射撃の名手が幻想入り   作:Sushi God

3 / 3
3話 こんなはずでは

その夜、次元は考えていた。

この世界は一体何なのか。どうしてここに来たのか。

 

疲れた後は冷静になると言うが、まさに次元はその状況下であった。

小さな女の子を撃ち殺し、謎の少女に助けられ、奇妙な病気に掛かる。

その明けには次元は、この世界の事を真剣に考えざるを得なくなっていた。

 

「まだ起きてたの?」

 

「ああ。どうも規則正しい生活には慣れないもんでね」

 

「・・・嘘ね」

 

アリスの目は、全てを見通した、という感じの目だった。

一通りの沈黙の後、アリスはこう言った。

 

「あまりこの世界の事を詮索しない方がいいわよ」

 

「何でだ」

 

「不都合なの、私達にとっても、貴方にとっても。」

 

「ほう、そりゃどういう事かい」

 

「・・・どうせ貴方は明日にはここには居ない。全て忘れて寝なさい」

 

「・・・わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、早朝。

 

「忘れ物は無い?そろそろ行くわよ」

 

忘れ物と言っても、この身一つで来たのだ。

銃だって帽子だって忘れようが無いだろう。

 

「それじゃあ、行くわよ」

 

アリスの隣には、やはりあの魔法の人形が浮いている。

彼女はいつまであの不思議人形といるつもりだろう。

ひょっとしていつでも持っているのか・・・?

そんな事を考えている内に、家から出て、しばらく経った。

いまだに森からは抜けず、木の生い茂る道を真っ直ぐ進んでいる。

 

それにしても、少し暗くなってきたか。

 

「・・・まずい」

 

「?」

 

「彼女が来るわ」

 

「彼女って?」

 

その瞬間だった。背中を、ガン、と大きな音が襲う。

振り返るとそこには・・・恐ろしい形相をした、あの時の少女が睨みつけていた。

 

「なっ!?」

 

「へぇ・・・考えた物ね。魔法壁とは、流石は人形何体も引き連れてるだけはある」

 

「・・・帰りなさい、ルーミア。痛い思いをしたくなければ。」

 

「そういう訳にもいかないのよね」

 

少女はこちらをまたギロリと睨みつける。

あの時と同じで、捕食せんとばかりの様子だ。

 

「覚えてないとは言わせないわよ?人間!」

 

「ああ・・・あ、あの時は世話になったな、なんて」

 

「・・・はっきり言う、超痛かったわ」

 

「は?」

 

「まさか人間に、ここまでやられるとは思わなかった」

「何したかは知らないけど・・・妖怪にここまで喧嘩売って、無事で帰れると思わない事ね?」

 

明らかに様子がおかしい。

それにしても、どういう事だ?確かに頭を撃ち抜いて、地面へ落ちた。

急所でなくともあの高さなら生きては居られないだろう。

少なくとも、それを超痛かったなどと済ませる位では無い筈。

しかし現に彼女は、目の前でピンピンしているのだ。

 

「アリス?大人しくソイツを渡しなさい」

 

「どうするつもり?」

 

「んー・・・まずは、生きるのが辛い位痛めつけてあげようかしら」

 

「じゃあお断りね」

 

「どうして?その人間に義理でも?」

 

それを聞いてアリスは、手のひらを一杯に開いた。

すると例の人形が3体、4対と飛び出してくる。

 

「人間一人護衛できないんじゃ、人形屋の威厳が無くなるものね?」

 

「ヘェ・・・やる気は十分、って感じか」

 

「・・・次元、だっけ」

 

「お、おう?」

 

「逃げなさい」

 

「・・・あいよ」

 

次元は走った。それこそ、これ以上無いくらいの速さで。

相手が銭型やいつもの警備警察なら、ここまで必死には成れなかっただろう。

ただ相手は意味不明の、訳の分からない化物だ。

命を賭けてでも走らねばならない、そんな時だった。

 

 

後ろではアリスが交戦している様子が聞こえる。

 

「邪っ魔ぁぁ!!!!」

 

「ッく・・・」

 

防戦一方なのだろうか。押されているような音だ。

けれども振り返れない。振り返る暇があれば、走らなければならない。

自分があの化物に勝てないというのは直感で分かっていた。

そういう時、すこしカッコ悪いが・・・背を向けて逃げるしか道は無い。

 

 

 

「ゼェ・・・ゼェ・・・」

 

昨日と同じような事をした。

次元の肺活量はとっくに限界。アリス達の声ももはや聞こえない。

・・・逃げ切った!

 

「・・・ヒュー、間一髪だったぜ」

 

安心して、木の幹にもたれ掛かる。

とにかく助かった。追っ手ももう来ないだろう。

顔を触ってみると、尋常でないほどの汗が出ていた。

さて、これからどうするべきか・・・

 

「見つけた」

 

「嘘だろッ」

 

奴の声だ。何てことだ。こんな所まで!?

という事はアリスは・・・なんて運が悪いんだ。

 

「今日は本気でいくぞ?人間!」

 

明らかにスピードが増している。

いくら走れど走れど、距離はどんどん縮んでいく。

一発、撃ち込むしかない!

 

「喰らえっ、この化物が!」

 

「ッつ・・・」

 

狙ったのは、頭。

昨日のように打ち落とせばだいぶ稼げるはず。

・・・そう思ったのも束の間だった。

 

「へぇ・・・鉛か。こいつを撃ち込んでたって訳。」

 

「ハァ!?」

 

なんとその化物は自らの頭を手で防いでいたのだ。

そして手に食い込んだ弾丸を手で抉り出す。

こんな事をする輩は当然見たことが無い。

 

もう一度狙いを、と後ずさる。

するとかかとに衝撃を感じた。

 

「しまっ・・・」

 

背中から倒れこむ。

起き上がろうにも、化物はすぐそこにいる。

 

「・・・最後は自滅ね。手間掛けさせてくれて・・・」

 

もうダメだ。ここまで来たら逃げれない。

ついに銃が弾かれる。こうなると、もう抵抗のしようが無い。

死ぬ覚悟を決めた。・・・その時だった。

 

 

「ガッ!?」

 

頭上で、鈍い音が鳴り響いた。

目の前にあったのは・・・謎の紅白の服。

 

「へぇ。ただの喧嘩だと思って見てたら・・・いい度胸じゃない?」

 

「え・・・」

 

「・・・悪霊退散、妖怪退治はお任せあれ。私こそが博麗の巫女・・・」

 

「ちょっ・・・待って」

 

「博麗霊夢、参上!」

 

そして化物は、森の奥深くへと吹っ飛ばされたのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。