戦後世界のボーイミーツガール ~青春!探偵!ひとだすけ部!~   作:北極鳥ユキ

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Part6 雪降る朝

 ロッテや史家との出会いを経験した転校初日が終わり、あっという間に二日目。

 その日、札幌は季節外れの大雪だった。

 四月だというのにカーテンの向こう側ではしんしんと雪が降っていて、辺りを真っ白に染めている。曇った空も白色で、上も下も世界全体が真っ白になってしまったような気がした。

 

 《おはようございます。STN朝のニュースです》

 

 テレビを見ながら、食パンを生でかじる。この1kの部屋に住み始めてから数日、一人暮らしにはだんだん慣れてきたが、朝ごはんを作るのだけはどうにも面倒で雑になりがちだった。綺麗だった部屋も、だんだん散らかってきた。室内を見ると、面倒くさがりな性格がにじみ出ているみたいで嫌になってくる。

 

 食パンを一切れ食べ終えると、さっさと制服に着替えた。テレビによれば今日の気温は氷点下だそう。こんなことならブレザーの中に着られるような良い感じのカーディガンぐらい買っておけば良かった、と少し後悔。

 

「いってきます」

 

 支度を終えると、誰も居ない部屋に向かって呟いた。

 

 アパートの階段を下って銀世界に降り立つとパサリと傘をさす。寒いのは大の苦手だったが、今日の足取りはすこぶる軽い。理由はロッテと待ち合わせをしているからだった。

 

 連絡があったのは昨晩のこと。メッセージアプリで律儀にファミレスの位置情報とメニューの写真が送られてきた後、明日は一緒に登校しようと誘われたのだ。なんでも家が近いとかなんとか。

 その連絡がどれだけ嬉しかったかなんて、言うまでもないだろう。

 

 近所のバス停には、綺麗な金色の髪にうっすらと雪を積もらせた少女が立っていた。

 

「おはようロッテ。待たせた?」

「おはよ~。わたしも今来たところだよ」

 

 元気よく言うその口元からは、白い息がふわりと漏れていた。

 ロッテは耳と鼻先を少し赤くしていたが、チェスターコートとマフラーで防寒はばっちりそう。コートはどこの店でも売っていそうな、飾り気のないシンプルな物だったが、それが逆にロッテ自身の清楚な魅力を引き立てているように見えた。

 

 やっぱりカーディガン……いや、洒落たコートぐらい用意しておくんだったと改めて後悔。野暮ったいが機能的なダウンジャケットを恨んだのはこれが初めてだ。

 こんな美少女の隣を歩くのだから、見た目ぐらいしっかりしないと『分不相応』だと、笑われてしまいそうだ……と、気が付くとそんな考えをしていた。一日で史家に毒されたなと自傷気味に思う。別にそんなの関係ない。不釣り合いとか、関係のないことだ……。

 

 それはそれとして髪とか変じゃないかな、と不安になり前髪を少し弄ってみる。

 正多のそんな不安などつゆ知らず、ロッテは彼のすぐ隣に立った。

 

「昨日はあの後どうだった?」

「うん。ええっと……楽しかったよ! わたしファミレスに行くの初めてだったから、いろいろ新鮮だったな。あ、ドリンクバーって面白いシステムだよね」

 

 そんなことを話しながら待つと、市営バスが到着する。

 無人運転の市営バスはまるで消しゴムのような見た目だ。窓の部分は全てが内側からのみ透けて見える偏光性素材だったので、外から見ると窓部分を含めて一面が真っ白に見えるのだ。

 少しの間そんな消しゴムバスに揺られ、学校最寄のバス停に到着した。

 

 雪道を二人並んで歩く。周囲には桜鳥の生徒がぽつりぽつりと見え始めている。少し遠くでは、史家らしき後ろ姿も見えて、昨日の部活の話を思い出した。

 

「ロッテは部活ってどうするか決めた?」

「うーん。入ろうとは思ってるんだけど、まだ迷い中なの。いろいろな部活に誘われちゃってて、とりあえず一個ずつ体験をしてみようかと……」

「──ロッテ! おっはよぅ!」

 

 ざっざっざっ、と雪を踏みしめる足音がして、直後には勢いよくロッテの背中に少女が抱き着いていた。その橙色にも近い色のミディアムヘアはとても特徴的だったので、すぐに思い出せた。昨日のグループにいた一人で、大山と一緒に手を振ってくれた女子生徒だ。

 

「その長いブロンドは目立つから、後ろ姿でもすぐ分かったよ」

「わっ、サイリちゃん!」

「朝から相合傘なんて仲がいいねぇ。ま、邪魔するようで悪いけど、見ての通り北海道じゃぁ雪の日に傘は差さないよ。本州人くん。こっちの雪は軽いからね~」

 

 少女は正多の方に顔を向けると、にやりと口角を上げた。

 正多は自分の顔が少し熱くなるのを感じながら、慌てて傘を閉じる。ロッテと一緒に歩いていることばかり気にして傘の方には──二つの意味で──意識が回っていなかった。

 

「よろしくね、えーと、正多だよね。あたしは高野彩里(たかのさいり)。彩里でも彩ちゃんでも、好きなように呼んでね。あ、高野はダメね。地味だから」

 

 彩里は畳みかけるように言う。その見た目からテンションまで、どこをとっても太陽のように明るい人だった。その気になれば足元の雪ぐらい簡単に溶かしてしまいそうだ。

 

「どう、桜鳥には馴染めそう? 困ってることとかない? 友達はできた? あ、連絡先交換しようよ。困ったときは相談に乗るからさ」

 

 彩里はロッテに抱き着いたままの姿勢で、正多に顔を向けて質問攻めにする。

 

「こら彩里」

 

 割り込んできたのは大山界人だった。彩里のダッフルコートのフードをぐっと掴んで、ロッテから無理やり引き剝がす。

 

「そうやってダルがらみするのは悪い癖だぞ」

「界人じゃん……いでっ!」

 

 振り返った彩里はぺチリとデコピンされて、その場にうずくまった。

 

「邪魔して悪かったね。コイツは俺が引き取るよ」

「えっー、まだ二人と話したいことが──」

 

 大山は有無を言わさずフードを引っ張ることで彩里を連行していった。

 

「ねぇねぇ」

 

 その勢いに圧倒されていると、くいっと袖を引っ張られる。

 

「あの二人仲いいよね」

「そうだね」

「ところで、アイアイガサってなに?」

「ロッテが知らなくていいこと」

 

 冷えた顔がまたじんと熱くなってきたので、そっぽを向きながら答えた。

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