終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第五話 刻印する魔導

 

「よっしと」

 

 ハルとの契約を結び、北斗は調査のために街に出向くことにした。

 昨日の作業着ではなく、ノースリーブのシャツ、オーバーサイズのパーカーにカーゴパンツという動きやすさを重視した格好だ。

 それに加えて、眼鏡をかける。

 着替えを終え、ハルが待っている玄関に向かった。

 ノハを肩に乗せ、学ランに赤いマフラー姿のは彼は、北斗を見て、おっ、という顔をし、

 

「私服か? 可愛いな」

 

「…………あ、うん」

 

 口説かれているのか? と思ったがあまりにも自然に言われたので反応に困った。 

 

「眼鏡、部屋の中じゃかけてなかったけど視力悪かったりするのか?」

 

「ううん、視力は良い方だよ。これは眼鏡じゃなくて、眼鏡型のデバイス。『神性科装(サイバーマイス)』に使われている神性がこれを通してみれば、レンズに表示されるってわけ」

 

 トントン、と北斗は眼鏡のフレームを叩く。

 そのレンズはHUDとなっている。

神性科装(サイバーマイス)』の解析に加え、通常の機械類もスキャンできる優れモノだ。

 

「ほー。便利なもんだ、それ自体も『神性科装(サイバーマイス)』なのか?」

 

「これはただの機械だよ。私が作ったやつだから市販されてないけど」

 

「へぇ、凄いじゃん」

 

「大したものだな」

 

 ハルだけではなく、ノハまで感心したように頷いていた。

 

「どもども。神話工学と文化英雄学専攻だったから、私」

 

「しん……なんて?」

 

「行きがてら説明するよ。説明すると長いし。あ、あとね。ハルくん」

 

「うん?」

 

「外に出て、驚かないでね?」

 

「ノハさん驚かないやつ?」

 

「ワシはもう驚いた」

 

「それ俺も驚くやつじゃん」

 

 そして、二人と一柱はドアを開け、外へと踏み出した。

 一歩外に出て、

 

「ん? んん……?」

 

 ハルが戸惑い、首を傾げる。

 その先は、ゴミ捨て場だった。

 大量の旧世代から残る壊れた機械や建物の残骸を一纏めにされ、放置されたゴミの山。

 家屋の類はどこにもない。

 ゴミの山にポツンと立っていた掃除道具用ロッカーから、北斗たちは姿を表していた。

 その事実を指して、北斗はハルに驚かないでと言ったのだ。

 だが、北斗も驚いた。

 

「あぁ、やっと姿を表してくれましたか」

 

 ロッカーの出口の先に、一人の少女が待ち構えていたから。

 十代前半あたりの年頃。

 白い髪に褐色の肌。

 小さな体を覆う灰色のローブの姿。

 

「昨日ぶりですが、その節はお世話になりました。お兄さん、お姉さん」

 

 昨日、女郎蜘蛛ミスティークに襲われたところを北斗が助け、その後ハルにも助けられながら姿を消した少女。

 

「私はロア・ルーンファミリア――――『魔術師』です」

 

 

 

 

 

 

 魔術師、という言葉に北斗が疑問を覚えるよりも早く、背後にいたハルが動いていた。

 気づいていたら、というような速度で北斗の前に、立っていた。

 北斗を守り、庇うような立ち位置で。

 

「『魔術師』か。人間の魔術使いを見るのは初めてだ。本当だったら、って話だけど」

 

「嘘は付きません。そうじゃなかったら、こんなゴミ捨て場でお二人を待ち構えていることなんてできないでしょう?」

 

 昨夜怯えていた姿とは打って変わって、年不相応に落ち着いた雰囲気のある少女だった。

 

「ふむ、確かに」

 

 いつの間にか、ハルの肩に乗っていたはずのノハの姿が消えている。

 

「んでも、魔術師ってなら昨日なんで何もせずに北斗に連れられてんだ?」

 

「それは……」

 

 問いに対してロアは言い淀み、頬を赤く染めた。

 

「…………『ミスティーク』というものが、あんなに恐ろしいと思って、いなくて……」

 

「…………なるほど?」

 

「…………って、ちょっとハルくん!? 子供に対して急に問い詰めるの、よくないんじゃない?」

 

「えぇ? いや、だって急に『魔術師』です、なんて名乗られたら警戒するだろ?」

 

「いや、ハルくんが言うことじゃないでしょ」

 

 いきなり陰陽師とか名乗りだしたのだ。

 今更だが随分と怪しい。

 

「ともかく。えと、ロアちゃん、だっけ?」

 

「えぇ。あなたは……」

 

「七星北斗。こっちは絵葉ハルくん」

 

「北斗に、ハル。改めて、昨夜はありがとうございます。……恥ずかしいことですが、彼の言う通り、魔術師でありながら何も出来ず、北斗に助けられるままでしたから。その後も、礼も言わずに逃げてしまったことを、謝らねばと思っていたのです」

 

「あぁ、うん。気にしないで?」

 

 ぺこりとロアは頭を下げた。

 律儀な子だなぁ、と北斗は思う。

 

「それで、お礼のためにわざわざここまで? その魔術ってのも気になるけど」

 

「いえ。お礼もありますが、お願いがあって来たんです」

 

 そして、もう一度ロアは頭を下げる。

 一度目よりも深く、そのまま言葉を続けた。

 

「『ミスティーク』を倒したハル。『ミスティーク』に詳しい北斗。――――どうか、私を、私の『ルーンファミリア』を助けていただけないでしょうか」

 

 

 

 

 

 

「『ルーンファミリア』とは二百年ほど前に発足した、北欧の魔術結社のことです」

 

 北斗は北欧神話における六足の神馬、スレイプニルの『神性科装(サイバーマイス)』であるバギーを運転しながら、助手席のロアの話に耳を傾けていた。

 街中は朝早いが、既に活気に溢れている。

 低速で進むバギーからも、建物の補修をする男衆の掛け声が聞こえてきたり、道端で話している主婦たち、遊んでいる小さな子供たちの姿も見えた。

 いつも通りの朝の光景。

 だが、聞こえてくる内容は全く知らない世界の話だった。

 

「元々はルーン魔術の使い手だった初代当主が、数人の孤児を預かったところから始まり、児童養護施設による魔術結社となりました」

 

「へぇ、優しい話だね」

 

「いえ、単に人手を賄うための緊急手段が定着しただけです」

 

「そ、そっか……」

 

「なにはともあれ『ルーンファミリア』は小さな魔術結社としてほそぼそと糊口をしのいでたんですが、一世紀前と半世紀前でそれぞれ変化が起きました。いえ、世界中のあらゆる神秘に関わる者たちが、ですね」

 

「『神性科装(サイバーマイス)』と『大戦』か」

 

 後部座席に座るハルが小さくその言葉を口にした。

 

「えぇ。世界を変えたその二つは、魔術師のあり方も変えてしまいました。魔術師が数十年、後継者に託して数百年かかるような研鑽を『神性科装(サイバーマイス)』は誰でも可能とし、魔術において神話や伝承は切っても切れず、そういった存在から力を狩りていたのに敵となったんですから」

 

「冗談みたいだよなぁ」

 

 彼の苦笑に、ロアも頷いた。

 

「全くです。冗談であればよかったのですが。ともあれ、世界中の魔術やら神聖術やら全ての組織は廃業ないしは縮小し、元々の土地を追われたりしまして。『ルーンファミリア』も世界中のあちこちを彷徨って、日本に流れ着きました。ほとんど魔術組織としては機能していないんですが」

 

「ルーン魔術って……ルーン文字だよね? あ、でも北欧が発端ってことは北欧ルーン文字のこと?」

 

 北斗は知識の中からルーンについてのものを思い出す。

 ルーン文字。

 一世紀頃にヨーロッパで使われていたとされた古代ルーン文字と八世紀頃から使われていた北欧ルーン文字、他にもいくつかのバリエーションを持つ古代文字だ。

 日常的な使用例から占いや呪術的儀式に使われたとされていたともされる。

 

「……詳しいですね?」

 

「え? そう?」

 

「普通に人はルーン文字自体知りませんよ」

 

「そうかなぁ。ハルくんだって知ってるでしょ?」

 

「知ってるけど、俺は俺で普通の範疇には入らないと思うぞ。自分でいうのもなんだけど」

 

「んー、まぁとにかく知ってるものは知ってるってことで。ルーン文字知ってるだけで、魔術の方は全然イメージつかないけどさ。どんな感じなの?」

 

「文字自体が力を持つため、何かにルーン文字を刻んで力を使うというものです」

 

 ロアが懐から小さな石ころを取り出した。

 それに、『K』の字に人差し指でなぞり、

 

「『ケン』」

 

 呟いた瞬間、なぞった箇所が一瞬発火した。

 

「こういう風に文字が、その文字の持つ意味や力に応じた効果を発動するのです。今の『K(ケン)』は火、松明といった意味があるので燃えました。大した力は魔力を使ってないので一瞬だけですけど」

 

「へぇ……!」

 

 北斗はかすかな焦げ痕を残した石ころを凝視し、

 

「おい、北斗。前見て運転してくれよ」

 

「わかってわかってる!」

 

 視線を前方に戻す。

 元々速度は大して出していなかった。

 このバギーも『『神性科装(サイバーマイス)』なので事故衝突防止機能も付いているのだ。

 事故の心配はない。

 

「うーん、ルーン魔術のことは凄い気になるけど、聞いてたら終わらなさそうだから進めよっか。『ルーンファミリア』が日本に来てってところまでだったけ」

 

「それで魔術組織としては廃れちまったってところだな。悲しい話だが」

 

 苦笑気味のハルの言葉に、ロアは振り返る。

 

「哀れみですか」

 

「共感さ」

 

 彼は即答し、少女はじぃ、と彼を見つめ、

 

「……ですか」

 

 ため息を吐き、前を向く。

 

「ともあれ廃れた魔術組織『ルーンファミリア』は、生きるために『神性科装(サイバーマイス)』の恩恵を受け、元々の児童養護施設もどきに立ち返りました。今でも、私も含めた十数人の孤児がお互いを助け合って共同生活をしています」

 

「ということは、ロアも?」

 

「えぇ」

 

 涼しい顔でロアは頷いた。

 

「親は知りません。赤ん坊のころに中東で拾われたそうですが、常に移民が立ち代わり入れ替わりしているので元々の国籍も不明です。珍しくないですけどね」

 

「それは……そうだね」

 

 親を知らない子供というのは、世界の終末から半世紀経った今でも珍しい話ではない。

 少なくとも『ネノクニ』ではよくある話だ。

 北斗もまた、幼い頃に母親を失くしている。

 だけど、悲しい話だとも思う。

 

「ちなみに俺は親父はなんかガキの頃に失踪したし、母親も死んじまったらしいぜ。家族は多かったけど」

 

「……」

 

 ハルはハルで朗らか過ぎて反応に困った。

 

「私も似たようなものですね。私としては、魔術がどうこうとか思い入れは薄く、上手くできれば褒めてもらえるもの、程度のものだったんですが……」

 

 ロアの顔が曇る。

 

「私の姉がそうではなかったんです」

 

「お姉さん?」

 

「えぇ。同じような孤児で血縁ではありませんけどね。彼女……ライラは、年長の姉で、私のような子供の面倒をよく見てくれる優しい人でした。だけど、同時に彼女は廃れゆく魔術に何より誇りを持っている人でもあったんです」

 

 緩く吹き付けてくる風と共に彼女の言葉は続いた。

 

「兄弟姉妹の中で、誰よりも魔術の才があったために、今の世界のあり方に対して怒りを覚えている人だったんです。別に、気難しい人というわけではなく、むしろ優しく、優しかったからこそ、『ルーンファミリア』の大事なものが失われていくことを許せなくて……」

 

 そして、

 

「少し前から、家を空けるようことが多くなり、妙な人と付き合うようになって――――一週間前、姉は『ルーンファミリア』を出ていきました」

 

「ふぅん、家出ってわけでもなさそうだな」

 

「いえ、うちは児童養護施設もどきなので別に施設を出るのは珍しくないんです。ただ……その家を出る前、姉が関わっていた相手がどう見ても『ネノクニ』の人間ではなかったんです。このあたりではない見ない『神性科装(サイバーマイス)』なんかを持って、姉に渡していて」

 

 それがどこの人間を意味するか、北斗はすぐに思い至った。

 

「……『アシハラ』の、人間」

 

「えぇ、おそらく。詳しくはわからなかったんですけど、魔術を使って姉の痕跡を追いかけて……『ミスティーク』と遭遇して……まぁ、その」

 

「ビビって北斗に助けられたわけか」

 

「……」

 

 振り向いたロアが反目でハルを睨みつけるが、ハルの方はどこ吹く風という様子。

 その様子を横目で見つつ、北斗はロアの話を整理する。

 と言っても、導き出される結論は単純だ。

 

「つまり……君のお姉さんが、『ミスティーク』化に関係している」

 

「えぇ。目的はよくわかりません。『神性科装(サイバーマイス)』を疎んでいたのに、それによって生まれた『ミスティーク』とか関わっている理由は。だけど、姉を追って、『ミスティーク』と遭遇したので無関係はありえません」

 

 だから、とロアは強い眼差しを北斗に向けた。

 

「お願いします、お姉さん」

 

 口にする彼女の願いは、

 

「私の姉、サラーラ・ルーンファミリアを見つけ、止めてください」

 

 




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