「ッゲホ・・・ゲホッ・・・ガッ・・・」
「全く・・・よくもここまで生き延びれた物ね。」
アリス宅にて、次元は寝込んでいた。
理由は単純、魔法の森の瘴気に当てられたからだ。
対策無しでは、普通の人間はまずこの瘴気には耐えられない。
特に外来人なんかはコレが原因で野垂れ死んだりもする位だ。
「はい。解熱剤と、特効薬。しばらくすれば楽になるわ」
「悪いな、何から何まで・・・」
「よく見るのよ、魔法の森で倒れてる人間は。いつもの事よ」
言うとおり、女の手付きはもはや作業をする様だった。
それにその女を手伝っている小さな人形も・・・
人形?
「幻覚まで見えてきたか・・・」
「・・・これは幻覚じゃなくて、現実よ。」
「冗談じゃねえぜ・・・人形が一人でッゴホ空を飛ぶわけガハッ」
「はいはい。じっとしてなさいよ。死んでも知らないわよ」
ハァ、とタメ息をつきまた横になる次元。
病気に掛かるのなんて何年ぶりだ。
女の方へ目を凝らすが、やはり人形はフヨフヨと漂い、何かを運んでいる。
そして時折こちらを見ては、また作業に戻るのだ。
なんとも不思議な光景である。
そう思っていると、女がこちらにきて、こう尋ねた。
「顔色はよくなったみたいね。とりあえず。貴方名前は?」
「ああ。俺は次元大介。・・・次元でいい」
「そう、次元。私はアリス・マーガトロイド。アリスでいいわ。」
「マーガトロイド・・・とすると、ここはイギリスかそこらか?」
「・・・残念だけど、ここはイギリスじゃない。ここは日本の中にある・・・でも、日本じゃないわ」
その言葉を理解できず、少し考えるがやはり意味が分からない。
どういう事だ、と聞くと、信じられない答えが帰ってきた。
「・・・貴方は、神隠しって信じるかしら?」
「神隠し、ねえ。いい響きじゃねえか。信じた事ぁ一度も無えがな。」
「ここは、貴方のように『神隠し』をされた人間が行き着く場所、幻想郷よ。」
神隠し?幻想郷?何を言っているんだ、コイツは?
そう思い顔を覗き込むが、至って真面目な表情で、少なくとも冗談を言っているようには見られない。
それに先程の空を飛び襲ってきた少女に、空飛ぶ人形・・・
次元は徐々に理解してきた。
「・・・つまり、ここは死後の世界、とかいうオチか?」
「少し違うわね。」
「というと?」
「ここは本来は、幻想になった者が集まる場所。妖怪とか、鬼とか、勿論人間もいるけど。」
「・・・信じたくはねえ話だが」
人形のほうをチラリと見る。
その人形は相変わらず澄んだ目でこちらを見つめていた。
「アイツを見る限りは、嘘だと決め付けるのも良くねえみたいだな」
「理解が早くて助かるわ。」
一息ついて、アリスはこう切り出した。
「次元、だったっけ?」
「ん?」
「・・・ここに来た人間は、帰る事もできるし、この文明の薄れた場所に残る事も出来る。貴方はどうするの?」
「そうだな・・・」
少し間を置いてこう答える。
「確かに自然に囲まれる生活も悪くねえが・・・オレにもまだ仕事が残ってるんでね。」
「仕事?」
「ああ。相棒の世話を焼かなきゃならねえ・・・生憎だがこんな所でのんびりする訳にはいかねえのさ。」
「そう、分かったわ」
「何でまた急に?」
「話が早いほうが、助かるの。私も、博麗の巫女もね。」
博麗の巫女、という言葉にピンとは来なかった。
しかし女性のそう何度も質問を繰り返すのも無粋なので控える。
常にレディに頼られる、これがモテる男への第一歩だ。
・・・まあ、看病されている身が言える事ではないのだが。
「身の回りの世話は、その子がやってくれるから。」
「おう。・・・名前なんかはあるのか」
「上海人形、と名付けているけど。」
「そうか、上海ちゃん、よろしくなー。」
呼びかけると、少し嬉しそうな目をして此方に寄ってくる。
これが人形なんて、本当に信じ難い話である。
「明日には元の場所に帰る『手続き』をするわ、貴方も一緒に来て頂戴」
「あいよ」
「・・・それにしても、不思議な人ね」
「どうした?」
「家に来た人間はね、皆口を揃えてこう言うわ。気持ち悪い部屋だ、ってね」
「まあ・・・こんだけ人形が並んでれば、そうも言われるだろうな。」
「でも貴方は顔色一つ変えない。それどころかむしろ眺めてるようにも見えるわ」
「うん・・・そうだな」
フゥ、と一息を吹かす。
口元にいつもの物が無いのを煩わしく思いながら、こう言った。
「もっと、滅茶苦茶に恐ろしいもん、何回も見てきたからな。」
「・・・そう。」
アリスはそれ以上何も聞かなかった。
帽子を顔に被せ、ゆっくりと眠りにつく次元。
薄れていく意識の中、こんな事を考えていた。
(ルパンの奴・・・心配してるだろうな)
だが次元がルパンの元へ帰るのは、まだまだ先の事となるのだった。