終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第三話 進まなければ取り戻せない

「陰陽師ぃ?」

 

 北斗の脳裏に浮かんだのは烏帽子を被った平安貴族のような格好をして、指で符を挟んでいるハルの姿だった。

 確かに、『ミスティーク』の時に指で挟んでいた栞のような紙が符だったと言われれば納得ではあるが。

 

「……残ってるわけ? 陰陽師が」

 

「いるんだよな。俺も見たことないけど、魔法使いとか錬金術師とか、そういうの、昔はいっぱいいたらしい」

 

 自慢げにそんなことを言うハルだが、

 

「いや、そうじゃなくてさ。そういうファンタジー系の職業の人たちがいたってのは私だって知ってる」

 

「ありゃ?」

 

 旧時代、そういったオカルトや超自然現象を扱う者たちは確かにいたとされている。

 魔法使い、魔術師、呪術師、錬金術師、超能力者、奇跡を扱う聖人。

 トリックや仕掛けを使わない、本物の異能力者たち。

 そういう存在は、確かにいた。

 ()()()()

 

「そういう人たちは『神性科装(サイバーマイス)』のせいで、ほとんど絶滅したって聞いたけど」

 

「その心は」

 

「人間が頑張って使える力よりも、神様の力をそのまま使った方が強いからって」

 

「あー……」

 

 ハルが苦虫を噛み潰したような顔で首をひねる。

 単純な話だ。

 人間が限られた寿命で、代々技術を受け継いだとしても、神話で語られる力をそのまま使えるのが『神性科装(サイバーマイス)』だ。

 彼ら彼女が何十年、何百年積み上げたものを科学は否定してしまった。

 特に宗教関連は混乱は酷かったらしく、旧世界で世界中に存在していた宗教の大半が今では姿を消してしまった。

 

「技術的に楽っていうのもあるけど、『大戦』が決定的だったらしいよ。当時、『神性科装(サイバーマイス)』を使わずに自前の魔法とかで神様と戦った人たちはあっけなく死んじゃった、みたいなことを『アシハラ』じゃ教えられた」

 

「そうだったのか……ノハさん、知ってた……?」

 

「そりゃあの。お主とて、里を出てから自分以外の陰陽師見たことないであろ。そもそもワシらの里でさえ、陰陽師はお主の家系しかおらなんだった」

 

「確かに……」

 

「だから、陰陽師が残ってたのって感じなんだけど……安倍晴明とか、芦屋道満とか、そういうのでしょ? 九字切ったり、式神召喚したり」

 

「おぉ! 詳しいな、そうそう、その陰陽師!」

 

「で、君がそうなの? それに里っていうのは……」

 

「さっき言っただろ? 中国地方から来たって。そこら辺に俺の生まれた里はあったんだ。ドームとかはないけど、陰陽術で作られた結界があって、住むのには困らないような場所だ」

 

「隠れ里、みたいな? なるほど、例外ってのはあるもんか……」

 

『アシハラ』か『ネノクニ』以外では人類は生きられないというのが北斗の、そして今のこの世界の常識ではあるが。

 陰陽術とやらがどれだけのことができるかわからないにしても、隠れ里を成立させられることもあるのだろう。

 

「んんん」

 

 北斗の知的好奇心が強烈にくすぐられた。

 だが、今は『ミスティーク』を倒したものについて聞きべきだろう。

 

「とにかく、俺は陰陽師で……そうだな、どこから話したもんか……まぁ、里の話をしたからな」

 

 うんうんと彼は頷き、変わらない笑顔で彼は言った。

 

「半年前、俺の里燃やされたんだよ」

 

 

 

 

 

 

「……………………えっと、どういう、こと?」

 

「文字通りだ。隠れ里だったはずなんだけど、外から襲撃されて。俺の家族とか、みんな捕まって、連れ去られた」

 

「連れ去られたって……」

 

「うちの隠れ里はさ、北斗の言う『神隷』じゃない神様とか妖怪とか魔物とか、そういう存在が世界中から逃げてきた場所でもあったんだ」

 

「はぁ!? 『神隷』になってない『神話存在』が、まだ残って――――いや、そっか。だから?」

 

 半世紀前の大戦で人類は神々との戦いに勝利した。

 世界中の神話伝承の存在を『神隷』とし、『神性科装(サイバーマイス)』に利用している。

 例えば『アシハラ』では日本神話における太陽神、アマテラスを都市のエネルギーコアとして、エネルギーを捻出している。

 日本各地、或いは世界中のドーム型コロニーがそうだ。

 都市運営の中核には各神話体系における最高神やそれに類する神々が使われ、存在の格に応じて様々な利用がされているのだが。

 

「まだ捕まってない『神話存在』がいるのなら、当然確保して『神性科装(サイバーマイス)』に利用したがる……」

 

「だろうなぁ。北斗の話を聞いて納得した。だからこそ、うちの里、『神無月』にはたくさんの神々が、集まって、身を隠していた。だからこそ、襲われたってわけだ」

 

「……じゃあ、ノハさんも……?」

 

 小さな子狐を見る。

 ペットのようにしか見えないが、

 

「左様。ワシも妖物の類であり、襲撃を免れた数少ない存在だ」

 

「俺が里を出たのは、捕まった家族を取り戻すためだ。みんなの気配を追っていったら、『アシハラ』まで来たんだけど、その『アシハラ』の中には入れないし、気配はまたあちこちに散らばっていった。またそれを追ったら、ここらへんまで来たわけだ」

 

「じゃああの女郎蜘蛛が……?」

 

「いや、あれは違うな。でも、俺から見ると妙な封印というか憑依をされていたから、祓って封印したってわけ」

 

 ハルが懐から符を取り出す。

 くずし字と梵字で書かれたいかにもな符。

 

「『アシハラ』の人間が、新しい『神性科装(サイバーマイス)』を作るために捕まえた……? いや、それか『ミスティーク』に使うため……? 『アシハラ』の行政か、それともどこかの企業が……?」

 

「さぁ? 生憎俺は外の世界の事情全く知らないから、『アシハラ』の組織とかわかんないし。ただ、俺の家族を取り戻せるならそれでいい」

 

「かぞ、く」

 

 つまり、彼が指すのは神話存在たちのことなのだろう。

 奇妙な話だ。

 今この世界において神話存在は『神隷』という道具のことを指す。

 信じ、仰ぎ、敬い、伝えていくものではなく、人間が便利に扱う物に過ぎない。

 科学の発展が、神々を墜落させた。

 なのに、彼は家族と言う。

 

「『神無月』には人間は少なかったからな。俺にとっては神様たちが家族だった。世界中から集まってるから、昔の世界のこと聞いたりして。その代わり、現代のことは全然知らないけどさ。だから、みんなを取り戻したい。『神隷』のことを知ったら、余計にそう思うよ」

 

「…………」

 

「で、北斗が気にしてた俺の『ミスティーク』もどきだけどさ。あれは陰陽術だな」

 

「陰陽術って……そういうの、式神を呼び出すやつとかじゃないの?」

 

 北斗のイメージする陰陽術は占星術か式神、それか符を使って火や水を出したりするもの。

 ハルのは完全な変身だった。

 

「そういうのももちろんあるよ。女郎蜘蛛さんを引き剥がして封印したのはそれと同じ。変身したのも式神術だ。ただ、あれは召喚した式神を俺の体に憑依させるやつ」

 

「憑依?」

 

「融合、って言ってもいい。そういう意味じゃ『ミスティーク』とよく似てるな。召喚した式神を、自分の体に憑依させてその力を使うわけだし。元々禁術だったけど、里を出る時に身に着けたんだ」

 

「禁術って……大丈夫なの?」

 

「大丈夫なわけなかろ。禁術には禁術となる理由がある」

 

 挟まれたノハの言葉には呆れと苦々しさが混じっていた。

 

「命、削るからのう。ワシが憑依してちぃとは軽減しておるが、それでも限界はある」

 

 ハルの怪人の姿を思い出す。

 あれは狐だった。

 ノハがどういう『神話存在』なのかはわからないが、あれがハルとノハが融合、ないしハルにノハが憑依した結果なのだ。

 そして、憑依を解いた後、ハルが血を吐いて倒れた。

 

「仕方ないさ」

 

 それでもハルは笑っていた。

 家族を奪われて。

 全く知らない世界に出て。

 命を削りながら怪人になって。

 それでも家族を取り戻したいという少年は。

 そんな苦難を感じさずに、眩しいくらいに笑う。

 

「俺がやるって決めたことだからな」

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 カタカタとキーボード音が部屋に響き渡る。

 北斗はリビングの隣にあるラボにいた。

 彼女の家は、リビング、キッチン、トイレ、風呂含め水回りと一通りのものがあるが、一番広く、一番ものが多く、一番北斗がいる時間が多いのはこのラボだった。

 ラボと彼女は呼んでいるが、部屋の半分は書斎となっており、大量の書籍が本棚に敷き詰められ、机の上にも本が積み重なっている。

 もう半分は科学者の研究室らしく、様々な機械とモニターが所狭し並んでいた。

 書斎と研究室の間の壁際には簡易ベッドがあり、仮眠ができるようにもなっている。

 その研究室側、北斗はメインモニターと向き合っていた。

 北斗はオフィスチェアに膝を立て、眼鏡を掛けていた。

 

「『陰陽師』……『神無月』……」

 

 つい先程ハルとノハから聞いた話を彼女はまとめていた。

 北斗の、今の世界では忘れ去られていた話だ。

 少なくとも『アシハラ』の一般常識にはないし、『ネノクニ』でも初めて聞いた。

 そういう存在が残っているのは、興味深かった。

 彼の境遇は悲しいものだったが。

 問題は、『ミスティーク』について。

 

「半年前に『神隷』を確保して、『ミスティーク』の研究を進めた……? いや……技術的には、対して進歩していなかったし……」

 

 北斗が『アシハラ』を出たのが三年前。

 数時間前に見た『ミスティーク』は、北斗が知っていたそれの問題点は改善されていないように見えた。

 

「私が気づいてないだけで改善された? それか、改善しなくてもそのままでいいと判断したのか……うぅん……分からないな……」

 

 大きなため息を吐き、眼鏡を外してから椅子の背もたれに体重を預ける。

 

「誰が、『ミスティーク』を……?」

 

 問いを口にして、

 

「……………………」

 

 答えを口にすることはできず、視線をズラす。

 彼女の右側、作業台の上に置かれた大きな箱。

 大量のコードやモニターに繋がっているが、電気は落とされ、かすかに埃が被っている。

 北斗はしばらくの間、それを見つめ、

 

「誰であろうと……何をやろうとしていたとしても―――――私が止めないと」

 

 そう、自らに言い聞かせた。

 




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