⚠オリキャラと原作キャラの捏造両親が出てきます。
⚠捏造設定ご都合展開多分に含みます。
この世界に生まれた時から、俺には変な物が見えていた。
村の中で時おり見かけるソイツらは小さな化物だったり、幽霊のような希薄な形状だったりと様々な形をしていた。
そしてそのどれもが、命ある生物とは違う存在だと主張するように、忌避感を覚えさせる不気味な気配を帯びていた。
しかしその異質さの割に、昼夜を問わず、どこにでも、まるで日常に溶け込むように存在している。
そのため初めの頃は、その異形が存在するのはこの世界では普通の事なのかとそう思っていた。
しかし他の人は、その存在を知覚している素振りすら見たことがなく、村にいる人達にはほぼ全て会ったことがあるが、誰もが俺と同じようにその存在が見える人間では無かった。
この異形達はやはり、普通の生物とは違う異質な生命体であり、そしてそれが見えることの方がこの世界で異常なことなのだと俺は理解したのだった。
そして初めてその存在を知覚したとき、当然俺はとても驚き恐怖した。
しかし俺のその拒否反応とは反対に、奴等は人に対して直接危害を与える事はなく、俺も奴等から被害を被ったことはなかった。
俺と同じように見える人間がいて、更に祓い屋のようなまじない師が存在するのだとしたら、この不気味な存在を消してほしいと思う気持ちがある。
しかし何度も言うように、奴等は気味悪いが害はない存在だ。
その関係もあり、このように村の中にいても誰も奴等に関わらず、放置されているのかもしれない。
そう考えるようになっていくと、それを見るたびに、恐れ縮こまるのもアホらしいと思うようになり、俺は彼らに対して怯える事は少なくなっていった。
その存在へ不快感を覚えながらも、それらへの対処法などはわからないため、俺は奴等に対して何か行動を起こすことはなかった。
だがそれも数年たつと、奴等はどうしても無視できない存在に変わっていった。
何故かはわからないが、小学生に上がった時から俺はその異形が近くにいるだけで、体調を崩すようになったためだ。
しかも最悪な事に、奴等は繁殖でもしているのかと思うほど、年々見かける回数が増え、様々なところに現れるようになっていたため、俺はまるで重い病気にかかったかのように寝込むことが増えた。
悍ましい形をした異形達だが、もう見慣れた物だし、直接害を及ぼす事はない。
そのため精神的には、特に恐怖を感じない程にその存在の事を割りきっていたはずなのだが。
しかし肉体は、その存在に対して身の危険を感じるのか、そいつらを見ただけで全身が粟立ち気分が悪くなり、酷いときには倒れるほどだった。
年齢を重ねても、依然としてこの異形たちの知識がない俺には、やはりその事への対処法がなく、どうする事もできなかった。
医者にも匙を投げられたのは当然だ。
俺の身体に異常なんてものはないのだから。
そしてその原因を俺自身、理解しているのに、俺には何もできない。
そして他の人には奴らの存在が見えてないのだから、俺に起きている事は分かって貰えず誰にも助けて貰えない。
本当なら子供として、自由を謳歌しているはずの新しい人生だった。
そのはずなのに、最近の俺は奴らのせいで何もできずほとんど寝込んでいる。
俺は、心までもが限界に近づいていくのを感じていた。
そしてその事に辟易した俺はある日、両親についポロっとその存在への愚痴を溢してしまった。
俺の両親も当然奴らの事は見えておらず、俺の口から発される事柄は常識ではあり得ない話だった。
そういった反応をされるとわかっていながらも、電波だと、頭がおかしいと思われてもしょうがないような話がつい口から出てきてしまい、奴らの事を話してしまった。
既に俺の心は限界を迎えていたのかもしれない。
両親に理解されなくても、その悩みを打ち明けることで、少しでも救いを求めてそんな事をしでかしてしまったのだろう。
そしてそんな俺の話を聞いた両親から返ってきたのは、俺の想像とは全く違うものだった。
俺に向けられたのは父からの拳と母の悲鳴のように非難する声だった。
それらは酷く、実の子供、ましてや心と体が弱っている子供へ、向けるような物ではないだろう。
しかし両親が行ったソレは俺等が置かれている状況を考えると納得できるものだった。
なぜなら俺の一家が住んでいる場所は、とても普通じゃない特殊な環境だったからだ。
そもそも俺が住んでいる村は、地図に載っていないほどの過疎地である。
人々から忘れられたこの村は、その代わりに村人の間での結束が強く、よそ物や村へ損害を与えると見られる存在を排除するような傾向にある。
そしてこの村に愛着があるだろうと、村を捨てること等なく、存続させるために協力しあうのが当然のことだという、住人からはそんな同調圧力を感じさせるほどだ。
その作られた輪の中で、幽霊だの何だの空想を持ちかけ、和を乱すような異物は排除されてもおかしくない。
そして子供といえども、家族がそうなれば一族共々この村では排斥され生きていけなくなるだろう。
その理由と、村にある実例もあったため、両親はここまで俺の事を拒絶したのだろう。
その出来事から月日が経ち、様々な知識を得て冷静に思い返すことができたからこそ、この事は分かったことであり、当時の俺ににはその行いにそんな事を理解することはできなかった。
ならば、そんな風に両親から拒絶を受け、幼い子供がその行為を納得するのは難しい事だし、心を病んでしまってもおかしくない程のことだろう。
しかし俺は普通の子供ではなかった。それは異形が見えることとは別の部分で普通の人とは違う部分があった。
俺は、いわゆる前世というものの記憶を持っている。
前世では、大人になるまで何事もなく普通に生きていたが、ある日突然事故に遭い、死んだ。
そして次に目が覚めたときは、この村に転生していた。
7年ほど子供として過ごしたためか、身体に引っ張られているのか、子供になっている部分も少しあるが、大人としての人格が多分にある。
だからか、俺は両親から受けた行為に、自分の中で湧き上がる複雑な感情よりも、彼らのこの村での排他される、そしてすることへの恐れのような物があるということを重く感じ取った。
そのため、俺は両親に気を引くために嘘をついたと、そうやって嘘に嘘を重ねて、両親に謝罪をするという行動をとった。
しかしその後、逆に何故かその俺の嘘が疑われることになった。
何故そうなったのかは今でも理解できないことだが、面食らいつつも俺を疑う素振りを見せる両親と幾つか問答を重ねた。
両親は最終的に崩しがちになった体調の事も相まって精神的な不安から来た嘘の話だったのだと納得し話は終わった。
そうして、俺は異常者ではないと信じたからか、俺の事を両親は優しく慰めてくれた。
だがそんな事で俺の心は晴れず、それ以降、誰にも相談できず、そして他の人に異形が見えるという事を悟られないように過ごさなくてはいけなくなった。
異形によって気分が悪くなろうが体調を崩そうが、どうにか耐え忍び、過ごしていくことになった。
そんな俺に転機が訪れたのは、その出来事から幾年かたったある日の事だった。
その時の俺は1人、小さい山の木の上で黄昏ていた。
この村に同じ年頃の子供が少ないのもあるが、このじめじめとした村の空気感を間接的にも感じたくないこともあり、時たま、俺は独り誰もいない自然の中で物思いにふけるのを好んでいた。
体調を崩していた頃は、独りで何処かへ行くことは許されていなかったが、この頃になると倒れることもかなり少なくなっていたため、独りでいることも許されていたのだ。
そうやって木の上に登りぼんやりと遠くを眺め、いつものように現実から目を背け独り思考を飛ばしていた。
そんな時、いつものように奴等が現れたのだ。
その異形は俺を狙って現れたかの様に俺の近く、昇っている木の下に現れた。
そしてソイツは上にいる俺へ意を向ける事もなく、またどこかに行くこともなくそこに佇んでいた。
やはりソイツも人間に危害を加えるような存在ではないようだ。
ならば多少の影響はあるが、俺はいつものように気に留めないようにしていた。
しかし、ソイツはいつもの異形たちと格が違うかのように、不気味な気配が強く、俺の身体に与える影響も大きかった。
そして耳を澄ませるとソイツは何かブツブツと言葉にならない音を発しており、それには怨嗟が籠められているようだった。
年月を重ね、少しずつだが耐えることになれていた俺だが、それでもここまで負の感情の塊のような奴は久しぶりだった。
流石にこの気味の悪さには体の方が音を上げたようで、俺は木の上からずり落ちそうになる。
が何とか寸前でこらえ、ここから立ち去るためにも、ゆっくりと木から降りる。
近くに降りてもいつもの奴らと変わらずこちらに意識を向けることはなく、ソイツは独り言のように何かを呟き、ただそこにいるだけだ。
危害を加えないと理解しても、それでもやはり言い様のない不快感が込み上げてくる。
しかも下に降りたせいで、奴との距離も縮まったためか、先程よりもずっと強く、それを感じる。
くらくらと頭が痛み、足元が覚束ないながらもなんとかそこから離れようと、ソイツに背を向けて歩き出す。
すると突然その声と体を襲っていた重さが霧散した。
その異常事態に後ろで何があったのかと振り向くと、その異形がいた場所に、代わるように1人の男が立っていた。
その男は俺の様子を見て何か驚いた様子で声をかけてくる。
「キミ、大丈夫かい?」
その声を聞き、改めてその人物を見ても、この過疎地では珍しく、俺が見たことも会ったこともない人物だった。
その人はくたびれたスーツに身を包み、幸が薄そうなそして何処か顔に疲れが見える壮年の男性だった。
「ああ…いきなり話しかけてごめんね。一応この村の人間なんだけど会ったことは…ないもんね?僕は枷場浩っていうんだ。名前だけでも聞いたことはあるかな?」
こちらを安心させるためにか笑顔を見せつつ、声をかけてくるその顔に、やはり見覚えはない。
しかし彼が告げた名前、枷場という名字には引っ掛かるものがあった。
枷場という名前はこの村で良く耳にした事がある。
しかしその全てが悪評としてだが。
大人たちは、最低限子供の前で、彼らの事をあまり口を出さないようにしているみたいだが、逆にそのせいで感じ取ってしまう事もあった。
だから俺は幼少期からその名前には少し興味があった。
そして人の口に戸を立てる事はできない。
いくら大人たちが注意していようが、何年もこの村で生活していると流石に子供でも彼らへの悪態は聞いたことがあるだろう。
そして彼が語るには、その家は頭がおかしい者だらけだの、奇っ怪な事をする変人だの、村の裏切り者等々語っているのだ。
それに加えて、村の政からも、一家を排斥しているのを感じ取ることができた。
それから察するに、枷場家はいわゆる村八分という制裁を受けているのだろう。
村の人たちの事情や関係は知らないが、よってたかって人を拒絶し、疎外するという事へ良い気はしない。
しかし、いかんせん子供の俺にそれをどうにかできないし、ましてや赤の他人だ。
そして、彼らと関われば俺、ましてや家族にも悪評を流されかれない。
自分を心配してくれた人間に対して、とるべき態度ではないし申し訳なく思うが、そのかけられた声を無視して家に帰ろうと足を進めた。
そんな態度を取る俺に、彼は少し苦笑しながら更に声を掛ける。
「キミ、さっきここにいたヤツが見えていたんだろう?少しあてられていたみたいだし、そのまま帰るのは危ないよ。」
その言葉を聞いた俺は驚き振り返り、彼と目が合う。
彼の目には心配と少しの悲哀のような物が混じっていた。
「やっぱりその反応…キミには見えてしまっていたんだね。」
そんな彼に対して俺は先程のように無視するということはできなくなっていた。
ここで彼と話をすることによって対外的には問題があるかもしれないが、俺個人として頭を抱えている問題の解決法が見つかるかもしれないのだ。
彼を無視しようとした事への申し訳なさも相まって俺はおずおずと口を開いた。
「はい。見えてました。浩さんもあの化物が見えるんですか?」
「うん。見えるよ。あれは呪霊と呼ばれるものなんだ。僕はそれを退治することを仕事にしている呪術師っていう職業に就いているんだ。うん…その反応からどっちも心当たりが無いみたいだね。」
呪霊…呪術師その単語に俺の中でなにか引っかかる気がする。
直ぐに思い出せないとなると前世の記憶だろうか。
「すみません。その…自分以外に見えた人にすら会ったことがなくて…。」
「ああ謝らなくて良いよ。しかしそうか…何も聞いたことがないか…。じゃあ簡単に彼らについて説明するね。」
そうして浩さんからあの異形たち、呪霊という存在について色々と教わった。
浩さんの話を一通り聞き終えた後、俺は意を決して彼にある事を頼む。
「あの…最初に無礼を働いて申し訳ないのですが…。これからも僕に呪霊の…呪術の事を教えて貰っても良いですか?」
「うん。さっきの事は気にしてないから大丈夫。知らない大人に声をかけられたらその反応で正解だし、そういう反応をされるのに僕はなれてるからね。
それで呪術の事を教えるのは…。うん…ちょっと難しいかな。僕に会うのを親御さんは許さないだろうし…ごめんね。」
そう告げられて少しの納得と大きな落胆の気持ちに見舞われる。
今世で幾度となく俺の頭を悩ませてきた元凶。
その対処法がわかるかもしれないが、伸ばした手は空振りに終わる。
しかし彼の中にも、俺が彼と関わるのを拒否したように、村の人間と、そしてその中でも重要な子供である俺と関わることで起こる不利益があるのだろう。
彼の事を追い詰めてしまっても申し訳ない。
しかし彼からもらった情報だけでも俺にとって値千金である。
ならばここからはそれを元に自分の力で試行錯誤してどうにかするしかないか。
そう俺が考えていると、浩さんは顎に手を当てて何かを思案するような素振りをしていた。
「うん…。でもそうか…。呪霊のせいで体調を崩しちゃうんだもんね…。」
何かを呟いた後彼は伏せていた顔をあげ、こちらに向き直る。
その顔に浮かべた表情は、まるで我が子を見る親のようなそんな優しげな物だった。
「よし。じゃあいくつか約束をしよう。それが守れそうならキミに呪術について詳しく教えるよ。
そんなに教えられることはないとは思うけど僕の知ることは全部ね。
まずは他の人に呪術については黙っていること。
もちろん僕と会っていることもね。
これはお互いに損にならないために絶対守ること。
それと会うのは毎回この場所でね。誰にもここに来ることがバレないようにすること。こんな感じかな。」
出された提案は俺にとって得しかないようなそんなものだった。
一見俺を跳ね除けるようにしかし実際はこちらに寄り添ったそれを受け、俺は涙が出そうになるのを堪え、応える。
「わかりました。絶対に守ります。」
「あとは…僕もそこまで時間は取れないから、教えるのは毎日とは行かないし、時間もそんなに長く教えることはできない。それでも良いかい?」
「ありがとうございます。俺はそれでも大丈夫です。これからお願いします枷場さん。」
俺は頷き、頭を下げた。
「うん。これからよろしくね。じゃあ来週の水曜日にまたここで会おうか。」
「わかりました。これからよろしくお願いします。」
もう体調も良さそうだね。気を付けて帰るんだよ。と彼は最後までこちらを労り、枷場さんと俺は別れた。
あぜ道を歩きながらも俺は思考する。
呪霊そして呪術師という存在について、その場では思い出せなかったが、落ち着いた頭で前世の記憶を辿ると、思い当たる物語が1つあった。
その考えが合っているかどうかは、確定的な単語、例えば総監部とか御三家とかの話は枷場さんからは、出てきていない為わからない。
しかし、呪霊の悍ましさや教えてもらった発生理由等を考えてみるに、この世界は、やはり呪術廻戦の世界もしくはそれに酷似した世界なのではと、考えが浮かぶ。
漫画としては一読者として読んでいたし作品として好きな部類ではあるが、いかんせんこれから訪れる呪術テロやら何やらの当事者になる可能性がある。
その事に俺はかなりの絶望感を抱き、似たような化物がいるだけの別の世界であってくれと願う。
それでも少しだけ。
超常の力の存在、そして化物―呪霊への対抗手段を持てるということに、ワクワクする気持ちを覚え、軽くなった身体で俺は家までの道を走り出した。
それから俺と枷場さんの秘密の関係は続いた。
暇がないと言っていたのに、その勉強会は毎回何を教え何処を改善するかその要点が纏められており、呪術については赤子のような俺でもついていけるレベルのものだった。
そのおかげか、俺自身、毎回新しい成長が見つかる有意義な時間を過ごしていた。
それに加えて枷場さんの人柄もよく、懇切丁寧に教えてくれるのはもちろん、節々に俺を労るように接してくれる。
だからか俺はこの時間を毎回楽しみにしていた。
彼はいつもどこか疲れているような表情を浮かべているが、それでもこの村の人達とは違い、鬱々とした何処か暗い空気を纏っておらず、立派な大人として俺と接してくれる。
そんな彼に好感を抱くのは当然のことだった。
それでも彼が俺と交流してくれるのはこの裏山だけだった。
時折、この村の他の場所で見かけることがあり、彼に俺はつい気持ちを抑えられなくなり、こっそりと声をかけたことがあった。
しかし彼から、俺を赤の他人であり、もっと言うと敵でも見るような雰囲気を纏って接されることで、俺のその行為は黙殺されることになった。
その為、最初の約束の通り、この裏山で会って呪術について教え、教わるだけ、俺と浩さんはそんな間柄だった。
拒絶を受けても、当然俺の為にここまで時間を割いてくれる彼への印象は変わらない。
彼のなかで特に印象に残っているのは最初の出会いで、少し疑問に思っていた点。
それについて彼に尋ねたときの事だった。
もしあの時自分が只の体調不良で、呪霊が見えているというのが彼のとんでもない見当違いだった場合、そんな頭のおかしい事を聞けば間違いなく浩さんの立場は今より悪くなる。
そんなリスクがあるのに何故俺に声をかけたのかという疑問に答えたときだった。
「いやまあ…明らかに見えてるだろうなってのは解ってたからね。
キミから一般人ではないという証明できるもの、微弱だけど一定量の呪力が流れていたし。
それにその推察が間違っていたとしても、その時はその時だよ。
呪霊なんて見えていない方が良いから。
僕の勘違いだっただけならその方が良いさ。
でもね。見えないように願っても見える人には見えてしまうから、そんな被害に合っている人を見逃すぐらいなら僕は声をかけるさ。」
その顔はやはり草臥れていたが、その目にはとても力があり、自分の行為への信頼と決意のようなものが見えていた。
その様子から見るに、彼はやはり、呪術界では珍しいとされる根っからの善人なのかもしれない。
そんな話を聞いた俺が、ますます浩さんの事を慕うようになっていくのもしょうがない事だろう。
そうして月日が巡り俺の身体も成長し中学生にあたる年齢になった頃。
約束通り、俺は枷場さんから呪術、それに付随して呪術界のことを一通り教えてもらい免許皆伝となった。
「うん。もう僕に教えられることはないかな。」
その時の枷場さんの顔は今でも覚えている。
何処か遠くへ行くような、そして俺を突き放すような空気を醸し出していた。
「約束通りこれからはもう君とは会えない。もし何処かであっても他人のふりをするんだよ。」
元気でね。と言って彼は俺の返事も待たずにその場から消えてしまった。
しかし俺は、以前の約束を破り村で彼に声をかけ始めた。
その事でどれだけ周りから非難されようが、そして彼から突き放されようが、俺は会話を投げ続けた。
自分の心に蓋をして彼を無視し、関係を終わらせることもできた。
しかしそれは余りにも寂しい事だし、何より他の人間のように、彼を呪霊と同じような存在しないものとして扱うことが俺には許せなかった。
少しでも彼がここにいて良いのだと、ここにいた事で救われた人物がいるのだと証明したかった。
その時の俺はそれがどんなに枷場さんの立場を悪くするかという事を十分に理解していなかった。
村という閉鎖的でたちの悪いコロニーを何処かまだ甘く見ていたのもある。
けれども過去の俺がそれを知っていたとしても、変わらなかったとは思う。
ここまで真摯に他人の俺の面倒を見てきてくれた、そんな彼と付き合ってきて抱いた自分の心へ嘘をつくことも許せなかったのだから。
あまりにも身勝手で我儘なその一方的な交流。
それは彼が亡くなるまで続いた。
突然のことだった。
両親から浩司さんの葬式をやるという簡単な説明で彼が亡くなったことを俺は知った。
死因はわからないらしいが、帰ってきた彼は無残な姿だったらしい。
その事から、俺は恐らく呪霊討伐の最中に彼が亡くなったのだと思った。
その他にも関係者のような余所者が参列しようとしてたがつっぱねたという話等も俺の耳に聞こえてきた。
恐らくそれは同業の呪術師か、窓の人間だったのだろうか。
最期まで村に迷惑をかけやがってという声が俺の耳にこびりついた。
両親や村の人達は、爪弾き者が何処かで呆気なく死んだと。
村を捨てたからこうなると言っていた。
それは、あの人の人生を嘲笑しているようだった。
村八分の最後の温情と言える部分。
どれだけコミュニティから弾こうが、葬式などの最期のことだけは手伝うという決まりでもある。
だが、それでも人々の心は変わらないし変わるわけがない。
葬式にはある程度の人間が参加していたし村の住職も呼ばれていたが、そこはとても故人を偲ぶような雰囲気ではなかった。
近所に住むいつも優しいおばさんや俺の少ない同学年の子供達でさえ、この場で枷場さんを侮り、迷惑がる空気を醸し出していた。
そんな状況で、当然俺の心には、沸々と怒りが湧いてくる。
しかしそれを今ぶつけてもどうにもならないし、そこはこの村で越えてはいけない部分でもある。
それを自分に言い聞かせ怒りを押し殺しながら葬式に参加していた。
そんな中、1人だけ彼の死を弔うようにすすり泣く女性の方がいた。
周囲の話に耳を立てればそれはこの葬式の喪主であり、枷場さんの奥さんである毬恵さんだそうだ。
その人物に俺は会ったことがなかったが、浩さんから話を聞いたことがある。
彼は極稀に、俺との会話の中で口を滑らせて、家族の話をする事があった。
その情報によると奥さんである毬恵さんは心を病み家で療養しているとのことだった。
それなのに旦那を亡くした毬恵さんに深い同情を覚える。
浩さんを知る人として彼女と話したかったが、泣き喚く彼女には近づくことすら憚れた。
そうして葬式は終わった。
それから何ヶ月かたった後枷場さんの家に新しい命が生まれたと風の噂で聞いた。
考えてみれば葬式の時彼女のお腹は少し膨れていたような気がする。
浩さんが亡くなった事もあり、より気持ちが落ち込んでいるだろう毬恵さん。
その元に新しい命が生まれ、更にそれを育てるのは今の彼女に大きな負担がかかるだろう。
そこを心配する気持ちもあるが、少しだけ喜ばしさもある。
そして村の人達はというと、当然、彼女の子が生まれた事に対する心象はやはりよろしく無いらしい。
俺はその子たちに会いに行きたかったが、一度だけ浩司さんの線香をあげに家を訪ねた際、毬恵さんから門前払いされてしまっており、彼女にはっきりと拒絶されていた。
そこから時間は経っているが、変わらず毬恵さんは人を特に俺を遠ざけているように思える。
だから俺がその子たちに会うことはないだろう。
俺は何処か心にしこりを感じながらもさらに数年が経った。
高校生になった俺は、葬式の件もあり、心の内では同学生達と袂を分かちつつも、現実では細々と交流していた。
俺は彼らと当たり障りもなく、付かず離れずの友好関係を築いていたが、それが俺の心の影をより大きくしていった。
そんな鬱屈した日々を過ごし、細々とある計画を立てていた時、帰り道を歩いていると小さな2人の少女が道で立ち止まっているのが見えた。
少女達は遠くから見ても何かに怯えているのがわかる。
そんな様子のおかしい幼子たちへ、道行く人達は声をかけなかったのだろうか。
まるで世界に敵しかいないかのような、そんな2人の空気は見ていて痛々しく、俺の胸に刺さった。
そうしてもしかしてと、怯えているその原因を探ると直ぐ近くに、原因であろう低級の呪霊がいるのが見えた。
恐らく彼女達は呪霊を認識できるのかもしれない。
そして過去の俺のように直接危害を加えられなくても、呪霊から発せられる負の気配による影響があるのだろう。
彼女達にはそれに対処する術はやはり持っていないように見える。
だから恐怖からここから動くこともできず、ただ嵐が去るのを待っているだけのように思える。
それはまるで俺が浩さんと出会った時の焼き回しのような場面であり、その事に懐かしさと寂しさを感じつつ、呪霊を祓う。
昔は恐ろしかったが、こちらを攻撃する考えすら持つことができない、そんな呪霊だ。
今の俺にはなんて事のない存在であり、呪力を放出しただけで霧散した。
そんな俺の姿を見て2人の子供は更に警戒を強めたようだ。
2人から向けられる視線が強くなったのを感じる。
呪霊を祓っても、むしろ祓ったことで彼女達の警戒心が強まったようだ。
その突き刺さるような視線を受け流しつつ俺は彼女達に声をかける。
あの時の俺に差し伸べられた手のように。今まで理解を得られず、傷つけられてきたであろう彼女達の事を、優しく労り、そして自分は彼女達の味方だと証明するように。
「大丈夫かい?君たちにもさっきの奴が見えていたんだろう?」
そうして声をかけた子供、その少女達の名前は、枷場美々子と菜々子という双子の女の子達だった。