終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第一話 a every days, a illegal meets

 

 

 

 青い空の下、巨大な半円状の膜がある。

 半径十数キロにも及ぶ巨大な楕円形のドームの中には高層ビルや大型のマンションが並び、高度に発展した都市を作り出していた。

 その周囲。

 ドームの外は対象的に、荒れ果てた街が広がっている。

 ドームの周囲は比較的街並みは整っているものの、離れれば離れるほど雰囲気変わっていき、建物の姿もまばらになっていた。

 背の高い建物はほとんどなく、どれもが朽ち果てているか、様々な補修の後が残るもの。

 街並みはドーム周囲、さらに十数キロ広がり、さらにその果てには荒野だけがあった。

 ドームと荒野のちょうど真ん中あたりに、その小さな学校はあった。

 二階建ての幼稚園を改修した建物だ。

 L字型の校舎と庭を持ち、周囲を背の高いフェンスで覆われている。

 その校舎の裏、エアコンの室外機を一人の少女が修理していた。

 肩まで伸びたウルフカットの黒髪、青いフレームの眼鏡。

 着古され、あちこちに油汚れがついたツナギ、上着部分は脱いで袖を腰に結んでいる。

 黒のタンクトップは胸が大きいせいで、丈が短くなり臍を露出させたラフな姿。

 手には工具を持ち、室外機の部品を取り外したり、新しい部品に替える等の作業をしつつ、

 

「――――1945年、世界はある一人の天才によって大きく変わりました」

 

 近くの教室から授業が耳に届いてくる。

 

「当時、世界は二度目の世界大戦。日本は劣勢でしたが、ある科学者による発明が状況を一変させたのです」

 

 ゆっくりと落ち着いた男性教師の声だ。

 教室内では十才前後の子供たちが、教師の話に耳を傾けている。

 

「それまで神話やお伽噺でしかなかった幻想の存在を、現実のものとし、道具や兵器として運用する。その技術を持って、日本は世界大戦に勝利したのです」

 

 歴史だ。

 もう百年ほど前にあったこと。

 

「その技術によって日本は勝ちましたが、天才は戦後その技術を世界中に流出させました。結果、世界中に普及して科学力は大変なことに。当時あった宗教やらの問題も起きちゃったんですよね。となると、世界中は各国の持つ神話を資源として回収するようになりました」

 

「かみさま、かわいそー」

 

 生徒の誰がか言った言葉に、教師は頷き、

 

「えぇ。可哀想です。ですが同時に、神々、キレちゃったんですよね」

 

「キレちゃったかー」

 

「はい。それはもうブチギレで。お仲間が捕まって道具にされたいろんなところの神様たちが人類に全面戦争しかけてきて。まぁ当然という話ですよね」

 

「わたし知ってる! だれのおんなにてぇだしてんだー! ってやつ!」

 

「うーん、まぁそういう認識でいいでしょう。かくして大体五十年ほど前、西暦1999年頃から人類VS神様の大戦争がスタート。まるっと一年続いて、人類は勝ったんですが……」

 

「ですがー?」

 

「人類側もすっごいことになって、大地と人口の八割は消滅し、滅びかけたというわけです。大変ですね」

 

「でもおれたちいきてるぜ」

 

「えぇ。当時の人達は頑張って、ドーム状の生存圏をあちこちに作り、生き延びたというわけです。まぁそこで生きているのは当時の特権階級だけで、私達のような一般人はドームの外でこうしてかつての建物の残りを使いまわしてるわけですが」

 

「ひっでー!」

 

「『アシハラ』と『ネノクニ』だー」

 

「ですねぇ」

 

 教師は数度笑い、

 

「さて。そろそろ時間ですね。今の話は次回の導入ですから、次はもうちょっと詳しい話をしていきましょう」

 

 それでは、と教師は前置きして。

 

「――――よし、終わり」

 

 七星北斗は修理を完了させた。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、北斗さん」

 

「どーも、(きょう)先生」

 

 こじんまりした職員室の、こじんまりとした低い机。

 それを挟んで、眼鏡を外した北斗は教師と向き合っていた。

 栗色の長い髪を一つにまとめ、胸に前に垂らす優しげな若い男性、それが先程授業をしていた相楽協だった。

 

「いやぁ、助かりましたよ。エアコンの修理に、洗濯機やコンロ、パソコンに冷蔵庫の点検まで。僕も簡単な整備はできますけど、北斗さんに任せるのが一番です」

 

「そりゃま、これでお金もらっていますからね」

 

「流石です。授業の方はどうでした、聞こえていたでしょう。あ、お茶飲んでください」

 

「うーん」

 

 促された冷たい麦茶を口に含み、

 

「雑、かなぁ? 次の導入ならまぁ? って感じ?」

 

「これは手厳しい」

 

「ざっくり経緯を話しただけじゃん。子供たちだって、あれくらい知っている子も多いだろうし」

 

「知らない子もいますからね。うちは親のいない子供も多いですから」

 

「ま、それもそうか」

 

「今日はこの後、他にもお仕事です?」

 

「ううん、もう帰るかな」

 

 北斗はこの学校も含まれた周辺、頼多(よりだ)区で機械の修理屋をして生計を立てている。

 基本的にこの街では壊れた機械はいくらでもあるし、その中には専門知識が必要なものもある。

 大体の機械であれば北斗は治せるので、彼女は住民から重宝されていた。

 ただ、今日の仕事はこの学校で終わりだった。

 

「なるほど」

 

 彼が職員室の窓へ視線を向ける。

 日は落ちていく茜色の空だ。

 

「最近、物騒ですから気を付けてください」

 

「……いつも物騒じゃない? いやここらへんの地区はまだマシだけどさ」

 

「ええ。ですが、最近どうにも妙な噂を聞きまして」

 

 出るんですよ、と彼は続けた。

 

「怪人が」

 

「………………協先生?」

 

「はい?」

 

「特撮の見過ぎじゃない?」

 

「北斗さんに言われたくないですねぇ」

 

 

 

 

 

 

 半世紀前、世界は終わった。

 人類が神様を道具として熱かったから、戦争が起きて。

 人類は勝ったけれどたくさん死んで。

 ちょっとづつ復興しているが、全然追いついてない。

 

「笑っちゃうな」

 

 協の話を思い返しつつ、北斗は学校を後にする。

 敷地を囲っているフェンスの外に出て、スマートフォンを取り出して、アプリを操作し、

 

≪スレイプニル、アクティベイト≫

 

 電子音と共に、スマートフォンから北斗の前に光が投射された。

 光はフレームとなり、構築されたのは六輪のバギーだ。

 後部座席に肩にかけていたカバンを放り投げて、自分は運転席へ。

 慣れた手つきで車を発進させた。

 今年十六ではあるものの、今となっては交通規則なんてあってないようなもの。

 荒廃した、それでも人々が生きている街並みでバギーを走らせていく。

 旧時代やドーム都市『アシハラ』には信号等交通規制はあるが、ドーム外都市の『ネノクニ』には存在しない。

 法律は存在せず、秩序は住民たちのローカルルールによって形成されている。

『ネノクニ』、頼多区に来て半年、北斗も最近身に染みてきた。

 

「…………にしても、怪人か」

 

 暗くなっていく空を見やりつつ、協の言っていた言葉を思い出す。

 比較的治安の良いこの地区でそんな噂を聞いたのは初めてだった。

 特撮ドラマみたいな単語だが、現実でそうそうある話でもない。

 もっと、『ネノクニ』の外側に行けば話は別だろうが。

 

「ま、とっとと帰ってビデオでも―――」

 

 一人つぶやき、十字路を右折して、

 

「きゃああ!」

 

「シャアアア!!」

 

 小さな少女とそれを襲う、見るからに怪人らしい人型の蜘蛛が視界に飛び込んできた。

 

「―――――はぁ?」

 

 思考が止まる。

 さっき聞いたばかりで、それっぽい存在と遭遇するなんてありえるのか?

『ネノクニ』の色々な地区を渡り歩いてきた北斗でも見たことのない人型の異形。

 それがなんなのか。

 思考が動き出すよりも速く、半ば無意識で北斗はアクセルを踏み込んでいた。

 

「!!」

 

 空気を揺るがすエンジン音と共に、バギーが前に弾き出され、

 

「シャア!?」

 

「うわっ!」

 

 怪人を突き飛ばす。

 電柱かなにかにぶつかったような衝撃が北斗の全身を襲うが、構っている余裕はない。

 

「っ……乗って!」

 

 襲われていた少女に向かって叫ぶ。

 白い髪と褐色の肌を持つ、外国人らしき十代前半の子供だった。

 

「え、ぁ……」

 

 だが、彼女は驚いて腰を抜かしているのか立ち上がれておらず、

 

「シャアアア!」

 

「うわ、ちょっ!」

 

 起き上がった蜘蛛怪人が両腕から蜘蛛の糸を放出し、バギーの前面に付着させている。

 ぞわり、と嫌な予感がし、慌てて北斗はバギーから飛び降りた。

 

「シャァ!!」

 

 瞬間、バギーが空を舞う。

 蜘蛛糸で引っ張られて投げ飛ばされたのだ。

 

「うっそぉ!」

 

 冗談みたいな光景だが、笑えない。

 選択肢はなかった。

 

「っ……こっち!」

 

「きゃっ!」

 

 少女の手を引き、北斗は夜の街を走り出した。

 

 

 

 

 

 

「……………………なんなのぉ?」

 

 そして、北斗は炎の中で怪人の背を見つめている。

 

「オォォォ―――!」

 

 狐怪人が吠え、蜘蛛怪人へと一歩踏み出す。

 そう思った瞬間、二体の姿は消え、強烈な風圧が北斗と少女に襲った。

 狐の怪人が蜘蛛怪人へとタックルをした余波だ。

 

「っ……と、とにかく、外に出るよ!」

 

 少女の手を引き、燃える神社から外に出る。

 煙を吸い込み、何度か咳き込み、

 

「オオオオオ!」

 

「シャアアア!」

 

 二体の怪人の戦いを目撃した。

 

「オォ!」

 

 狐怪人が、荒々しい勢いで拳を振るう。 

 蜘蛛怪人の防御や反撃も物ともせず、叩き込み、鈍い音と共に鮮血が待った。

 

「シャ……シャア!」

 

 下がった蜘蛛怪人が両腕から蜘蛛糸を飛ばし、狐怪人の両腕ごと拘束する。

 それで終わらず、

 

「シャアアアア!!」

 

 蜘蛛糸を伝い、炎が狐怪人を包みこんだ。

 

「あっつ……!」

 

 離れ、林の中に身を隠している北斗にも熱が伝わるほどの火力だ。

 人間ならあっという間に燃え尽き、炭になっているだろう。

 だが。

 

「―――サンビ」

 

「シャ!?」

 

 狐怪人を中心に赤の柱が三本、炎を突き破って起立した。

 柱はそれぞれが踊るように炎を払い除ける。

 

「ウゥ……!」

 

 炎の中から現れた狐の怪人には焦げ痕一つない。

 

「オォォオオ……!」

 

 低く、重い咆哮と共に黒と赤の狐が突き進む。

 

「シャア!」

 

 蜘蛛怪人が糸を何度も発するが、狐怪人は両手の爪を振るい、切り捨てる。

 到達は一瞬だった。

 狐の怪人は蜘蛛の怪人へ右の五爪を射出した。

 

「シャア――」

 

 蜘蛛の胸から赤い血が舞い、狐は言葉を発した。

 

「――――キュウキュウニョリツリョウ」

 

 刹那、赤黒い光が傷口から生じ、蜘蛛怪人を飲み込んだ。

 

「……すご」

 

 北斗が呆然と呟く中、光はすぐに消えていった。

 つい先程まで蜘蛛怪人がいたはずの場所には男の死体が転がっている。

 そして、

 

『―――』

 

 死体の頭上に、半透明の女が浮かんでいた。

 下半身が蜘蛛の女だ。

 それに対して狐の怪人は栞のような紙を掲げる。

 

「フウ」

 

 彼が小さく呟くと蜘蛛の女は紙に吸い込まれていった。

 

「カイ」

 

 さらにもう一言口にすると、その怪人の姿が解けていった。

 狐の怪人の中から現れたのは、先程の少年だ。

 

「ふぅー……なんとかなかったな。え? いやびびっちゃいないけどさ。タイミング的に、ちょっと遅れてたら危なかっただろ?」

 

 何やら奇妙な独り言を呟いている。

 

「………………」

 

 どうしよう、やばい人なのだから。

 

「ていうか…………あっれ」

 

 先程まで一緒にいた少女がいない。

 

「あちゃー……やらかした……大丈夫かな……」

 

 北斗は思わず怪人同士の戦いに見入ってしまったが、襲われていた子供からすれば逃げたいに決まっている。

 

「おーい、あんた」

 

「うひゃ!?」

 

 掛けられた声に、北斗の体が跳ねる。

 少年がいつの間にか眼の前にいる。

 見れば、自分とさほど年は変わらなさそう。

 黒髪の、優しそうな顔つきの少年だ。

 にかりと笑う彼の笑みは、人懐っこさがにじみ出ている。

 

「大丈夫だったか? 怪我とかしてないか?」

 

「え……あぁ、うん……えっと、君の方こそ? 大丈夫? なんか、戦ってたけど」

 

「あー、それな。ははは、それについてなんだけどさ」

 

 彼は左手で髪を掻いて、

 

「ごめん、だめそうだわ」

 

「えっ」

 

「こふっ」

 

「えーっ!?」

 

 血の塊を吐き出してぶっ倒れた。

 

「…………………………」

 

 怪人と遭遇して。

 女の子と逃げて。

 新しい怪人が出てきて。

 女の子はどっかいって。

 助けてくれた男の子は眼の前でぶっ倒れた。

 

「なんなのぉ?」

 

 




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