死亡エンドの別軸で 作:出戻りのきのこ
最近は何かと出かける事が多かったし、本を積みがちなのよね。本は重いから今は電子版も多いけどその面倒なのも含めて私は読書好き。今日は見るだけにして買うのは今度にしようかしら。すると、本棚に私と並ぶかたちで男が近づいてくる。
「普段どのようなジャンルを読まれるんですか?」
「色々」
「あぁ、そうなんですね……私はミステリーとか好きですね。最近は専ら漫画やラノベばかりですけど」
「そう」
「えぇ……っと。あー!これとかアニメ化したんですよね!読んだことあります?」
「私はそれ好きじゃない」
「そうなんですか。そうだ、学校ではどんな勉強してるんですか?私文学部の友人がいないので気になってたんですよね〜!」
「普通よ」
「あ、普通ですか。そうなんですね」
私は皆で飲み会をした後に、本屋に来ていた。ここの本屋はそこまで大きい訳では無いが駅から近いという事もあって用事の時には立ち寄ることが多い。普段は一人でたまに聡や紫乃を誘ってくる事もある。
ただ今日は何時もとは違う。
それは佐藤という男が一緒にいるという事だ。
嫌だったが、本当に嫌だったのだが聡がどうしてもと言うので引き受ける形になったのだけれど……何が目的なのかしら。最初は他の三人も引き留めようとしたけれど聡から説明を受けて渋々納得している様子だった。全く理解できないのだけど……皆も聡も私の過去を知っているのだし何故なのかしらとは思ったのだけど、まぁいいわ。後で聞きましょう。
この男もニヤニヤして気持ち悪くて関わりたくない。比較的マシなレベルなだけで二人になった途端何かと話しかけてくる。聡のお願いじゃなければ近づく事も話しかける事も本当にあり得ないわね。それにしつこいくらいに話を続けてこようとする。さっきまではこちらから喋りかけないと話さなかったのに一人を狙ってるってことかしら。だとすると評価は変えるべきね。複数だと積極的に声もかけられないチキンクソ野郎。百回死ね。グループにも共有しておきましょう……それにしてもここまで話しかけられるのは何故かしら。もし、話しかけやすいと思われているなら……とても腹立たしい。
「佐藤と言ったわよね」
「あ、はい。佐藤です」
「黙って本を見てなさい。選ぶのに集中出来ないわ。虫酸が走る」
「え、うん。そっかごめん。それはその……申し訳ない」
目を向けるまでもなくそう伝えるとその男は少し私から距離を取り、視界から映らなくなった。
一通り棚を見て回ってから本屋から出て少し歩くと、帰る方向が違うとか言って早々に離れていった。一秒でも一緒にいたくなかったから助かったわ。はぁ、さっさと帰って聡に癒してもらおう……いやそもそもなんでこんな事しようとしたのか問いたださないといけないわ。
「えっと……帰りの電車は」
「麗音ちゃんお疲れ様〜!」
「わぁ!えっと朱奈!?それに紫乃まで?先帰ったんじゃなかったの?」
「いえ、麗音さんがあの男との逢瀬が終わるのを待っていたのですよ」
急に抱きつかれたので振り向くと朱奈が頬をすりすりしてきて……やめなさいよ!一方紫乃はというと何時もの笑みで髪を耳にかきあげている。
「逢瀬って……はぁ、まぁいいわ。早く帰りましょう。本当に最悪だったわ」
「え……?あの男麗音ちゃんに何したの?」
「それは帰りの電車で話すわ」
目を丸くしていた二人を連れて私は改札を通ってホームへと向かった。
ホームに着くと我慢出来なかったのか麗音さんからあの男への愚痴が始まりました。発言内容や所作、その他あることない事まで。私達は彼女の事を知っているので何時もの事ではありましたが想定通り、いえ想定上にあの男は少しあんまりな対応をされていたみたいでした。途中朱奈さんの方をちらりと見てみましたが、私にも分かるくらいに笑顔が引きつっています。
……これなら事前に麗音さんには話をしてあげたほうが良かったのかもしれませんね。
「全く、本当に不快だったわ。」
「いや麗音ちゃん……実はね」
「朱奈さん。私から麗音さんにお伝えしましょう」
「え、何二人とも?どうかしたのかしら」
「麗音さん。聡さんはあなたを心配していました。」
「……どういうこと?」
彼女は私の声を聞いて目を細める。無理もないでしょう。まさかそんな事を言われるとは思ってなかったのでしょうから。
「麗音さん、あなたは極度の男性嫌いですよね。それはこの先の人生において大きな障害になるのではありませんか?」
「障害?」
「そうです。私達や聡さんはあなたの事情を理解をしてあげられます。しかし、この先はどうでしょう。いくらこれから誰ともお付き合いをしないつもりでいても男性と全く話しかけずに人生を送るというのは大変難しいのではありませんか?」
「それは……」
麗音さんはバツが悪そうに目を背ける。この話をするにあたって開き直られないかと少し不安でしたが、ひとまずは一安心ですね。
麗音さんは極度の男性嫌いがある。
詳しい内容は知らないのですが、過去母親の連れてきた男が原因だという話は聡さんから聞いている。その片鱗は日常生活を送る上でも度々見られる。
「道端で話しかけられた際は無視をしたとしても問題はないでしょう。麗音さんがそれではアルバイトをしたときはどうでしょう?就職したときは?今後は何かと一人で対処していかなければならない時もあるでしょう。その時に私達がいなかったら?聡さんがいなかったら?聡さんはそれを心配しているのです」
「そんなことは……」
ナンパであればまだ分かりますが、これが話す必要のある男性に例えば医者や店員等にも現れると問題だ。過去に血の気が多い店員とトラブルになりそうなときがあり、私達がなだめた事で事なきことを得たが何時も麗音さんと付きっきりでいるわけではありません。なので麗音さんに少しでも、特に男性への敵対心を下げてもらう必要があると兼ねてから聡さんは考えていました。
そこで今回白羽の矢が立ったのがあの男ということになります。当初私達も二人っきりにするのは些か不安ではありましたが、今日の様子を見て、そして私と朱奈さんで何かあったときに対応出来るようにという事で後をつける事を条件にあの男と麗音さんを二人っきりにしました。
「確かに桜月さんも改善した方が良い点もあるでしょう。しかし、麗音さん。今のあなたの男性への嫌悪感は社会に出るうえでは払拭までとは言いませんが多少なりとも改善した方がよろしいと思います。少なくともこれは私達の中で考えは一致しています」
「分かったわよ……これからは少し考えてみる」
麗音さんは話を聞く前まで表情とは一変して、拗ねたような顔をしている。すると朱奈さんは彼女頬をつまみながらニコニコとし始めた。
「まぁ、最初だから仕方ないよ〜。あの人にはすこ〜し悪い子としちゃったかもしれないから謝ったほうがいいかもだけどね〜」
「それは……今はちょっと無理」
「そっか〜そしたらもし今度会ったら伝えておくよ〜」
「えっ?あの男と会う予定なんかあるの?」
「まさか〜。もし見かけたらって話!連絡先も交換してないから聡君から連絡しないと伝えようにも伝えれないから〜」
「それもそうですね。誰一人として連絡先を交換しようとしませんでしたし」
「そもそも連絡先交換しようって言ってこなかったね〜」
「確かに……」
「彼女でもいるんでしょうか?」
「どう考えてもそれはないでしょ」
「麗音ちゃん辛辣だね……」
「うっ……こういうところが良くないのよね」
可愛らしくしょんぼりすると、朱奈さんが励ますようにまたニコニコとして麗音さんの頬をつまむ。麗音さんは諦めたのか頬を膨らませながら抵抗する。
「どうだろうね〜。彼女いる人のに女の子とすぐ連絡先交換しようって言ってくるヤツもいるから」
「そう考えると本当に悪いやつではないって男だったわ……悪くないというか」
「というか?」
「読めない、なって」
その言葉を聞いて何処か納得する。私達の共通の認識だったのは佐藤ゆうという男は底がしれず読めないという感覚だった。
受け答えも普通。会話の内容も普通。それでいて目端が利いて気が利く。縛られてた私をどこからともなくカッターを取り出して紐を切って解放をしてくれた。話してる最中のリアクションが人より少し大きい気がしたがそれだけ。しかし、あのニヤニヤとした何となく演技っぽいような表情は……
「何となくなのだけど、朱奈ってたまにあの男のしてた顔するわよね」
「……そう?」
「えぇ、なんかどうでもいい人とかにするときの営業スマイルみたいな。今日何か目線合わなかったし。」
「ふーん……」
「二人きりのときは凄い見てくる感覚はあったけど、その時以外はあまりなかった気がするわ。」
言われてみればそうかもしれない。目と目があった感覚はなかったし、あくまでも見てただけ。それは朱奈さんがそこら辺の男子とかを相手にするような視線と似ていたかと言われればそうかも知れない。
「そっか〜……そっか、なるほどね」
「朱奈……?」
「ううん!なんでもないよ〜!」
「そ、そう」
何処か含みのあるような態度だったが、朱奈はまさにその顔でにっこりと笑いかけてきた。私達はその笑顔に圧倒されてしまい、最寄り駅まで口を開くことは出来なかった。
家に帰ってチャットアプリを開くと、一件の通知が来ていた事に気付いた。後輩からだ。
『今日は急に悪かった。色々と申し訳ない』
短いながらも労いの様な言葉に少し笑ってしまう。
『こちらこそありがとう〜』
簡単なメッセージとスタンプを送ってからベットに倒れ込むように横になって目を瞑る。
「いやぁ……可愛い人だったなぁ」
さっきまでの事を思い出すと不意に笑みが溢れてしまったので、誰もいない自分の部屋だけど咄嗟に手で口元を隠す。暫くふると馬鹿らしくなってしまい鼻で笑った後に立ち上がって部屋を出ていった。
直近で読み込んでないので語尾とか口調が変だったら悲しい。
自分で書いた物語は脳内で文章を補完できるっていう点もあるけど、やっぱりストーリーとしては好きだわぁおもろいわぁってよくなる。
この話は次とか次の次とかで畳むんだろうなぁって思ってます。