終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第十話 誰を守り、誰が破るのか

 

「なるほど。他の区から来た北斗さんの友人二人、というわけですね」

 

「はぁーっ……はぁーっ……そういう、ことだから。変な誤解しないでくださいよ……」

 

 協の厄介な誤解を特にかなりの精神力を削られた北斗は荒くなった息を整えた。

 

「とにかく、えーとそういうわけでこっちが絵葉ハルくんにロア・ルーンファミリアちゃん。こちらは私が何度か仕事を頼まれた学校の相楽協先生」

 

「どうも、ハルさん、ロアさん。よろしくお願いします」

 

「よろしく。学校の先生?」

 

「えぇ。小学校兼児童養護施設兼学童保育という感じですね」

 

「ほう……素敵な仕事ですね、尊敬しますよ。相楽先生」

 

「おやおや、丁寧な子ですね。うちの子とそう変わらないでしょうに。それに、大したことはしていませんよ。子供たちが自立するまでのほんの少しの手助けです」

 

「なるほど! 良い先生ということがもう分かるな!」

 

 なんか秒で打ち解けていた。

 児童養護施設……のような魔術組織で育ったであろうロアの評価が高いのはわかる。

 しかし、やはりハルは誰に対しても全肯定スタイルのようだ。

 

「やっぱりね……オタクの勘違いほど見苦しいものはない……」

 

「どうした、北斗?」

 

「なーんでもない! それで、協先生は何をしに?」

 

「大したことではないんですが、あちらにね」

 

 彼が視線を送った先、北斗たちから見て左側の交番だった。

 

「………………協先生? なんかやらかしたの?」

 

「私ではないですよ、北斗さん。うちの子供たちが交番でお世話になるんですよ。人通りが多く治安が良いとはいえ、路地裏に入ると安心はできません。そういうところに親を失った子供が逃げてくることもあって、そんな子を保護することもあります。そうでなくてもうちの子供たちが遊びに来て迷子になったりして保護してもらうこともありますから」

 

 それに、と彼は言葉を続ける。

 

「里親探しをする時に、相手が警官やその紹介だと信頼性が高いですからね。普段から買い物のついでとかに顔を出すようにしているのです」

 

「そうだったんだ……」

 

 にこやかな笑みと共に紡がれた彼の言葉に、北斗は素直に感心した。

 こんな世界で、善意で教師をやっているような人だ。

 正直酔狂と思いつつ、仕事相手として良い関係くらいにしか思っていなかったが、間違いだったらしい。

 

「良い人だな、あなたの教え子は幸せものだろう」

 

 ハルも口元を緩め、

 

「…………」

 

 ロアが、目を細めて協のことをじっと見つめていた。

 ついさっきまでの感心した様子はない。

 何かを思い詰めたようであり、気になって北斗が声をかけようとしたところで、先に協が言葉を続けた。

 

「北斗さんたちがここに来た目的は? 他の区から観光……というようなものではないとは思いますが?」

 

「あー……」

 

 北斗は返答に困った。

 そう、そもそもロアのルーンに導かれ、ミスティークについて調べに来たのだ。

 だが、今立っているこの場所はただの街の中心街であり、それらしいものはない。

 だから返答をどうしていいかわからず、

 

「…………」

 

 ロアは先程と変わらず協を見つめていた。

 

「……っ」

 

 その視線が揺れ、北斗へと移る。

 

「ロアちゃん?」

 

 じぃ、と琥珀の瞳が北斗へと向けられ、

 

「――――」

 

 目が伏せられた。

 

「……いえ、すみません。私も、少し困っていましたから」

 

「はて、何やら厄介事ですか、御三方」

 

「あー、まー、そうといえばそうでそうでないといえばそうなんですけどねー」

 

 とにかくいい感じにごまかすか、と北斗が思った時だった。

 

「北斗」

 

「へっ?」

 

 ハルが動いた。

 北斗の腕を取り、引き寄せる。 

 彼女はバランスを崩しながらも、ハルの背中を見た。

 

「誰だ、アンタ」

 

 彼が問いかけた先には、一人の男がいた。

 

 

 

 

 

 

 ずいぶんと見すぼらしい格好だった。

 区の中心部である商店街の人々の服装は、ツギハギだったり古くはあるが汚くはない。

 だが、その男は何日も野宿でもしていたかのように薄汚れている。

 頬もこけ、髪も無造作に伸びているあたり浮浪者のようにも見えた。

 だが、目は不気味に輝き、北斗たちへと向けられていた。

 

「何者だ?」

 

 繰り返し、ハルが問うが男は答えず、

 

「宮藤、さん?」

 

 協が名前を口にした。

 

「きょ、協先生? あの人、知り合いなわけ?」

 

「え、えぇ一応」

 

 彼は眼鏡の位置を整えつつ、眉を潜めた。

 

「そこの交番で勤務している警官の方です。ずっと前からお世話になっているんですが、最近音信不通になったと聞いていたんです。実は、今日来たのはその話を聞きに来たりもしたんですが……」

 

「最近って、それいつの話?」

 

「二週間ほど前ですね」

 

 と、なると。

 ロアの姉、サラーサがルーンファミリアを出ていった時期と近い。

 

「――――」

 

 宮藤が口を開こうとし、

 

「ハルくん!?」

 

 ハルが前へと瞬発した。

 北斗は彼が飛び出してから動きに気付くほどに素早い動き。

 彼の名を叫んだ時、ハルは宮藤へとハイキックを繰り出し、

 

「なっ……!?」

 

 命中する直前、彼の動きが止まった。

 ただ止まるだけではなく、地面から十数センチ浮いている。

 彼自身の意思ではない。

 それを為しているのは、

 

「尻尾……?」

 

 半透明の、甲殻を持つ尾が彼の体に巻き付いている。

 同時に、北斗が掛けていた眼鏡のディスプレイにアラートが表示。

 

「は、ハルさん何を……い、いえ、宮藤さん!? その尾? のようなものは一体……?」

 

 協の困惑する声に、それまで反応を見せなかった宮藤が口を開く。

 

「――――これが、なにか、か?」

 

 辿々しい、小さい声。

 

「力、だ」

 

 だが、そこに込められているものがある。

 

「世を、否定する力」

 

 感情だ。

 

「警官などでは、変えられない、世界を、否定する」

 

「うおっ――!」

 

 半透明の尾が動き、ハルの体を投げ飛ばした。

 交番とは逆の理髪店へと飛ばされる。

 宮藤はそれに構わず、要領を得ないが激しい憎悪が込められた言葉を続け、

 

『――――ミスティックライズ』

 

 宮藤が取り出したミスティークギアにマイスカードを挿入する。

 突然話しだした内容の不理解さと投げ飛ばされたハルを心配した北斗の反応が遅れた。

 

『セルケト』

 

「アアアアアア!」

 

 男は叫び、ミスティークギアごと薄紫の正気に包まれ、変貌する。

 両手は人のそれではなく鋏となっており、臀部から伸びる尾の先端から毒液を滴らせたサソリの怪人。

 セルケト。

 古代エジプトにおけるサソリの女神の名が、北斗の眼鏡のディスプレイに表示され、

 

「コンナセカイ、ハ、マチガッテイル!」

 

 人の言葉と共に、人の街の中にミスティークは出現した。

 

 

 

 

 

 

「ば、化物!?」

 

 突然生まれた怪人に誰かが叫ぶ。

 そこにあったのは驚きだ。

 無理もない。

 人の形をしたサソリの怪人だ。

 神話存在を直接見ることなんて今の時代の人にとってはまずないのだ。

 それらが実在し『神性科装(サイバーマイス)』として使われているという知識はあっても、『ネノクニ』で生きてれば直接実感することも少ない。

 だが、今まさに、生きていればまず出会わないはずの異形がいる。

 故に、人々はまず純粋に驚き、 

 

「バケモノ、ダト―――」

 

 セルケトミスティークが叫んだ相手の方に向く。

 買い物に来たのだろう女性だ。

 彼女は意識を向けられたことに気付き、震え、叫ぼうとし、

 

「―――オレハバケモノデハナイ」

 

 尾から、液体が射出され、女性に降り注ぐ。

 

「ぁ――ぇばぁ?」

 

 一瞬だった。

 液体は女性の体を溶かし、ぐずぐずの肉塊へと変貌させる。

 猛毒だ。

 それにより、周囲がほんの数秒静まり返る。

 目の前の光景を理解できないがゆえの空白。

 そして、

 

「きゃああああああああああ!?」

 

 今度こそ、恐怖の悲鳴が上がった。

 

「な、なんだありゃあ……!?」

 

「逃げろぉおお!」

 

「け、警察! 警備員を、誰か……!」

 

 人々がセルケトミスティークから逃げ出し、叫ぶ。

 

「ヌゥウウ……!」

 

 対し、煩わしそうにセルケトミスティークは唸り声を上げ、逃げ惑う人びちに毒液を浴びせて溶かし、逃げ遅れた人には両腕の鋏を振るう。

 ミスティークの膂力と鋏だ。

 人間に抗いようもなく、体が上半身と下半身か、左右のどちらかで両断される。

 セルケトミスティークの周囲に、溶けるか二分割された肉塊が量産されようとしていた。

 

「よ、よくも俺の息子を……!」

 

「母ちゃんをこんな……!」

 

「宮藤! どうしちまったんだ!?」

 

 親しい人が犠牲となり、自衛の手段を持っている者もいた。

 元々の宮藤との知り合いだったのであろう警官もいた。

 だが、彼らの持つ武器はあくまで自衛用のただの銃だ。

 『神性科装(サイバーマイス)』を持つような人間は、少し離れた区役所の周囲にしかいないし、そもそも『ネノクニ』にあるような『神性科装(サイバーマイス)』ではミスティークを傷つけるには火力が足りない。

 抵抗した人々も、数秒で溶かされ、断ち切られた。

 地獄絵図だ。

 

「ぁ―――あぁ――――」

 

 そんな光景を前に、北斗は動けなかった。

 ロアが逃げようと促し腕を引っ張ってくる。

 協は恐怖で腰を抜かした子供を抱き上げている。

 その間にも誰かが死んでいく。

 北斗が恐れた光景が、目の前に広がっていた。

 

「だめ……こんなの……違う……!」

 

 否定しても、北斗には何もできない。

 彼女はただ、縋るように彼の名を呼ぶ。

 

「ハルくん……!」

 

 刹那、理髪店から赤黒の閃光が爆裂した。

 

 

 

 

 

 

「――――ル、ハル、起きよ。北斗が死ぬぞ」

 

「っ! はっ……! ぁ、くそっ、気絶してたか……!?」

 

 セルケトミスティークに投げ飛ばされた衝撃で気を失っていたハルは、ノハの声に意識を取り戻した。

 理髪店にはハルしかいない。

 ミスティークの出現にもう逃げたのだろう。

 つまり、逃げるだけの時間の間、ハルは気絶していたのだ。

 

「長くはない。が、拙いぞ」

 

「わかってる……!」

 

 跳ね起き、理髪店から見える外では既に地獄絵図が広がっていた。

 

「くそっ……何をやってんだ俺は……!」

 

 こうなることを北斗は恐れていた。

 だからハルはこうならないことを北斗に約束した。

 その約束は守られなかったのだ。

 

「何のための力だよ……!」

 

 自らに対して怒りをぶつけながら、符を取り出し、

 

「ごふっ」

 

 血の塊が口の中から溢れた。

 

「ごふっ、ごほっごほっ……!」

 

「ハル!」

 

「だいじょうぶ、だ……!」

 

 足元で心配そうに見上げるノハの視線は意図的に無視をする。

 口元の血を拭い、改めて符を構え直し、

 

「招来……ッ!」

 

 叫んだ。

 全身から湧き上がる赤黒い光。

 それは、これまでの変身ではなかった、一瞬だけ浮かぶ全身の禍々しい文様から生じている。

 激情と共に行われた変身は、普段とは違い苛烈な衝撃を発生しながら行われた。

 理髪店の入口のガラスや洗髪台の鏡が、衝撃に散りながら宙を舞う。

 砕けた鏡片らに乱反射して映る異形の狐は、怒りに震え、

 

「オォォォォォォ……!」

 

 セルケトミスティークへ、自らへと咆哮した。




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