終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
「神話工学において、神隷っていうのは超高密度の情報体なんだよね」
ロアと対峙する前夜、ラボの中で北斗は背後のハルとノハに対しそう語っていた。
視線はモニター、指先は高速でキーボードをタイピングしつつ、言葉を紡いでいく。
「つまり、ソフトウェア、中身ってわけね。『
本題は、
「あの『CSMミスティーク』っていうのは神隷という情報体をそのまま物質化して装甲にしてるんだよ」
神隷を宿した、人の作った道具ではなくて。
神隷そのものを道具とする。
それは似ているようで、大きく違う。
「データの物質化自体はわりと難しいけど、不可能じゃない。私のスレイプニルのバギーとかもそう。貴重ではあるけどね。ただ、フェンリルという神話存在をそのままスーツとして纏っているから、戦闘力や強度は尋常じゃなくなる。人間に融合憑依してるハルくんの招来体や通常のミスティークとは比べ物にならないくらいに」
「詳しいの。それもお主が考案したものなのか?」
「まぁ……そう。だけど、これも結局、失敗作だった」
実のところ、ミスティークを研究していた頃、シミュレートしてはいたのだ。
肉体的に融合するなら、肉体の表面に纏わせれば負担を軽減した上で、解除可能にできないか、と。
「結論から言えば、負担の軽減や変身の解除はできた。でも、負担そのものをゼロにすることができなかったんだよね」
体に直接氷を貼り付けているようなものだ。
死にはしない。短時間なら問題ない。だが、長続きすれば肉体に無視できないダメージがあり、精神的にも不調を得る。
それでは意味がないと北斗は思ったが、
「誰かがその装甲化のデータをサルベージかなんかして、再利用したのがあのギアのはず。ある程度改良しているはずだけど、それも負担を解消できるはずがない」
「その根拠って、あったりするのか?」
「
それは北斗の科学者としての自負だ。
傲慢と思われてもいいが、努力で解決できるのなら北斗は諦めたりしなかった。
「なるほどのぅ。なら、それは違うのか?」
ノハが口にしたもの。
モニターに移る設計図。
そして、北斗の右手の作業台に置かれた大きな箱――3Dプリンターの中で、設計図通りに作られているデバイス。
『アーミラリギア』。
「もちろん。神隷との融合は論外。装甲化はできるけど、負担は消せない――――だから、ずっとその負担をどうするかを考えていたんだ。思いつかなくて、放置してたけど」
ブレイクスルーが必要だった。
北斗の知らない知識、技術が。
そしてそれは、ノハと語り合う中で見つけていた。
「つまり、肉体と装甲の間に噛ませる保護膜……アンダースーツみたいなのがあればいい。ただしそれは神話存在由来であってはならない」
「その答えが―――人の英霊というわけか」
ノハの言葉に、北斗は頷いた。
「神隷は情報体。だったら、人類史において偉業を為し、伝説と伝承を残し、人々の記憶に残り続ける存在……そんな英霊英雄英傑をベースにした超高密度の情報体からアンダースーツを作る」
「それは……できるもんなんか? 神話存在と違ってただの人間だろ?」
「只人が神や魔性になるという話は世界中に転がっているし、つまりは情報量が必要という話だ。後世に残した功績や逸話、或いは知名度のようなもので補正をするわけか。神とて、人の信仰を糧とすることもあるしの。特に、ワシのような妖怪の類は人間の感情の影響を受けやすい」
「荒御魂と和御魂みたいな話か?」
「誰もいない森で倒れる木は音が鳴るのか、みたいな? ともかく、ノハさんから感情や認識が神話存在に影響を与える仕組みを教えてもらったのが大きかった。ほら、私、文化英雄学も専門って話をしたでしょ?」
神々を下したことにより過去の偉人に対する評価が上がり、専門の学問となった。
神奈城の人間として『
「それで―――
傲慢な行いだ。
神を引きずり下ろし、道具として使い、そしてついには人間を神の領域へと押し上げる。
許されないことだろう。
それでも、
「私が完成させる。だから……」
「任せろよ、北斗。君が作り出す輝きが、俺を導くんだから」
●
「――――星は見えているか?」
「っ……それを、人生の道標とするなら! 父母への敬愛がこの胸に、この魂に刻まれているからこそ!」
スターゲイザーの変身に、フェンリルミスティークは一瞬驚いたが、それで戦意を失うわけもなかった。
フェンリルミスティークが疾駆する。
それは常人では反応すらできず、招来体のハルでも追いつけない速度。
さらにそこから繰り出される爪撃もまた、一度はハルに抵抗を許さず蹂躙した動きだ。
だが、
「ふっ」
「!?」
短い呼気とともに、スターゲイザーは右爪を回避した。
ただ、体を反らすという小さな動きだけで。
続けてフェンリルミスティークは左の爪を掬い上げ気味の動きで放つが、
「っと」
その爪が届かないギリギリの距離へ、一歩だけ後ろに下がって回避。
「このっ……!」
翻弄されたフェンリルミスティークは、苛立ちを滲ませながら右の五指をそろえて、手刀として突きを放つ。
だが、スターゲイザーはそれに対し一歩前に出ながら、左手の軽い動きで彼女の手刀を叩くことで軌道を逸らしながら体を回転させる。
その回転に蹴りを乗せた。
手刀に対するカウンターの後ろ回し蹴りだ。
「ハァッ!」
「!?」
攻撃を逸らされて崩れた態勢に蹴りを叩きこまれたフェンリルミスティークは思わず後退。
大きなダメージというわけではなかったが、
「動きが全く違う……!」
それまでの招来体のハルの動きは、それこそ獣のようだった。
対し、スターゲイザーとなってからはこちらの攻撃を見切った上で、最低限の動きで回避し、反撃を叩きこんできた。
変身による身体能力の強化、という話では収まらない。
「いえ……それが本来の動きというわけですか!」
思えば、ジョロウグモとカマソッソミスティークを相手にしていた時、変身する前から彼らの攻撃を捌いていた。
変身後の姿のインパクトが強かったから印象が薄れていたが、よくよく思い返せばあれは並大抵の動きではない。
人間の体を容易く肉塊に変えるほどの膂力のミスティークを相手取るなんて。
「憑依変身だと、力を抑えきれず動きが雑になるのが問題でね。上手く喋れもしなかっただろ? だが、今はそうじゃない。凄くね?」
「えぇ、大したものです!」
「おぉ! ちょいちょい思ってたがあんたは存外物分かりがいいな!」
「年の功とでも思ってください。ですがーーーその上で、許しがたいということです!」
フェンリルミスティークがその場で腕を振るう。
振るった腕から青銀の炎があふれ出し、手の中で鎖の形を得た。
「その力、まさしく私が忌むべきもの……!」
振るわれた鎖は、鞭として使われる。
先端に炎の軌跡を残しながら、高速でスターゲイザーへと振るわれるが、
「あいにく、俺にとっては眩しいものなんだぜ」
やはり、彼は最低限の行動で回避。
「それにこいつは、ただ変身するだけじゃない」
そう言って、スターゲイザーは左腰の真横に備え付けられていたホルダーからマイスカードを引き抜く。
『アーミラリギア』のX字に展開した右部分だけを左手で掴んで一度、格納。
右のスロットにマイスカードを装填し、
「何をする気か知らないですがーーー!」
フェンリルミスティークの鎖鞭が振るわれ、しかし到達する前にトリガーを引けば、ギアの展開機構が再稼働する。
『サイバーライズ! 青龍! アクティベイト!』
音声と共にギア中央のクリアパーツから光が投射され、形を結ぶ。
実体化により、鎖鞭を弾き飛ばし、スターゲイザーが握ったそれは、
「これがほんとの青龍偃月刀ってな……!」
白を青緑でカラーリングされた湾曲した幅広の刃と長い柄の武器。
科装化が施され、刃と柄の接合部に龍の装飾を持ち、青緑色の刃が発光、柄の部分に同色の光のラインが走るという近未来的な風合いとなっていた。
「それはどっちかっていうと中国でしょう……!」
「四聖は元々中国由来だからいいだろ!」
青銀の鎖鞭が振るわれ、青緑の偃月刀が対応する。
身の丈もあるような長大な武器を、スターゲイザーは全身を連動させて自在に用いる。
刃の振るった軌道に青緑の風を散らしながら鎖鞭を弾き、前進した。
「おぉ……!」
「くっ……!」
焦りを滲ませたフェンリルミスティークは、スターゲイザーを止められなかった。
鎖鞭を撃ち落とし、フェンリルミスティークを間合いに捕えた彼は、青緑の斬撃を叩き込む。
冬狼の装甲も青龍の科装刃も、共に神話存在を物質化した超硬度の物質。
故に、強度自体は同等であるためか、割断することはないが
「ぅあっ……!」
激突によって派手な火花が散り、衝撃がフェンリルミスティークを吹き飛ばす。
彼女は地面を転がり、
「っ、あああああああああああああ!!」
叫びと共に立ち上がり、
『ウルティメイト! フェンリル!』
全身から青銀の炎が溢れ出した。
「そんな……そんなものに今更! 負けられないのです! 私は!」
フェンリルミスティークに、スターゲイザーに絡みつく青銀の炎は鎖となって拘束。
スターゲイザーの手から偃月刀がこぼれ落ちた。
「忌み嫌うべき力を宿し! 伝承された神話を穢し! だとしてもと誓った怒りが! この魂に刻まれているのだから!」
フェンリルミスティークが鎖を砕き、両の手に炎の爪刀を宿しながらスターゲイザーへと駆けた。
彼女がスターゲイザーへと到達するまで刹那、
「―――だぁらっ!」
彼もまた、鎖を引き千切り、『アーミラリギア』の左トリガーを引いた。
『ウルト
赤の複眼が、一瞬だけ濃紺に輝き、
「ハッ――――!」
超高速で接近してきたフェンリルミスティークが到達するよりも先に、左拳を射出。
眼前の空間に拳を置き、
「!?」
その拳が、スターゲイザーの眼前に辿り着いたフェンリルミスティークの腹部へと突き刺さる。
未来予知に等しい先読みによって成立されたカウンター。
出鼻を挫かれ、フェンリルミスティークが静止し、スターゲイザーは拳を彼女に当てたまま、開いていた右手でアーミラリギアの右トリガーを引き、
『ウルト
胸と背、左肩、左肘の赤いクリアパーツが順に連続して輝き、光は左拳へと収束。
「おおおおお――――ッッッ!」
赤い光と共に衝撃が炸裂し、 スターゲイザーが拳を振り抜いた。
「ガッ――――!?」
大気が破裂し、フェンリルミスティークの体が吹き飛んだ。
受け身もまともに取れず、地面に倒れ、
「っ、ぁ……」
フェンリルミスティークの変身が、解除された。
●
「やった……!」
戦いを見守っていた北斗は思わず拳を握った。
スターゲイザーへの変身、その状態での戦闘、四聖の武器化、葛の葉とプトレマイオスの
さらにはそのウルティメイトで撃破すれば、変身者本人が死ぬことなく神隷と人間を分離させられる。
当然シミュレーターでそれぞれの動作の確認はしているし、ここに来る前にテストもしている。
その上、本番が上手くいくのかは不安だった。
理論上、神話存在の二重装甲である『アーミラリギア』なら『CSMミスティークギア』より出力が勝る。
ハルを信じ、託しもした。
それでも心配は心配だったのだが、
「ハルくん、シンプルに強いな……」
出力は高められるが、戦闘技能は別ものだ。
仮に北斗が同じように変身してもあれだけの戦闘能力を発揮することはできないだろう。
「……よかった」
結果として、ハルは北斗の想像以上の結果を見せてくれた。
ロアを倒したこともそうだが、何よりも、大したダメージを受けずにいてくれたことが。
北斗が一息付き、
「ハルくん!」
スターゲイザーの下に駆け寄る。
彼にねぎらいと感謝の言葉をかけようとして、
「ありがとな、北斗」
「へっ」
彼に機先を制された。
「君のおかげだ。体がすごく軽い。この力があれば……俺は、家族を取り戻せる。ありがとう、俺のお星様」
仮面で顔は隠れているけれど、その下が彼が笑っているのだろうと思った。
「お、おぉう……」
相も変わらず直球な言葉に、頬が熱くなる。
冷静になるとお星様呼びもかなり恥ずかしい。
なんと言い返したかと思ったが、しかしまたもや別の言葉があった。
「っ……まったく、飽きずに恥ずかしい人たちですね……!」
「!」
ロアだ。
ふらつく彼女は頭や口元から血を流して、表情を歪めている。
それでも、その瞳から光は失われていなかった。
「ふざけた、力……! 『
吐き捨てる言葉に込められたのは怒りと憎悪。
その上で、
「ちょ、何するつもり!?」
彼女はまだ、『CSMミスティークギア』を握っていた。
「北斗? ウルト使えば壊せるんじゃなかったか?」
「そのはず……いや、神隷と分離はさせられたけど、単発だとギアまでは壊せない? ギア自体が思ってたより頑丈だった……!?」
変身のシステムではなく、物理的なベルトの強度。
当然それに関しても北斗は計算していたが、そのために用いたのはかつて自分が作ったデータから推測したものだ。
だが、推測は推測だ。
『CSMミスティークギア』の制作者は、ギア自体を北斗の思う以上に頑丈に作っていた。
北斗からすれば不要なくらいに。
ギアが壊れないということは、再利用可能だということ。
元より、神隷の装甲化を繰り返し使えること自体は想定している。
だが、
「っ……だめだよ! 変身が強制解除されるほどのダメージを受けた状態で、再変身したら、いくらなんでも体への負荷が大きすぎる!」
装甲化を北斗が諦めた理由。
融合ほどでないにしても肉体、精神の負荷は消せない。
「そのCSMにでも変身した度に体にダメージがあったはずだよね!?_だったら、今の状態で変身したらどうなるかは、ロアちゃんにだって分かって―――」
「うるさいっ!」
北斗が重ねた言葉に、しかしロアは叫びで返した。
「私の体が、なんだというんですか! 死ぬ? 精神が壊れる? 下らない!」
だって、
「大戦で、家族が死にました! 育てた息子が! 嫁に送った娘が! 共に育った兄弟姉妹が!」
意識を写し、二百年生きていた少女は慟哭する。
「父と母が積み上げてきた魔術は、時代遅れの遺物となり、不要のものとされ、魔術師という存在そのものが否定された! 魂なんぞ、とっくに売り捨てています! このギアを手にした時から! 積み上げたものを踏みにじってでも、私はお前達を否定すると誓ったのです!」
そして、彼女は再びギアにカードを装填した。
『サイバーライズ! フェンリル!』
「神征……!」
出現した半透明の機械の冬狼がロアの体に装着されていき、
「っ、あああああああああああああ!?」
悲痛な叫びが上がった。
装着の過程でスパークが生じ、彼女の体を焼いてく。
しかし装着は止まらず、
「――――ぁ」
その上で、生まれた姿は形すら変わっていた。
人のものではない。
狼だ。
一度バラバラになった機械狼が、ロアの体を核として再構成され、実体を得たのだ。
『オオオオオォォォォォ―――――ン!!』
ロアの意識は最早残っていない。
神話存在が科学の装甲を纏い、顕現する。
脆弱な人間の精神を押しつぶし、制御を失った神隷が主となってしまったがゆえに起きること。
その現象を表す言葉を、北斗は知っていた。
「――――暴走だ」
スターゲイザー
パンチ力 7、0t
キック力 21、4t
ジャンプ力 14、2m(ひと飛び)
走力 6、1秒(100m)
ハル 葛の葉憑依体
パンチ力 1、8t
キック力 3、6t
ジャンプ力 8、4m(ひと飛び)
走力 8、7秒(100m)
フェンリルミスティーク
パンチ力 6、2t
キック力 15、9t
ジャンプ力 25、4m(ひと飛び)
走力 4、9秒(100m)
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