東方ニセモノ異変   作:そこけせ

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遂に、遂に! 私は! 成し遂げたぞ!

         ───月にて観測された音声の一部



喧嘩の話

「ははは! 自分自身と戦うだなんて初めてだ!」

「それは奇遇だな。私もだ」

 

 偽物の方が立ち上がり、互いに睨み合う。

 

「それじゃあ、()ろうか」

「ああ、勿論だとも」

 

 その言葉を皮切りに、拳を構え殴り合う。先程の"お遊び"などとは比べ物にならない本気の闘いだ。

 

 片方が相手の顔面に拳を入れ、腹に痛い一撃を貰う。気合いで踏み留まり、お返しとばかりに腹に一撃を入れると、顔面にお返しされる。

 その拳を掴み、動きを止め上空へと蹴り上げる。そして、転がっていた家屋の梁を、相手目掛けて投げ飛ばす。

 

 飛んできた梁を、体勢を変え殴って砕き、破片を蹴って加速する。相手目掛けて拳を構え、宛らヒーローの如く落ちていく。

 

 落ちて来る相手を後ろに飛んで避ける。殴る相手を失った拳は、其の儘地上へ落下して、地面に亀裂と深い溝を作る。当たっていたら、痛かったかもしれない。

 立ち上がった相手の顔面に、走りながら拳を入れる。

 

 相手の一撃で、大きくのけ反ってしまった。一瞬意識も飛んだ。思わず、倒れ伏すところだった。

 目覚めてすぐに、相手の顔を両手で掴む。其の儘膝蹴りをかまし、身体を起き上がらせる勢いを使って、頭突きを食らわせる。角で刺すつもりだったが、上手いことずらされた。

 

 頭同士が近付くことで互いに目が合う。そしてどちらも見える景色は一緒で、血を流しながらも笑う相手の顔がその目には映った。

 

 

 戦闘開始から経った時間は十五秒、その十五秒のの闘いによる周辺被害は、半径五百メートル圏内の建物の全壊、一キロ圏内の建物の半壊、温泉街全体の突発的な地震など多岐にわたる。

 闘う二人から少し離れた場所で、地獄烏with八咫烏、霊烏路空に守られながら、さとりは()()()のことを考えていた。

 

 建て直しはいつも通り土蜘蛛にさせるとして、溝はどうする? お空の爆撃にすら、凹むだけで済んだ堅い地面だ、それこそ鬼の力を借りるしかないだろう。最悪なのは、まだ、決着が着きそうにない点だろう。また面倒臭い仕事が増える。

 

 そんなさとりを他所に、鬼二人は心底楽しそうに殴り合っている。

 

「「あはははははははははははははははは!」」

 

 勇儀があそこまで楽しそうなのは見た事が無い。周りに被害が及ばないのであれば、あのままでも良かったのだが。鬼は何するかわからないし。

 

「さとり様、怪我してませんか?」

「えぇ、大丈夫よ。お空も勇儀を連れて来てくれてありがとう」

「えへへ」

 

 可愛い。やっぱりペットたちは可愛い。いっその事引き篭もって一生ペット達だけと過ごせないものか。

 …現実逃避しても何も変わらない。諦めよう。

 

 その時、

 

「ゴホッ」

 

 さとりが血を吐いた。

 目から、鼻から、第三の眼(サードアイ)からも。

 

「さとり様! 大丈夫ですか!?」

「大、丈夫、よ、すぐ、なお、るから。地霊、殿につ、れてっ、てくれる、かし、ら」

「わかりました! すぐに!」

 

 反動が来た、慣れない事をしたからだろう。やっぱり、相手の心に無いものを想起するのはやめた方が良いか。まぁともかく、そのうち筋肉痛だな。

 お空に運ばれながら、そんな事を考えるさとりであった。

 

 

 互いに血塗れになっても、笑みを絶やさず戦い合う二人。その目には相手以外の何も映っていない。全ての感覚を相手に向け、この闘いを全身全霊で楽しんでいた。

 

「あぁ、楽しいなぁ! あんたもそう思うだろう?」

「そうだとも! まだまだいけるよな?」

「勿論だ!」

 

 殴り殴られ、蹴り蹴られ、防いで防がれ、投げて投げられ、ただひたすらにぶつかり合う。

 時間が流れ、互いが肩で息をするほど疲れ果てるまで二人は戦い続けた。

 最早、彼女らの周りに街があったとは思えない程に崩壊した歓楽街…"元"歓楽街を見れば、どれだけ壮絶な戦いが繰り広げられたか、嫌でも分かるだろう。

 

「そろそろ、終わりにしようか」

「そうだな、これ以上は楽しめない」

 

 そして共に構え、

 

「最後にこの技で締めよう」

 

「これは私が"敵"と認めた奴にしか出さない技だ」

 

「四天王奥義「三歩必殺」」

 

「三歩必殺!!」

 

 一つ

 戦闘によって砕けた建物の破片を踏み締め、力を溜める。

 

 一歩

 その衝撃波は、辺りの破片を、地面を、全てを均す。

 

 二つ

 さらに奥に踏み込み、一歩目の勢いをそのまま二歩目に乗せる。

 

 二歩

 その踏み込みは、地を砕き、大地を揺らす。

 

 三つ

 溜めた力を解放し、勇儀へと一歩で突き進む。

 そして、拳を構え…

 

 三歩

 相手の姿が掻き消える。

 

 拳を突き出した先にあった建物が吹っ飛ぶ。巻き込まれて、破片と共に飛んでいく怨霊や鬼の姿も見える。

 

「久々に本気を出せた気がするよ。有難う」

 

 そう敵がいた場所に向かって、勇儀は喋りかけた。

 

 

 ───────────────────────

 

 

 地霊殿へと帰ったさとりは、自分の偽物がいる部屋に入る。

 互いの心を読み会って会話し、温泉へと向かう。血を流して寝よう、疲れた。

 

 その一方、本物が人前に出れない所為で、自分が妖怪達に向かって説明しなければいけなくなった偽物が執務室へ向かうと、反対の部屋から大歓声が聞こえる。

 

「いけ! そこだ!」

「右来てるぞー!」

「吹っ飛ばせ!」

 

 本物が開けた穴から、勇儀が戦う姿を観戦しているらしい。偽物との戦いは決着がついた様で、さっきから他の妖怪を相手に戦っている。今吹っ飛ばされたのは牛鬼か?

 

「観戦は終わりよ、話を聞いてくれる?」

「待ってくれ、今良い所なんだ」

「お空穴埋めて」

「わかりました!」

 

 近場から適当な大岩を持って来て、穴を塞ぐお空。いやあれ牛鬼だな、ここまで飛んできたのか。

 

「何すんだ! 良い所だって言ったじゃあ無いか!」

『そうだ!そうだ!』

 

 観客から大ブーイングを食らうが、無視して話を進める。一々気にしていたらキリが無い。

 

「地獄回帰にあたって、やって欲しい役割を言うわ」

「そう言えば、なんで閉める必要があるのか聞いてないぞ」

「今更?」

 

 鬼が質問をしてくる。最初に聞いておいて欲しかった。

 

「偽物が出たら殺せば良いじゃ無いか」

「その被害で幻想郷ごと地底が滅ぶわ」

「なんでだよ」

「さっきの勇儀同士の戦闘で地上で地震が起きた。その所為で紫の奴から釘を刺されたの、さっさと閉めろって」

「でも、閉めた所で地上に影響は出るだろう?」

「此処は元地獄よ、地獄は現世にあるけど、現世に存在しないの。互いが影響を及ぼしあう事はないわ、その機能を戻すだけよ」

 

 納得したのか、これ以上質問をする事は無かった。

 

「先ずは、ヤマメとパルスィの二人には地上から来る奴、地底から出ようとする奴を止めて欲しい、最悪殺しても構わない」

「お、中々に物騒だね」

「鬼達は、暴れる奴がいたら勇儀の方に誘導して頂戴、後は勇儀がやるわ」

「全部姐さんの方に飛ばせば良いんだな」

「それと、他の土蜘蛛達は…」

 

 集まっている妖怪達に向かい、次々と指示を出す。全員に指示を出し、部屋にさとり以外居なくなった時、さとりのすぐ後ろの空間に切れ目が入る。

 

「何かしら」

「ふふふ、貴方にしては珍しいと思って」

「何がかしら」

「そうやって指示を出す所、あの引き篭もりがねぇ。嗚呼、そう言えば貴方偽物だったわ」

「全部貴方の指示通りでしょう。さっさと進めてくれるかしら」

「言われなくてもやりますよ、他ならぬ貴方の頼みだもの」

「白々しい」

 

 スキマから顔を覗かせた紫の姿を見て、顔を苦々しげに歪ませるさとり。

 

「地底全てをスキマに隠すには、三日かかるわ。その間に閻魔に話をつけて来なさい」

「自分で行ってくれば良いでしょう」

「嫌よ、私はあの閻魔は苦手なの。目が合ったらすぐ説教してくるし」

 

 そう子供っぽく駄々をこねる紫。見苦しい。

 

「じゃあ、さっさと巫女を送ってくれる? あれが来ないと何も進まないわ、あなたのさくもなにもかも」

「今、藍に任せているわ。そろそろ来るわよ」

 

 どうせ、寝るから任せると言ったのだろう。なんでこんな妖怪に九尾の狐の式がいるのか、皆目見当もつかない。こんな主人で大変だろうに。

 

「それじゃあそろそろ準備してくるわ、首尾よく進めて頂戴な」

「さっさと帰れ」

「あら怖い」

 

 そう言うだけ言って、笑いながらスキマの中に入り消えていった。

 

 それから間をおかずに、今度は目の前にスキマが現れる。少し身構え、何がくるか観察する。

 そこから、滑り落ちて来たのは博麗の巫女であった。

 

「痛っ。ちゃんと考えて繋げなさいよ、もう」

 

 少しだけ気を緩め、霊夢へ向かい話しかける。

 

「ようこそ地底へ。早速だけど頼まれてくれるかしら」

「何よ、ってさとり? なんであんたの言うことなんか聞かなきゃいけないのよ」

 

 話は通している約束だったはずなんだが。心を読んでも、指示を受けた様には見えない。

 

「藍から何か聞いていないかしら」

「ん? そう言えば指示に従えとか言ってたわね」

「だったら取り敢えず、外にいる妖怪全員倒して来てくれる?」

「何だ、そんな事? あんたもやっちゃっていいの?」

「出来れば私以外で頼むわ…」

「まぁ、良いわ。何回かやったことあるし」

 

 そう言って、颯爽と外へ出ていった。穴を塞いでいる牛鬼を蹴飛ばして。

 巫女の方はこれで良いとして、守矢と連絡がつかない。あそこの連絡路が塞げるなら、態々紫に頼まなくても良かったのだ。しかも、紫に頼んだ所為で巫女を入れる羽目になった。被害が増えてしまう。

 何が楽な仕事だ。仕事は全部ペットに任せて自分は引き篭もれるって言うから引き受けたのに。最近は仕事ばかりが増えていく。

 

「面倒臭い」

 

自分が偽物だと言うことも忘れ、これからかかる心労を嘆くさとりであった。




Explanation:星熊勇儀
種族:鬼
二つ名:語られる怪力乱神
能力:怪力乱神を持つ程度の能力
概要:温泉街を仕切る顔役。二つ名が語る通り、鬼の中でもトップクラスの怪力を持つ。また、山で暮らしていた頃は、山の四天王の一角に数えられていた。
一言:シンプルな暴力なら幻想郷でもトップクラス。あと、あんまり戦わせたく無い。

無駄知識
月の都は崩壊しました。紫が仕掛けた第四次月面戦争によって。
その所為で、永遠亭メンバーと紫はバッチバチに喧嘩してます。
また、嫦娥が死亡し、復讐を果たした純孤は消息不明となっています。どうやって殺したんだろうね。
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