終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
七星北斗はヒーローが好きだった。
それはつまり、日曜日の朝にテレビを付けたらやっているような特撮ドラマの主人公のことだ。
女の子が見るものではないと周りからはよく言われたけれど、北斗は大好きだったのだ。
色々あって、生活の環境が大きく変わってテレビ番組の類を見ることは難しくなってしまったけれど。
ヒーローというものは北斗の中にずっと息づいている。
日々を生きるのに必死だが、いつか、本物のヒーローに出会えたらなんて夢も見ちゃったりして。
ヒーローオタク系女子、それが七星北斗。
なのだが、
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」
仮にそうだとしても。
「怪人に襲われたいわけじゃない……!]
化物に追いかけられて逃げ回るなんてこと、望んでいるわけじゃなかった。
夜の廃墟街を、北斗は走っている。
十代後半の少女だ。
肩まで伸びる黒髪、タンクトップの上にツナギを着た作業着姿。
周囲、人気はなく住民がいるような地域ではない。
電気の光もなく、空は曇っていてまともな光はない。
右手に握る懐中電灯の光源を頼りに街を走っているだけ。
彼女は一人ではなかった。
「はぁ、はぁ……!」
十代前半くらいの背の低い少女。
褐色の肌と白い髪の子供の手を引いて、北斗は走っていて、
『――――!』
その背後に、怪人がいた。
蜘蛛のような特徴を持つ生々しい異形だった。
腕から蜘蛛の糸を出し、周囲の建物を飛び回りながら二人を追いかけている。
跳躍と蜘蛛糸による移動であれば、二人に追いつくなんて簡単だろうに。
狩人が獲物をじわじわと追い詰める動きだ。
「『ミスティーク』……!」
ある名を叫びつつ、それでも北斗は足を止めなかった。
走り、
「こっち……!」
道を外れ、その先にあった林に飛び込んだ。
少しでも怪人の視界から逃れようと思い、さらに走り、
「こ、ここに、隠れる、よ……!」
林を突っ切った先にあったのは古い、もう使われていない神社だった。
倒れるように本殿の扉へ飛び込み、中の板間に転がり込む。
「はぁっ、はぁっ、ひぃっ、ひぃっ……!」
「ふぅ、ふぅっ……」
頭の片隅では走り続けたほうが良いと思いつつ、体力の限界だった。
どうにか、ここで隠れてやり過ごせないかと思い、
『―――』
「あぁ、くそっ! 私の馬鹿!」
当然のように怪人は姿を表した。
ゆっくりと、板間に上がり込んでくる。
頭部、八つの複眼に北斗と少女が映り、
「シャアアアア」
「うわっ」
口元から、火を吹いた。
二人に直撃するようなものではないが、一瞬で室内の木材に燃え移っていく。
「蜘蛛が火とか……火、蜘蛛……女郎蜘蛛の『ミスティーク』……!」
「シャシャ―――」
怪人自身はそれをものともせず、北斗を嘲笑っている。
元々木々が腐っていたのか、異臭と黒い煙が漂い、周囲に炎が舞う。
「もう、無理―――」
少女がそう漏らし、
「まだ……!」
彼女を胸に押し付け、庇いながら吠えた。
まだだ、と。
どうにか、この子だけは守ろうと。
彼女が誰なのかは知らない。
そもそも怪人に襲われていたのは少女の方で、北斗は自分から飛び込んだだけ。
それでも、そうせざるを得なかった。
それでも、認められなかった。
「こんなところ、こんなふうに、諦めるなんて――――!」
炎の中、怪人に追い詰められながらも叫び、
「――――いいね、眩しいぜ」
その声を聞いた。
●
「シャ!?」
怪人が横合いから蹴り飛ばされる。
「!?」
そして、北斗の目に飛び込んできたのは赤いマフラーと学ランの背中だった。
少年が、立っていた。
彼が北斗たちを守るように佇んでいる。
「――――ぁ」
まるで、ヒーローみたいに。
「下がっていてくれ」
彼は前に出る。
懐から細長い、栞のようなもの取り出し、人差し指と中指で挟んで、顔の前に掲げ、
「シャッ!」
何かする前に怪人が動き出した。
それが繰り出した腕、その手は鋭く、人の体を容易く貫くものだった。
「と」
だが、少年は軽く、最低限の動きで体を逸らすだけで回避。
反撃に左拳を打ち、
「シャ!?」
怪人が大きくのけぞった。
そして、
続けて右足でハイキックを放てば、その右足も変わる。
さらに右の拳でストレートを放ち、
「――――招来」
小さく告げた瞬間、変身が完了した。
学ラン姿の少年はもういない。
代わりにいたのは、
「……え?」
怪人、だった。
赤と黒。
狐の姿を模したような。
ヒーローとはまるで違う。
蜘蛛の怪人と同じような化物。
それは、一度うつむき、
「オオオオオオオオォォォォォ!」
空気が震えるような咆哮を上げた。
まるで、悪役みたいに。
「……………………なんなのぉ?」
わけがわからなかった。
だけど、それが。
七星北斗が――――ヒーローと出会った瞬間だったのだ。
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