夏が過ぎ、秋が来てからの日の流れは早くなると言うけれど。現在の時刻と目の前の景色を照らし合わせると、より一層実感が湧くというものだ。
外に出てみると太陽はすでに沈みかけ、辺り一面が黄金色に染まっていた。
「わぁっ、もう結構暗いですね!」
「まだ夕方くらいなのにな。すっかり秋って感じだ」
「本当、そうですよね」
トレーナーさんとふたり、秋の空を眺めながら呟く。
買い物を終え、あとはもう帰るだけ。ふたりでひとつの袋を片方ずつ持って、ゆっくりと歩き出した。
本当はあたしが全部持つはずだったのに、「そんなに重くないから」と半分持たれてしまったのだ。
ああ……お助けキタちゃんの面目が立たない……。
「キタサン?」
「ふぇ? ……あっ!」
……って、ちょっと考えごとしてたらトレーナーさんが前に進んでるよ!
こちらを振り返って足を止めたトレーナーさんの元へ、あたしは慌てて小走りで駆け寄った。
うう……今日のあたしはちょっと不調気味かも……。
「ご、ごめんなさい、トレーナーさん……っ。待たせちゃったみたいで……」
「いや、気にしなくてもいいよ。それよりも何か考え事か?」
「えっ! そ、そう——ですね。な、何もないですよっ!」
心配そうにこちらを見るトレーナーさんに、あたしは口をゴニョゴニョと動かして誤魔化した。
お助けキタちゃんとしての自分を少し見失いかけてました、なんて。
こんなことを突然言われても、トレーナーさんを困らせるだけだもの。
……うん。これでいいんだよ。
「……」
「……」
ううっ……無言の視線がとても痛い……!
真っ直ぐに見つめてくるトレーナーさんから逃れるように、あたしはキョロキョロと目を泳がせて黙り込んだ。
「…………まあ、何もないって君が言うならそれを信じるよ」
「そ、そう……ですか……」
何度かこちらを窺った後、小さく息をついて引き下がってくれた。
あたしはそっと胸に手を当て、密かに安堵の息を吐く。
な、なんとか誤魔化せたみたい……良かった……。
けれど、秋の空の美しさとは裏腹に、あたしの心はどんよりとした曇り空に覆われているみたいだ。
……いやいや! 立ち止まっていても仕方ない! とりあえず、何かしらで挽回しなくちゃ!
「信じてくれて嬉しいです、トレーナーさん!」
「ふふっ。なんだか分からないけど、君が元に戻ったみたいで安心したよ」
なんとか心を燃やしていつもの調子に戻してみると、トレーナーさんもやっと笑顔を見せてくれた。
……うん、やっぱりトレーナーさんは笑顔が一番だね。
じんわりと心が温かくなってきた……と思っていた、その時。
ひゅうっと、冷たい風があたしとトレーナーさんの間を通り抜けていく。
「くっ、この時期は風も冷たくなってきたな……っ」
トレーナーさんはそう呟くと、空いているほうの手で、荷物を持つ手を擦り合わせた。それを見て、あたしはハッとする。
そっか……あたしは平気でも、トレーナーさんからしたら今の風は結構冷たいよね……。それに荷物も持ってるから、尚更辛いだろうし……。
……あっ、そうだ!
そうと決まれば、あとは行動に移すだけ!
「トレーナーさん! ちょっと荷物を貸してください!」
「えっ? キタサン、いきなり何を? 片方の荷物は俺が持つって言っただろ?」
「ちょっと借りるだけです! 後で返しますから、それでいいですよね?」
「そ、そうか……それならいい……のかな?」
まだ戸惑っている様子のトレーナーさんから、あたしは半ば強引に荷物を受け取る。
それで次は……。
「き、キタサン? なんで尻尾に荷物をっ——」
「いいですから、いいですから!」
「お、おう?」
荷物を尻尾にぶら下げて、お互いの両手を空けた状態にする。
困惑顔のトレーナーさん。……まあ、突然こんなこと言われたらそうなるよね。だけど、安心してください! すぐに分かりますから!
心の中で気合を入れながら、空いた両手を握っては開いてを繰り返す。
……よし! たぶん大丈夫そう!
「トレーナーさん!」
「な、なんだ!?」
「両手を出してください!」
「——両手? まあ、いいけど」
困惑したままだけど、スッと両手を出してくれた。
辺りは暗くて少し見えにくいけれど、指先が寒さで白くなっているのは分かった。
よーし、ここからがあたしの本領発揮だよ!
差し出された両手に向かって、あたしも両手を差し出して。
「てい!」
そのまま、冷えた指先をギュッと包み込むように握りしめる。
ふふん。あたしは体温が高い方なので、寒い時はダイヤちゃんの手を温めたりすることが多いのだ!
自分の得意分野でお助けできることに、胸が飛び跳ねるくらいに嬉しくなってしまう。
トレーナーさんもさぞ喜んでくれているだろうと思い、あたしはワクワクしながら顔を覗き込んだ。
「……」
あれ? なんか反応が違うような?
もっと喜んでくれると思ったけれど、目をパチパチと瞬かせるばかりで、混乱しているように見えた。
おかしいな? どうしてこんな反応に?
小首を傾げながら、何気なくトレーナーさんから周囲へと視線をずらしてみる。……あれ?
「「「……」」」
いつの間にか、周囲の視線があたし達に集まっていた。
よく見れば、遠巻きにヒソヒソと何かを囁き合っている。
いったい何を言っているんだろう。あたしはそっと耳を澄ませてみた。
「両手を掴んで何をするつもりなのかな?」
「やることなんて決まってるよ! 告白だよ、告白!」
「人目があるところでするなんて、凄いなぁ……」
え……? 告白……!?
人目…………あ!
そうだ、ここって人がいっぱいの商店街じゃん!
自分がとんでもなく恥ずかしい状況にいることを自覚して、カァーッと体全体が一気に熱くなってしまう。
「うおっ……なんだかもっと熱くなった気がするぞ……」
さ、幸いにもトレーナーさんは何も気づいていないみたいだけど……。
これ以上ここにいたら、あたしの心が持たない!
「トレーナーさん! 温かくなりましたか?」
「えっ? あ、ああ」
「手が寒そうだったので、温めてみましたっ!」
「ああ〜……そういうことか……。ありがとうな、キタサン」
苦しい言い訳だったけれど、トレーナーさんは輝かんばかりの笑顔を向けてくれた。
えへへ……本音をいえば、バンザイしたいぐらいにワッショイな気分!
……だけど、喜んでばかりもいられない。早くここから離れなければ!
手……は握ったままでいける!
荷物……も尻尾で運べばなんとかなる!
うん、これならいける!
「では行きましょう! 早く早く!」
「うおっ!? り、両手を持たれたままだと歩きにくいぞキタサン! キタサン!」
聞こえてくるヒソヒソ声を受け流しながら、あたしはトレーナーさんを引っ張って早足で歩き出す。
さっきまでの視線がなぜかさらに温かくなった気がするが、気にする余裕もなく、ただただ逃げるように進み続けるしかなかった。