合コン狂騒曲 作:突貫工事の下働きマン
達は戦場に──いや、ファミレスの席に座っていた。
通路側から順に、馬本、有栖川、高田、遠山、丘村の順で座っている。また、対面の席には互いの推しが真正面に位置するように座っていた。
無駄に緊張感が走る。普通こういうのって『それじゃ合コン始めましょうウェーイ!』とか誰かが言うもんじゃないの?と、高田は野郎どもを睨み付けていた。
「(アレルギー反応でも起こしたみたいにガクブルしている馬本)」
「(背中から謎の闘気を発して、周囲の客を威圧する有栖川)」
「(『そもそもお前が発端だしやれよ』と言う顔の遠山)」
「(ニコニコとたえだけを見つめ続けている丘村)」
駄目だ、どいつもこいつも使い物にならなかった。かと言う高山も推しを前にすると、上手く喋れる自信が無い。「ほれじゃあ!」と最初に噛んで、そのまま舌を噛み切る自信ならある。
「な、なぁ香澄……アイツら大丈夫か?なんかずっと無言なんだけど」
「大丈夫だよ有咲! 多分緊張してるだけだよ!」
「そ、そうだよね……でも、コッチから喋った方が良いかなぁ?」
「バッカ無理するな! 誘って来たのは向こうからだろ! りみが無理しなくて良いっての‼」
余りに誰も喋らない故に、推し達が心配し始めている。幾ら空気に疎い高田でもこれは不味いと理解できる。
早く誰でも良いから喋れ……‼そう切に願っても返って来るのは、男同士の脛の蹴り合いだけ。救いの手は暴力では生まれない。
誰か……誰か!救いの手はないのか!思わず天を仰ごうとしたその時。
『ピンポーン』
「あっ、すみませーん。この春野菜のサラダ大盛一つお願いしまーす」
救いの手は、たえの方からやって来た。
断言しよう──サラダとは即ち。合コンの縮図であると。
世の男女たちは、このサラダを取り分ける仕草で、目的の獲物をハンティングして来たと、類人猿の時代から決まっている。それ程までにサラダの取り分けとは重要な要素だ。
そして、此処に一つ。テーブルの中央に、全員へ取り分ける事が出来る大盛のサラダがある。そして、推しに飢えた男達が居る。
つまり、必然的に起こるのは──ー。
「俺が取り分ける! お前らは黙って俺の取り分けたサラダを食ってろ!」
「黙れ高田ぁ!オメェらこそ俺が取り分けたニンジンをシャクシャク食ってろ!」
「君達こそ僕が取り分けたサラダで、大人しく春野菜の旨味を感じるが良い‼」
推しにモテたい男達による熾烈かつ無駄な争いだった。
「ちょ、ちょっと待てよお前ら! なにそんなにサラダを取り合ってんだ⁉」
「止めないでくれ有咲ちゃん! この勝負は絶対に負けられない男の戦いなんだよ!」
「そんなバトル漫画みたいな熱量で争う事かコレ⁉」
「そうだ!」
「断言すんのかよ⁉」
推される側には分かるまい、コレは男──―いや、オタクの魂を掛けた戦いだ。推しに『サラダ取り分けるの上手いね❤ありがとう❤』と言われる為なら男達は命を賭ける。
と、その時。互いに箸で牽制していた男三人の横から、自然にぬっと二人分の手が伸びた。
「はい、山吹さん。どうぞ」
「ありがとう遠山君!」
「たえさん。ニンジン多めに取り分けたよ。一緒にシェアしようか」
「えぇ良いのぉ?やったー」
自然に、そうごく自然にだ。高田達が争っている最中に、遠山と丘村がちゃっかりと取り分けていた。
(((や、やられたぁぁぁぁぁ‼)))
この瞬間、争っていた筈の三人の心に稲妻が奔った。
そう全ては罠だったのだ──ー自分達が醜い争いをしている姿を推しに見せつけ、その隙に自分達の好感度を上げる作戦だった。
なんと恐ろしい罠だろうか……このような作戦、諸葛孔明でも思いつかないだろう。心なしか、遠山の細めの奥にドス黒い悪意が見える。
ならばこそ、この戦いは尚更負けられない!推しからの寵愛を受ける為に、再び争いが始まろうとした所。
「それじゃあ、私達も自分の分取り分けちゃおうか!」
「う、うん……その方が気楽だしね」
「という訳だ。そっちも自分で取り分けな」
「「「えっ?」」」
三人の声が一斉に重なった。
「ほら、ぼーっとしてないで早く取れよ。サラダ無くなるぞー?」
つい今しがたまでの戦いは、一瞬で無かった事にされた。
「……俺達、何してたんだ?」
「知らねぇよ……俺の、サラダが……」
「僕は……牛込さんの為に……この戦いに意味はなかったのか?」
「いや最初から最後まで意味分からねぇよ」
野菜を取り分ける遠山のツッコミだけが、やけに空しく響いた。
「そうだね早く食べようよ」
丘村のニンジンを齧るシャク、という音がやけに大きく聞こえる。
それが、この戦いの終わりだった。
サラダの取り分けるのが上手いとモテると聞きまして