ウマ娘キタサンブラック短編集   作:大典74

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pixivにある同名の作品を手直ししております


ぽかぽか手のひらをどうぞ!

 夏が過ぎ、秋が来てからの日の流れは早くなると言うけれど。現在の時刻と目の前の景色を照らし合わせると、より一層実感が湧くというものだ。

 外に出てみると太陽はすでに沈みかけ、辺り一面が黄金色に染まっていた。

 

「わぁっ、もう結構暗いですね!」

「まだ夕方くらいなのにな。すっかり秋って感じだ」

「本当、そうですよね」

 

 トレーナーさんとふたり、秋の空を眺めながら呟く。

 買い物を終え、あとはもう帰るだけ。ふたりでひとつの袋を片方ずつ持って、ゆっくりと歩き出した。

 本当はあたしが全部持つはずだったのに、「そんなに重くないから」と半分持たれてしまったのだ。

 ああ……お助けキタちゃんの面目が立たない……。

 

「キタサン?」

「ふぇ? ……あっ!」

 

 ……って、ちょっと考えごとしてたらトレーナーさんが前に進んでるよ!

 こちらを振り返って足を止めたトレーナーさんの元へ、あたしは慌てて小走りで駆け寄った。

 うう……今日のあたしはちょっと不調気味かも……。

 

「ご、ごめんなさい、トレーナーさん……っ。待たせちゃったみたいで……」

「いや、気にしなくてもいいよ。それよりも何か考え事か?」

「えっ! そ、そう——ですね。な、何もないですよっ!」

 

 心配そうにこちらを見るトレーナーさんに、あたしは口をゴニョゴニョと動かして誤魔化した。

 お助けキタちゃんとしての自分を少し見失いかけてました、なんて。

 こんなことを突然言われても、トレーナーさんを困らせるだけだもの。

 ……うん。これでいいんだよ。

 

「……」

「……」

 

 ううっ……無言の視線がとても痛い……!

 真っ直ぐに見つめてくるトレーナーさんから逃れるように、あたしはキョロキョロと目を泳がせて黙り込んだ。

 

「…………まあ、何もないって君が言うならそれを信じるよ」

「そ、そう……ですか……」

 

 何度かこちらを窺った後、小さく息をついて引き下がってくれた。

 あたしはそっと胸に手を当て、密かに安堵の息を吐く。

 な、なんとか誤魔化せたみたい……良かった……。

 けれど、秋の空の美しさとは裏腹に、あたしの心はどんよりとした曇り空に覆われているみたいだ。

 ……いやいや! 立ち止まっていても仕方ない! とりあえず、何かしらで挽回しなくちゃ!

 

「信じてくれて嬉しいです、トレーナーさん!」

「ふふっ。なんだか分からないけど、君が元に戻ったみたいで安心したよ」

 

 なんとか心を燃やしていつもの調子に戻してみると、トレーナーさんもやっと笑顔を見せてくれた。

 ……うん、やっぱりトレーナーさんは笑顔が一番だね。

 じんわりと心が温かくなってきた……と思っていた、その時。

 ひゅうっと、冷たい風があたしとトレーナーさんの間を通り抜けていく。

 

「くっ、この時期は風も冷たくなってきたな……っ」

 

 トレーナーさんはそう呟くと、空いているほうの手で、荷物を持つ手を擦り合わせた。それを見て、あたしはハッとする。

 そっか……あたしは平気でも、トレーナーさんからしたら今の風は結構冷たいよね……。それに荷物も持ってるから、尚更辛いだろうし……。

 ……あっ、そうだ!

 そうと決まれば、あとは行動に移すだけ!

 

「トレーナーさん! ちょっと荷物を貸してください!」

「えっ? キタサン、いきなり何を? 片方の荷物は俺が持つって言っただろ?」

「ちょっと借りるだけです! 後で返しますから、それでいいですよね?」

「そ、そうか……それならいい……のかな?」

 

 まだ戸惑っている様子のトレーナーさんから、あたしは半ば強引に荷物を受け取る。

 それで次は……。

 

「き、キタサン? なんで尻尾に荷物をっ——」

「いいですから、いいですから!」

「お、おう?」

 

 荷物を尻尾にぶら下げて、お互いの両手を空けた状態にする。

 困惑顔のトレーナーさん。……まあ、突然こんなこと言われたらそうなるよね。だけど、安心してください! すぐに分かりますから!

 心の中で気合を入れながら、空いた両手を握っては開いてを繰り返す。

 ……よし! たぶん大丈夫そう!

 

「トレーナーさん!」

「な、なんだ!?」

「両手を出してください!」

「——両手? まあ、いいけど」

 

 困惑したままだけど、スッと両手を出してくれた。

 辺りは暗くて少し見えにくいけれど、指先が寒さで白くなっているのは分かった。

 よーし、ここからがあたしの本領発揮だよ!

 差し出された両手に向かって、あたしも両手を差し出して。

 

「てい!」

 

 そのまま、冷えた指先をギュッと包み込むように握りしめる。

 ふふん。あたしは体温が高い方なので、寒い時はダイヤちゃんの手を温めたりすることが多いのだ!

 自分の得意分野でお助けできることに、胸が飛び跳ねるくらいに嬉しくなってしまう。

 トレーナーさんもさぞ喜んでくれているだろうと思い、あたしはワクワクしながら顔を覗き込んだ。

 

「……」

 

 あれ? なんか反応が違うような?

 もっと喜んでくれると思ったけれど、目をパチパチと瞬かせるばかりで、混乱しているように見えた。

 おかしいな? どうしてこんな反応に?

 小首を傾げながら、何気なくトレーナーさんから周囲へと視線をずらしてみる。……あれ?

 

「「「……」」」

 

 いつの間にか、周囲の視線があたし達に集まっていた。

 よく見れば、遠巻きにヒソヒソと何かを囁き合っている。

 いったい何を言っているんだろう。あたしはそっと耳を澄ませてみた。

 

「両手を掴んで何をするつもりなのかな?」

「やることなんて決まってるよ! 告白だよ、告白!」

「人目があるところでするなんて、凄いなぁ……」

 

 え……? 告白……!?

 人目…………あ!

 

 そうだ、ここって人がいっぱいの商店街じゃん!

 自分がとんでもなく恥ずかしい状況にいることを自覚して、カァーッと体全体が一気に熱くなってしまう。

 

「うおっ……なんだかもっと熱くなった気がするぞ……」

 

 さ、幸いにもトレーナーさんは何も気づいていないみたいだけど……。

 これ以上ここにいたら、あたしの心が持たない!

 

「トレーナーさん! 温かくなりましたか?」

「えっ? あ、ああ」

「手が寒そうだったので、温めてみましたっ!」

「ああ〜……そういうことか……。ありがとうな、キタサン」

 

 苦しい言い訳だったけれど、トレーナーさんは輝かんばかりの笑顔を向けてくれた。

 えへへ……本音をいえば、バンザイしたいぐらいにワッショイな気分!

 ……だけど、喜んでばかりもいられない。早くここから離れなければ!

 手……は握ったままでいける!

 荷物……も尻尾で運べばなんとかなる!

 うん、これならいける!

 

「では行きましょう! 早く早く!」

「うおっ!? り、両手を持たれたままだと歩きにくいぞキタサン! キタサン!」

 

 聞こえてくるヒソヒソ声を受け流しながら、あたしはトレーナーさんを引っ張って早足で歩き出す。

 さっきまでの視線がなぜかさらに温かくなった気がするが、気にする余裕もなく、ただただ逃げるように進み続けるしかなかった。

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