終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜 作:柳之助@バケつ1~4巻発売中
狼の咆哮に大気が震える。
ビリビリとした威圧感が肌を刺し、北斗の眼鏡に表示される様々な数値が危険域を示していた。
『CSMミスティークギア』の暴走、それによる神隷と人間の逆転現象。
即ちそれは人が下したはずの神話存在が顕現するということだ。
「フェンリル、俺だ! ハルだよ! わかるか!?」
『ゥゥ―――』
スターゲイザーの声にフェンリルは唸り、
『グッ……!?』
その巨体が強張り、身を低くした。
『ッ―――ハ、ル、よ』
「フェンリル! 話せるのか!?」
『―――――私を、殺せ』
「何を―――」
『体の、制御が、効かん……! この娘の、怒りと、憎しみと……そして、悲嘆と、後悔……
バチリ、とフェンリルの体のあちこちからスパークが弾けた。
『別の、何かが、私を、突き動かそうとする……! 壊せ、と……力を振るい、人を貪れ、と……!』
それに抗いながらもフェンリルはスターゲイザーへと訴えた。
『ハル、お主を傷つけたくは、ない……! 人の世を、今更食らう気も、ない……! だから、私を……―――ッッ!?』
一瞬、フェンリルの動きが止まる。
かと思えば、
『――――!』
その場で跳躍し、スターゲイザーと北斗の視界から消え去った。
「何がどうなってる!? 暴走ってのはともかく、フェンリルでもロアでもないなら何が操ってるんだ!?」
「わ、わかんない! もしかしたらギアになにか仕込まれて……いや、今はそれどころじゃない! さっきの感じで人のいる所に向かってるなら拙い!」
「っ……分かった。まずは、フェンリルを追って、止める!」
スターゲイザーが腰のホルダーからマイスカードを取り出し、ギアに装填した。
『サイバーライズ! 八咫烏! アクティベイト!』
ギアから投影されたのは烏の意匠を持つバイクだ。
スターゲイザーはそれに跨り、北斗も背後に続く。
「北斗、しっかり捕まってろよ。ヘルメットもちゃんとつけて」
「う、うん」
バイクと一緒に物質化されたヘルメットを確りと装着し、北斗はスターゲイザーの背中にしがみついた。
それを確認したスターゲイザーはアクセルを吹かし、
「行くぞ……!」
行った。
●
『オォォォォーーーーン!!』
「きゃあああああ!?」
「ま、またバケモノ―――いやほんとになんだこいつは!?」
人の街を、神話の狼が駆ける。
そこの疾走は理性は欠片もなく、暴走と呼ぶに相応しいものだった。
大通りを疾走するが、意図的に人間に危害を加える様子はない。
だが、道を曲がる際に建物にぶつかれば倒壊するし、走る途中に車を吹き飛ばしていく。
どれだけぶつかってもその装甲に傷は付かず、速度は止まらない。
人々の悲鳴と驚愕の声、建物の崩壊音、そして狼の咆哮。
一瞬の渾沌が連続して広がり、
『サイバーライズ! 朱雀! アクティベイト!』
その中にエンジン音と電子音声が追加された。
黒のバイクでフェンリルを追うスターゲイザーと北斗だ。
スターゲイザーの右手には朱色の機械弓。
「自動操縦……というか八咫烏さんが追ってくれるからハルくんは気にせずお願い!」
「任せろ!」
スターゲイザーは両足をフットレストに乗せたまま立ち上がり、弓を構える。
弦を引けば、炎の矢が生じ番えられ、
「ハッ!」
射出した。
炎矢が飛んだ先はフェンリルではなく、その進行方向の少し先右側。
着弾と同時に爆発し、
『!』
フェンリルの軌道が左側に逸れ、丁度道路を左折する。
その際、建物にぶつかって、壁を破壊する。
「ひぃ!?」
それによってその下にいる男性に瓦礫が落下し、
「――!」
炎矢が瓦礫を射抜き、破砕した。
小さな破片が男性に降り注いだが怪我はない。
「な、なにが……?」
男性は驚き、その横をスターゲイザーたちが通り過ぎていく。
「やっぱり細かい思考能力はないっぽい! このまま続けて行こう!」
「あぁ!」
スターゲイザーと北斗の狙いはフェンリルを人のいない場所に誘導させること。
どうするかは問題だったが、牽制の矢を放ち、疾走方向を制御する。
ロアとフェンリル、それに謎の破壊衝動がせめぎ合っている状態だったら難しくはない。
北斗は片手でバイクに捕まりつつ、もう片手で眼鏡とタブレットを操作。誘導ルートを割り出し、八咫烏に送信している。
スターゲイザーが繰り返し矢を放ち、フェンリルを何度も曲がらせて行き、
『ガウァ!』
フェンリルが牽制もなしに自ら道を曲がった。
「なんだ!?」
「待って、調べる! あの先は―――ちょ、拙い!」
フェンリルを追ってバイクが道を曲がった先、正面は広い通り。
そこに広がっている市場だった。
大きな建物の類はないが、屋台や露天が沢山並んでいる。
フェンリルとスターゲイザー自体が高速で移動し続けていたせいで避難も行われていない。
市場の入口にいた人たちが、接近するフェンリルに気づいて騒ぎが置き始めているが、そもそも人が多くて賑わっている場所だ。
奥の方までは届いていないだろう。
あんなところにフェンリルがそのまま突っ込んだら。
先日の商店街の二の舞になる。
「―――そうはさせるかっ!」
『ウルティメイト! 朱雀!』
スターゲイザーは朱雀による権能解放を発動。
力をためて番えた矢を、市場の上空中央へと放つ。
それにより、巨大な朱色の炎球が形成。
市場の人々がそれに気付き、視線を向けた直後、
「―――!」
炎球から無数の羽根が降り注ぎ、市場を縦断する道を形成した。
それによりその周囲にいた人々は驚きながらもその道から退避。同時にフェンリルが炎の道に突っ込んだことにも気づいて避難を加速させた。
スターゲイザーもすぐに後を追って市場に飛び込む。
同時、彼はギアの左トリガーを引き、
『ウルトⅡ! プトレマイオス!」
続けて、右のトリガーを三度引いた。
『ウルトⅠ! 葛の葉! トリプル!』
全身のクリアパーツとマフラーは赤く輝き、
「オォ……!」
彼はバイクとから飛び上がった。
●
葛の葉の
プトレマイオスの
その二つを併用することで擬似的な未来予知によるカウンターで一度はフェンリルミスティークを迎撃した。
そして、今回は葛の葉による瞬環強化を重ね掛け。
一時的にフェンリルを上回る移動速を獲得。彼自身も速度に振り回されるほどだが、プトレマイオスによるナビゲートで動作を補正する。
実行するのは、
「失礼―――!」
炎の道から逃げ遅れていた人を担ぎ上げ、その外に運び出すことだ。
反応が遅れた老人や子供が十数人。
さらにはフェンリルが吹き飛ばした屋台等が人の上に落ちる前に朱雀の弓で狙撃して燃やし尽くす。
「誰も死なせない……!」
赤い閃光が、市場の中を駆け巡った。
時間にすればほんの十数秒。
スターゲイザーに運び出された人も視界に赤色が過ったと思ったら別の場所にいて、なんか騒ぎが起きているくらいにしか思えなかっただろう。
『ガルァ!』
結果的に、フェンリルは市場を通過し、
「ハー! ハーッ! しんどっ……!」
市場の終わり際に、子供を抱えたままのスターゲイザーが姿を現した。
子供をその場に下ろし、八咫烏と北斗が追いつくまでの数秒で彼は息を整えようと荒い呼吸を繰り返し、
「あ、あの!」
「ん……、あれ。君は……」
運んだ子供に声をかけられたスターゲイザーは、その子に見覚えがあった。
セルケトミスティークとの戦いに巻き込まれた駄菓子屋にいた子供だった。
昨日の今日と思うとずいぶんと運がないらしい。
彼はじぃーっ、とスターゲイザーを見つめている。
「……」
その目を見て、恐怖と敵意の視線を思い出した。
まだ怖がらせてしまったと思い、少年に背を向けて、
「あ、ありがとう!」
「―――」
振り返る。
彼の目に、今度は恐怖も敵意もなかった。
キラキラと輝いている。
「よくわかんないけど、助けてくれたんだよね! ありがとう!」
「…………」
その言葉に、一瞬スターゲイザーは呆然し、去っていった少年の背を見送っていった。
数秒そのまま硬直し、
「ハルくん! やったね……ってどうしたの?」
八咫烏に乗った北斗が到着する。
「いや……」
すぐにスターゲイザーはバイクに跨り発進してフェンリルの後を追う。
「……北斗、後でこう……人との会話の仕方を教えてくれ」
「えぇ……? ほんとにどうしたの……?」
「ただまぁ、あれだな」
仮面の中で、ハルは小さく笑う。
「ヒーローって良いもんなんだな」
「でっしょー!?」
●
『ガルゥゥゥ……』
フェンリルがスターゲイザーたちに誘導され辿り着いたのは、街の外れ。
かつての大戦で建造物が根こそぎ消失し、残った土地を採石場として使っていた場所だ。
それでも、砕石に適していたわけでもなかったので十数年前に廃棄され、近づく人間もいない。
「いいね、ここなら十分に戦えそうだ」
スターゲイザーもまたバイクを降り、フェンリルと対峙する。
「お願いね、ハルくん!」
北斗は数メートル離れたところで、八咫烏のバイクと共に控えていた。
『ルゥオ……!』
「苦しいか? フェンリル」
低く唸るフェンリルに対するスターゲイザーの言葉は優しかった。
「すぐに解放するよ。俺は、お前を殺さないし、俺も殺されるつもりもない」
そして、
「怒りと、憎しみ。それに、悲嘆と後悔か、ロア」
フェンリルの言葉を彼は思い出す。
前者二つを彼女は何度も叫んでいた。
後者二つは彼女の言動にはにじみ出ていなかった。
「俺にはわかるよ、その気持ちが」
大切なものを失って、何もできない自分と奪ったものに対する怒りと憎しみ。
そして、喪失そのものに対する悲嘆と後悔。
ハルの場合、ノハが寄り添ってくた。北斗が導いてくれた。
だが、ロアはそうではなかった。
彼女は一人で、この世界に抗い続けてきたのだろう。
胸に残る、家族の輝きを胸に。
「その星はアンタだけのものだ―――誰かの意思で操られていいものじゃない」
彼はギアのトリガー、その両側に手を掛け、
「だからアンタも、まとめて解放してやるよ!」
同時に引いた。
『ウルト
スターゲイザーが身を低くし、全身のクリアパーツが赤に、複眼が濃紺に同時に発光。
それらは彼の右足に収束し、輝きを増していく。
『オォォォーーーン!』
光を前にフェンリルは吠え、その顎に青銀の炎を蓄えた。
目の前に脅威を察知し、暴走の意思が表面化したのだ。
『ルォォ……!』
蓄えられた炎は熱線となって放出される。
「ハッ!」
同時、スターゲイザーも飛び上がり、空中で一回転。
全身から放出される赤光に押されながら右足を繰り出し、
「――――――――!」
青銀の炎と赤の光が激突した。
中空でその二つはせめぎ合い、衝撃波を撒き散らし、
『ウルティメイト! ――――スターゲイザー!』
九度、足先で赤い光が炸裂した。
光が弾ける度にスターゲイザーの飛び蹴りは加速し、フェンリルの熱線を打ち抜き、
「オォォォ――――!」
叫びと共にスターゲイザーがフェンリルを貫いた。
「……ッ!」
直後、フェンリルを中心に爆発が発生し、着地と共に地面を削りながらスターゲイザーは静止する。
狼の姿が消え、
「――――」
意識を失った少女が倒れていた。
その頭上には半透明の巨大な狼。
「帰ってこい、フェンリル」
狼にスターゲイザーがマイスカードを掲げる。
狼の姿がマイスカードに吸い込まれ、
「……おかえり」
カードにはフェンリルを模したイラストが描かれていた。
「やっと、一人目だな」
呟いたスターゲイザーのマフラーが風に靡く。
「ハルくん!」
そんな彼に、北斗が駆け寄ってきて――――戦いは終わった。
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