終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第九話 ギャルって、行くぜ!

 

 

 

「お、ぉぉぉぉおおお…………」

 

「デジャブかの」

 

 次の日朝、北斗は仮眠ベッドの上で頭を抱えて悶えていた。

 たっぷり睡眠を取ったおかげで脳内はクリア。

 だが、クリアだからこそ昨日の記憶が鮮明だ。

 

「は、早口オタクムーブすぎ……!」

 

 昨日、寝不足で判断能力が落ちていたのとハルが特撮を見てくれると思っていなかったし、そもそも他人と特撮トークをすることもなかったので箍が外れてしまっていた。

 不覚すぎる。

 

「非オタクに興味のない、しかも特撮の話を延々として視聴を付き合わせるなんて……!」

 

「気にしすぎではないか?」

 

「私が気にするの……!」

 

 呆れ気味の狐を視界の端に置きつつ、しばらく悶々とし、

 

「北斗ー! そろそろ起きてこーい!」

 

「うがっ」

 

 リビングからのハルの声に驚き、ベッドから転げ落ちた。

 

「…………」

 

「のう、北斗や」

 

「…………何?」

 

「今、お主は寝床から、頭から落ちて、下乳丸見えで、股あっぴろげの状態なわけだが」

 

「言葉にしないでほしいんだけど」

 

「さっさと行かないとハルが来てしまうぞ? ワシは全く構わんが」

 

「聞いたことない脅し文句だなぁ!」

 

 

 

 

 

 

「おはよう北斗。良く眠れた……のか? 顔色は良いが、表情が暗いぞ?」

 

「いや、よくは眠れたかな……ははは」

 

「そうか? ならいいが、朝飯出来てるよ」

 

 リビングに向かえば掃除中のハルが当然のように出迎えて、キッチンへと誘導してくれた。

 主婦性能が高すぎる。

 相変わらずやたら美味しい朝食を食べつつ、恐る恐るながら北斗は意を決した。

 

「あのさ、ハルくん」

 

「どうした? 口に合わなかったか?」

 

「いや、すごくおいしいよ? こんなオムレツ初めて食べたけど」

 

 メニューはご飯に、玉ねぎのポタージュ、ひき肉がゴロゴロ入ったオムレツだ。

 洋食メニューだが、ご飯に合う。

 それはいいのだが、

 

「昨日さ? ちょーっと私、ハルくんが興味のない話しすぎたかなーって思い、まして、うん」

 

「興味のない話? どれのことだろう」

 

「あーっ、すぅー……ほら、特撮のね? 話をね?」

 

「……?」

 

 彼は首をひねり、

 

「別に興味がないなんてことなかったぞ? 一緒に見て、そういう見方もあるのかと思っていたし。楽しかったよ」

 

「え? マジ?」

 

「あぁ、もちろん。何より北斗が楽しそうに話してくれたからな。俺も楽しくなったよ」

 

「くっ……!? オタクに優しいギャル族……!?」

 

「おた……ぎゃ……?」

 

 あまりにも邪気のない破顔だったので、北斗の中の面倒な陰キャ部分が浄化されかけた。

 思わず顔をそらすと、

 

「ワシが育てた」

 

 狐がドヤ顔をしていた。

 間違ってはいないのだろうが、何故か釈然としない。

 

「星を見つめる者とか、すげー好きだぜ」

 

「え、私そんな変なこと言った……?」

 

 拙い、記憶が曖昧だ。

 どうやってベッドまで行ったんだろうか。

 

「とにかく、俺は楽しかったから北斗さえ良ければまた聞かせてくれよ」

 

「あ、はい……」

 

「やったぜ。ただ、今からはダメだな。飯食ったらちょうどいい時間になるだろうし」

 

「あー、それはそうだね」

 

 なぜなら、

 

「ロアちゃんとミスティークの調査再会だ」

 

 

 

 

 

 

「あのコウモリのミスティークの男、遠藤浩二というらしいかったんですが、正直特にこれといった成果はありませんでした」

 

 朝食を終えた後、ロアと合流してバギーで移動を開始し、彼女はそう切り出した。

 バギーの運転はハルがしている。

 彼の里でも車はあったらしく、運転に危ない様子はない。

 だから後部座席で北斗は隣のロアの話を聞いていた。

 

「パソコンの方、ちょっと触って中も見てみましたけど」

 

「へぇ、ロアは機械に詳しいのか」

 

「…………いえ、別に起動してファイルを見るくらいできますよ。専門的な知識はありませんけど。どれだけ田舎から来たんですか」

 

「機械類ほとんどなかったよ。テレビとかはあっても電波とか通らないし。電気自体は雷の権能持つ神様は多かったから、電源は付いたけどな」

 

「…………」

 

 なんなんだこいつは、という目でロアに見られたが北斗は肩をすくめて受け流した。

 

「……ともあれ、遠藤はあのレールガンのような『神性科装(サイバーマイス)』ではない武器の開発をしていたようですよ。詳しくないのでよくわかりませんけど、設計図がたくさんありました」

 

 ロアが北斗にUSBメモリを差し出す。

 

「一応、触れる範囲でコピーして、あのラボにあったUSBに入れておきました。何か参考になれば」

 

「おっ、賢い。ありがとね」

 

 USBを貰って、タブレットにデータを読み込ませる。

 フォルダを展開するとロアの言った通りのものがあった。

 大量の非『神性科装(サイバーマイス)』の機械だ。

 最初の方は生活家電や食べ物の生産機だが、途中から兵器一色。特にレールガンを繰り返し設計していたのがわかる。

 

「なんかわかるか、北斗」

 

「うーん……あんま? 『神性科装(サイバーマイス)』嫌いだったのかな、くらい? わかんないな。あのレールガン見た時と印象は変わらないよ。護身用としては過剰だし、兵器としては『神性科装(サイバーマイス)』の下位互換だし」

 

「とんでもない数寄者だった、ということでしょうか?」

 

「そうなるかなぁ? そんな人がなんで魔術師であるお姉さんと繋がっててミスティークギア持ってたのか、やっぱり謎だぁ」

 

「ミスティークギア?」

 

「ほら、遠藤って人がミスティークになった時持ってたデバイスとカードあったでしょ? デバイスの方が『ミスティークギア』、カードの方が神隷を封じ込めた『マイスカード』だね」

 

「横文字が増えるな」

 

「単語としてはだいぶ単純ですけどね」

 

「ややこしい名前にしても仕方ないしね。カードの形なのは携帯性の都合だし」

 

 別に、形状自体は何でもいいのだ。

 今ハルが運転しているスレイプニルのバギーは北斗のスマホの中にデータが保存されている。

 これはオリジナルデータのコピーであるため、容量が軽いからだ。

 オリジナルの神隷を収める媒体の場合、ある程度の容量を必要とするためカードやUSBのような物理的な媒体が必要になる。

 話は逸れたが、

 

「結局、あの人のことはよくわかんないな……」

 

 遠藤浩二という男が何を思い、何故ミスティークとなったのか。

 ミスティークになった時点で彼はもう後戻りできず、ハルによって命を落とした。

 そのことをハルがどう思っているのかも心配だが、堪えた様子も無さそうなのでそれは良かったと思う。

 彼の死に、誰が責任を負う必要があるのかといえば。

 彼自身でも、彼を止めたハルでも、彼と関係があると思われるサラーサでもない。

 それはきっと、

 

「……ミスティークを作った人、だよね」

 

 

 

 

 

 

「ロアちゃん、ここなわけ?」

 

「えぇ。私の魔術で追う限りは」

 

「うーん、前回当たりだったし、信用してるけど。ここかぁ」

 

 バギーから三人が降り立った場所。

 それは区の中心部だった。

 六階建ての大きな区役所と食料生産プラントを中心に公的機関や商店街が固まっているエリア。

 三人の前に広がっているのは商店街であり、食べ物から生活必需品、娯楽品、護身用の武器の類まで揃っており、ここに来れば大体のものは揃うという場所だ。

 街の中心部であるため、武装した警官も巡回していて治安も良い。

 人通りが多いため、中心部に入る前にはノハは姿を消していた。

 

「ちょっと……いや、かなり怖いなぁ」

 

 もしも先日のようにミスティークが現れたとしたのなら。

 どれほどの人が犠牲になるのだろうか。

 北斗は思わず想像し、起こりうる惨劇の可能性に胸の奥から喉から込み上げそうになり、

 

「大丈夫だよ、北斗」

 

 少年の声が耳に届く。

 彼は普段のように笑ってはいなかった。

 真剣さをにじませた表情で、じっ、と北斗を見つめる。

 

「次はあんなことさせない。北斗も守るし、この人たちも守ろう」

 

「ハルくん……」

 

 彼は頷き、それからいつものように破顔し、

 

「それに、俺も昨日買い物しに来て世話になったといえば世話になったからな。飯が買えないと困っちまうぜ」

 

「……それは、そうだね。私もハルくんのご飯は食べたいな」

 

「! いや、嬉しいこと言ってくれるな! やる気がさらに湧いてきたぜ!」

 

「あはは、なにそれ」

 

 笑って、そしていつの間にか胸の奥の重いものは消えていた。

 

「ありがと、ハルくん」

 

「いいさ」

 

「よしっ」

 

 北斗は息を整え、ロアに声をかけようとし、

 

「いちゃつくのは終わりましたか?」

 

「い、いちゃついてはないよぉー?」

 

「あー、はいはいそうですねー」

 

 

 

 

 商店街を進んでいく。

 遠藤の廃ビルへ向かった時と同じようにロアが先行する形だ。

 ただ、その時と違い人通りが多いのである程度固まる必要があった。だから、自然と先行するロアを真ん中において北斗とハルが挟むことになる。

 そうやって歩いていくと、

 

「お、北斗ちゃん! この前はうちの冷蔵庫直してくれてありがとねぇ!」

 

「北斗さーん! この前直してもらったフライヤーで作ったコロッケ、よかったらもらっていてよ! お連れさんの分も!」

 

 通りの店の人に、北斗がちょいちょい声をかけられたり、

 

「昨日の目利きの兄ちゃんじゃねぇか! 今日は食材買ってかねぇのか!」

 

「げぇ! 今日は買うなよあんちゃん! 昨日とっておきあんたに見つかって、大したもん入ってねぇんだ!」

 

 ハルもまた同じように声をかけられていた。

 

「昨日の今日ですごい人気じゃん、ハルくん」

 

「こんだけ人の多い場所に買い物に来た経験、ほとんどなかったからな。わからないなりに人に聞いたりしながら店を探して、良いものが置いてある場所を探したんだ。そこでお世話になったんだよ」

 

「陽キャだなぁ……」

 

 彼のコミュニケーション能力に呆れながら、貰った揚げたてのコロッケをかじる。

 さっくりとした小気味の良い食感とほくほくとした中のタネが口の中に広がる。

 

「おいし」

 

「うん、美味いな。北斗こそ人気者じゃないか。コロッケ貰えたし、色んな人が色々くれたりしたし」

 

「私、基本修理屋で生計立ててるからね。こういう人と物が集まってるところじゃ自然と仕事も増えるし」

 

「修理屋って、何直すんだ?」

 

「んー?」

 

 北斗はどう答えればいいのか、少し考えた。

 

「別に、何でも……? 多いのはエアコンとかストーブとかコンロとか。電子機器類も多いね。古いデータ復旧とかすることもあるし。車とかバイクみたいな乗り物もやるし。たまに医者と間違われて傷の手当とか頼まれることもあるけど」

 

「そういう時どーするんだ?」

 

「そりゃあ治すけど。病気ならともかく外科手術でなんとかなるならなんとかできるし」

 

「はー、修理屋ってすごいんだな」

 

「そんなわけないでしょう……」

 

 北斗とハルの間に挟まれながら、片手には探知用の振り子を、もう片手にはコロッケ手にしているロアがため息を吐いた。

 

「そこまで範囲の広い修理屋なんてそうそういませんよ。そうでなくても人を治したらそれはもう医者でしょうに」

 

「専門じゃないからねぇ。他の手がない時だけだよ」

 

「そういえば俺の手当も完璧だったなぁ。さすが北斗だ」

 

「うっ……」

 

 当然のように褒めてくれるハルにたじろぐ北斗だったが、道なりの彼への声のかけられ方を思うに人懐っこさは尋常のものではない。

 誰に対してもこのくらいの温度感である可能性が高い。

 

「オタクに優しいギャルはだいたい誰にでも優しいんだよね……」

 

 思わず遠い目になる北斗であり、そんな彼女を半目で見据えるロアだった。

 そうやって街中を進んでいくと、

 

「………………ここ、です」

 

 ロアが歩みを止めた。

 彼女のルーンによる探索が示したのは、

 

「めっちゃ道のど真ん中だな」

 

「めっちゃ道のど真ん中だね……?」

 

「………………」

 

 右手には理髪店。

 左手には交番。

 変わらず通行人で賑わう道の真ん中だ。

 ミスティークやロアの姉に関係するような場所には見えず、

 

「おや、北斗さん」

 

「あれ」

 

 声をかけてきた人がいる。

 栗色の髪の青年に、北斗は見覚えがあった。

 

「協先生」

 

「やぁ、こんにちは。四、五日ぶりかな?」

 

 ハルとロアと出会った日に北斗が修理の仕事をした学校の教師。

 相楽協だ。

 彼はにこやかに北斗へ微笑んだ後、ハルとロアに視線を移し、

 

「……ふむ?」

 

 数秒考え、

 

「驚きました、北斗さん」

 

「え? 何が?」

 

「いえ―――――まさかご結婚されて娘もいたとは。謎の多い人物でしたが、意外な一面ですね」

 

「違いますよおー? 全然そういう関係じゃないですからねー?」

 

 

 

 

 

 

 

 





妖怪気振りBBA、爆誕


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