、そして安定する。
「知覚や認識への影響」
画面がノイズに変わる。
歪む。
戻る。
「……」
言葉が出ない。
若い男は、淡々と続ける。
「これらに共通するのは」
「既存の物理法則では説明できない点です」
一拍。
「そしてすべてにおいて、同種のエネルギー変動が観測されています」
グラフが拡大される。
先ほど見せられた波形と同じ形。
鋭く立ち上がり、短時間で収束する。
「人為的に発生する、規則性を持った異常エネルギー」
「これを我々は“超能力”と定義しています」
「……エネルギーって言っても」
ようやく口を挟む。
「電気とか、そういうのとは違うんだろ」
若い男がわずかに頷く。
「既知のどのエネルギーとも一致しません」
「電磁気、熱、化学反応、いずれにも該当しない」
「ですが、観測は可能です」
端末を軽く叩く。
「専用の機材で検知されます」
「発生位置、規模、持続時間」
「すべてログとして記録される」
壮年の男が引き取る。
「重要なのはそこだ」
視線は変わらずこちらを捉えている。
「どれだけ不可解な現象であっても」
「発生したという事実は、必ず記録される」
「……」
「つまり、隠せない」
一拍。
「能力を使った時点で、観測される」
若い男が続ける。
「そしてもう一つ重要なのは」
「能力の性質です」
「……性質?」
「個体差が極端に大きい」
画面にいくつかの例が並ぶ。
炎。
雷。
歪んだ空間。
人体のスキャン。
「同じ能力は、ほぼ存在しません」
「発現内容は個体ごとに異なる」
「発現条件も不明」
「再現性も低い」
「制御できるとは限らない」
壮年の男が言う。
「だから危険だ」
「……」
「単独で社会に影響を与える」
「それも、予測不能な形でな」
一拍。
「火災」
「爆発」
「インフラ破壊」
「人間への直接干渉」
淡々と並べる。
「どれも、現実に起きている」
「……」
若い男が補足する。
「そして多くの場合」
「能力者本人には自覚がない」
「無意識に発動するケースもあります」
「……」
「つまり」
壮年の男が言う。
「いつ、誰が、どこで」
「何を引き起こすか分からない」
「それが超能力だ」
沈黙。
逃げ場がない説明。
「……だから取り締まるってか」
ようやく言う。
壮年の男が頷く。
「そうだ」
「放置すれば災害になる」
「だから管理する」
---
「それがアガルタの役割だ」
壮年の男が言い切る。
短い言葉だったが、そこに含まれる意味は軽くない。
管理。
拘束。
場合によっては排除。
それを当然のこととして口にする声音に、ためらいがない。
「……」
言葉が出ない。
頭の中で、今まで聞いたことがゆっくりと繋がっていく。
超能力。
非公開。
国家の外。
処理。
――処理。
「今回の件も同様です」
若い男が、間を埋めるように続ける。
端末を軽く操作する。
画面の隅で、波形のデータが再表示される。
「あなたが関与した事象は、通常の警察では扱えません」
「既存の法体系では説明がつかないためです」
「……」
「そのため」
一拍。
「日本の治安当局の要請により、我々が介入しました」
「……要請?」
思わず聞き返す。
「誰がそんなこと決めてんだよ」
若い男は視線を端末に落としたまま答える。
「各国には、超能力事案に関する内部プロトコルが存在します」
「一定条件を満たした場合、自動的にアガルタへ通報される」
「今回のケースがそれに該当しました」
壮年の男が引き取る。
「だから我々が来た」
「警察ではない」
一拍。
「アガルタの人間としてな」
「……」
その言い方で、ようやく腑に落ちる。
見せられたの“警察手帳”。
あれは。
「……偽物かよ」
吐き捨てるように言う。
壮年の男はわずかに首を振る。
「偽物ではない」
「警察との連携の一環として、必要な権限は付与されている」
「……」
「だが所属は違う」
「我々は最初からアガルタだ」
沈黙。
喉の奥に、嫌なものが溜まる。
「じゃあ……」
言葉を探す。
「どうやってだよ」
視線を上げる。
まっすぐ画面を見る。
「どうやって俺をここまで連れてきた」
一拍。
「警察じゃねえなら、正面から拘束できるわけねえだろ」
言いながら、違和感が膨らむ。
「俺、抵抗してねえぞ」
そこが一番おかしい。
「普通なら何かするだろ」
「逃げるとか、突っぱねるとか」
「……何もしてねえ」
その“何もしていない”感覚が、妙に引っかかる。
思い出そうとする。
ドアを開けた。
男が立っていた。
手帳を見せられた。
――そのあと。
「……」
思考が、そこで止まる。
続きが、曖昧だ。
不自然なくらい。
壮年の男が、静かに口を開く。
「私は、相手に暗示をかけることができる」
「……」
一瞬、意味が入ってこない。
「強制ではない」
「だが、行動の選択を鈍らせることができる」
一拍。
「君が玄関で私の手帳を見たあと」
視線を外さずに言う。
「抵抗しなかった理由だ」
「……」
心臓が強く鳴る。
ドクン、と一拍遅れて響く。
「……は?」
言葉が漏れる。
頭の中で、何かが噛み合う。
さっきの違和感。
記憶の空白。
あのときの自分。
「……おかしい」
呟く。
ゆっくりと、確信に変わる。
「俺、あのとき……」
思い出す。
ドアを開けた。
知らない男。
警察手帳。
――そこで。
「……」
何も考えていない。
逃げる、疑う、怒る。
そういう思考が、最初から浮かんでいない。
「……なんでだよ」
喉の奥から声が出る。
「なんで何もせず捕まってんだよ、俺」
壮年の男は、淡々と答える。
「選択を鈍らせた」
「抵抗という判断に至りにくくした」
「完全な支配ではない」
「だから自然に見える」
「……」
理解してしまう。
理屈としては、納得できてしまう。
だからこそ。
「……ふざけんな」
低く吐き捨てる。
胃の奥がざわつく。
「それ、普通にアウトだろ」
視線が鋭くなる。
「人の頭いじって、勝手に連れてきて」
「犯罪だろ、それ」
壮年の男は、すぐには否定しない。
わずかに息を吐く。
「そう思うのは自然だ」
「その嫌悪感も理解できる」
一拍。
だが。
「我々は治安を維持する立場にある」
声は変わらない。
「通常の手段で対処できない相手には」
「相応の手段で対抗する」
「……」
「能力者に対して、能力で対処する」
「それは職務として当然の判断だ」
沈黙。
言い返せない。
理屈は通っている。
だが――
「……気持ち悪いな」
ぽつりと漏れる。
「お前ら」
言葉にして、はっきりする。
嫌悪感。
理解はできる。
だが、受け入れたくはない。
その線を、はっきり越えている。
壮年の男は、その言葉にも動じない。
ただ静かに、次の説明へ進む準備をしている。
その態度が、余計に現実を突きつけて
---
「……気持ち悪いな」
吐き捨てた言葉は、部屋の中に沈んだまま返ってこない。
壮年の男は反応しない。
否定も、弁解もしない。
ただ一拍置いてから、視線をわずかに横へ流す。
合図だった。
若い男が、端末に指を滑らせる。
画面が切り替わる。
先ほど見せられた波形。
だが今度は、複数のデータが重ねられている。
時間軸。
位置情報。
数値。
細かすぎて、直感では理解できない。
「……何だよ、それ」
若い男が答える。
「観測データです」
「あなたに関する」
「……」
「昨夜、二十一時三分」
画面の一点が強調される。
「この地点で、急激なエネルギー変動が発生しています」
「発生源は――」
一拍。
「倒れていた女性と、あなたの接触点です」
「……」
「変動の直前」
別の数値が表示される。
「対象のエネルギー総量は、この範囲内に収まっていました」
グラフが滑らかに伸びている。
「ですが変動と同時に」
一瞬で、値が落ちる。
「急激な減少が確認されています」
沈黙。
理解は、できる。
したくはないが。
「……助けただけだ」
絞り出す。
「倒れてたから」
「支えただけだ」
若い男は、表情を変えずに言う。
「接触は確認されています」
「転倒も確認されています」
「ですが」
一拍。
「それではこの減少は説明できません」
「……」
壮年の男が口を開く。
「観測された事実は単純だ」
「接触と同時に、対象のエネルギーが減少した」
「それ以上でも、それ以下でもない」
「……」
「だから問う」
視線が、まっすぐ刺さる。
「君は何をした?」
「……何もしてねえよ」
即答する。
だが、声に力がない。
自分でも分かっている。
説得力がない。
若い男が続ける。
「さらに」
画面が切り替わる。
別の地点。
地図のような表示。
「同時刻帯」
「別の場所で、同様のエネルギー変動が観測されています」
「……どこだよ」
「公園です」
一拍。
「あなたが移動した先です」
「……」
嫌な汗が背中を伝う。
「ここでの特徴は、発生源です」
数値が拡大される。
「対象は――あなた自身です」
「……は?」
思わず声が漏れる。
「あなたの位置と完全に一致しています」
「そして」
波形が連続して並ぶ。
「複数回、同様の変動が確認されています」
「……」
「外部への干渉ではない」
「自己への干渉です」
壮年の男が、ゆっくりと整理する。
「整理しよう」
一拍。
「女性との接触で、エネルギーが減少した」
「その直後、公園で」
「君自身からエネルギー変動が発生した」
沈黙。
逃げ道が、狭まっていく。
「……だからなんだよ」
なんとか言い返す。
「それで俺が何かした証拠になるのかよ」
壮年の男は、すぐには答えない。
ほんの一拍、間を置く。
その“間”が、やけに長く感じる。
そして。
「これは仮説だ」
前置きする。
だが、その声音に迷いはない。
「対象から減少したエネルギーが」
「そのまま消失したとは考えにくい」
若い男が補足する。
「エネルギーは保存される傾向があります」
「完全消失よりも、移動・変換の方が自然です」
「……」
「そして」
壮年の男が続ける。
「減少直後に、別の地点で増加に近い変動が発生している」
一拍。
「それが君だ」
「……」
喉が、ひくりと動く。
「つまり」
言葉が、ゆっくりと積み上がる。
「対象から減少したエネルギーを」
「君が何らかの形で取得し」
「自身に対して使用した可能性が高い」
「……違う」
即座に言う。
だが、言葉が軽い。
自分でも分かる。
「違うって言ってんだろ」
強く言い直す。
壮年の男は、否定しない。
ただ、静かに返す。
「君の主観ではそうなのかもしれない」
一拍。
視線が、さらに鋭くなる。
「だが観測された結果からは、そうは思えない」
沈黙。
逃げ場が、なくなる。
「……」
若い男が、最後の一押しをする。
「確認します」
「女性に接触した後」
「あなたは公園で、自身に対して能力を使用した」
「これは事実ですか」
「……」
答えない。
答えられない。
「……」
沈黙が、そのまま答えになる。
壮年の男が、静かに言う。
「では結論だ」
一拍。
言葉を区切る。
「それは“救助”ではなく」
「……」
「強奪ではないのか?」
「……っ」
言葉が詰まる。
完全に。
何も言い返せない。
理屈として、崩せない。
「……」
息が、浅くなる。
頭の中で、昨夜の光景が蘇る。
倒れていた女。
触れた瞬間の感覚。
あの“何か”を掴んだ感触。
――そして、公園で。
「……」
否定したい。
だが。
否定できる材料が、自分の中にない。
壮年の男が言う。
「だから拘束した」
それだけだった。
だが、その一言で――
完全に、詰んだと理解する。
一度区切ります