戦後世界のボーイミーツガール ~青春!探偵!ひとだすけ部!~   作:北極鳥ユキ

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Part17 あの子を追え

 正多が依頼人の名前を伏せたこともあって、話を聞いた史家も『噂の調査』という依頼に乗り気になっていた。補習の合間を縫いながら調査をすることになった二人だが、しばらくの間これといった進展はなかった。

 

 探偵である伏見に頼るという案も出たが、クラスメイトを調査して欲しいと頼んだところで断られそうだという結論に至り、自力で何とかしようとしたのだが、さっぱりうまく行かなかったのだ。

 

 そうして事態が動かないまま、気が付けば数日が経過していた。

 

「たっ、たっ、た、大変だ! 正多! 大変だ!」

「なんだ、どうした?」

「さっき大事件を目撃しちゃったんだ! 今から過去回想風に説明するから聞いてくれ!」

 

 ……あれは一時間前。飲み物を買いに行くと言って部室を出たときのこと。

 

「まてまてまて」

 

 部室に入ってくるなり過去回想を始めた史家を止める。

 

「どうした?」

「いや、どうしたじゃないけど。なんだその語り方は」

「いやだから過去回想だって」

 

 ……喉が渇いた俺はコンビニで飲み物を買おうとした。しかし! 俺の好きなスーパージンジャーガラナが売り切れていたのだ! めちゃくちゃそれを飲みたい気分だった俺は、少し遠いがアパートにある自販機までバスで行くことに……。

 

「背景描写が無駄に長いな! いつ事件が起こるんだ」

「これから本題なのに」

「じゃあさっさと要件を伝えてくれ」

 

 史家は少し考えるような動作を取り、息を整えてから真剣な表情で話し始める。

 

「えーっと要件だけ纏めると、ぐうぜん千崎ミソラを発見した。調査の件もあったから少し尾行したんだけど、怪しいスーツ姿の成人男性と一緒に路地裏に消えていった」

「なんだ、そうなこ……は?」

 

 さらりと言った内容を正多は必死に頭の中で整理してみるが、それかなりやばい事なのでは、と驚愕してしまう。それはつまり……噂は本当だったのか。

 

「だから大事件っていっただろ! 俺は気になって、あ、木に擬態した訳じゃなくてな?」

「いいから!」

 

 冗談を交えようとする史家に怒るように強く言うと、今度は真面目に話す。

 

「聞き耳を立てた訳なんだが、ミソラは相手のことを『……さん』って呼んでたんだ。つまり家族、父親や兄じゃない。噂からして、これはまずいんじゃないか?」

「いや、まだ親戚とか、あるいは単に年上の彼氏って可能性も……」

「可能性はある。でももし違ったらどうする? 物事は悪い方に考えるべきじゃないか?」

 

 史家の一言で冷静になる。噂がクラスに広まっている現状を考えれば、怪しいことは疑ってみるしかない。それに事実関係を調べるなら絶好のチャンスだ。

 

「駅まで行って、千崎さんを探しに行かないと」

「あ、いや、待て。もう十分以上経ってるから、同じ場所に居るかどうかはびみょいぞ」

「うーん。まぁ、どちらにせよ、向かう以外にできることはないし、急いでその場所に行くべきじゃないか?」

 

 史家は頷いて同意を示す。

 そのまま二人は焦るようにして部室を後にした。最寄りのバス停で琴似駅行きのバスに乗り、ミソラを見かけたという駅前の繁華街に向かった。

 

「……あれ? そういえば史家は家の近くの自販機に行ったんだよね? そこからなんで繁華街で千崎さんを見かけることになるんだ?」

 

 繁華街とは琴似駅の南口付近に広がるある商業エリアを指しているが、そこは駅は正多住むのアパートや、史家の住むアパートからは遠く、ふらっと行けるような距離ではない。

 

「話は最後まで聞くもんだぜ。どこまで話したっけ」

「家の近くの自販機に行くところだ」

「あぁ、そこか……」

 

 ……ごほん。実は運の悪いことに、アパートに設置されてた自販機は壊れてたんだ! 管理人さんに聞いたらなんでもちょうど今日壊れたらしく、修理業者が来るのは明日だという……。

 

「相変わらず背景描写が長い」

「っだから、話は最後まで聞けって言ってるだろ! あと少し、あと少しだから!」

 

 ……ここで問題なのは、スーパージンジャーガラナは売っている場所が限られている点だ。どうやら世間一般での評価は芳しくないらしい。そこで俺は数少ない販売店の一つである琴似駅の売店に向かったのであった……。

 

「それでわざわざ駅まで行ったと」

「駅のバス停は本数が多いからな。そのまんまバスに乗って学校に戻ろうと考えたわけだ」

 

 俺だってちゃんと考えてるだ、と史家は自慢げな様子で語る。

 たかがジュース一本の為に琴似区を半周した奴の顔とは思えないというのが正多の感想だった。どう考えても費用対効果が悪すぎる。それに、使ったバス代の方がジュース代よりも明らかに高いところが気になって仕方なかった。

 

 そうこうしているうちに、バスは琴似駅に着いた。

 バスを降りた二人は繁華街の一角にある歩行者専用道路を歩いていく。道の両端には商店街のようにコンビニ、大型スーパー、ファミレス、ショッピングモールなどが軒を連ねており、学校帰りの学生、親子、老人と老若男女問わず人通りも多い。

 

「ここでミソラを見かけたんだ」

 

 史家はショッピングモールの入り口で足を止めた。彼が指を指している方向はそこから歩道を挟んで反対側にある大型食品スーパーの隅だ。辺りは繁華街の中でも特に賑わっている一角で、昼夜問わず人がいるような場所だ。道の端には幾多もの街灯と監視カメラが並んでおり、怪しい事を行うには向いていないという感想を正多は抱いた。

 

「それで、あっちに移動した」

 

 進んだ場所は枝分かれした小道の先にあるスーパーの裏手だった。表と同じように歩道があったが、こちらは駅から伸びる高架線路と表に建つ背の高いビルの影も相まって、全体的に薄暗い印象を受ける。

 

「こっちは怪しい感じがするな。店挟んだだけでこんなに雰囲気変わるなんて」

「来た事ないのか。ここは『高架街』だ」

 

 正多は興味深そうに辺りの『高架街』を見渡してみる。

 

 そこは駅から延びる高架線路を天井にして広がったアーケード商店街のような場所で、影を照らすように明るい看板を掲げた店が連なっていた。

 

 軒を連ねる店は個人経営の小さな店が目立つが、中には馴染み深いコンビニや、ファストフードの店もある。

 時折、開いた自動ドアの向こうから《カーネル・チキンは今年で百周年!》と宣伝する音が聞こえており、思ったよりもアングラという感じはないようだ。

 

「史家は何の用があってここに来るんだ?」

「故郷の味旭川ラーメンの店があるんだ。で、消えたのは高架街の道を通って、あっちだ」

 

 史家は店と店に挟まれた位置にある無機質なコンクリートの壁を指さす。その壁はどうやら建物の裏面らしく、室外機や小窓などが並んでいるのが見える。

 

「この路地、すっごく怪しい感じが漂ってるだろ?」

 

 路地というのは、壁と隣の店の間にある人が一人やっと通れる程度の細道のことだった。明るい高架街の中にあって、その一点だけはやけに薄暗く、なんとも怪し気な雰囲気を出している。

 

「確かに怪しい感じがするな……。で、これからどうする。進んでみるのか?」

「進むしかないだろ……怖いけど」

 

 正多と史家は一度を見合わせた後、路地に足を踏み入れた。

 外から見ても分かるが、路地は建物と建物の影になっているのでジメジメとしている。電灯なども無かったので、二人はそれぞれが持つデバイスのライトで足元を照らしながら進んで行った。

 

「ここ……一人で進むの怖かったんだよな」

「だから部室まで戻ってきたのか」

「うん」

「でも電話かけてくれれば良くない? わざわざ部室まで帰ってこなくても」

「え? あ、そっか」

「おいおい。危ないとか言っててそれかよ」

「俺もテンパってたんだよ! いざとなったら出ていこうとは思ってたけど、急に路地に消えてくし、覗いて見たらこんな暗い場所だし……わかるだろ?」

「分かるけど、もうちょい早く気付いて欲しかった」

「それは……悪かった」

 

 史家はしゅんとした様子で答える。彼が混乱していたのは分かるので、正多はそれ以上は何も言わなかった。……が、それはそれとして違和感に気が付く。

 

「って、あれ? そんな状況で長ったらしい回想しようとしてたの?」

「回想なんてしたこと無いんだよ! アニメとかだと、こう時間が止まったりするだろ」

「テンパっても現実と時計は見てくれ」

 

 路地を挟み込む壁には、先ほどと同じく所々に室外機や勝手口が置かれている。どうやらかなり大きな建物のようで、路地はしばらく先まで続いている。

 

「この建物ってどこに面してるんだ? 正面があるなら繁華街とは反対側だけど」

「こっちは歓楽街の方だな。『ススキノ』って知ってるか、昔札幌に在った夜の街なんだけど」

「ニッカウィスキーの看板だろ? 昔の写真で見たことあるよ」

「そうそれ。本家が放射能で汚染されて、琴似に移転して出来たのが歓楽街。通称『小ススキノ』だ。この辺、それまでは普通の住宅地だったらしい」

「でも、そんな場所なら女子高生は入れないんじゃないか?」

「別に検問が有る訳じゃなしに。日中は営業時間外の店が多いから警備も緩いって話だ」

「じゃあやっぱり……」

「無いと思いたいけど、何か弱みを握られてるとか……」

 

 話ながら小さな道を歩いていると、やっと路地の出口が見えてきた。

 明るい方からは何やら人の声が聞こえてくる。それも一人は二人ではなく、数十人以上は居る感じだった。

 

「な、なんだ?」

 

 それまで人の気配などしなかったのに急に声、しかも集団。

 何かおかしいと違和感を持った二人はその場で足を止める。

 

「夜の街に昼間っから大勢の人が集まるなんてことあり得るか?」

「もしかしたら、何かあったとか──」

 

 史家はふとよぎった考えを口にする。

 

 少し間があって、顔を見合わせた二人は焦るように細い道を駆け抜けた。

 そして、路地を進んだ先に待っていたのは──路地から近い建物に並んでいる人の行列だった。ただの行列ではない。列は歓楽街の大通りをずっと先まで埋め尽くしてしまいそうなほどに続く長い大行列だ。

 

「え、えっと、何が、何なんだ?」

「全っ然っ、わからん……」

 

 困惑しながらも、路地から顔を出して状況を探ってみる。

 顔を出した通りの『色合い』は実に分かりやすかった。蛍光色のネオンを掲げた店や、大人っぽいスナック、ご休憩と掲げられたホテルなどが所せましと並んでいるのだ。つまりここはホテル街という奴である。

 しかし、どの店も電気が点っておらず、目の前にある店もシャッターが閉められて、本日臨時休業という看板が掛かっていた。

 

「ミソラはここに進んだんだよな。別の道も無かったし」

 

 史家は唖然としながら振り返ってみるが、そこには通って来た細路地があるだけだった。

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