戦後世界のボーイミーツガール ~青春!探偵!ひとだすけ部!~   作:北極鳥ユキ

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Part29 邂逅Ⅲ

 ロッテは『千崎ミソラ』にだけ、事情をすべて話すことにした。

 

 千崎ミソラ。そう、あの時の少女だ。

 結局、彼女の名前を一つ知るためだけに随分と遠回りをしてしまった。クラスメイトが教えてくれないから、内偵までしたのだ。

 

 その結果……なんとびっくり仰天。彼女の正体は人気のローカルアイドル『美咲ライカ』であることが判明した。

 

 彼女もまた、自分の正体を隠して普通の高校生を演じていた。そのことに、ロッテはなんだか親近感を憶えていた。そして思った。きっと秘密を抱えている人間であれば、この複雑な事情を理解してくれるはず……と。

 

 ただ問題が一つあるとすれば、高校生シャルロッテ・ブラウンのままでは千崎ミソラに会えても、美咲ライカには会うことが出来ないということだ。上手いことアイドルとしての彼女に接触して、お互いの秘密を交換しなければならない。

 

「ノエル、お願い。突然帰国したら、きっと友達が心配しちゃう。だから、この子にわたしのメッセージを託したいの」

「それで……このアイドルを利用すると?」

「うん。それにね、彼女、問題を抱えているみたいなの」

 

 アイドル美咲ライカこと千崎ミソラは『ラグージ・エンターテインメント・プロダクション』という芸能事務所に所属していた。

 この事務所、少々問題があるそうだ。なんでもマフィアのような組織が元締めになっていて、色々と口出しをしているらしい。しかも、所属しているアイドルなどに『手』を出されているのに、傍観しているという噂が絶えないらしい。

 

 この事態は放っておけなかった。そもそも、あの時千崎ミソラは助けてくれたのだ。その恩返しとして今度はこちらが助けてあげなければ。

 

「ノイマンが彼女と契約して、ホクシグン? とかいうマフィアから保護してあげるの」

「厄介ごとに首を突っ込んで敵を増やすつもりか?」

「彼女を保護してくれたら、わたしはおとなしく帰国するから。ね、お願い……」

 

 頼み込んだ末に、ノエルは不承不承と言った感じで頷いた。

 

 ロッテが帰国を嫌がっていることは誰よりも知っていたので、せめて心残りは少しでも減らしてやろうという親心からだろう。顔にこそ出さないが、彼はロッテのことを──過去に失った──娘のように大切に思っている。実際、ノイマンを起業した当初、仕事で忙しかった父に代わってロッテの面倒を見ていたのは、他でもないノエルだった。

 

 ロッテは、そのノエルの「傷」を利用したことに罪悪感を感じつつも、今はやるべきことを優先した。さっそく事務所に美咲ライカに仕事があると話して、彼女とそのマネージャーをノイマン・アジア社まで引っ張り出したのだ。

 

「こんにちは。ミソラちゃん……いや、ライカさん!」

 

 元気いっぱいに挨拶をしてみる。

 千崎ミソラは口をこれでもかと大きく開けて、唖然としていた。

 

 無理もない反応だ。学校で偶然出会った外国人の女の子の正体はお嬢様でした……なんて、マンガでもない展開だろう。この状況はいわば『現実はマンガより奇なり』という訳だ。

 

 ロッテはミソラとマネージャーに契約条件について説明した。

 間髪入れずに「私はこの契約に賛成です」とマネージャーが声を上げる。

 

「ミソラ、こんなチャンスはそうない。ノイマン社の保護があるなら、北市軍の奴らだって手出しができない。キミは安全にアイドルを辞められる」

 

 契約はすぐに纏まる。これで仕事は終わり、ここからは個人的なお話だ。

 ロッテは帰路に着こうとしていたミソラを捕まえると、社内のカフェテリアがある階層に案内した。ちょうど人の少ない時間なので、静かに話ができそうだ。

 

 コーヒーショップ『アイヒェルブラット』は南ドイツで主流なチェーン店。東アジアにはここしか出店していないので、そういう意味ではすごくレアなお店なのだが、簡単にいうとドイツ版スターバックスなので、日本人のミソラからしても目新しさはないみたいだった。

 

 陣取ったのは日当たりのいい窓側の席。そこからは札幌がずっと小さく見えた。

 赤らんだ西日が、二人の少女とカフェテリア全体をじんわりと温かく照らしている。席に着いたロッテは、からからとストローでアイスコーヒーの氷を混ぜながら、自分が抱えている『事情』を話し始めた。

 

「わたしはある日突然居なくなる。きっと心配するから……だから、その時に全部話してほしいの。帰国せざるを得なくなったことも、わたしの正体も」

 

 あの二人には正体を明かしてもいいと考えたこともある。特に波木正多については、それで恩返しの一つでも……と考えたことは一度ならずあった。しかし、結局は恐怖が襲って口にはできなかった。これは千崎ミソラがアイドルという正体を隠しているのと同じだ。

 

 知ってしまえば、きっと関係性が何もかもが変わってしまう。

 

 ロッテはミソラに波木正多と録達史家のことを紹介した。

 二人はクラスの中ではあまり友達の多い方ではない。自分が去った後には、せっかくの機会ということで、三人で仲良くなってくれたら嬉しいと思って。

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