目が覚める。同時に体を懐かしい感覚が襲い、デュノアは自分がベッドに横になっていたことに気が付く。ベッドは外見こそ質素な作りになってはいるものの、質感は王宮のものと遜色ないほどの心地よさだ。デュノアを襲った懐かしさも、数日間の野宿に加えてこの寝床によるものだろう。
「お、目が覚めたか」
そう言って一人の男性が部屋に入ってくる。男は短めの赤髪に無精髭、といった容姿で何とも言えない貫禄が感じられる。
「あんた、名前は?」
「あ、デュノアです」
すると男は満足そうに頷きながら立ち上がる。
「あ、あの…!お名前は…?」
ベッドから起きあがったデュノアは部屋から立ち去ろうとする男を引き留め、訊ねる。
「ああ、そういえば名乗ってなかったな…。私はウルス、ウルス=ヴォルンだ」
「ウルス……ヴォルン…!?」
突如、デュノアの顔が引きつる。デュノアは『ヴォルン』という姓に聞き覚えがあったのだ。そして一つの仮定の存在に気が付いたデュノアは「まさか」という顔で男にもう一度訊ねる。
「伯爵…様…?」
「あはは、伯爵様なんて呼ぶのはよしてくれよ。伯爵といっても田舎の貧乏貴族だよ」
照れくさそうに頬を掻くウルスには先程のような貫禄は感じられず、ウルス=ヴォルンという人間そのものを感じさせる姿だった。
「君には頼みたいことがあるんだ。彼女について行ってくれ」
「は…はい」
何事かと訝しみながらもデュノアは月明かりの差し込む廊下をウルスの指示通り、侍女に続いて歩いていく。
「この部屋にどうぞ」
数分歩き、侍女がある一つの部屋の前で立ち止り入室を促す。
「ここですか?」
そう言いながら部屋に一歩踏み入れたところで異変に気が付く。この部屋、妙に薄暗いうえに他の侍女と思われる女性が大勢いるのだ。
―――な…なんでこんなに人が!?
本能的に一歩後ずさりすると先程の侍女が両肩を掴み、満面の笑みを浮かべながら
「さあ、始めましょうか」
―――なにを!?
侍女は楽しそうに一歩、また一歩とデュノアを部屋へと押し戻す。
「終わったか?」
返事を待たずに部屋に入ったウルスはあまりの衝撃にその場に一瞬立ち尽くしてしまった。
「…まさかこれ程までとはな」
デュノアの変化を見ながらウルスは思わず感嘆の声を上げてしまう。
「えっと…これは一体?」
当のデュノアは困惑していた。薄暗い部屋に連れてこられ、髪を短く切り、体を水で拭き、きれいな服まで着せてもらったのだ。嬉しい反面、警戒せざるを得ない。
「折り入って頼みがあるのだが、しばらくの間その恰好でこの屋敷にいてはくれまいか?」
「は…はあ」
ウルスの至極単純な頼みをデュノアは結局断りきれず、数日間この屋敷で過ごすことになった。
―――しっかし、妙なことになったもんだな…
部屋を出た後、少し風に当たりたいと言って庭を散策していたデュノアはここ数日間の事を思い返していたその時だった。
「何者じゃ!?」
突然庭の生垣の向こうから声がする。気になったデュノアは生垣をかき分け、奥へ奥へと進んでいく。
「だ…誰かおるのか?」
そのやや古風な言い回しにむずがゆさを覚えながら、声の主と思われる人物を覗く。
―――子供?
「だ…誰じゃ出てこい!盗人か!?」
「違うよ、俺はデュノア。あんたは?」
「まろは…ティグルムヴルムド。ティグルヴルムド=ヴォルンじゃ」
「ティグルヴルムド?」
「そ…そなたはどうしてこの家に?」
「ああ、ちょっとウルス卿に世話になることになったんだ」
デュノアのその言葉を聞いてティグルヴルムドは納得のいったような顔をする。
「そうか、そなたはまろの身代わりの…しかし話には聞いていたが、まさかこれ程顔や姿が似ているとはな…」
「身代わり?身代わりなんか立ててどうすんだよ」
「まろは生まれつき持病もちでな…いざという時の為じゃ」
「ふーん…そうなのか。まあいいや、とりあえずよろしくなティグルヴルムド」
「ティグルでよい。こちらもよろしく頼む、デュノア」
簡単に引き受けたこの一件の依頼は、これ以降のデュノアの人生を時代の流れに、渦に大きく巻き込んでいくのだった。
どうも、お久しぶりです!
大学受験は終わったのですが、久々に書いたのでなかなか調子が戻らず、少々(?)短くなってしまいましたがいまはこの分量が限界です笑っ
ご了承ください!