戦後世界のボーイミーツガール ~青春!探偵!ひとだすけ部!~   作:北極鳥ユキ

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Part25 灯台下暗し

「うーん、ここじゃないかなぁ」

「あっちの方も捜してみよう」

 

 それから少し経ち、正多とロッテは見落としが無いように二人並んで校庭の芝生を見つめながら、ペンダントを捜索を続けていた。

 

「あのペンダントさ……その、すごく大事な物なの。あれは、お母さんの……」

 

 不意にロッテが口を開く。大事な物である事は始から正多は──そしてほかの生徒たちも──十分に予想がついていた。

 

 それを改めて話をし出すと言う事は、一向に見つからないペンダントにロッテがくじけそうになっているようにも思えてしまう。

 

「大丈夫、絶対に見つかるよ。だから、心配しないで」

 

 ロッテがすべてを話してしまう前に、正多は声をかけていた。

 

「そ、そうだね!」

 

 その言葉に勇気づけられたのか、あるいはびっくりしたのか。とにかく、ロッテは正多に向かってぎこちなくはにかんで見せた。

 

 実のところ、正多には見つけられる自信など微塵もなかった。これだけ捜しても出てこない物は本当に見つかるのだろうか、とそんな風に考えてしまうのだ。

 

 このままでは何もできずに終わってしまう。ロッテが頼ってくれているのに。

 

 見つからなければ困る。

 頼られているのに、失望させてしまう。

 ほかの誰かが見つければ、自分の手柄ではなくなる。急がないと。俺が見つけないと。

 

 ──って、なんだ、それ。

 

 ふと冷静になって、正多は自分が白馬の王子様を気取っていることに気が付いてしまった。困っているヒロインを助け出せるような、そんな主人公を気取っていた。

 

 そんなんじゃないことぐらい、自分が一番知っているのに。

 

「セータ君はいつも助けてくれるよね。始業式の時も、この前もそうだった。まだそんなに時間はたってないけれど、何度も助けられてる。わたし頼り過ぎだなぁ……」

「困ってたら見捨てられないよ」

 

 正多は自分でも驚くほどに、心にもないことをつらつらと言っていた。

 ちがう。実際には全部自分のためだ。

 ロッテに頼られて、それで欲求を満たしているだけなんだ。でも、頭よりも先に口が動く。こうやって、いつも噓をつく。自分を取り繕って、嫌われないようにする。

 

「やっぱり、セータ君は優しいね」

 

 違う。違うんだよ、ロッテ。俺は自分のために……。

 顔を上げると、ロッテと目が合う。いつもと変わらない澄んだ碧の瞳。

 

 そんな目で俺をみないで。

 

 正多が突然黙り込んだので、その様子がおかしいことに気が付いて、ロッテは首をかしげる。いったいどうしたの──そう声をかける前に、快活な声が二人の間に割り込んだ。

 

「おーい、手伝いにきたぞー」

 

 史家とシュミットがだいぶ遅れて参上したのだ。

 

「あっ、先生も手伝いに来てくれたんですか?」

 

 ひょいと立ち上がったロッテが思わぬ増援に嬉しそうにつぶやく。

 

「焼いている間に手伝いをしようかと思ってね。それで調子はどうだい。人手は足りているみたいだけど、見つかりそうかい?」

 

 それが……と二人は首を横に振って、これだけの人数で頑張っても一向に目的の物が見つからない事を話した。

 

「誰かが拾ったけど忘れて持って帰っちゃった、とか有りそうじゃないか?」

「ロクタチのいう可能性もあるが、それよりはむしろ盗まれたとか、そういう方が妥当な結論だと思うのだけど、どうだい」

 

 ロッテはそんな悪い人は居ないと思います、と首を横に振って否定する。

 

「ところで、キミたちは何を探してるんだい?」

「俺もそれ聞いてなかった」

 

 余りにも根本的な質問に、散々捜し回っていた二人は驚き顔を向かい合わせた。二人の方に向き直ると、自分たちは琥珀のペンダントを捜しているのだと伝える。

 

「わたしが腕に巻いてるやつで……」

「え! あっ、落とし物ってロッテちゃんのだったのか! それを早く言ってくれよ! 知ってたら飛んできたのに!」

 

 てっきり他の誰かの落とし物を探していると誤解していた史家はロッテに全力で謝りつつ、暗くなる前に見つけようと意気込む。

 

 その横に立っていたシュミットはなんだか気まずそうな表情を浮かべていた。

 ロッテが「どうかしました?」と尋ねると、シュミットはウィンドブレーカーをガサガサと漁って、ポケットの中から何か取り出す。

 

「いや、その……」

 

 唖然としている三人にシュミットは右手を差し出して、その拳をゆっくりと開く。手袋の上に、黄金色の琥珀が括りつけられた紐が姿を見せた。

 

 ***

 

 夕焼けの赤が空を覆う頃、一行はシュミットの待機室に集まっていた。

 

「もう! 持ってるなら早く言ってくださいよ! 毎度毎度おつかいは頼まれるし、わたしたち校内を沢山歩いたんですよ! ね、セータ君!」

「見つかったのは良かったですけど、まぁ、はい……」

 

 あの後、この四人はお騒がせしましたとサッカー部員と教師陣に焼き立てのクッキーを配りながら謝りに行っていた。ちなみにシュミットがクッキーを焼いていたのは、このところ部活動に励んでいる二人へのご褒美だったらしい。理事長の許可も取っていたそうだ。

 

 正多は、許可を出す理事長も、それはそれでどうなんだ? という疑問を抱えていたが、今更もう野暮な話なので声は上げずにいた。そもそも、配り終えた頃にはクッキーは一枚も残っておらず、当のひとだすけ部は食べ損ねていたのだ。

 

「っていうか、なんで俺まで! 普通に勉強してただけなのに!」

「史家は部長なんだから、連帯責任だ」

「一番謝らないといけない人が部活の顧問なんですけど!」

「悪かったよ。渡そうと思ってたけど、なんだか忙しそうで」

「説明を怠った俺たちにも責任はありますね……」

 

(そもそもわたしが落としたのが問題なんだけど、それは黙っておこう……)

 

 一件落着ではあったが、なんとも言えない結末に正多とロッテはどっと疲れが出て、大きなため息をつきながら椅子の上でお互いの肩にもたれかかった。

 

「ロッテちゃんのペンダントって、どこで見つけたんですか?」

「ここ、僕の待機室だ。落ちてたの見つけて保管しておいたから、手伝いのついでに渡そうと思ってポケットに入れていたんだけど。探しているのが、そのペンダントだったとは」

「ロッテ?」

「あっれぇ?」

「今日の昼、待機室に来ただろう? その時に落としたんじゃないかな」

 

 シュミットは紐の千切れたペンダントを見ながら、

 

「腕に巻くの止めたらどうだい。それじゃ紐を変えてもまた千切れてしまう。そんな大切な物をまた失くしたら大変だろう」

 

 シュミットはペンダントの紐を輪っか状に伸ばして千切れた端と端と結び、一本の紐へと戻してからロッテの首に掛けようとするが、そこで彼女の首には別のペンダントが掛かっている事に気が付いた。

 

「これは」

「その、私ペンダントを二つ持っていて。それで、片方は腕に巻いていたんです。二重に首にかけるのはヘンかなって」

「……そうか。だったら、そうだな、巻き方を変えてみようか」

 

 シュミットはそれだけ言うと、ペンダントの紐を縦に伸ばしてからロッテの腕に緩やかに巻き付けて、それをさらに……とちょっと変わった巻き方をした。

 

「おぉ、なんか違う! これどうやったんですか?」

 

 腕にがっちりと結びついたペンダントを見て驚きながらロッテが言う。

 

「ちゃんと教えるから」

「あとあと、解き方も教えてくださいっ。カイネアーヌンクっ!」

「ヤー、ヤー」

 

 日本語では説明が難しいのか、二人の言葉はドイツ語に移っていく。

 仲睦まじく紐の結び方を教わっている様子を、残りの者の二人はただ静かに見守った。

 

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