戦後世界のボーイミーツガール ~青春!探偵!ひとだすけ部!~   作:北極鳥ユキ

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Part15 ロッテの依頼

 廊下にロッテの姿はなかった。

 

 彼女を探しながら廊下を歩きだすと、向かいから一人の女子が歩いてくるのが見えた。

 もしかしたら、どこかでロッテを見かけたかもしれない。正多はそんな淡い期待を抱いて、その少女に声を掛けてみることにした。

 

「ちょっとごめん。この辺でロッテ……えと、ブロンドの二年生を見なかった?」

「見てない」

 

 少女は素っ気なく返すと正多の横を通り過ぎる。

 

「そっか……ありがとう」

 

 振り返って背中に礼を言うが返事はない。少女はそのまま二年生の教室に入っていくのが見えた。全く記憶になかったのだが、どうやら同級生だったらしい。

 

 正多はその後も廊下を進んで捜索を続けたが、ロッテは見つからなかった。

 

 教室戻り少しの間待っていると、彼女は昼休みが終わるころに戻ってきていた。

 正多は声を掛けようか迷ったものの、ロッテの周りには心配する彩里たちが集まってきていて、その機会を失ってしまった。

 

 正多の心配をよそに授業は続いていく。やがて放課後になりいつも通り史家と一緒に部室に向かうと、ほぼ同じタイミングでシュミットが部室にやってきた。

 

「ロクタチ、少しいいかい」

「あ、先生じゃないですか。はい、腕なら治りましたよ」

「それは良かった。ペンが持てないと困るところだったよ」

「へ?」

「キミ、昨日の英語でまた0点取ったろう。これから補習だ」

「い、いや、なんか腕が痛くなってきたかもぉ……」

 

 史家はそれ以上、何か言う間もなくシュミットに連行されていく。

 

「補習っていつ終わるんですか?」

 

 正多が尋ねると、シュミットは首を横に振る。

 

「ロクタチ次第さ」

 

 正多はすぐには終わら無さそうだな、という感想を持ちつつ史家を見送った。

 

 史家がいないと部室で独りぼっちだが、他に行くアテもない。仕方ないので帰ってくるまでは授業の復習でもしようかな、と正多は鞄に手を伸ばす。

 

「セータ君。ちょっといいかな」

 

 そんなタイミングで部室に声が響く。

 視線を向けてみるとドアの隙間から綺麗な碧い瞳が覗き込んでいた。

 

「ロッテ? どうしたの」

「実はひとだすけ部に依頼したいことがあって」

 

 がららっと扉が開き、ロッテが入ってくる。

 もしかしたら体調を崩したのかも、なんて心配していたが、ぱっと見る感じはいつもと変わらず元気そうだった。

 

「あれ、シカ君は?」

「シュミット先生のところ。英語の補習だってさ」

 

 正多は昼のことを尋ねるべきか一瞬だけ逡巡したが、今はロッテの相談に集中しようと決めて、その内容について訊ねた。

 

「実はね、人を探して欲しいの」

「それなら俺たちじゃなくて伏見さんの方が適任だと思うけど……」

「ううん。そんなに大それたことじゃなくって、学校に居る子なの。わたしね、その子にお礼を言いたいんだけど、名前が分からなくって困っていて。名前だけでもいいから知りたいんだ」

「なるほど。その子が何年生かとかは分かる?」

「うん。二年生だよ」

 

 ロッテは正多の予想以上に明瞭な返答をした。

 教室の廊下側の席に座っている女の子で、普段は一人でいることの多い子だそうだ。

 外見的特徴は、小柄で黒髪のショートボブ。ブレザーの下に着た黒カーディガンとか、厚手の黒タイツとか、全体的に黒っぽい色合いの服を好むらしい。

 

 そこまで聞いて、昼休み中に廊下ですれ違ったあの不愛想な少女が頭をよぎった。

 どうにも影が薄いというか、あまり印象に残るタイプではなかったが、ロッテの話す特徴とほとんど一致している。

 

「放課後に声をかけるつもりだったんだけど、タイミングを失っちゃって。だからせめて、名前ぐらいは知っておこうと思ったんだけど、上手くいなくて」

「上手くいかない?」

 

 正多は言葉の意味が掴めなかった。

 言葉からして、相手については既にある程度は分かっている様だし、お礼を言いに行くだけなのに名前を知る必要があるとは思えない。

 タイミングを失って……というのも、正直言ってよく分からない。同級生なのだから、タイミングなんていくらでもあるはずだ。

 

「とにかく、名前だけ調べてもらえればいいから、お願いできる?」

「もちろんいいけど」

 

 内容に戸惑いを覚えたものの、正多は依頼を受けることにした。

 

 用事があるというロッテが去り、再び一人になる。

 

「どうやって調査しようかな……」

 

 安請け合いしたは良いが、調査方法までは考えておらず、正多は頭を捻らせる。

 一番手っ取り早いのは誰かから聞くことだが、知り合いの同級生といえば、ロッテ、史家、大山、彩里……と、片手で数えてまだ指が一本余る数しかいない。

 

 同じ転校生同士だが、ロッテとは友達の数で天と地との差があるのだ。

 

 そこでふと、正多はある違和感に気が付いた。

 

 ロッテはなぜ自分を頼って来たのだろうか……?

 

 こういう話題はどう考えたって交友関係の狭い転校生ではなく、彩里とかあのグループの誰かしらに「あの子は誰?」と聞けばいいだけのはずだ。

 

 正多はそこが引っかかったものの、考えても答えは出てこなかった。

 

 ***

 

 少し悩んだ末、生徒会長である大山界人を頼ることにした。

 

 連絡を取ってみると一階にある生徒会室にいるとのことだったので早速向かう。

 在室中の張り紙がある生徒会室の扉を開くと、室内はかなり賑やかな様子だった。大山だけではなく、彩里や、白髪のギャル、運動部っぽい人……つまり、あのグループが集合していたのだ。

 

 大山は部屋の奥にある生徒会長の席に座っている。室内には他に生徒会役員の席があり、更にそれとは別に入り口のすぐ傍にソファーが二つあって、グループの面々はそちら座っていた。

 

「こ、こんちわ……」

 

 最初に、正多が「白髪ギャル」と心の中で呼称している女子生徒と目が合った。

 かなりイケイケな見た目で、ブリーチであろう白玉団子みたいな真っ白な髪に、アイライン、ピアス、アレンジされた制服……どこをとっても目立つ女子高校生で、正直言って少し怖い。

 

 もう一人の「運動部っぽい人」は背の高い男子生徒で、いかにもなスポーツマンな青年だ。ワックスでパーマ風に整えられた髪型から、大山と並んでも遜色ないぐらいに外見に気を配っていることが分かる。

 

 この二人と大山、彩里、ロッテ、それとここに居ない男子生徒一名を合わせて、例のグループを構成している。正多はこの二人とは話したことすらないので、嫌われているとかそういうのではないのだが、少なくとも彩里や大山のように友好的ではなさそうだった。

 

「あ、正多じゃん!」

 

 生徒会室で真っ先に声を上げたのは彩里だった。

 

「どしたん、なんかあった? 生徒会に用事? いま会長しかいないんだけど、大丈夫? っていっても、生徒会は会長と副会長の二人しかいないんだけどね」

 

 いつもどおり彼女は怒涛の勢いで声を掛けてくる。その流れにやや押されながらも、その雰囲気が今はなんだか安心した。

 

「大山君いる? さっき連絡したんだけど」

「そっかそっか。ほら、界人! 正多きてるよ!」

 

 彩里はさながら息子を呼び出すお母さんのような口調でいうと、入り口で立っていた正多を引っ張って大山の下まで連れていく。

 

「彩里も生徒会なの?」

 

 訊ねると、あたしが生徒会に見える? と彼女は笑って返した。

 

「あたしらは界人が一人で暇してる~っていうから、顔出しにきただけだよ。あ、邪魔だったら出ておこうか?」

 

 気を使ってくれたが、その提案は断っておいた。あの二人と同室に居るのは気まずいが、クラスの中心ということは謎の少女について知っている可能性が高い面々でもあるわけだ。

 

「やあ、波木君。困りごとがあるんだって? 力になるよ」

 

 大山は机の上に置かれたスナック菓子をつまみながら手を振っている。

 

「今日は録達君は一緒じゃないのかな。それとも、またどこかに隠れてるだけ?」

「史家なら補習だよ」

「え、マジ?」

 

 ぎゅっと革張りソファーの擦れる音がする。

 振り返ってみると、ソファーに座って背を向けていた白髪ギャルが体ごと振り返って、まじまじと正多の顔を見ていた。

 

「補習っていうのは英語かい?」

「そうだけど。どうしてわかったの?」

 

 大山は何故か言い当てる。

 史家の補習が英語だと分かるや否や、白髪ギャルは興味を無くしたようで、はぁ~と聞こえるぐらいに大きなため息をついて、体を前に戻した。

 

「なんだ、いつものじゃん。つまんなーい」

実夜(みよ)はいつも通りだね。波木君も居るんだし、もっとほら友好的に」

「界人といい彩といい、アンタたち『孤高の天才クン』に優しすぎ。あんな捻くれた奴、ウチみたいにするのが普通だし。ねえ、(じん)もそう思うでしょ」

「まあな。アイツは見下してんだ、俺らのことをさ」

 

 白髪ギャルは実夜という名前のようだ。ついでに、運動部っぽい人の方は仁という名前らしい。

 ソファーの方からは二人の声が聞こえてくるが、その内容は史家をこき下ろすものだった。二人は余程に史家のことを嫌っているらしい。

 

「はいはい! 録達の悪口ストップ! そういう陰口は陰で言ってよ! こんな生徒会室のど真ん中、しかも正多の前じゃなくってさ!」

 

 二人を止めた彩里や、何かと史家を気に掛ける大山がどう思ってるかは分からないが、これで実夜と仁の両名が史家のことを嫌っているという事だけはハッキリした。

 正直な所、史家がどれだけぼろくそに言われようと──もちろん嫌な気持ちにはなるけど──構わないのだが、それよりも気になる点がある。

 

「天才って史家が?」

「あれ、知らなかった? 彼は学年首席の特待生だよ」

 

 大山は少し驚いたように返す。

 

「実夜はああ見えて勉強ができる方でね。毎度、定期試験で学年一位を取るって息巻いてたんだけど、今のところ録達君に連敗中。この前も全国模試でボロ負けしてるんだ。それで拗ねてあんな風になってるわけ」

「いちいち説明しなくていーから」

 

 実夜はむすっとした顔で反論する。

 

「てか、全国一桁とか取れるわけないっしょ普通」

「全国一桁って……えぇ? じゃあなんで史家は英語の補習を?」 

「そこがすごいところさ。英語はダメダメなのに、他の教科は完璧なんだ」

 

 なんだか頭がこんがらがって来る。なるほど史家は頭が良いのか。

 ……()()()()()()

 そんなに頭が良いようには見えない。

 っていうか、そんなこと一言も言ってないし、教えてもくれなかった。

 

「話が逸れたね、ごめん。それで用事って?」

「あぁ……えとロッテが人を探しているんだ。同級生らしいんだけど、名前が分からなくって」

 

 気持ちの切り替えに少し時間がかかったが、なんとか口に出す。

 

 正多から話を聞くや否や、大山と彩里は顔を見合わせた。

 

「ああ、千崎(せんざき)さんの件……」

 

 まだ具体的なことは何も話していないのに、彩里は人物名を呟く。

 

「千崎さんって?」

「ロッテが探している女子のこと。千崎ミソラ。廊下側の席に座ってる子」

 

 彩里は既に何もかもを知っているようだった。

 驚きつつ、説明を求めるように彼女の顔を見ると、申し訳なさそうな表情で見返してくる。

 

「そのこと、あたしも相談されててさ。まあ、適当にはぐらかしておいたんだけど……」

「はぐらかすって、どうして」

「別にロッテに意地悪がしたいわけじゃないんだよ? ただ……その、ね、千崎さんにはよくない噂があって」

 

 彩里は続きを話すべきか、迷うように一瞬だけ言葉を詰まらせた。

 

「その……簡単に言うと『遊んでる』っていう話でね。街でスーツの男と二人きりで歩いてたとか、夜の街で男と一緒にいるのを見たとか。真偽は定かじゃないけど、クラスに馴染んでいなかったし、噂のせいで更に孤立してる感じかな……」

「気にするだけ損だと思うけどねぇ。あれもあれで、天才クンの同類っしょ。どうせ、火遊びしてる自分かっこいーとか、孤独な自分可哀そーとでも思ってるんじゃない?」

「実夜! あんた流石に言い過ぎ」

 

 彩里はソファー越しに聞こえてくる軽口を強めの口調で咎める。実夜はそれで白けたと言わんばかりに背を向けて黙り込んだ。

 

 やや沈黙があり、彩里は眉を寄せて気まずそうな顔を浮かべた。

 

「まぁ噂もそうだし、お互いのためにならないとも思ったの」

「と、いうと?」

「千崎さん、割と学校休みがちで、人付き合いも苦手っていうか、話しかけても積極的には交流してくれない録達と同じタイプだからさ、ロッテが一方的に声をかけてもお互い悲しいだけになっちゃうかもって」

 

 話を一通り聞いて、ロッテの行動が腑に落ちた。

 たぶん、ロッテは彩里の嘘に気が付いていた。「上手くいかない」というのは、彩里たちに接触を妨害されたことを指しているのだろう。

 

 仮に、明日にでも教室でお礼を言いに行こうとしても、グループに阻止されてしまう可能性が高い。頼ってきたのも直接的ではなく、転校生を挟んで接触しようとしたからだろう。

 

 一通り事情を理解すると、礼を述べて生徒会室を出た。

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