戦後世界のボーイミーツガール ~青春!探偵!ひとだすけ部!~   作:北極鳥ユキ

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Part18 探偵現る

 通りでは国連警察の警官が五、六人ほど巡回している。

 どうやらこの行列の周りを重点的に警戒しているらしく、視界から警官が消えることはない。中には路地からひょっこりと出てきた制服姿の二人を訝しむように確認する警官もいた。

 別に悪いことをしている訳ではないが、なんだか気まずくなった二人は一度路地に引っ込んでから会議を始める。

 

「ここに着いたんなら、別に心配することも無いのか?」

「史家の杞憂だったってことでいいのかな。これだけ警官が居るんだし」

「でもさ、警官がいっぱい居るってことは、一周回って危ない通りなんじゃないか?」

「列の警備をしてるだけだと思うけど……。そういえば千崎さんは桜鳥の制服を着てたんだよね」

「もちろん、だから一目でわかったんだ」

「制服を着た女の子を連れて怪しい店に入ろうとしたら、すぐ止められるじゃないか?」

「それもそうだな……。でも、他にどこに行くんだ?」

「あの列、気にならないか? もしかしたら千崎さんが並んでるかも」

「男と二人で?」

「それは……ほら、年の離れた友達とか?」

「まぁ、一応見てみるか」

 

 行列の先頭に向かうと、そこがライブハウス『ハイカラ・アベニュー』の入り口であることが分かった。二人には縁のない話だったが、なんだか有名な店らしい。どうにも今日は人気アイドルの公演があるようで、並んでいる人々の手には同じパンフレットが握られていた。

 

 ミソラを探して最後尾まで歩いてみる。人でごった返す行列には老若男女といった具合に色々な人がいた。中には制服姿の高校生、あるいはもっと若い、中学生ぐらいの姿もある。しかし、列の最後尾まで確認したがミソラの姿はなかった。

 

「もう中に入ってるのかも。アイドルの公演ならさ、男と二人ってのも……ほら、なんだ。年の離れたアイドルオタクの友達とかも捨てきれないし……」

 

 列にいるという予想が外れた正多に、史家が声をかける。

 あの行列に今から並んでも店内に入ることはできないのは確実だ。そもそもチケットの類を持っていないのだから、並んだって入場できない。

 二人ができることといえば、当てもなく小ススキノを駆け回ることか、客が出てくるタイミングまで張り込みをして、ミソラが出てくることに賭けるぐらい。

 

 悪い噂が本当で、今この瞬間にも……なんてことは考えたくもないが、これ以上の方法も他にない。二人は『千崎ミソラはライブハウスの中にいる。今の二人には危険な目になどあっていない』という予想にすがるしかなかった。

 

「辺りの道も適当に捜索してみるか……」

「あっれー! 正多くんに史家くんじゃないですか!」

 

 突然、聞き覚えのある声に呼ばれた二人は驚きながら振り返る。

 

「「伏見さん?」」

「はい、伏見さんですよ」

 

 そこには伏見が立っていて、ひらひらと手を振っていた。

 格好はこの前会ったときと同じく、スーツにスニーカーというチグハグな──本人曰く探偵らしい──装いで、唯一違うのは裏返っている名札を首から下げていることぐらい。

 

「どうしてこんなところに?」

「そりゃこっちのセリフですよ」

 

 正多の疑問に答えるより先に彼女は眉をひそめる。

 

「二人ともライブを見に来た……訳じゃなさそうですね、パンフ持ってないし、列にも並んでいないですし。こらこら~ダメですよ? 高校生が用もなく来たら」

 

 茶化す伏見に、二人は誤解を解くためにこれまでの経緯を説明した。

 

「つまり二人は友達の為にこんな場所まで……? ああ、なんていう事でしょう。私は感動しましたっ」

 

 おいおいと芝居がかかった声を出して、出てもない涙を拭ってみせる。そして勢いよく顔を上げると、何やら不自然なまでにキラキラと輝く視線で見つめてくる。その顔を見るだけでなんだか面倒なことになりそうな予感がして、二人はくるりと伏見に背を向けた。

 

「「俺たちはこの辺で……」」

「いやいや、ちょっと待ってくださいよ!」

 

 伏見は二人の肩をがっちりと掴んで、逃げ出す前に阻止する。

 

「私の話を聞くとか、そういう展開でしょ! 今のこの流れは!」

「話を聞くって言われても……」

「なんの?」

「例えば『なんで伏見さんは、こんなラブホ街に一人でいるのかな~』とか『あ、伏見さんだ! 探偵のあなたが友達探しに協力してくれるなら百人力です!』とか! あるでしょう、色々と!」

「千崎さんについてはこれ以上どうしようもないので……」

「とりあえず辺りを散策しようとしたとこなんですけど……」

「もっと私の方にも興味持って!」

「あっ、こんな場所に一人で居るってことは彼氏に捨てられた……とか」

 

 史家が気まずそうに言うと「されてません!」と即座に返す。

 

「あ、そうなんですね。よかった」

「なら、一件落着。よし帰ろう」

「だ・か・ら、待ってくださいよぉ!」

 

 伏見はどうしても話を聞いて欲しいようで、意地でも話を聞かせるために両手で二人の手首を掴む。なんだか今日の伏見は明らかにテンションが高い。

 早くミソラの捜索に行きたいのだが、この状態では逃げることもできなかった。

 

「さてさて、私がなぜこんなところに居るかと言うと、あれは今朝まで遡ります」

 

 と伏見は聞いても無いのに勝手に回想を始めた。

 

 ***

 

「……と、言うわけで私はライブハウスで警備員をすることになったのです。私トリを務める美咲ライカの大ファンなので、もう感激で……」

 

「へー」「すごーい」

 

「あ! 二人とも真面目に聞いてなかったでしょ!」

「いやー真面目にー。……って、ライブハウスの警備?」

 

 十数分にも渡って続いた伏見の回想。

 二人はそれを全くもって聞いていなかったのだが、最後の方にさらっと出た言葉がすごく重要だったことに気が付き、正多が慌てて確認する。

 

「お、おい、それってもしかして」

「やっと気が付きました? 私の助力があれば、お友達があの会場内に居るかどうかが分かる訳ですよ。確証の無い結論じゃモヤモヤしたままでしょう?」

「「本当ですか⁉」」

 

 突然のことに驚きながらも嬉しそうに食いつく。

 しかし、その直後に聞こえるか、聞こえないかぐらいの小さな声で伏見が言った「ま、条件は付きますけどね」を聞き逃す二人ではなかった。

 

「でもなんていうか、都合が良すぎない?」

「やけに小さい声で言った『条件』も気になるな」

「あ、聞こえてました?」

 

 二人は訝しんで、伏見のことをじとっとした目で見つめる。

 

「別に怪しい話じゃないですよ。私と一緒に警備員のアルバイトをやってみませんか?」

「警備員の」「アルバイト」

「ええ。なんせ、いま一番熱いと言われている芸能事務所『ラグージ』の高校生アイドルたちが出るライブ公演で、あの人気アイドル『美咲ライカ』まで出るんです。見ての通りファンが大勢来てるじゃないですか」

 

 伏見は伸ばした両腕を行列の方に向けて強調する。

 

「こんなに人が居るとやっぱりガラが悪いのも混じってくるんですよねぇ」

「警官だらけで治安はよさそうですけど」

「未成年ファンに万が一の事が無いようにと、この周囲の警察による見回りは厳重、さらに成人向けの店はほとんどが臨時休業中です」

「だったらなんでアルバイトの警備員が?」

「スリ、痴漢、ナンパ……人が集まるところに犯罪はあるものです。警官は小ススキノ全域の見回りに割かれて、この会場内は民間の警備業者で何とかしないといけないんです」

 

 史家の疑問に伏見は大げさなしぐさで頭を抱えた。

 

「それに、です。これは予約なしの先着入場ライブでして、美咲ライカの出演はサプライズだったんですけど、どこからか情報が漏れてしまったらしく列に並んだ人数は想定の三倍。それに合わせるように入場できる人数を緩和したもんですから……」

「会場の警備は人が足りてないと」

 

 行列を見ながら正多が言った。

 

「今は猫の手も借りたい状況です。それに、私はミソラちゃんの顔を知りません。会場は人でいっぱいですから、特徴を聞いても見つけることはできないでしょう。直接見つけてもらうのが一番手っ取り早いと思いますが」

 

 確かに警備員として会場内に入ることができれば、ミソラを見つけられる可能性が出てくるだろう。ただし、それはあくまでもミソラがライブハウスにいるという前提の話だ。

 

「どこの店もやってませんし、通りは警察官だらけ。背広の男が気がかりですが、女子高生が来る場所なんてここぐらいでしょう。不安なら連絡しておきますが」

「連絡?」

「警察にコネがあると話しましたよね。伏見さんのコネを使って、話を通しておきましょう。女子高生を連れた背広の男がいないかって。こうすれば心配ないですよね」

 

 伏見は余程アルバイトとして参加してほしいようで、コネを使ってまで退路を断ってきた。

 探偵に加えて警察の協力まで得られるとなると、ミソラを探し出して安全を確認するにはこれ以外の道は思いつかない。

 二人は頷き合い、アルバイトに参加することを決めた。

 

「でも警備員って、簡単に増やせるものなんですか?」

「私は現場主任なので大丈夫です。それも話しましたよね?」

 

 回想を全然聞いていなかった二人は、とりあえず話を合わせるように頷いた。

 

「ところで、ミソラちゃんの顔が分かるものとか持ってないんですか?」

 

 二人は顔を見合わせる。

 当然、どちらも持っていなかった。

 

「よくそれで探しに来ましたね……」

 

 伏見は無鉄砲な二人の少年に半ば呆れたような苦笑を浮かべていた。

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