「いいじゃない」
防衛線はブロックとバリケードを使ったシンプルなものだがテントの設営も行えている。短時間でここまでできるのはさすがの一言だ。
そう思っているとワシントンと清明から念話がかかる。
『まずはワシントンから』
『彼らは救援要請を承諾してくれた。歴史や宗教のことは戦闘終了まで抜きでという協定も結べた。恐らく明日には現地に到着できるだろうとのことだ』
『最高。清明は?』
『USNAとの橋頭堡が国連本部ビルに置かれることになった。それで君に来てほしいと』
『了解だ。まぁボスが出ないわけにはいかんだろうな』
正確に言えば俺達に上下関係はないのだが、外部からは俺がトップに見えるのだろう。
「俺はUSNAとの情報共有に行く。頭はジャンヌ、陣頭指揮は信玄に。同士討ちすんなよ」
こうすれば聖女の率いる軍勢となり、悪魔どもへの攻撃力・防御力が跳ね上がる。
あいつらに防衛線を任せビルへと向かう。
防衛線は素人目から見ても良い出来をしているのが分かる。
バリケードはシンプルながら頑丈に作られていて、指揮所や休息のためのテントなども敷設されている。
彼らの実力は先ほどの戦闘で見せつけられた。霧が来るまでは持ちこたえられるだろう。
そう思い少し安心すると同時にふと疑問がわく。
「信玄さん?」
「なんだ?」
防衛線の構築が完了したため、休息をとっている信玄さんに疑問をぶつける。
「さっき千草のことカナンって言ってたよね。彼の名前って神無木千草じゃないの?」
「…コードネームみたいなものだ。かんなぎだからカナン。」
「なるほど」
こういった事態への対処に一々本名を使っては生活に支障が出るということなのだろう。
そう納得していると背後から大きな走行音がする。
「誰だお前らは」
信玄さんが前に出る。多分私が見つかるとどうなるか分からないという配慮なのだろうと考え、一旦隠れる。
「私たちはUSNA軍統合参謀本部直属の魔法師部隊、スターズです」
そう深紅の髪に金色の瞳をした人物が言う。
「この国の軍人であるのなら俺たちの協力者ってことか。歓迎しよう」
そう言って信玄さんは握手を求め、相手もそれに応える。
国連本部ビルへと降り立ち、24階へと上がる。
部屋へと入ると相手側は既に部屋に椅子に座っていた。相手はこちらを確認すると席から立ち上がり、握手を申し込んでくる。それに応じながら謝辞を述べる。
「失礼、少し遅れましたかな」
「いえ、前線からでしたらしょうがないことです。」
席へと座り、相手へと向き直る。
「USNA軍統合参謀本部最高司令官、カーチス・ニミッツです」
「ゴーストバルザフの代表、カナンです。どうぞよろしく」
「出来るだけ正確に現状を教えて頂きたい。特にあの霧の中の事象についてです」
「あなた方が把握している情報とそう変わりはないと思いますがどうしてそこまで?」
「実は政府内で今回の事案の終結に際して戦略級魔法の使用を検討しておりまして」
「戦略級魔法!?この国は数十万人を飲み込んだ異界に対して少なくとも核かそれ以上の何かを叩き込もうとしてやがるのか」
啞然とし、それと同時に怒りがこみあげてくる。奴らは国民を、人間を、なんだと思ってるんだ?
俺の気迫に気圧されたのかすごすごと話し始める
「えぇ、私もこの検討を疑問視しています。戦略級魔法を使ったところでこの事態が解決するのかと」
「根本的な解決策ではありませんが、現時点においては少なくとも有力な指針の一つですよ。その後の事後処理を完全に放棄しているという点を除けばですが」
そう言うと彼は深くため息をつく。
「…ですので、内部の状況を知りたい。強行突入を思いとどまらせるには人質が生きていることを証明するのが一番ですから」
「銀行強盗のメソッドか何かですか?…まぁこの島は世界最大の人口密集地帯です。生きていてくれなきゃ困ります」
「現状、あの霧の中の観測はできていないと?」
「えぇ、うちの者がやっていますがやはり異界ということもあり難しいかと」
「…そうですか。」
議論が煮詰まる。というよりはこれ以上は諸々が終わらなければ議論のしようがない
「そういえば、あなた方の協力者とはどのような者達なんですか?」
「アラブ同盟の司祭と西EUの聖職者ですけど」
そう聞くと彼の顔が曇る。まぁ他国の宗教関係者とのかかわりは避けたいのだろう
「…彼らは信頼できるんですか?」
「協定は結びましたし、彼らは悪魔どもがはびこっている中で人同士の争いを行うような信心浅い奴らじゃありませんよ」
「そうなんですか…」
「不安なのは分かります。ですが悪魔祓いは彼らの専門です。それに彼らがいなければ異界の内部に突入できたとしても、表に出てきてる悪魔どもの対処ができずに終わりますよ」
「…軍はいくらでも派遣できる。それにスターズも」
「お言葉ですがね、奴らは偽物とはいえ悪魔は悪魔。現代兵器ごときで殺せるほどやわじゃない。スターズとて良くて一日の時間稼ぎ、悪けれゃ半日と立たずに壊滅ですよ。」
「…そうであるのならやむを得ないか」
「えぇ。それでは私はこれで、防衛線へと行かねばなりませんから。」