フローレンスと別れた後、船に乗って再びマンハッタンへと向かう。
「…霧が迫ってきてる時、変な振動を感じなかった?」
「感じたけど、あれはただのマナ気象病の一種だろ」
ーマナ気象病ー
要は気圧の変化によっておこる耳鳴りである。気圧の変化の原因が標高によるものではなく、高濃度のマナによるものである、というだけだ。
「でもあの振動、知ってるのよ」
「知ってるって?」
「弟子のひとりが懐妊した時のことよ」
「あぁ、子母河の水吞んだ猪八戒のことか」
「そう、それでそのときのおなかの鼓動とさっきの振動が似ているって話でね」
「…赤ん坊の…鼓動か」
なにか引っかかる気もするが一旦は考えないでおく
ハドソン川を渡る船の上、私はアンジー・シリウス、いや4年前に姿を消した親友、アンジェリーナ=クドウ=シールズと話している。
「…なんでいなくなったの?」
「仕方なかったのよ。私は日本のQuarterだから、軍のスカウトを受けてUSNAのために命を懸ける。その姿勢を見せなかったら日本のスパイだと疑われたかもしれない」
「…せめて、居なくなることだけでも伝えてくれれば」
「言いたくなかったのよ。それを言えば永遠に会えなくなる気がして…」
重々しい空気が漂う中、船はマンハッタンへと着岸する。
現在時刻は20:00。本来ならば黒い空と月が見えているところだが空が赤いせいで全くそんなことはない。
事前に通信に入った通り、防衛線は後退しタイムズスクエアに構築されている。
「戻ったが、今はどういう状況だ?」
「戻ったか。今はダヴィンチからの情報共有をしている」
「向こうへの門は開通したのか?」
「短時間なら開通するけど、より長時間維持するなら向こう側からの開通が必要だね」
「それは先遣隊送り込めば解決することだ。それで中の状況は?」
「人はある程度生きてるね。飲み込まれたマンハッタン南部の人口60万人のうち、どのくらいが生き残っているのかは分からないけど。それと」
モニターに内部の映像が映し出される。そこには赤い空と街、そしてワン・ワールド・トレード・センターが映し出されているが、屋上に楕円形の物体が鎮座している。
「あれは?」
「魔力反応から推定するなら一番近いのは神かな」
ざわざわとスターズの隊長たちが揺らめく。悪魔どもと戦闘して挙句神だ。常識が根底から崩れ去っているのだろう。
だが、俺は全く別のことを考えていた。
「神か。なのであればあの状態は繭であるというのが適切か。」
そして、三蔵が感じたという鼓動。それから推察するなら
「…産屋か」
「産屋?」
「恐らく、この異界は神を誕生させるための産屋、子宮と言い換えてもいい」
「つまりこの広がりはそれだけ神が強大になっていってるってことか」
「だと思う。あと神っていうのまずいからイマーゴとでも呼称しようか」
「…つまり、突入作戦の目的は生きている市民の救出とイマーゴの討伐になるか」
「そうだな。こっちからも報告だ。明日の7時ごろには悪魔払いの専門家が一個師団ばかり来る。それと中部における市民の避難はおおむね完了した」
これで突入作戦までの準備はすべて整った。
「あいつらを防衛体制に組み込め次第、突入作戦を実行する。準備を」
「承知した」
「了解だよ」
こうして俺たちの戦いは最終局面へと向かう。
読者のなかには第三次世界大戦で人口が30億人ぐらいになったのになんでマンハッタンだけで数60万人いるんだと思った方もいるかと思いますが、これはカナンたちが戦争に介入しまくって犠牲者を20億人位まで抑え込んだからです。
ちなみに原作では60億人も犠牲になっています。核を使わずにどうやってここまで被害を出したのかも謎ですし、どうやってこれで近代的な生活を維持してるかも謎です