終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第四話 今、その二人が契約する

 

 

「よ、おはよう北斗。台所と冷蔵庫の中身、勝手に使わせてもらってるぜ」

 

「……………………お、おはよう?」

 

 次の日の朝。

 キッチンに入って北斗の目に入ったのは、キッチンに料理をしているハルの姿だった。

 

「何してるの……?」

 

「朝飯作ってる。あんた、まともに飯食ってないのか? なんかジュース? の空き缶とかエネルギーバー? とかいうやつのゴミばっかりで、食材は少ないし、ちょっと傷んでるやつも多かったぜ?」

 

「料理とかしないし……いや、ちょっと待って」

 

 思わず北斗は右手で額を抑えた。

 

「なんか、散らかってたリビングが整理されてたのは?」

 

「俺がした。ソファで寝させてもらったからな。掃除くらいする」

 

「ラボの椅子で寝落ちしてた私の肩に毛布掛けたのは?」

 

「俺だ。仮眠用のベッドぽいのあったけど、流石に昨日あったばっかの男に運ばれるのは嫌かなと思って、毛布かけるだけにしておいた。そのラボ? に勝手に入ったことは許してくれよ。朝起きて掃除しても、あんたが起きてこなくて、ノックしても反応ないし、昨日が昨日だったから倒れてたりしたんじゃないかと心配したんだ」

 

「あぁ、うん……いいけど……」

 

「それはよかった。朝飯、もう出来てるから座ってくれよ」

 

「うん……」

 

 言われた通り、食卓につく。

 家具としては存在していたが、料理もしなければ食事もラボで取るので、食事のために食卓を使うのは滅多にないことだ。

 並んだのは ご飯、卵焼き、味噌汁、野菜の浅漬け。

 それが2人分。加えてノハ用だろうか、量が少なめのものまである。

 ノハの方は、布巾を敷いてその上に足を乗せるという気の使いぶりだった。

 

「いただきます」

 

「いただくかの」

 

「………………いただきます?」

 

 半分寝ぼけたまま、箸を手に取り、味噌汁を口元に運び、

 

「うっまっっっっ!?」

 

 あまりの美味しさに、一瞬で意識が覚醒した。

 大根、人参、牛蒡、白菜、じゃがいも、サツマイモが具として入っている野菜の味噌汁だが、それぞれから出た出汁を味噌が上手くまとめている。

 芋類から溶け出したであろうでんぷんが少しとろみを付けているのも飲みやすい。

 卵焼きにしてもほのかに甘さがあるタイプで、ふわふわとして口の中で卵の層が解けていく。

 浅漬けも食べやすく、ちょうどいい塩加減で、食感が小気味がいい。

 ふっくらと炊かれた白米が驚くほど進む。

 

「お、美味しすぎない……? え? うちにあったものでこんな……?」

 

 冷蔵庫の中にあった野菜は、北斗が機械修理の仕事の中で現金代わりにもらったり、お裾分けしてもらったものだ。

 料理をしないから、貰っても困るのだが、断りきれないこともあってそこそこの量はあった。

 基本、茹でるかそのまま焼くか、しか出来ず扱いに困って冷凍したりしていたが。

 それがこんな立派な料理になるのは驚きでしかない。

 

「料理、好きなんだよ。趣味ってほどでもないけどな」

 

「ふむ。ま、ありあわせとしてはこんなものだろう」

 

「これで!?」

 

 辛口のノハは、小さな前足で器用に味噌汁を口に運んでいた。

 

「昨日話したであろ。こいつは世界中から逃げてきた神々に囲まれて育ってきた。味にうるさいのもおったからの、よう料理を奉納させられとったから色々仕込まれておる」

 

「ノハさんが特にうるさい神様の一柱だったけど」

 

「文字通り神様の料理人かぁ……」

 

 異文化すぎる。

 人が神様に奉仕するなんて。

 いや、旧時代ではそれが当たり前だったのだろうけれど。

 朝食に堪能しつつ、食後のお茶までハルは用意していた。

 

「ふぅ……」

 

 いつぶりだろう。

 食事に満足感と幸福感を得たのは。

 携帯食料やエナジードリンクでは感じることのできないものだ。

 

「しかしあれだな、俺は里にいる時、外の世界はもうすんごい終わってて、一部の金持ち以外まともな生活できないって聞いたけど。案外そうでもないのな?」

 

「そりゃあねー。『神性科装(サイバーマイス)』は『ネノクニ』じゃレアって言っても、個人保有がないだけで、区行政単位で見たら食料生産系はマストであるから。それに、ポストアポカリプスって行っても、生活はしないといけないから」

 

「ぽす……なんて?」

 

「世界が滅んだ後の世界、みたいなそういう意味。ともあれ、『ネノクニ』じゃ旧時代の機械類再利用したり、趣味人が気合いで娯楽物や嗜好品やら再現してたりもする。エナジードリンクとかまさにそうだね。高いけど」

 

「はー。人がいれば相応の営みが生まれるわけか」

 

「そうそう」

 

 ふー、と北斗は息を吐き、

 

「――――いや、まったりしすぎじゃない!?」

 

 我に返った。

 

「おぉ、どうした」

 

「どうしたもなにも何もかもおかしくない!? なんで君は掃除に料理もしてくれてるの!? なんで私普通に受け入れて食べていた!?」

 

「長いノリツッコミだったのぅ」

 

「まあまあ落ち着けよ」

 

「ぬぅぅぅ」

 

「それでさ、北斗。俺もあんたに聞きたいと思っていた」

 

「何を?」

 

「これから、あんたはどうするんだ?」

 

「はぁ?」

 

 ハルは腕を組み、どこかわざとらしい真面目な顔を浮かべた。

 

「俺の目的は昨日話しただろ? それはそれとして、『ミスティーク』なんてやば気なやつがいる。どうするんだ?」

 

「私は……『ミスティーク』を調べるつもりだけど」

 

 昨夜値落ちする前に決めていたことを口にしていく。

 

「どこから流れてきて、どれだけいるのか。怪人の噂も昨日聞いたばかりだし、アレ以外にもいるのかもしれないし。いたのなら、倒すなり封印するなりしないと」

 

「できるのか? 危なくね?」

 

「それはそうだけど、放っておけないよ。少なくとも、現状を把握しないと何もわからない。私だって自衛用の『神性科装(サイバーマイス)』はあるし、なんとかする」

 

「なるほど」

 

 彼は頷き、

 

「――――何故だ?」

 

 問いかけてくる。

 

「何故って」

 

「自衛が出てきても危ないのには変わりがない。警察みたいな、そういうのはいないのか?」

 

「いるにはいるけど、彼らは区の重要施設を守るのが基本で、市民は自衛が前提だよ。それに『ミスティーク』相手じゃ頼りないし」

 

「北斗だって安心でもないだろ?」

 

「何が言いたいわけ?」

 

「危険なのに、なんで北斗が当たり前のように『ミスティーク』の問題に関わろうとするのかなって」

 

「それは……」

 

 北斗は言葉に詰まった。

『ミスティーク』の問題に関わる。

 それは北斗にとって決定事項であり、迷う余地のないものだ。

 ただ、何故かと問われるのなら、

 

「………………大した話じゃない。私は、『アシハラ』にいたからちょっとは知識がある。警察に任せるより、私が一人で動いた方がまだマシってだけ。街に怪人がいるかもなんて知ったら気軽に出歩けやしないし」

 

「ふんふん、そっか」

 

 彼は何度か頷き、

 

「よし! じゃあ俺はそれを手伝うよ!」

 

 腕を広げ、満面の笑みだった。

 

「なんで……?」

 

 昨日、家族を取り戻すためにはるばる来たと言っていたのに。

 

「まずそもそも、助けてもらった恩がある。飯や掃除じゃ足りないくらいだ」

 

「結構十分だと思うけど……」

 

「それに、俺は家族を探して、その気配を追ってこの街に来たんだけど……来たら来たで、どこにいるかわかんねーんだよな」

 

「んん? つまり……この地域にいるのはわかるけど、正確な場所まではわからないってこと?」

 

「そうそう、流石話が速い。普通、『神話存在』ってのはいるだけでわかるもんだけど、感じないってことは身を隠しているか封印されているかってわけだ。となると『神隷』化されている可能性も高い。それで北斗の話聞く限り……」

 

「『ネノクニ』じゃ『神隷』を使う『『神性科装(サイバーマイス)』は限られている。なのに、『神隷』とされているってことは…………『ミスティーク』に使われている……?」

 

「そういうこと。もちろん、『ミスティーク』以外の可能性もあるけどな。個人的には俺の家族じゃなかろうと、『神隷』化されている『神話存在』は解放して保護したいってのもあるんだ。女郎蜘蛛さんみたいにな」

 

「ふぅむ……」

 

「で、北斗が『ミスティーク』のこと調べるなら、それに協力した方が話が速いだろ?」

 

「それは……確かに……?」

 

「いくら北斗が自衛できるっつっても、憑依ができる俺がいた方が安全だろ?」

 

「ぬぅ……」

 

「あとほら、陰陽術とかの話もするぜ?」

 

「ぬぬぬぬぬぬ」

 

 最後のが、北斗の学術的好奇心を非常に擽られた。

 実際、一度女郎蜘蛛ミスティークを倒した彼が同行し、守ってくれるのは心強い。

 

「俺が北斗を守る。だから、『ミスティーク』の調査を同行させてくれ。そこら辺、俺は詳しくないし、土地勘も常識もない。ついでに泊めてくれると助かる。家事もやるからさ。朝昼晩作るよ」

 

「………………この食事を、三食?」

 

「料理の内容は買い出し次第だけど」

 

「……………………ノハさんは、それでいいわけ?」

 

「構わんよ」

 

 『神話存在』たる子狐は欠伸混じりに答えた。

 

「ワシはハルの保護者だが、命令者ではない。なんならハルの式神だからの。主はハルの方だ」

 

「色々お世話になってるけどなー」

 

「そう思ってくれているだけでワシは十分じゃよ」

 

 主と式神の関係も色々あるらしい。

 

「うーん」

 

 組んだ腕に胸を乗せ、北斗はハルの提案を、改めて吟味する。

 メリットとデメリットを踏まえ、十秒ほど考え、

 

「あ、待った。昨日、君、血を吐いて倒れてたじゃん。憑依の負担とかは大丈夫なの?」

 

 北斗の問いに、ハルは一瞬意外そうな顔をしてから、表情を緩めた。

 

「ちゃんと休めば、まぁ大丈夫だ。ほら、本州半分横断してきたばっかだからな。昨日ゆっくり眠れたし」

 

「そう、よかった。……そういうことなら」

 

「おっ?」

 

 北斗がその場から立ち上がれば、ハルもそれに習う。

 

「私は、君が体を休める場所と情報を提供する。君は、私の護衛と調査の補助。ひとまず期限は……頼田区の『ミスティーク』問題が解決するまで。どうかな?」

 

「いいぜ」

 

「じゃあ」

 

 北斗は右手を差し出した。

 

「よろしくね、ハルくん」

 

 ハルもまた右手でそれに応え、

 

「あぁ、よろしく頼むぜ、北斗」

 

 互いの手を握りあった。

 

 

 

 

 




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