ウマ娘キタサンブラック短編集   作:大典74

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pixivにある同名の作品を手直ししております


かき氷越しの小さな出来事

「う~ん……! ヒンヤリしていて美味しいです!」

「やっぱり夏はかき氷だよな」

「ですね!」

 

 祭りの喧騒から離れたベンチ。

 シャリシャリと涼しげな音を立てて、ふたりで氷をすくう。俺の手元には赤色のいちご、隣のキタサンの手元には鮮やかなブルーハワイがこんもりと盛られていた。

 

「何となく、キタサンはいちごを頼む気がしたんだけどな」

「えっ? ……えへへ、今日は青の気分だっただけです!」

 

 一瞬の間。注文の時も何か閃いたような顔をしていたし、きっと何か企んでいるのだろう。まあ、後で聞けばいっか。

 そう結論づけて、かき氷を口に運ぶ。

 シロップの甘さとともに、氷特有の刺さるような冷たさが広がった。キーンとくる痛みを警戒して、軽くこめかみを押さえる。……なんとかやり過ごせたようだ。

 ふうっと息を吐いて隣を見ると、キタサンは満面の笑みで、勢いよく氷を頬張っていた。

 

「あむあむ……♪」

 

 あまりに美味しそうな食べっぷりに、自然と頬が緩んでしまう。

 ……だけど、そんなに勢いよく食べたら。

 そう心配した、直後のことだった。

 

「うっ…………!」

 

 小さな悲鳴とともに、キタサンが頭を押さえだした。トントンとこめかみを叩いているが、さっきの俺よりもずっと苦しそうだ。

 俺はゆっくりと背中をさすりながら、彼女の様子を窺った。

 

「大丈夫かキタサン?」

「とれーなーさん、ありがとうです。あたしはだいじょーぶです……ううっ、けど、あたまがきんきんしますぇ……」

「ふふ、あんなに勢いよく食べてたら、そうなるのは仕方ないよ」

「うう……そうなんですけど……」

「落ち着くまで背中をさすってあげるから」

「……あたまがいいです」

「分かった分かった。よしよし」

 

 そっと頭に手を乗せて撫でる。

 すると、しょんぼりと伏せられていたキタサンの耳が、みるみるうちに嬉しそうにピンと立ち上がった。

 

「ありがとうございます、トレーナーさん! キタサンブラック、もう大丈夫です!」

「それなら良かったよ。頭を撫でるのはもういいかな?」

「あっ! それはもう少しだけ……」

「はいはい」

 

 現金な子だなと思いながら頭を撫で続ける。すると、キタサンはまた幸せそうな顔でかき氷を食べ始めた。

 まぁ、この表情が見られるなら別にいいかな。俺は存外チョロいのかもしれない。

 

「えへへ、幸せです!」

「それなら良かったよ」

「はい! ありがとうございます、トレーナーさん!」

 

 頬を緩ませて、キタサンは再びスプーンを手に取った。

 シャク……シャク……シャク……。遠くの喧騒とかき氷を食べる音だけが、ふたりの間に流れていく。

 半分くらい食べ終わった頃。ふと視線を感じて隣を向くと、キタサンが手を止めてこちらをじっと見つめていた。

 

「どうしたんだキタサン?」

「トレーナーさんに見せたいものがあります!」

 

 見せたいもの? 何だろうか。

 キタサンの手元には、かき氷とスプーンしかない。服装に不自然な膨らみもないし、そもそも今日はカバンすら持っていないはずだが……。

 不思議そうに首を傾げる俺を見て、キタサンは頬を掻きながら照れくさそうに笑った。

 

「あはは、物ではないんですよね」

「違うのか。じゃあ何を……?」

「これを見て下さい!」

 

 そう言って、勢いよくキタサンは舌を出した。そのままドヤ顔でこちらを見ている。

 ……見せたかったものって、真っ青に染まった舌? そりゃあかき氷を食べたのだから当然……。

 いや、待てよ。確かキタサンは……。

 

『えっ? ……えへへ、今日は青の気分だっただけです!』

 

 買う時も、何かを思いついた顔をしていたな……。

 えっ? ということは……まさか本当に……?

 あまりにトンチキで可愛らしい理由に行き当たり、俺は思わず口を開いていた。

 

「もしかして……それを見せたかったのか……?」

 

 コクコクと力強く頷き、キタサンは舌を引っ込める。

 

「はい!どうでしたか?キレイな青色でしたか!」

 

 曇ることのない真っ直ぐな瞳で、トンチキなことを言っている。

 そうか……これをしたかったのか……そうか……。

 彼女のあまりにも無邪気な企みに、俺はたまらず口元を手で覆った。

 

「ふ……ふふふ……」

「トレーナーさん?」

 

 不思議そうな顔でこちらを見るキタサン。

 ごめんキタサン……でも……ふふふ……っ。

 

「ふふっ……だって、買う時に何か閃いた顔してたから。やりたかったことがそれかと思うと、微笑ましくて……」

「え!? かき氷を食べたらやりませんか、これ!?」

「やるけど……ふふっ、もっと凄いこと考えてると思ったんだよ」

「むぅ~……そんなに笑わなくてもいいのに」

「あっ……」

 

 頬を膨らませてこっちを見つめるキタサン。

 やってしまった。慌てて頭を回すが、都合の良いフォローなんて浮かばない。

 ……うん。やっぱりこれしかないよな。

 

「ごめんごめん! ほら、俺も舌が変わってるから……っ」

「トレーナーさん、いちごだから赤いだけじゃないですか」

「ぐっ……」

 

 あまりに正論すぎるツッコミに、ぐうの音も出ない。

 

(ど、どうすればいいんだ……!?)

 

 必死に頭を回すが、上手い返しが何一つ思い浮かばなかった。

 

「ふふふ……」

 

 突然の笑い声にハッとして顔を上げると、キタサンが肩を震わせていた。

 

「キタサン……?」

「ごめんなさいっ。必死なトレーナーさんがなんだかおかしくて、つい……。今、トレーナーさんの気持ちが分かりました。こんな感じだったんですね、ふふふっ」

 

 俺の必死な様子がツボに入ったのか、彼女はクスクスと笑い続けている。

 なるほど、確かに自分がやられるとムッとするかもしれない。

 先ほどの自分の態度を省みて、俺は素直に頭を下げた。

 

「本当に悪かったよ」

「あたしも、本当にごめんなさいっ」

「仲直り……いや、喧嘩ってほどでもないか。でも、これで仲直りだな」

「はい! ……それでその、仲直りのついでにお願いがあるんですけど」

 

 何故か照れくさそうに笑うキタサン。

 

「出来る範囲なら何でも大丈夫だよ」

「そうですか……それなら……トレーナーさんのかき氷、少しだけもらってもいいですか?」

 

 俺の?

 一瞬だけ首を傾げたが、何がしたいのかすぐに思い至る。

 断る理由なんて何一つ無かった。

 

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます!」

 

 少しだけ溶け始めた器を渡すと、キタサンは嬉しそうにそれを受け取った。

 俺が使っていたスプーンで氷を掬い、小さく口を開いて、パクリと運ぶ。

 

「見て下さいトレーナーさん!」

 

 そう言って、彼女はもう一度ペロッと舌を出した。

 そこには、俺の赤と彼女の青が混ざり合った、鮮やかな紫色があった。

 

「綺麗に混ざったな」

「えへへ……やりました!」

 

 ペロッと舌を引っ込めて浮かべたのは、いつもの満開のひまわりのような笑顔だった。

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