神様とかムカつくんで斬っていいですか?   作:一般通過小説好キー

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ちょっと色々重なってしまい遅れました故。
たぶんこの後も幕間については隔日になるかもしれませんのでご容赦ください。




2話:不器用なバディ

 凛。

 いや、榊凛、か。

 

 俺と同じ体を持ち、俺と同じモノを飼い、俺と同じ匂いがする。

 いつもニコニコとしているのに、どこか枠組みから外れた()()()()()

 

 初めてそいつを目にした時、心の奥がざわついたのを今でも覚えている。

 

 そこらにいる一般人とも違う、ゴッドイーターと呼ばれる存在とも違う。まるでもう一人の自分に出会ったような、そんな不思議な感覚だった。

 

 たぶん、その時の俺は混乱していたんだと思う。

 

 今までの世界は色あせていた。

 何もかもが胡散臭くて、どこか違う世界の話のような、全てが見えない何かで遮られた向こう側で起きているような、現実味のない世界。

 

『お前は人を不幸にする』

『うちの子どもが怪我をさせられたの、あいつは悪魔よ』

『たった数日であの怪我が治るだと……? 化け物め……』

『アイーシャ博士……あいつのせいで死んだんだろ? 悪魔ってか死神だよな』

『惜しい人を失った。アレさえ生まれていなければ今頃……』

『気持ち悪い化け物』

 

 ──まるでこの世界にいることが間違っていると、そう突き付けられていると思っていた。

 実際に俺の周りにいるのは研究者やフェンリルの人間くらいで、俺を『俺』として見てくれる人間はいなかった。

 

 俺の世界は常に一人だった。

 

 そんな時にアイツが現れたんだ。

 白黒の世界に、同じ色を持つ人間。

 

 今まで一人だったのに、急に一人じゃなくなってしまった。

 

 だから俺はこいつは何者だ、と警戒をした。

 

『いやぁ、思ったより目つき悪いなぁって』

 

 正直当時はムカついた。

 人のことをジロジロと無遠慮に見ていたやつが、目つき悪いだと? 普通に喧嘩を売っているのかと思った。

 ただ、話を聞いてみれば本当に喧嘩を売るつもりはなく、単純に仲良くしたいのだということが分かった。

 分かったが、今まで一人だった俺に、まともな人間関係の構築をしたことのない俺にとってそれは劇物だった。

 

 どうしたらいい?

 何を話したらいい?

 どう対応すればいい?

 表情は。

 声は。

 格好は。

 

 分からないことだらけだった。

 

 当時わかっていたのは、関わるということは『人を傷付ける』ということ。だから、俺にできることは拒絶し続けることだった。

 とは言え、仕事は仕事だ。

 こんな俺でも人の世界に関わりを持てる唯一のこと。だから、仕事では最低限の会話をしたし、それで十分だと思った。

 

 旧ロシア。

 

 そこが()()での初任務の場だった。

 

 大量のアラガミとの戦闘。

 数だけは凄まじいが、質は低い。

 正直、この程度の相手なら楽勝だと思った。

 

 余裕があると周りを見ることもできる。

 ふと、あいつの姿が目に映る。

 

 途中までは顔色を悪くして、こいつ本当に戦えるのか? と思っていたが、実際に戦っているところを見れば完全に別人だった。

 

 小さな体からは想像もつかない力強い踏み込み、弾丸のように縦横無尽に駆け回り、全て一太刀で塵に還す。

 あいつの通った後は一体のアラガミも立っていない。

 リンドウやツバキもかなりの強さだと感じたが、あいつは別次元だった。

 

 どこにそんな力があるのか、あいつの神機はどんなアラガミも簡単に斬り裂く。大型種でさえも、数回斬りつけるとバラバラにされてしまう。

 しかもどこか楽しそうに狩る姿。

 

 それを見て、ようやく胸の中のざわめきの正体が分かった。

 あいつは本当に俺と同じなのだ、と。

 

 ただのゴッドイーターではない。

 俺と同じ異質の体を持ち、俺と同じ何かをその身に宿す。

 

 それからは、俺にとってあいつは『興味』の対象になった。

 

 気付けば目で追うようになり、あいつのことを知ってみたいと思うようになった。

 

 するとどうだ、あいつはどうも表と裏の顔があるらしい。

 

 人懐っこい顔と、燃え滾る何かを抱えた暗い顔。

 行きのヘリで魘されている時に呟いていた『父さん』という言葉、残党狩り後のズタボロの姿に何かが抜け落ちたような表情と仄暗い瞳。

 きっとあいつには何か押し殺しているものがあって、それを隠して明るくて無遠慮で騒がしいやつを演じているんだ、そう思った。

 

 だからその違和感を調べるために、掃討作戦帰還後はプライベートでも話を聞くようになった。

 初めの方は作戦時の余韻が残っていたのか、どこか影を感じる雰囲気だったが、気付けば今の明るくて、調子が良くて、騒がしいやつになっていた。

 Nornにも毎日メールを送ってくるし、基地内で見かければ必ず声をかけてくる。任務に向かうヘリの中でもずっと何かと会話を求めてくる。

 あまりにも鬱陶しい時は本気で無視したこともあったが、その時は普段の様子からは信じられないくらい落ち込んでおり、この世全てに絶望したような、それこそ()()()()の時と同じくらいまでになっていた。

 流石に少し悪いことをしたかと思って、今まで無視していたメールを一通開いてみれば『ソーマの戦闘スタイルは脳筋』と書かれていた。

 

 次の任務で一緒になった時に、メールの件でムカついたので頬を引っ張ってやれば、一瞬キョトンとしていたが、いつもの明るいあいつに戻っていた。

 その日はいつにも増して鬱陶しかった、が、何だかそれも悪くないと思った。

 

 笑う。

 怒る。

 悲しむ。

 

 いつからか俺はあいつといると『楽しい』と感じるようになっていた。

 

 俺は一人だと思っていた。

 一生このくそったれな世界で、一人だけ浮いた感覚で生きていくのだと思っていた。

 

 でも、あいつと会ってから変わった。

 

 あいつだけじゃない、あいつ以外の世界にも少しだけ色付いていくように感じた。

 

 もし、『友達』というものが俺にもあるのだとしたら、きっとあいつが俺にとっての初めての友達になるのだろう。

 そう思うようになってから、どうだろう。

 

 何だか、このくそったれな世界も、案外悪いものじゃないのかもしれないと思えるようになった。

 

 だから余計ムカつくようになった。

 

 あいつは常に何かを抱え、耐えている。

 笑顔の裏で噛み殺し、いつもと同じ自分でいようとする。

 

 ──ある任務終わりで基地に帰還した時だった。

 

 その日はそれぞれ別の任務が与えられており、たまたま帰りが一緒になった。相変わらず何が楽しいのか、ニコニコと今日あったことを教えてくれる。

 ロビーまでの少し長い廊下でたわいもない話を聞いていた時だった。

 

「なぁ、あいつまた一人でヴァジュラの群れを狩ってきたんだってよ」

「はぁ?! ヴァジュラって最近出てきた新種だろ? しかも場合によっては第一種禁忌種指定になるかもってぐらいの」

「それを一人で、だ。いやー、本当なら恐ろしいねぇ。ま、どうせ話題作りのための嘘なんだろうけど」

「マジでやばいよな。榊博士の『お気に入り』だし、やっぱり箔がねぇとな」

「箔と言えばさ、あいつの二つ名、知ってるか?」

「あ? あれだろ、極東のエース(笑)」

「それもだけど、もう一つの方だよ」

「もう一つ?」

「あぁ。その名も『赤鬼』だってよ。いやー初めて聞いた時はマジで笑ったわ」

 

 俺は人よりも五感がいい。ある程度離れていて、それでひそひそと会話していたとしても聞こえてしまう。そして、凛も同じだ。

 で、あればこの会話は凛にも聞こえているということだ。

 

 俺は全身の血が沸騰するような感覚に陥る。

 

 俺のことを悪く言うのはいい、慣れているから。でも、凛のそういう話を聞くのはどうしても許せなかった。

 何故なら凛の実績は全てが()()だからだ。

 

 誰よりもアラガミのデータを更新し、誰よりも率先して危険な任務を受ける。

 今回の任務だって本当は俺も同行するはずだった。

 でも、俺にも外せない任務があった。

 

 凛なら大丈夫だとは思っていた。

 ただ、一人よりも二人の方がより安全だし、何より俺は凛のバディだ。だから、一人では行かせたくなかった。

 でも、凛は一人で大丈夫だと言い、実際に怪我もなく、任務遂行して帰ってきてくれた。多少髪に赤い汚れがあるが、その程度だ。

 

 この極東支部でも危険な相手と言われるヴァジュラの群れを一人で相手にするなど本来はありえない話だ。

 

 ありえないが、それでもどうにかしなければならない時もある。

 俺もリンドウもツバキも凛も。

 極東の『エース』にあたる俺たちは、個々の能力も高い。万年人手不足と言われているここでは、俺らでないと対処できないことも少なくない。

 今回の件は正にそうだ。

 第一部隊のそれぞれが任務にあたる必要があった以上、こんなありえない任務が起こる。

 この場合の最善は、時間を稼ぎ、その間に早く任務を終わらせた者が応援に向かうというものなんだが、そう、こいつはそれを一人でどうにかしてしまう。

 

 今回だって俺が終わった段階で向かう予定だったが、ちょうど向こうも終わっちまってた。

 本当にデタラメなやつだ。

 

 そして、そんなデタラメなやつが、この脅威を遠ざけてくれているというのに、こいつらは感謝をするどころか、貶め、穢し、嘲笑っている。

 

 俺は拳を握りしめる。

 

()には守るべき一線がある、と俺は思っている。

 

 そしてあいつらはその一線を踏み越えた。

 だから俺はあいつらの方へ向かおうとした時──。

 

「ははっ、ねぇソーマ聞いた? 赤鬼って! 僕どっちかって言うと白鬼じゃない?」

 

 凛が、笑った。

 

「うーん、何で赤鬼なんだろ。そもそも鬼ってもっと、こうガタイが良くて強面な感じじゃんね? あ、もしかしてついに僕にも貫禄がついてきたってことなのかな?! 見た目はちんちくりん、でも背中はでかい……おぉ! いいじゃんかっこよ! そのうち鬼神とか呼ばれそう! いいね、厨二心くすぐるよっ!」

 

 楽しそうに、自分は傷付いていませんよとアピールするように。

 

 だから、余計にムカつくんだ。

 

 俺の手のひらに爪が食い込み始めた頃、そっと凛の小さな手が俺の手を掴んだ。

 

「大丈夫だよ。あんなの気にするだけ無駄だよ」

 

 言い聞かせるような優しい声で、握り締めた拳の指を一本一本解いてゆく。

 

「僕のこと知ってくれてる人がいる。ソーマもそう。だからなーんにも知らない人たちなんてさ放っておこうよ」

 

 いつの間にか俺の拳は解かれ、手が開いている。

 

「でも、ありがとね。怒ってくれて。それだけで僕は十分嬉しいよ」

 

 やめろ。

 困ったような顔で笑うな。

 本当にそれでいいと、そんなことを言うな。

 

 俺の中のぐつぐつとした感情が少しずつ引いていく。

 

「……はぁ」

 

 最後の熱を吐き出すように深く息を吐く。

 

 本人が望まない以上、これは俺が勝手にどうこうしていい問題じゃない。それにその先の責任の取り方を俺は理解していない。

 

 ふと、凛の頭を見る。

 

 アラガミの血がついてそのまま固まってしまったのか、そこには赤黒い汚れが幾分かついている。

 

 あいつらの言う『赤鬼』、それはこいつがアラガミの戦闘で返り血を浴び、真っ赤に染まる姿。そして人間味を感じられない確実で正確な刃、時には楽しそうにアラガミを屠る姿から、まるでおとぎ話の中に出る『鬼』を連想したものなのだろう。

 体はまだまだ幼く、人畜無害そうな人柄。しかし、ひとたびアラガミと相まみえれば、凡人には決して理解されない戦い方と、容赦ない姿に恐れを覚える者も少なくない。

 

 何より、凛はあまりにもゴッドイーターとして優秀過ぎた。

 

 自分たちよりも幼い少女が、自分たちでは敵わない、恐ろしくてたまらないアラガミを簡単に倒してしまう。

 自分たちの友人が、家族が、戦友が、失意の中アラガミに喰われていくというのに、凛が出れば自分たちの仇はあっさり倒されてしまう。

 

 これがリンドウやツバキだったなら話は別なんだろう。このアナグラの中でも古株と言って差し支えない実力者で、その歴史を知る者は多い。

 だから、きっと、あの二人であれば「仕方ない」「仇を討ってくれてありがとう」とそこにはある種の諦めや感謝があるはずだ。

 

 反吐が出る。

 

 結局やつらは自分たちができないことを簡単にできてしまう、少女が気に喰わないんだ。自分よりも年下で、誰にでも明るく能天気に振る舞い、あの二人や榊博士……それに親父からの覚えもいい。

 ようは酷く醜い妬みと嫉妬だろう。

 

 凛を見る。

 

 俺よりも遥かに小柄な体。

 細い腕のどこにあんな力があるのか。

 何かをひた隠し、周りの悪意すらも抱え込み他人には踏み込ませない。

 そのくせ、人の内側には平気でずけずけと入り込んでくる不気味な女。

 

 俺は凛の頭に手を載せぐしゃぐしゃと掻き回す。

 

「わわっ!? ちょ、ソーマ! やめろよ~!」

 

 いいだろう。

 

 このチビが抱え込んで踏み込ませないと言うなら、その大本を変えてやればいい。

 笑顔の裏で影を作るくらいなら、その『赤鬼』の名に負けないほどの悪名を俺が持てばいい。

 

 俺は『悪魔』や『死神』と呼ばれた男だ。

 

 だったらこの基地内のゴッドイーター共にもその名で呼ばせてやる。

 

 俺はこいつの『バディ』だ。

 

 なら、俺らは二人でその悪名を背負い暴れてやる。

 

「おーい! いい加減やめろ!」

 

 小さな赤鬼様が俺の手を弾く。

「もお、髪がぐしゃぐしゃじゃないか」と頬を膨らませ怒っているが、先ほどまでの諦めたような困った笑顔ではない。

 

「お前、戻ったらさっさとシャワー浴びろ」

「はぁ? そりゃ浴びるけどさぁ……え、何、もしかして、くさい?」

「さぁな」

「えぇー! 流石に僕でも臭いを弄られるのは傷付くよ!?」

 

 こいつはこうやって能天気に騒がしい方が似合っている。

 だから、俺はそれを守るために、もっと強くならないといけない。

 

──ソーマ、ヨワイ

 

「黙れ」

「え? え? そんなに酷いの!?? う、うぅ、今すぐシャワー浴びてくるっ!!」

 

 凛は顔面を蒼白にするとそのまま走り去って行ってしまった。

 あいつに言ったわけではないんだが、まぁ、いいだろう。

 

 あのクズどもと同じ空間にいるのも良くないだろうしな。

 

 俺は再度拳を握りしめ、遠ざかっていく凛の後ろ姿を見つめた。

 

 

 

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