神様とかムカつくんで斬っていいですか?   作:一般通過小説好キー

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エピローグ:旧時代の置土産

 結論から言えば、その後の掃討作戦は拍子抜けするほど順調に終わった。

 

 シェルター周辺に集まり始めていたアラガミは確かに多かった。オウガテイル、ザイゴート、コクーンメイデン。少し離れた外周にはコンゴウやグボロ・グボロの群れも確認されていたし、放置すれば避難民ごと危険に晒されていたのは間違いない。

 

 だが、こちらにはツバキがいて、ソーマがいて、凛がいた。

 

 ツバキは隊長として戦場全体を見渡し、銃形態の神機で上空と後方を正確に抑えた。ソーマはその巨大なバスターソードに似合わない軽快さで敵の進路を潰し、近づいてくる中型種を力任せに叩き伏せる。

 

 そして凛は、ただ前に出た。

 

 雪の上を滑るように駆け、迫るアラガミを一体ずつ斬り伏せていく。小型種が何体集まろうと、彼女の足を止めることはできなかった。正面から飛びかかったオウガテイルは首を落とされ、上空から弾を吐こうとしたザイゴートは核ごと両断され、物陰から奇襲を狙ったコクーンメイデンは、攻撃に移る前に神機で貫かれて沈黙した。

 

 速い。

 

 強い。

 

 それは、いつもの凛と変わらない。

 

 けれど、リンドウにはどうしても違って見えた。

 

 いつもの凛なら、戦いの最中でもどこか騒がしい。危なげなく敵を仕留めた後に得意げな顔をしたり、こちらが少し褒めれば照れ隠しに軽口を叩いたりする。戦場に似つかわしくない子供らしさがあって、それが不思議と周囲の空気を柔らかくしていた。

 

 だが、今の凛にはそれがない。

 

 敵を斬る。

 道を開く。

 次の敵を斬る。

 

 それだけだった。

 

 命令には従う。無茶な突出もしない。仲間との連携も乱さない。むしろ戦闘だけを見れば、いつもよりずっと冷静で、無駄がなく、危なげもない。ある意味理想的な姿だと言えるだろう。

 まるで『凛』という感情だけをどこかへ置き忘れてきたみたいに、淡々とアラガミを斬っていく──だからこそ、嫌だった。

 

 結局、大きな怪我人は出なかった。

 

 避難民にも追加の被害はなく、シェルター周辺に集まっていたアラガミは無事に掃討された。細かい残党は現地の防衛部隊へ引き継がれ、第一部隊には極東支部への帰還命令が下った。

 

 戦術的に見れば、十分な成果だった。

 あの大量のアラガミに対し、大した対抗手段の無い現地の防衛軍だけでは被害はもっと大きくなっていたかもしれないし、下手すると壊滅すらあり得た状況で、あの場にいた人間を守ることはできた。

 もちろん、もっと早くに駆け付けられていれば救えた命はもっと多かったかもしれないが、十分と言っていいだろう。

 

 けれど、作戦全体の結果を言えば、失敗だ。

 

 旧ロシア地区に残されていた旧時代の遺産は失われた。連合軍が最後の切り札のように扱っていた核融合炉は、あの正体不明の黒い触手に喰われて消え、大規模な掃討計画は頓挫。作戦司令基地跡地に集まっていた部隊も甚大な損害を受けた。

 

 人類が旧時代の力に縋った結果は、惨憺たるものだった。

 

 それでも、皮肉な話だが、この一件はゴッドイーターの有用性を世界に知らしめるきっかけになった。

 

 核でさえどうにもならなかった戦場で、神機使いたちは生き残った。アラガミの群れを相手に戦い、避難民を守り、壊滅しかけたサテライトから少女を救い出した。

 

 後から聞いた話では、ロシア側はフェンリルに大きな借りを作ったらしい。

 

 そして、その流れの中でフェンリル・ロシア支部の正式な発足が進むことになった。

 

 政治だの利権だの、そういう話はリンドウの得意分野じゃない。上の連中が何を考えているのかも分からないし、分かりたいとも思わない。

 

 ただ一つだけ、どうにも引っかかることがあった。

 

 この流れが、あまりにも出来過ぎていたことだ。

 

 失敗したはずの作戦の後で、フェンリルの価値だけが大きく上がり、ロシアに支部を置く理由ができる。世界は、また少しフェンリルなしでは回らない形へ変わっていく。

 

 それが偶然なのか、誰かの思惑なのか、リンドウには分からなかったが、それでも喉の奥に刺さった小骨のような気持ち悪さが残り続けていた。

 

 帰りのヘリの中は、行きとは比べ物にならないほど静かだった。

 

 ローターの音だけが、規則正しく耳の奥を叩いている。

 

 ツバキは報告書の下書きに目を通していたが、その視線は何度も凛へ向いた。隊長として状況を整理しようとしている顔と、妹のように面倒を見てきた少女を案じる顔。その二つが、彼女の横顔に交互に浮かんでは消える。

 

 リンドウは、座席に深く身体を預け、火の点いていない煙草を咥え上下に動かす。

 

 普段なら、こういう時こそ軽口の一つでも叩く。

 

 酷い仕事だったな、とか。

 帰ったらオペレーター就任したサクヤに何か奢ってもらおうぜ、とか。

 そういう馬鹿みたいな言葉で、重くなりすぎた空気を少しだけ軽くする。

 

 けれど、この時ばかりは何も言えなかった。

 

 凛が静かだったからだ。

 

 彼女は窓際の座席に座り、外の雪景色を眺めていた。服はひどい有様で、いたるところが戦闘で裂け、焦げ、血の汚れがこびりついている。おおよそ十代の少女がしてはいけない姿だ。普通なら即座に医療班に叩き込まれていてもおかしくない。

 

 だが、それに反して身体の傷はもうほとんど塞がっていた。

 

 頬にあった裂傷も、何かとの戦闘でついたであろう焼けたはずの腕も、戦闘直後には目に見えて治癒が進んでいた。榊博士から凛の持つ偏食因子が特別なものと聞いているしそのせいだろう。

 ソーマもそれなりに傷を負っていたはずだが、同じように既に塞がっていた。

 ソーマ・()()()()()()という名前のこともそうだし、リンドウから見ても異常な身体能力のこともある。()()()()()()でも2人は似ているのかもしれない。

 

 だが、そんなことは些細なことであり、問題はそこではない。

 

 凛が一言も喋らない。

 

 眠っているわけではない。意識はある。呼吸も落ち着いている。こちらが声をかければ、きっと返事はするだろう。

 

 けれど、自分からは何も言わない。

 

 いつもなら、どれだけ疲れていても口だけは元気だった。怖かったことも、痛かったことも、無理やり笑いに変えようとする子だった。

 

 それが今は、ただ静かに窓の外を見ているだけで、その横顔が、リンドウにはひどく遠く見えた。

 

 向かいの席では、ソーマが凛をじっと見つめていた。

 

 行きのヘリでは、凛がソーマに声をかけ、ソーマが素っ気なく返す。そのやり取りをリンドウが茶化し、ツバキが窘める。そんな、いつもの第一部隊らしい空気があった。

 

 だが、今は逆だ。

 

 凛は何も言わず、ソーマが彼女を見ている。

 

 その視線には、警戒だけではない何かが混じっていた。

 

 同情、と呼ぶには少し違う。

 心配、と呼ぶには不器用すぎる。

 

 たぶん、ソーマは凛の中にある()()()()()()を感じ取っているのだろう。それが何なのかはまだわからないが。

 

「……凛」

 

 リンドウは、結局名前だけを呼んだ。

 

 凛は少しだけ反応し、ゆっくりとこちらを見た。

 

「はい」

 

 返ってきた声は、いつもの声だった。

 

 驚くほど落ち着いていて、何も問題なんてないみたいな声。

 

「具合は、どうだ」

「大丈夫ですよ。もう痛みもほとんどないですし……ただ、流石にこの格好は刺激が強すぎますからね。帰ったら着替えたいなぁって思ってるくらいです」

 

 困ったように笑って、凛は肩をすくめる。

 

 いつもの凛だ。

 いつもの、明るくて、少し生意気で、無理にでも周りを安心させようとする後輩の顔。

 

 けれど、リンドウはその笑顔を素直に受け取れなかった。

 

 目の前の少女は笑っている、笑えているが──それなのに、あの雪の中で見た暗い瞳が、どうしても頭から離れない。

 

「……そうか」

 

 それ以上、何を聞けばいいのか分からなかった。

 

 何があった。

 何を見た。

 何を知っている。

 

 問い詰めたいことはいくらでもある。

 

 けれど、今ここでその話題に触れれば、凛はきっと笑って誤魔化す。もしくは、もっと上手く逃げる。そういうところだけは、妙に大人びている子供だった。

 

 だからリンドウは、火の点いていない煙草を噛み締めることしかできなかった。

 

 

 

 極東支部に戻ってから、1か月が過ぎた。

 

 旧ロシアでの作戦は、正式な報告書の中では淡々と処理された。

 

 作戦失敗。

 核融合炉の消失。

 連合軍部隊に甚大な被害。

 周辺サテライトにおける避難民救助。

 フェンリル第一部隊による残存アラガミ掃討。

 

 数字と事実だけが並んだ書類の中に、あの雪原で起きたことの全てが収まるわけじゃない。

 

 リンドウたちが保護した、アリサ・アミエーラという少女は、新しく発足したフェンリル・ロシア支部に保護されることになったらしい。

 

 両親を失い、強いショックを受けているため、しばらくは専門の医師によるメンタルケアを受けることになると聞いた。

 

 主治医が誰なのかまでは、リンドウの耳には入っていない。

 ただ、その話を聞いた時、凛の表情がほんの一瞬だけ強張ったように見えた。

 

 気のせいだったのかもしれない。

 

 その直後には、彼女はいつものように笑っていた。

 

「そっか……ちゃんと、助かったんですね」

 

 そう言って、安心したように目を細めていた。

 だから、リンドウは何も言えなかった。

 

 そして凛は、そこから1週間もすればいつも通りに戻った。

 

 少なくとも、表面上は。

 

 任務に出れば相変わらずでたらめな強さだ。訓練では生意気な口を叩き、リンドウにからかわれれば頬を膨らませ、ツバキに叱られれば大げさに肩を落とす。ソーマへも遠慮なく絡みに行き、鬱陶しそうにされながらも、少しずつ距離を詰めている。

 

 どこからどう見ても、いつもの凛だった。

 

 だが、リンドウには分かっていた。

 

 戻ったんじゃない。

 

 戻したのだ。

 

 自分で、自分の顔を。

 自分で、自分の声を。

 自分で、自分の振る舞いを。

 

 周囲が心配しないように、いつもの後輩キャラを被り直しただけだ。

 

 あの時、広場で何があったのか。

 凛が何と戦ったのか。

 なぜ、あそこまで暗い目をしていたのか。

 

 リンドウは何度か聞こうとした。

 けれど、そのたびに凛はするりと話を逸らした。

 

「大丈夫ですって。あの時は疲れてただけですよ! ほら連戦の連戦だったし、流石に大変だったなぁ~って。もう! ぴちぴちのお肌が痛んだら支部長のこと恨んでやりますよ!」

 

「それより今日の食堂、何か甘いもの出ますかね?」

 

「いやぁ、リンドウさんってば心配性ですねぇ……あ、もしかして僕のこと好きなんですか?? でもリンドウさんて確かサクヤさんと──むぐぐ「あー、凛君。ここに配給チケットがあるんだが」

 

 そんなふうに笑って、肝心な場所には触れさせない。無理に踏み込めば、きっと凛はもっと深く隠す。

 

 だからリンドウは、まだ聞けずにいる。

 

 今日も、神機使いとしての仕事はある。

 

 このくそったれな世界で、仕事が尽きることなどない。いつも、どこかでアラガミが人を襲い、どこかで誰かが救いを求め、どこかでまた誰かが死んでいく。

 

 命を賭けて、少しでも人の世界を延命させる。

 

 その間に、どこかの高名な博士が新しい発見をしてくれるかもしれない。

 もしかしたら、世界が激変するような何かが見つかって、命の危機に怯えなくていい日が来るかもしれない。

 

 そんな夢みたいな未来を信じて、場当たり的な対処で、この終わりのない、終末への遅延行為を続ける。

 それが俺たちゴッドイーターの使命だ。

 

 とは言え、死と隣り合わせで生きる民間人からしたら、いつしかゴッドイーターという存在が、名前通り()()()()()尽くすと思っている。そして、その先に平和な未来がある、そう思っているから希望を持って生きているわけだ。

 実情は違えど、民間人の夢を壊さないためにもゴッドイーターは命を賭け戦い続ける。

 

 そんな命をすり潰し続ける毎日の中で、旧ロシアでの騒乱も薄れ、少しずつ過去のものになろうとしている。

 

 アナグラの廊下にはいつも通りの喧騒が戻り、食堂では馬鹿みたいな会話が飛び交い、整備班はいつも通り神機の調整に追われている。

 

 いつも通りの日常が流れている。

 

 けれど、リンドウにはそれが嵐の後の静けさではなく、次の嵐の前触れに思えてならなかった。

 

 ──そして、その中心にはきっと、あの白い少女()がいる。

 

 リンドウは支部の外縁通路に出ると、胸ポケットから煙草を取り出し火を点けた。

 

 慣れ親しんだ香りが広がり、紫煙がゆっくりと空へ昇っていく。そして、フゥと大きく吐き出した煙は、すぐに風に攫われて消えた。

 

 いつもの味、いつものルーティン。

 煙草には不安もストレスも楽しみも、色々な意味が込められている。何かあってもなくても吸っているその味はリンドウにとって最も親しみのあるものだ。

 

 大体のことは煙草の煙と共に消えていく。

 

 だが、胸の奥に残ったその不安だけは、どうしても消えてくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──NORN DATABASEに新規項目が追加されました。

 

アラガミ

 ∟ディアウス・ピター NEW

  詳細情報:閲覧権限が不足しています。

  登録者 :匿名

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──第一章 旧時代の置土産 了

 

 

 

 

 

 

 




皆さま、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
また、多くのお気に入りや評価、そして感想までありがとうございました。

少し長いですが後書きの場を借りてお目汚しを。
私の内心などどうでも良いわ!という方は無視してください。
(内なる悟空でいくか迷いましたが真面目な方でいきます)

まず、本二次創作は悟空が言っていた通り、自分で読みたいから始めたものでした。
TS関連で読み漁っていたらゴッドイーターシリーズに辿り着き、
当時嵌っていたワクワクとした心を思い出してしまい、もっと読みてぇぞ……となり、愛が溢れました。

それからはもう本当に勢いだけで書いており、限られた時間の中で、ゲームのアーカイブを見たり、プロモアニメを見たり、設定とか年表とか確認したりと……寧ろ書くよりこっちの方が大変でした。
既に原作の内容と乖離が出ている設定があったりもして、公開した後に後悔しました。
原作を知っている方なら多分その辺り違和感あるかもしれません。
小説版とコミック版の内容については履修済みではあるのですが、遠い遥過去のことであり、かつ紙媒体で実家に置いてあるため読み返すこともできず……はい、アリサが大好きな方、多分多大な捏造が入っています、許し亭、許し亭……。
しかしペイラー、一度動き出した歯車は止めることはできんのだよ……。

話は戻りますが、この二次創作は自分のために始めた自慰行為だったわけですが、いざ公開をしてみたら思った以上の反応があり、夜は震えて眠れなくなってしまいました。
オリ主かつ原作改変もので趣味全開な内容のため無反応もしくは批判程度かなと思っていたのですが、思ったよりも世界は優しかったです。

重ねまして、本当にありがとうございます。

さて、一旦はエピローグとなりましたが、これからも続けていく予定です。
ただ、前述の通り勢いで書き始めたこともありストックはゼロです。
常にゼロと20時との戦いでした。
そのため、1か月ほど書き溜めをしてから2章に進もうと思います。
2章では原作無印~バーストぐらいの内容を予定していますが、あくまで予定なので……予定なので……。

また、2章に入る前に数話幕間として投稿します。
そちらは1章の補足的なものになるかなと言う感じで、ここまでは毎日投稿……いけるのだろうか?いきますいきます。

という事でお目汚し大変失礼いたしました。

もしまだ興味を持って頂けるのでしたら、幕間、2章の方でも一緒に楽しんでいければ幸いです。



あ、この二次創作で愛が溢れた方いらっしゃったら、全然このお話をパク……リスペクト頂いて構いません。
リスペクト、良い言葉です。
皆でゴッドイーターというシリーズを盛り上げられたらいいなぁというのは建前で、たくさんの愛が溢れてできたコンテンツをじゅるじゅるしたいです。
因みに私はTSものとメス堕ちものとイケオジとロリが好きです。



<後書きの後書き>
ゴッドイーターシリーズまだ未プレイだよって方いましたら、安いんで是非プレイしてみてください。
世界観とキャラクターは最高なんです。
ただぁ……シリーズ最新作のゴッドイーター3(8年前マ?)……ママに成れるお話なので良かったには良かったのですが……うーん、ゲームバランス含めかなり人を選ぶ印象です。バレットエディットェ……。
私個人的には好きよりのうーんでした。
おかさん!



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