神様とかムカつくんで斬っていいですか?   作:一般通過小説好キー

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7話:極東の羊飼いたち、旧人類の終焉②

 吹雪が頬を叩く中、僕たちは空を舞う。

 ヘリからの紐無しバンジーなんて前世ではただの自殺行為だ。

 

 迫りくる地面。

 

 ソーマが体勢を変え、誰よりも先に落ちる。

 

 

ザンッ!!! 

 

 

 ソーマが落下地点にいたザイゴートを神機で叩き潰し着地した。

 

 凍った大地へ肉片が飛び散る。

 

 続いて、リンドウさん、ツバキさん、そして僕も着地する。

 少しだけ痺れる足の裏が、大群を前にする高揚を少しだけ抑えてくれる気がした。

 

 冷静に、冷静に。

 ツバキさんも言っていたじゃないか、一人だけ突出したってダメだって。だから、皆のカバー範囲を把握して、ラインを作る。

 殲滅が仕事じゃあない。僕らの仕事はこの地点を死守すること。そして人類最後のあがきを成功に導くことだ。

 今だって、先んじて対応していた軍人たちが、弾頭にオラクル細胞を塗布しただけの貧弱な銃器で命を掛けて戦っている。一つの目的を達成するがために、無駄かもしれないという不安を抱えつつも、それを信じ戦っているんだ。

 

 ツバキさん、リンドウさん、ソーマとアイコンタクトを取り、各々の仕事をこなすべく、駆ける。

 

──オナカスイタ

 

 あぁ、そうだね。

 だからたくさん斬って、たくさん食べてしまえばいい。

 

 自然と口元が歪む。

 

 そんな僕を置き去りにするように、最初に飛び出したのはリンドウさんだった。

 

 ブラッドサージの刃が回転し唸る。

 

 リンドウさんは神機を片手で振り回し勢いを付けるとそのまま正面に来たザイゴートを両断。

 その勢いのままコンゴウを斬り伏せ、さらにサリエルへ食らいつく。

 

 暴力的なくらい荒々しくて、武術の武の字も感じられない動きだけれど、無駄もない。まるで直感で食らいつく獣のようだ。

 

 そんな姿を見せられたら僕だってもう辛抱ならない、遅れまいと駆け出す。

 

 向かってきたオウガテイルの懐へ潜り込み、そのまま下から斬り上げる。

 

 思った以上に柔らかい感触。

 一瞬? と小首を傾げそうになるが、次のお客様(サリエル)がこちらにもよってきたので、そのまま駆け寄る。

 頭部にある邪眼が煌めくとそこから無数のオラクルレーザーが飛んでくる。勿論当たれば簡単に体に穴が空くから、避けなければならないんだけれど、厄介なのはホーミング性能があるということ。ただ避けるだけではそのまま追いかけてくる。

 だから、体に触れる寸前に姿勢を低くし潜り抜けるように回避する。

 レーザーは急旋回することもできず緩やかに地面に吸い込まれ煙を上げた。

 

 レーザーを撃った直後は僅かな硬直がある。

 僕はそのまま飛び上がり、体を縦に回転させ、その遠心力を利用し頭から叩き斬る。

 

 一刀両断され2つに分かれたサリエルは浮遊力を失い地面へと崩れ落ちる。

 

「うーん……?」

 

 やっぱり手応えが軽い。

 いくら相手の綻びを斬りつけていようと、もう少し抵抗があるものだけれど、極東で相手をしていた個体よりも明らかに柔らかい。

 見た目は同じだけれど、個体のレベルが低いということなのだろうか。

 

 まぁ、でも、だからだろうか。

 

 気分がより高揚してくる。

 

「あはっ」

 

 だってさ、なんか、ボーナスステージみたいだし。

 

 ちらりとソーマを見る。

 

 ボルグ・カムランの刺突を、最小限の動きで回避。とても初陣とは思えない軽快な身のこなしだ。

 ただ、僕とは違って彼の場合は純粋な身体能力による行動だということ。敵の攻撃を予測して先に動くというよりも見てから動く、後の先とでもいうのだろうか、僕なんか比べ物にもならない高等なことを彼はやっている。

 

 最後の針での一刺し、この後は大きな隙ができるけれど──。

 直後、神機をフルスイング。

 吸い込まれるみたいに顔面へ叩き込まれた一撃が、凄まじい衝撃音を響かせた。あんなのをまともに喰らったボルグ・カムランはそのまま断末魔の雄叫びを上げ崩れ落ちた。

 

 素早い動きで敵の攻撃を躱し、隙が出た瞬間、重さを利用した一撃で叩き潰す。

 

 うん。

 

 やっぱりソーマの戦い方、好きだなぁ。

 一撃へのロマンって感じ?

 チャージクラッシュとかもどこかで見れたらいいけれど、まぁこの混戦の中では難しそうだ。それはまた次の機会にってところかな。

 

 にしても、これで新人扱いなんてしていたら、簡単に食い殺されそうだ。

 

 これでも僕は実戦経験では2年も先輩だからね、負けていられない。

 

 各々が自分の最大限の能力を発揮し、アラガミを狩る。

 ツバキさんの射撃は正確無比でオラクルバレットの一発だって無駄にしていない。

 隊長らしく戦場を俯瞰して、分析し、そして的確な援護射撃を行う。それだけじゃない。火力だって近接に負けてない。一見ばら撒くように発射している弾丸も、それらは小型種を的確に撃ち抜き、僕たち近接型が中型、大型とやりやすいように殲滅してくれている。

 

 そしてリンドウさんは相変わらず天性の直感か、でたらめな動きで蹂躙している──と思いきや、コンゴウに捕食されかけている軍人を助けたり、負傷した軍人が下がれるように適切に援護すらしている。

 

 ふと、リンドウさんと目が合う。

 

『お前は好きに暴れてこい』

 

 声には出ていなかったけれど、口の動きと目線でそう言ってくれているのがわかった。

 

 もう、本当に。

 本当にこの人は、最高の先輩だ。

 

 ボクは駆ける。

 

 もっと。

 

 もっと速く。

 

 もっと──。

 

 アラガミが弱いってんなら、その分たくさん斬ってやれ。

 先輩たちがおぜん立てしてくれるってんなら、その分喰らい尽くしてやれ。

 

 それが今ボクたちにできることなんだから。

 

 流れる景色と血の雨の中、今度はソーマと目が合う。

 

 ボクとは違う、澄んだコバルトブルーの瞳。

 

 あはは、ねぇ、ソーマ。

 

──タノシイネ。

 

 

 

 あれからどれほどアラガミを斬ったのだろうか。

 数えるのもばからしいけれど、でも100は下らないはず。

 

 流石はこの辺一帯の大規模掃討作戦を謳うだけのことはある。

 

 眼前には尽きることのないアラガミの大群。

 これが終末の瞬間だよって言われたら頷けるだけの悍ましい光景だ。

 

 そろそろ作業みたいになってきたなーなんて、クアドリガから射出されて来たミサイルを斬り捨てると、ふと、違和感を覚える。

 

 妙に気配が薄い。 

 具体的に言うと、さっきまで周囲にいたはずの軍人たちの姿が、見えない。

 

 勿論、助けきれなかった人も多いから、無念に散っていった英雄たちが地面に伏せっている。でも、まだ戦える人たちが誰もいない。

 

「っ──」

 

 ズキリ、と頭が痛んだ。

 

 瞬間。

 

 視界がフラッシュバックする。

 

― ――

 核融合炉

  ―― ― ―

 血に染まった制御室

― ―

 負傷した大尉

  ―― ― ――  ―

『総員、退避』

――

 撤退する軍

  ―   ―― ―

『化け物どもめ……!!』

 ― ―  ――

 大尉の手が赤のボタンを叩き押す

―― ―

 

 視界が元の地獄の戦場へと戻される。

 

「……ぁ」

 

 全身が総毛立つ。

 今のは歯抜けになっていた、抜け落ちた記憶部分。

 あの記憶が意味すること──嫌な予感と共に後方へ振り返る。

 

 遠く、輸送ヘリが飛んでいた。

 

 そして今、最後の一機が空へ離脱していく。

 

「っ!? あ、おい! なんであいつら引いていくんだ?!」

 

 リンドウさんも異常に気付いたのか空に向かって怒鳴る。

 次いでツバキさんも顔を上げ、険しい表情を浮かべた。

 

「くっ……! 見捨てるつもりか!!」

 

 

 ドクンッ、ドクンッと心臓の音がやけに大きく聞こえる。

 

 

 記憶が叫んでいる。

 

 

 まずい。

 

 

 まずいまずいまずい。

 

 

 脳裏に焼き付いた光景が、フラッシュバックみたいに断片的に蘇ってくる。

 

 

 この後に起こること、それすなわち──。

 

 

「みんな一ヶ所に固まって!! 早くっ!!!」

 

 気付けば、僕は喉が裂けそうなくらい叫んでいた。

 僕の叫びに、みな、何かを察したのか神機を振りアラガミを蹴散らしながら走る。

 

 くっそ! アラガミが邪魔だ!

 

 さっきまで「御馳走だ」なんて浮かれていた自分を殴り飛ばしたくなる。

 

 今は一秒が惜しい。

 

 なのに、視界を埋め尽くすアラガミたちは獲物へ群がるハイエナの如く次々押し寄せてくる。

 

 コンゴウを斬り飛ばす。

 

 オウガテイルの顎を砕く。

 

 それでも次が来る。

 

 あーもう、邪魔だっ!!!

 

 頭の中の警鐘が、頭痛に変わりそうなほど大きく鳴り響いた頃、ようやく全員集まることができた。

 周りにはまだアラガミがいるけれど、それどころではない。

 

「各自シールド展開!! ツバキさんは真ん中に!! 僕らが衝撃を受け止めます!!」

「あーもう! 何がどうなってやがる!!」

 

 リンドウさんが悪態を吐きながら寄ってきたアラガミを吹き飛ばす。

 その隣で、ソーマも無言のまま敵を叩き潰していた。

 

 そしてツバキさんは、一瞬だけ目を見開いた後、全てを察したように顔を歪める。

 

「……っ、そういうことか!!」

 

 間に合え。

 

 間に合え。

 

 お願いだから。

 

 皆が肩を合わせるように集まる。

 

 吹雪の中、3つのシールドが核融合炉に向けて展開される。

 

「対ショック姿勢っ!!」

 

 その後ろで、ツバキさんの張り裂けんばかりの声が聞こえた。

 

 直後。

 

 世界が、白く染まった。

 

 

 

──

 

────

 

────────…………

 

 ……耳鳴りが酷い。

 どこからともなく聞こえてくる色んな音が頭の中で反響していた。

 

 笑い声。

 

 機械音。

 

 研究員たちの声。

 

 アラガミの咆哮。

 

 全部がぐちゃぐちゃに混ざって、頭の中を掻き回していく。

 

あぁ、どうして。

 

どうしてボクばっかり。

 

どうしてボクはこんな目に遭っているんだろう。

 

前世で何か大きな罪でも犯したのだろうか。

 

だとしたら、ここはその罰を贖罪するための地獄なのかもしれない。

 

終わらない地獄。

 

苦しみ続けるためだけの世界。

 

暗い。

 

寒い。

 

痛い。

 

苦しい。

 

 その暗闇の中で、ふと、目の前に一筋の光が垂れているのが見える。

 まるで蜘蛛の糸みたいな、頼りない光だ。

 

 これを掴めば。

 これを掴めば、ボクはこの地獄から抜け出せるのだろうか。

 

 それとも。

 

 そうして、震える手を伸ばした瞬間──。

 

「おい、大丈夫か」

 

 低く、ぶっきらぼうな声が鼓膜を叩いた。

 

「……う……」

 

 重たい瞼を開ける、が、真っ暗で何も見えやしない。

 この声はソーマっぽいんだけれど、そのソーマの姿も見えない。

 

 一体何が起きて……? そう思った時、誰かが僕の腕を掴む。

 

 わぁ、温かい……。

 

 そしてそのまま、ぐっと力強く引っ張り上げられる。

 僕の体の重みが消えると、眩しい光でぼやけた視界の先に、ソーマがいた。

 

「立てるか」

「あ……ありがと……」

 

 そう言うと、ソーマは少しだけ顔を逸らした。

 

「……ふん」

 

 耳がほんのり赤い。

 あんまりお礼を言われなれてないのかな? なんだか照れ隠ししている様子が少し面白くて、自然と笑みが零れた。

 

 足元を見ると、丁度僕がいたぐらいのぽっかりとあいたくぼみが出来ていた。目を開けても真っ暗だったのは生き埋めにでもあっていたからだろうか。

 

 周囲を見渡す。

 

 瓦礫。

 

 崩壊した建物。

 

 巨大なクレーター。

 

 まさにここが爆心地だったかのような凄まじい有様だ。

 ただ不思議なのはあれだけの高熱エネルギーであればこの辺一帯がガラス化していてもおかしくないし、何より、いくらゴッドイーターである僕らでも、()()()()でいるなんてありえない。

 

「よぉ、生きてるか少年少女」

「死ぬかと思いましたよ……」

「俺もだっつの」

 

 安心する声が聞こえ振り向いて見れば、リンドウさんが苦笑しながら煙草を咥えこちらに向かってきていた。リンドウさんも戦闘でついた掠り傷程度で、爆発で受けたような怪我などはなさそうだった。

 隣にはツバキさんも居て、いつもは決まっている綺麗な髪も、流石に少し煤けているようだけれど、それ以外は怪我らしい怪我はなさそうだ。

 

 2人が元気そうな姿で現れたことに、ようやく安堵し、今を生きているという現実感が出て来た。

 

 やがて、ツバキさんが静かに口を開く。

 

「あの後……核融合炉が爆発する寸前、巨大な黒い触手のようなものが現れた」

「黒い……触手?」

「あぁ。周囲のアラガミごと、核エネルギーを一斉に捕食したらしい」

 

 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。

 

 核エネルギーを、捕食。

 いやまぁ、アラガミならありそうだなとは思ったけれど……まさか完全に捕食してしまうとは思っていなかった。せいぜいちょっとだけダメージ受けましたよー的な、そんなもんだと思っていた。

 

「結果として、核そのものは消滅。だが行き場を失ったエネルギー波だけが周囲を吹き飛ばした──私が確認できたのはそこまでだが、恐らく私たちはその余波に巻き込まれ、生き埋め状態になっていたというところだろう」

 

 黒い触手。

 確かこの触手の正体はわかっていない。『ノヴァ』が捕食したのではないかというのが有力説だが、結論は出ていなかったはず。

 

 けれど、少なくとも今は脅威が去ったらしい。

 

 エネルギー波の衝撃で気候でも変わったのか、いつの間にか吹雪は止み、すがすがしいほど蒼い空が広がっていた。

 

 皮肉みたいな快晴だった。

 

 

 

 その後、僕たちは今回の作戦で落ち延びたアラガミを処理するため、迎えの輸送ヘリへ向かっていた。

 

 辺りには、この作戦で死んだ軍人たちの亡骸が転がっている。

 

 腕を失った者。

 

 下半身だけになった者。

 

 原形すら残っていない者。

 

 恐怖に目を見開いたまま死んでいる者。

 

 誰も彼もが生きたかったはずだ。

 じゃなきゃこんなにも苦痛や絶望に満ちた表情にはならない。

 

 この光景を見て、サテライト拠点の記憶が脳裏をよぎる。

 

 燃える建物。

 

 血の匂い。

 

 泣き叫ぶ声。

 

 あの時の僕はいっぱいいっぱいで、一心のことしか見えていなかった。

 一心にも振り返るなって言われてたし、走ることに、生きることに夢中だったんだ。

 

 でもきっと、あの場所でも、同じ光景が広がっていたのだろう。

 

 生きたかったはずだ。

 

 死にたくなかったはずだ。

 

 怖かったはずだ。

 

 苦しかったはずだ。

 

 それでも未来を信じていたはずだ。

 

 でも、そんな願いは、こんなにも簡単に踏み潰されてしまう。

 

「……っ」

 

 胸が苦しい。

 

 もし。

 もし、あの場所に僕がいなかったら、一心は死ななかったのかもしれないし、それによって救われた人もいたのかもしれない。

 そうだったのなら、僕がいたせいで──。

 

 その時だった。

 少し前を歩いていたツバキさんが、一人の軍人の遺体の前で足を止める。

 煤汚れた地面へ膝をつき、恐怖に見開かれたままだった瞳へ、そっと手を添え、静かにその目を閉じてやっていた。

 

 その清らかな後ろ姿を見て、僕はより苦しくなった。

 

 あぁ。

 

 あのサテライト拠点でも。

 

 誰かが、こうして悼んでくれていたらいいな。

 

 

 

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