終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
北斗は起きた事実に目を見張った。
ロアが纏った半透明の狼の腕。
それ似たようなものを北斗を見たことがあった。
ハルがミスティークを倒した後に出てくる神話存在。
さらに、つい先ほど宮藤がミスティークになる前にハルを投げ飛ばした尾のそれと同じ。
「っ……ハルくん!」
打ち上げ気味に殴られ、数メートル吹き飛んだハルの下へ北斗は走る。
血を流しながら地面を転がり、それでも膝をつき立ち上がろうと震える彼を北斗は支える。
「はっ、はっ……ほくと、きを、付けろ……」
「う、動こうとしないでハルくん!」
セルケトミスティークとの戦いで満身創痍だったのに、派手にぶん殴られた。
生きているのが不思議なくらいだ。
彼の体を支えるために触れた手が、生温い血で濡れる。
「っ……だいじょうぶ、だ」
ハルが右手の人差し指と中指を立て、目を伏せると体のあちこちに禍々しい文様が浮かび上がる。
すると、失血が穏やかになり、彼の息も少しづつだが整っていく。
「大したものですね。その生き汚さも、禁術とやらによるものですか」
白髮の少女は手の中で石を遊ばせながらゆっくりと近づいてくる。
北斗たちから三メートルほど手前で足を止め、石を指で弾いた。
飛び上がったそれは、甲高い音と共に光を放つ。
魔術の行使と思われるそれに身構えた北斗だが、ロアは肩をすくめた。
「ただの人払いです。外野に来られると鬱陶しいので」
「ロア、ちゃん。君は……どうして……何を……?」
「さて、どこから話しましょう」
北斗から見て、彼女の様子はこれまでと変わりなかった。
年不相応の落ち着いた雰囲気。
「本当なら、こういうことにはならないはずだったんですが。ジョロウグモの時に、終わっているはずだった」
「なに、それ。それじゃあ―――」
「えぇ。私が、ジョロウグモ、カマソッソ、セルケトの三体のミスティークを使ってあなたを襲わせました」
「なんで……!?」
「あはっ」
北斗の叫びに、ロアは肩を震わせて吹き出した。
「ふっ、ふふふ、あはははっ、こほん。いえ、失礼しました。なんで、だなんて。あなたが命を狙われる理由なんて、あなたが一番良く分かっているでしょうに」
だって、とロアは笑みを濃くし、
「七星北斗さん。いえ、―――――
●
「――――どう、して」
自分を支えてくる少女から、愕然とした言葉を漏らしたのをハルは聞いた。
神那城、カンナギ。
聞き覚えがある、というより、ついさっき聞いた言葉だ。
『コノ、セカイヲ―――
「かみな、ぎ……?」
セルケトミスティークである宮藤、その男が死の直前残した言葉。
御巫、という言葉なら覚えはあるが少し違うもの。
七星北斗ではなく、神那城北斗。
彼女の本名、ということだろうかと思い、
「あぁ、お兄さんは知らないんですか」
「……悪かったな、田舎者で」
「いいえ。この場合、知らせなかったのはそちらの神話存在の意向ですか」
ハルに寄り添っているノハは何も言わなかった。
ロアは肩をすくめ、
「それにミスティークを作ったということにも驚いてませんし」
「…………まぁ、察してはいた」
「えっ、そ、そうなの……?」
慌てる北斗に痛みを忘れてハルは苦笑する。
「別に、開発者って思ってたわけじゃないけど、色々詳しすぎるし、『
スマートフォンに入ったバギー、移動式拠点の『
『アシハラ』や『ネノクニ』、この世界の技術に疎いハルでも北斗の持つ知識と技術力が破格ということは理解している。
ハルの故郷は中国地方にあり、そこからかつて東京と呼ばれた街の周辺まで、いくつかの街を経由してはいたのだ。
そこで『
だから、そういう意味でも特別ではあったのだ。
「ミスティークにこだわっていたのが、作った本人だからっていうのは、むしろ納得だ」
ただ知っているから、で対処しに行くのはミスティークは危険すぎる。
なのに、彼女はハルと契約しなくてもミスティークに関わろうとしていた。
その理由に関しては彼女のものだが、その性格を考えれば想像は容易い。
それは、今はいいとしても、
「神那城ってのは……苗字、でいいのか?」
「えぇ。あなたのような田舎者は知らないとしても。今のこの世界では知らない人の方が珍しい。一世紀前、『
「あぁ……?」
言われた言葉に、流石にハルは戸惑った。
『
つまり、今この世界の根幹を為した人物。
それが神那城昴という人間であり、北斗はその血族である。
ハルが北斗を見ると、彼女は口元を固く結んで俯いていた。
「…………ノハさん、それ知ってた?」
「いいや、驚いたの」
数日前からやたら仲良くなっていたが、ノハは冷静だ。
彼女からしたら、『
思うところがあるはずだが、
「ま、それは良い。それで、ロア・ルーンファミリア。衝撃の事実発覚で話は終わりかの?」
「つまらない反応ですね。いいですけど」
「お主を楽しませようとは思わん。話があるならさっさとしてほしいの、あまりだらだらしているとハルが死にかねん」
「別に、まだ行ける」
「いいでしょう。では、簡潔に。私の目的は神那城北斗の殺害です。そのために、自分を囮にしてジョロウグモミスティークに殺させようとしたら、お兄さんが現れて色々計画変更を余儀なくされたわけですね」
「それで、俺達に近づいたわけ、か」
「えぇ。ミスティークと対等に戦えるお兄さんの力は脅威でした。確実に排除できる隙を狙っていたら、今になったというわけです。お兄さん、ずっと私のことを警戒していたでしょう? カマソッソの時に分断してこっそり殺しておこうかとも思いましたが、お姉さんにはずっと式神をつけていましたし」
「言ったはずだろ、最初から……信用していなかった」
「そ、そうだったの……? なら、どうして一緒に……?」
「北斗は信じてたからな。だったら俺が警戒すればいいだけだ。そもそも、ミスティーク探しがアンタ主導すぎたんだ。ミスティークになった人間とはまともに会話も通じない。そりゃ警戒するに決まっている」
「確かに。私も思いの外うまくいきすぎてびっくりしていました」
北斗は純粋にロアを、ロアの家族を助けようとしていた。
それは、彼女の善性だ。
だったらそれは汚さないほうがいい。
「しかし、田舎者だろうと人を疑うことは知ることができるようですね」
「はっ―――俺は、
「―――確かに。道理ですね」
ロアは苦笑する。
「っ……道理、なんて、言うなら……ごほっ」
体の痛みを我慢し、支えてくれている北斗を背後に庇うようにハルは前に出た。
血を吐いたが、それも無視。
「北斗を殺す、その邪魔になる俺を殺す。それはいいけど……ごほっ、べらべら喋ってていいのか?」
正直なところ、ハルはかなり限界だった。
こんな状況であれば、ロアはあの狼の腕を使わずとも二人を殺すのは難しくない。
だが、彼女は敵意すら見せずに会話をしている。
「まだ話は途中ですよ。一番肝心なところが残っています。その話をするために、こうして会話を続けているのです――――ねぇ、神那城北斗」
「っ……!」
七星ではなく、本当の名を呼ばれた北斗が息を呑む。
ロアはハル越しに、彼女を見据えていた。
冷たい光を宿した瞳で。
「改めて名乗りましょう。私は
ゆっくりと、芝居がかった仕草で彼女は一礼。
「
●
「初代……?」
北斗は何度目かの困惑の声を上げた。
ロアから聞いたルーンファミリアのこと思い出す。
北欧で生まれた魔術結社。
時を経て日本に渡り、児童養護施設となって、今の世界では魔術組織としての性質はほとんど失われている。
「確か、初代当主が孤児を集めたところから始まったって言ってたけど……それって、二百年前のはずじゃあ」
だが、ロアは見た目だけならば十を少し過ぎたくらいの子供だ。
どう見ても二百歳には見えない。
「それに、だったらサラーサっていうのは……?」
ロアが探していたという姉、サラーサ・ルーンファミリアは?
それら疑問を答えを口にしたノハだった。
彼女はどこか感心した様子で、
「延命不老…………いや、そうか。なるほどの、うまく痕跡を隠してたの? わしでも気づかなんだ。
「
ロアが右手を掲げる。
子供の小さな、褐色の腕。
その腕に、文様が浮かび上がった。
ハルの体に浮かんでいたのと似ているが、よく見ると違う。
北斗が注視したことによって眼鏡のHUDの拡大機能が働き、文様の正体を知る。
文字だ。
無数の、小さなルーン文字がびっしりと肉体に刻まれている。
「全身に彫り込んであります。孤児を預かると、たまにいるんですよ。もう生きることができない赤子が。そういった子に、意識を刻印して転写する。そうして、二百年生き続けてきました」
情報化された意識の転写による延命。
それは『
少なくとも、北斗の知る限り『アシハラ』でも机上の空論のはずだ。
可能不可能の問題ではなく、倫理的な問題点によって行われていないはず。
「おいおい……ルーン魔術ってのには、倫理観とか、ないわけか……?」
「ルーンファミリアが弱小結社というのはウソではありません。私としても、必要にかられての処置です」
「はっ……ノハさんと同じ、エセババアってわけだ」
「おい、ハル。勘違いするな。ワシはやつの五倍はババアだぞ」
「張り合うところそこか……?」
「神話存在と張り合おうなんて思っていません。洋の東西の違いはあれど、あなたもまた信仰され、畏怖されるもの。―――そのはずだった、そうでしょう? 北斗」
北斗が何かを言う前に、ロアは笑う。
「それを、あなたの曽祖父が変えた。あなたちの祖父と父が変え続けた。それによって、私の、私の家族の研鑽は非効率的で不確かな手段へと成り下がった。意識の転写という、倫理で自らをブレーキをかけたくらいのものでしか私達は上回ることができない。『
だから、許せない。
彼女はそう語る。
「ぁ――――」
「そう、これは復讐です」
何故、神那城北斗の命を狙うのか。
その答え。
「奪われ、壊された。だから、せめて壊しましょう。神那城の血を、神那城が作ったものを。まずは北斗、あなたから」
そして、彼女が懐から取り出したものは一つのデバイスだった。
「―――ミスティークギア?」
最初はそう思った。
だが、よく見ると北斗が設計し、二人のミスティークが持っていたものよりも一回り大きい。
細いチェーンが巻きつけられた長方形の機械とカード。
よく見るとチェーンの一つ一つのリングにも細かいルーン文字がびっしりと刻まれている。
「いいえ。あなたが設計しながら、残されたデータを『アシハラ』の科学者は放置しなかった。結果、ミスティークギアは二つのグレードに分かれました。あなたが作ったものほとんどそのままの、変身解除できない欠陥品である旧型は、
説明の途中、ロアの言葉は小さな子供に教えるような優しいもので。
しかし続く言葉は北斗にとって全く優しくないものだった。
「さらにその発展型は、
ロアはそのCSMミスティークギアに巻き付いた鎖に指をかけ、
「そうそう。身分を隠していた理由はもう一つありました。これを使うと、ハルさんとの敵対が避けられそうになかったですからね」
軽い動きでそれを解き放った。
刹那、
「お前―――――!」
ハルが叫んだ。
出会ってから初めて見るような強い感情が込められた声。
それを受けて尚、ロアは笑って、
「あぁ、やっぱり。この神隷は、
カードをCSMミスティークギアのスロットに差し込んだ。
『サイバーライズ!』
低く響き渡る電子音声。
通常の――DXミスティークギアならばそこから瘴気のようなものが発生して変身者を包み込む。
だが、違った。
ギア本体から投射された光は幾何学的な図形となり、
『――――フェンリル!』
半透明の機械の狼が、ロアの背後に形成された。
「てめぇ―――」
それを目にしハルが符を構える。
「
ハルの体に文様が浮かび上がり、そこから赤黒い光が生じる。
「招来――――!」
だが、ロアと機械狼の変化もまだ終わってなかった。
「―――――
機械狼が藻掻くような素振りを見せたと思えば、その体が分解される。
四肢、胴体、尾、頭のパーツはロアの体に吸い込まれ、少女の姿が変貌した。
それは今まさに変身したノハを憑依させたハルとも、これまでのミスティークとも違う姿だった。
招来体のハルもミスティークもそれぞれの神話存在ないし神隷を模しながらも生物的な外見をしていた。
だが、それは違う。
狼を模しながらも、その体は機械で構成され、腰にはミスティークギアCSMが装着されている。
銀と青を貴重とした科装装甲。
『フェンリル・ミスティーク!』
響き渡る電子音声。
少女は変身と同時に身長すら伸ばし、招来体のハルと変わらない目線となっていた。
「北欧神話における、世界を喰らおうとした冬狼―――北欧生まれの私とは相性がよかったようで。ありがたく使わせてもらっていますよ」
ハルやセルケトミスティークとも違い、言葉は流暢に紡がれる。
「フザケルナ! ケッキョクオマエモ、フェンリルヲドウグトシテルダロウガ!」
「最悪の気分ですよ。ですが、こうまでしなければ神那城の血は絶やせない」
さぁ、とフェンリルミスティークは獣のように腰を落とし、両の五指を広げた。
「――――この怒りをあなたに刻みましょう」
DXミスティークギア
CSMミスティークギア
上位版というのが一目瞭然ですね
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