終末世界の陰陽師/スターゲイザー 〜時代遅れの特撮オタク、ニチアサを新世界に招来す〜   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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第六話 私達にヒーローはいるのだろうか

 

 

 バギーがたどり着いたのは頼多区の外側、他の区域との中間地点だった。

 

「こういう区と区の間って、治安かなり悪いからあんまり来たくないんだけどね」

 

 よく見る住宅街ではあるのだが、建物の大半は半壊していて廃墟街といった風合いだ。

 一見、誰もいないように見えるが、

 

「見られてるな」

 

「お、わかるんだ。それでも陰陽術?」

 

「いや、視線とか気配とか? まぁ勘みたいなものだよ。北斗も気づいていたのか?」

 

「まぁね、私はデバイス頼りだけど」

 

 眼鏡型のデバイスに投影されたHUDには、廃墟の中に複数の生体反応が表示されている。

 簡易的なサーモセンサーだ。

 シルエットしか見えないが、なんとなくこちらを伺っているように見える。

 

「普通に強盗とか拉致とかあるから、気をつけてよ。向こうからしたら子供しかいないんだし」

 

「安心しろ、北斗。君の護衛が契約だっただろ? 俺が君を守る」

 

「おぉう……」

 

『アシハラ』にいた頃に見たり読んだりしたことがないようなセリフを直球で言われ、小っ恥ずかしくなる。

 確かに護衛をしてもらうのが契約なのだけれど。

 

「ハルよ、格好つけていないで人除けでもしておれ。格好いいのはいいが危難は避けるべきであろ」

 

「確かに、流石ノハさん」

 

 肩のノハから助言を受けたハルが懐から符を取り出す。

 人差し指と中指で挟んだ符を眼前に掲げると、そこに書かれた文字が一瞬だけ光った。

 

「これでよし。あ、これは陰陽術だぜ」

 

「じゃなかったらびっくりだけど、そういうこともできるんだ」

 

「禁術でもない」

 

「人除けが禁術だったらそれもびっくりだよ」

 

 ふざけているのか真面目なのか良くわからないハルの言葉を聞き流しながら、北斗がサーモセンサーで周囲を確認すると慌てたような動きが見えた。

 本当に、周囲が自分たちを見失っているらしい。

 原理が気になるが、今はそれに関して考察している場合ではない。

 横に並んで歩く北斗とハルから数メートル離れたところ、ロアが一人先行している。

 突き出した右手には振り子のように揺れるペンダントがあった。

 ペンダントにはルーンが刻まれており、魔術による探知らしい。

 ロアの姉、サラーサがこのあたりで何かをしていたらしいが、詳しい場所まではわからず、ロアが姉の痕跡を辿っているところだ。

 こちらの原理も気になるが、邪魔はしたくない。

 集中するために少し離れて欲しいと言われている。

 

「ハルくんはロアちゃんが何やってるかわかる?」

 

「なんとなく。俺も似たようなことしてこの街に来たわけだしな」

 

「へぇ、別の技術でも結果は同じになるのは……それもそうか。需要と供給だね」

 

「俺からも質問いいか?」

 

「うん? どうしたの」

 

「ロアの話、どう思った?」

 

「どうって……」

 

 先行する少女の話を思い出す。

 縮小した魔術結社、妙な様子で『ミスティーク』の情報を残した姉。

 それについて思うのは、

 

「うーん……情報が少ないよね」

 

「だな」

 

 関わっている以上の情報がないのだ。

 目的がよくわからないのだから、先が読めない。

神性科装(サイバーマイス)』嫌いだったという彼女が、『神性科装(サイバーマイス)』である『ミスティーク』を使うのも筋が通らない。

 だが、それでも、少女の背中を見て思うことは一つ。

 

「家族が『ミスティーク』に関わっているんだとしたら心配だよ。どうにかしてあげないと」

 

「…………」

 

 横に視線を動かせば、隣の少年はじっと北斗を見つめていた。 

 

「ハルくん?」

 

「ふむ……そうなるか」

 

「何が?」

 

「いや、なんでもない。北斗は優しいな」

 

「はぁ? ……ノハさん? なんなのこれ」

 

「他意はない。気にしないほうがよかろうて」

 

「ははは、そうそう。北斗は気にしなくていい! 君は君のままでいてくれよ!」

 

「なんなのぉ……」

 

 なんか上機嫌の全肯定すぎて逆に怖い。

 

 

 

 

 

 

 

「着きました、ここです」

 

 ロアの導きによってたどり着いたのは五階建ての廃ビルだった。

 大きい建物ではあるが、五階部分の天井は崩れおり、内部が覗ける。

 眼鏡の表示には誰もおらず、ハルも無人と判断。

 

「見るからにただの廃ビルだけど……中、入ってみる?」

 

「入らないと始まらないしな。俺が先に進むよ」

 

 ハルが足を進め、正面玄関のドアに手をかけ、

 

「……」

 

 ガチャリ、という音が響いた。

 つまり、誰かは住んでいる。

 人がいないということは外出中ということだろう。治安の悪い地域だから、施錠は厳重にするかそもそもしないかの二択で、施錠する人間はある程度生活に余裕があるが、理由があってわざわざ区の外れに住んでいることもあるので注意、という話を北斗は協から聞いた覚えがあった。

 どうしたものか、と北斗が考えていたら、

 

「よっと」

 

 今度は、ガシャン、という音が響き渡り、扉が開いた。

 

「よし、行ってくるわ」

 

「ちょっと待ったぁー! 今、鍵壊した!? 素手で!?」

 

「陰陽術陰陽術。ノハさん、一応残っておいてくれ」

 

「よかろう」

 

 彼の肩からノハが降り立ち、ハルが中に足を踏み入れていく。

 小さな狐姿の神話存在は狛犬のように扉に背を向け、こちらを見ていた。

 狛犬のように、というのは失礼だろうか。

 しかし、普通にハルが鍵を壊したが

 

「あぁ……まぁ、ここらへんなら……いや、ここらへんだから面倒になる……?」

 

「ですが、中に入らないと始まりませんでしたよ」

 

「それはそうなんだけどさ。……後で考えるか……」

 

「質問、いいですか?」

 

「何?」

 

「あの人と、お姉さんの関係は?」

 

「関係って……なんだろ、護衛と雇い主? 私も昨日会ったばかりなんだよ」

 

「その割には、道案内している後ろでいちゃついているようでしたが」

 

「いちゃっ……って、そんなんじゃないよ。ハルくんの方がなんか……なんというか、人懐っこいだけじゃない?」

 

「……私と同じような時代遅れの陰陽師ということはまだしも、肩に乗せていたのは神話存在でしょう。父や母でさえ見たことがない、文字通りお伽噺の存在。正直、好奇心よりも恐怖が勝ります。そのようなものを当然のように連れているなんて……」

 

 ロアの視線の先にいるノハ。

 こちらの話を聞いているのかいないのか、反応はない。

 

「……彼にも色々あるんだよ」

 

「あなたにも?」

 

「………………まぁね」

 

 その色々の部分が、北斗の脳裏に過ぎる。

 だがそれをすぐに振り払い、

 

「とりあえず、今は『ミスティーク』をどうにかしたい。そこは私もハルくんも、君も同じ。そうでしょう?」

 

 問いかけに、ロアは少し間をおいて、

 

「えぇ、そうですね」

 

 頷き、それきり口を閉じた。

 妙に気まずい空気を感じ、何か話しかけたほうがいいのかとしばらく悩んでいたら、

 

「入ってきても大丈夫だぜ」

 

 ハルが戻ってきた。

 

「ハルくん!」

 

「はい、ハルです。どうした? なんかあったか? ノハさん」

 

「問題はなかったの」

 

「そうそうなかったなかった! それで、中はどうだった?」

 

「んー」

 

 彼は髪をわしゃわしゃと掻いて、

 

「何もないっぽいぞ?」

 

 

 

 

 

 

 室内は広く雑多としているが、北斗の目には普通の住居に見えた。

 部屋が広いのは元々あった壁をぶち抜いているせいだろう。

 視界の奥には上の階に繋がる階段が見える。

 

「二階から上も見てきたけど、ほとんど使われてなかった。こっちは……普通、なのか? 北斗の部屋に比べたらだいぶ小汚いけどさ。てか、なんだったんだあれ?」

 

「その話は帰ったらね。とりあえず、私の家は『アシハラ』から持ってきた『神性科装(サイバーマイス)』だから比べるものじゃないよ。これが普通……ここらへんなら整っている方だと思うよ」

 

 生活に必要な家具や家電は、古いが補修されたものが揃っており、トイレやシャワールームもある。

 丁寧にあちこちに絨毯も敷かれていた。

 このフロアだけで生活が完結しているのだ。

 

「うーん、冷蔵庫もちゃんと動いてるし、食べるものも一応入ってるな。酒ばっかりだけど。ってことは、やっぱふつーに生活してるわけなんだが……ここに何があるんだ?」

 

 部屋全体を見回し、腕を組んだハルが首を傾げる。

 

「私の魔術では確かに反応しているんですが……」

 

 ロアが掲げるペンダントは、円を描いている。

 おそらく、ダウジングのように反応しているのだろう。

 

「何もないということは、私の魔術が不発という……」

 

「いや、そうでもないだろ」

 

 不安げなロアに対し、ハルが口を挟んだ。

 

「実際、ロアの魔術で北斗んとこたどり着いたんだろ? だったら魔術の精度は悪くないはずだ。だから俺達が何か見落としてるということになる」

 

「フォローありがたいですが、その何かとはなんでしょう」

 

「わっかんね。そもそも俺、こういう様式の部屋あんま見たことないし」

 

「……」

 

 複雑そうな視線をハルに向けるロアだった。

 北斗はそれを横目にしつつ、

 

「んー、何かあるとするなら……」

 

 眼鏡の縁を二度タップしてから、改めて周囲を見回した。

 視界に表示されていたHUDが切り替わり、赤外線スキャンモードに。

 基本的に、機械を修理する時内部構造を調べるもので、

 

「あ、見つけた」

 

 地下に空間を確認できた。

 絨毯を剥ぎ取ると、地下に続くハッチがある。

 

「おー! 流石だな北斗……!」

 

「あ、ありがと」

 

 破顔するハルの褒め言葉が面映ゆい。

 

「ロアちゃんの魔術も正しかったね」

 

「どうも。ですが、大事なのはこの下に何があるか、です」

 

「クールだなぁ……」

 

 それはまぁそうなんだけど。

 

 

 

 

 

 

「なんか、北斗のラボに似てるな」

 

 地下室への階段を降りた先の光景を見て、ハルが思ったのはそれだった。

 一階に比べて半分くらいの広さで、ハルには見慣れない大量のモニターや何に使うのか分からない機械や工具が雑多に置かれている。

 北斗のラボの半分が書斎であることの違いはあるが、なんとなく雰囲気には似てる気がした。

 

「え、いや全然似てないよ。私は合理的にいろんなものを配置しているけど、ここはどう見ても散らかってるだけじゃん」

 

「うちの弟妹のようなことを言わないでください」

 

「いやほんとほんと。というか、部屋の半分が発電機で埋まって……発電機? こんなにたくさんのものを何のために……?」

 

 部屋の奥の半分を埋めた機械に視線を向けてから、眼鏡の弦を何度か叩いて北斗はブツブツとつぶやき始めた。

 一旦、そちらは放って置くとし、ハルも改めて室内を見てみる。

 その中で一際目を引くのは、

 

「なんだこれ……デカい音叉……?」

 

 大きな机の上に置かれた、巨大な音叉。

 ハルの身長くらい、つまり百八十センチは越えている。

 本来手で持つところには巨大な箱のようなものが四つくっついており、更に端にはトリガーまで付いてた。

 

「銃、でしょうか」

 

 隣に並んだロアもまた不思議そうに首を傾げる。

 

「こんなデカい銃あるのか? 銃つーか大砲ならわかるけど」

 

「これはあれだね。レールガン」

 

 二人の間に挟まり、答えを口にしたのは北斗だ。

 

「れーるがん?」

 

 ハルには初耳の言葉で、首を傾けるとロアもまた同じ動きをしていた。

 

「音叉みたいなのは電磁レールで、上下に挟んだこのレールでローレンツ力を生み出して弾を加速させて撃つ兵器だよ」

 

「それは……都会の言葉か?」

 

「日本特有の表現はよくわかりません」

 

「………………磁力で超速い弾を打ち出す兵器」

 

「なるほど」

 

 正直良くわからなかったが、武器ということはわかった。

 わかったのは北斗が詳しいということ。

 それで納得したが、言葉を続けたのは肩に乗るノハだった。

 

「大戦時代に見たことがあるの。あれは『神性科装(サイバーマイス)』じゃったが」

 

「あぁ……そっか、そうだね。大戦後期には武器として使われてたよ。今でも小型化された『神性科装(サイバーマイス)』が『アシハラ』でも装備されてたりする」

 

「小型化というわりには大きすぎる気もしますが」

 

「そうだね。これはだいぶ大きい」

 

 頷いた北斗は虚空に手を突き出して、指をつまむようなジェスチャーをし始めた。

 

「…………これは、陰陽術的な意味を持つ手技なのですか」

 

「いや知らん……ルーン魔術にはあるのか?」

 

「ありません」

 

「え? あぁ、ちょっと待って」

 

 北斗はカバンから取り出したタブレットをレールガンの脇に起き、数度タップ。 

 さらには画面の上を両手でつまむように持ち上げると、

 

「お、おぉ?」

 

 半透明のレールガンが中空に浮かび上がった。

 

「なんだこれ」

 

「ホログラムだよ。さっきまでは眼鏡で読み取ってARでいじってたけど、タブレットから投影して二人にも見えるようにしたの」

 

 また何を言っているのかわからなかったが、目の前の光景はハルの人生では初めて見るものだ。

 机の上に置かれた巨大な武器とそっくりそのままの透明なものが浮いている。

 軽く押すように触れると、

 

「おー」

 

 感触はなかったが、ホログラムがゆっくりと回転する。

 先ほど虚空に向かってジェスチャーをしていたのは、彼女の視界にだけ写っていたこれをいじっていたのだろう。

 

「んで、これだけど」

 

 北斗が触れたのはレールガンにある四つの箱、それから軽く手首を降るとレールガン本体から箱が分離する。

 

「この四つとも、全部バッテリーだね。それも、一発撃ったら使い切っちゃう。『神性科装(サイバーマイス)』無しのレールガンは電力問題が難しいから仕方ないけど、それにしたって実用性にも難がある」

 

 さらにレール部分のホログラムも分解させ、

 

「レールの方も構造的に一発で自壊するかな」

 

「ふむ、つまり……」

 

 ハルは北斗の話を全て理解出来ているとは思わないが、それでも聞く限り判断できることは、

 

「このデカブツは失敗作ってことか?」

 

「何のために作ったのかわかんないからなんとも言えないけど……有り体に言えばそうだね。レールガンとしては『アシハラ』にもっと小型高性能のがあるし、『ネノクニ』じゃ護身用としては過剰すぎる。これなら旧世界の火薬式拳銃とかで十分」

 

「なるほどなぁ」

 

 確かにこんな大きいものなんて持ち運ぶの適していないのだから、護身用にはならないだろう。

 

「うーん、この回路だと電力効率が……いやそもそもこのご時世にこれをどう使うって話なんだけど……ここの人は何を思ってこんなものを……」

 

 独り言を口にしながら、北斗はホログラムを指で操作し続けた。

 暗い部屋の中、半透明の機械模型から発せられる光に彼女の横顔が照らされる。

 分解と旋回を繰り返す小さい部品を操る様は、まるで星を摘んで遊んでいるようでもあった。

 

「…………」

 

 その光景にハルは目を細め、思った言葉を口にしようとし、

 

「!!」

 

 頭上から聞こえてきた音に、顔を跳ね上げた。

 

 

 




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