戦後世界のボーイミーツガール ~青春!探偵!ひとだすけ部!~   作:北極鳥ユキ

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Part34 ロッテ

 こんにちは。いや、おはよう! かな。

 この手紙を読むのはきっと朝だろうし。

 

 きっと色々と分からないことだらけだと思う。

 そうだよね、突然現れて「さよなら」しか言えなかったんだもん。

 なぜ「さよなら」なのか、話す必要があるよね。

 

 初めに、私のフルネームについて話さないといけないかな。

 改めまして、私の名前はシャルロッテ・ノイマン=ブラウン。

 ノイマン重工っていう会社の創業者ミヒャエルの娘で、会長令嬢。

 簡単に言うと、お嬢様ってところかな。

 

 身分を隠していた理由は、自分の立場が嫌いだったから。

 なんとなくわかると思うけど、富豪の娘に近づきたい人は多い。

 お金目当て。権力目当て。理由は何でもあり。私はそういう人たちが嫌いだった。

 

 みんな、私のことを富豪の娘、権力者の娘って、シャルロッテという少女のことは見てくれない。ミュンヘンのギムナジウムにいた頃はね、ほんとうひどかった。

 私は猜疑心の塊みたいな性格で、誰もかれもが下心を持っているように感じていた。もちろん、全員じゃない。本当に優しい人もいたけれど、信じきれなかった。

 何もかもを拒絶した。私は、嫌な奴だった。

 

 転機は三年前。事情があって、日本に行くことになった。

 前はね、長崎に住んでいたんだ。知っての通り、札幌と同じく日本にある国連都市の一つ。私はそこで英国人学校に通うことになった。ドイツ学校は無かったし、私は英語が流暢に話せたから。

 そこは上流階級の子弟が通う学校でね、私も一応はおなじ括りだったんだけど、その中でも一段と特別扱いされていた。それで、いじめられたんだ。

 もともと、会長令嬢って身分ではあるけど、私は礼儀作法とかはぜんぜん知らなくて、周りみたいに上品な子じゃなかったし、唯一のドイツ人だし、相変わらず猜疑心むき出しだったし、私に非がないわけじゃなかった。

 

 結局、その学校には行かなくなった。

 家にこもるようになって、何度も考えたんだ。どうしてこうなるのかって。

 

 結論から言えば、私がシャルロッテ・ノイマンだから。

 ノイマンの娘じゃなければ、会長令嬢なんて身分じゃなかったら、こんな目に合わずに済んだって。色々あって、札幌に移住することが決まって、次は絶対に失敗したくなかった。私は来る日も来る日も日本語を勉強した。できるだけ自然に。できるだけ馴染めるように。

 それで普通の学校に通うことを望んだ。普通の日本人が通っている学校に。

 

 ただのシャルロッテ・ブラウンとして。

 

 私が帰国する理由は、命を狙われているから。

 相手は、端的にいればテロリストかな。厳密には少し違うけど、分かりやすいから、だいたいそんな感じで。キミが病院に運ばれた日。私はそのテロリストから脅迫された。

 協力しないと友達がどうなっていいのかって。彼は正多君のデバイスを持っていた。その場はなんとかなって、デバイスも取り返したけど、もう札幌には居られなくなった。

 

 これで、私がデバイスを持っていた理由も、泣いていた理由も、さよならの理由も分かるよね。

 キミを傷つけたくない。巻き込みたくない。少しでも遠くに離れて、私の身に何かあっても、みんなには、何事もないようにしたいの。

 

 こんな形になって、本当にごめんなさい。

 

 最後に、たぶん私は間違えた。

 別れの挨拶は「さよなら」じゃダメだよね。

 短い間だったけど、キミは私が心を許せる初めての友達だった。

 だから、ちゃんと言わないと。

 

 アウフヴィーダーゼン(また会う日まで)

 

 私の大切な友達、正多くん! 絶対にまた会おう! 

 キミと出会えて、私は嬉しかった!

 

 ***

 

 朝、正多は家まで来た史家に引っ張り出され、強引に学校まで連れていかれた。

 学校に着くと校門の前にはミソラが待っていた。

 

 ひとだすけ部の部室に入り、そこでミソラから渡されたのは、綺麗な日本語の手紙だった。

 文字は角の無い柔らかい字体で書かれていて、でもその文章には勢いがあって、手紙そのものがロッテを丸ごと表しているみたいだ。

 

「なんだよ」

 

 ひとだすけ部の部室に、正多の声が響く。

 手紙の内容は突飛な事ばかりで、意味が分からない。いや、説明は足りている。

 でも、そんなのどうでもいい。ロッテの正体なんて、なんでもいい。どこの令嬢でも、そんなことはどうでもいい。

 

「ロッテは……ロッテは、いつ帰国するんだ」

「もう空港に出てると思う」

「そんなの、そんなの……」

 

 正多はどうしたいいのかわからず、言葉が上手く出てこない。

 そんな彼の気持ちをまるで代弁してくれるように、力強い声が響いた。

 

「ダメだ! ダメに決まってる!」

 

 史家はまっすぐ正多を見た。

 

「ロッテちゃんに会いに行こうぜ」

「あのね、手紙読んだでしょ? あんたたちのためにロッテは……」

「テロリストだのなんだのと、実感があるわけじゃないけど事情は分かった、分かってるよ。だから帰国を止めたりしないさ。ただ別れの挨拶を言いに行くんだ。それだけならいいだろ」

 

 それは、史家が考え出した最大限の妥協案だった。

 事情は思ったよりも深刻でラブコメの範疇を超えていた。だから、これはあくまでも『見送り』だ。決して、帰国を止めに行くわけじゃない。こうすれば帰国という本人の意思を尊重させつつ、二人を巡り合わせることができる。

 

 ……もちろん、感極まった正多がどのような行動をとるかまでは知ったことじゃないが。

 

「正多だって、手紙一つじゃ足りないだろ? 面と向かって、また会おうって言いに行こうぜ?」

「ふざけないでよ。ロッテの決心を何だと思ってるの」

 

 ミソラは二人の間に物理的に割って入った。

 

「お前に何の権利があるんだよ!」

「私だってロッテの友達なの。この手紙を託されたの。ねえ正多、ロッテはあなたのために決断したの。お願いだから無下にしないで」

 

 ミソラも正多に向き合って語り掛ける。

 正多を中心に二人の声が左右から響いた。

 

 その内容は全部正反対だった。

 

 会いに行こう。行かないで。

 行くべきだ。行っちゃだめ。

 大丈夫。大丈夫じゃない。

 

「「正多!」」

 

 そして、二人の声がぴったりと重なった。

 

「俺は……」

 

 二人の瞳が射貫く。二人とも、自分の側に来て欲しいと期待している。

 昨日、史家に対してはあんな風に言っていたけど、正多の意思は決まっていた。

 ロッテに会いたい──それが、心の奥底にある本心だった。

 

 ミソラの言い分だってよくわかっている。

 もし会いに行けば、それはロッテの決心を揺らがせることになる。

 

 でも、それでも、ロッテに会いたい。引き留めたりはしない。

 ただ、面と向かって「またね」って言いたい。

 今度はちゃんと、ロッテにも「またね」って言ってほしい。

 

 ……いや、違う。

 

 それは本当に求めているものじゃない。またね、なんて言いたくない。

 ずっと一緒にいたい。

 明日も、明後日も、その先も、ロッテと一緒に居たい。

 だって、どうしようもないぐらいに好きなんだ。

 

 あの綺麗な顔も、可愛らしい声も、満面の笑みも、元気いっぱいな動きも、全部。出会ったときから、ずっと、ずっと、頭の中はロッテでいっぱいだった。

 この感情が恋じゃなくたっていい。独占欲だっていい。優越感が欲しいだけの醜い感情でもいい。それで嫌われたっていい。ロッテに相手がいたっていい。分不相応だっていい。釣り合わなくてもいい。

 

 なんだっていいんだ。

 

 こんな風に、誰かに想いを募らせたのは初めてだったから。

 失敗しても伝えたい。

 離れ離れになっても、この想いだけは伝えたい。

 

 きみのことが好きだって。

 

「会いに行こう。ロッテのところに」

「そうこなくっちゃ! 行こうぜ正多! ひとだすけ部、出動だ!!」

 

 正多と史家は息を合わせて部室を出た。

 静寂に包まれた廊下を勢いよく駆け抜けて、誰もいない階段をジャンプして。

 少し足が痛くなったけど、そんなの気にならない。

 

 ロッテに会いたい。

 

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