合コン狂騒曲 作:突貫工事の下働きマン
「気持ちわりぃ……糖分取り過ぎてゲロ吐きそう……」
──―食後、自分で頼んだ特大イチゴクリームパフェをなんとか完食した高田は、机に突っ伏していた。
「じゃあ最初から頼むなよな」
「うるせぇ……男には引けない時があるんだ……」
「引けないというより、自分で崖からダイブしてるだろ」
「本当におかしな事するよねぇ。高田君達って」
ドリンクバーから取って来た麦茶を啜りながら、遠山が冷めた目で高田を見下ろす。その横では策士の丘村が優雅に幸福の余韻に浸っていた。
一方、その逆サイドは、死屍累々だった。
「俺の……胃が……もう持たねぇ……」
「甘すぎる……アレは、本当に食べ物だったのか……?」
有栖川も馬本も、高田と同じくソファに沈みながら死んでいる。あの巨大な糖分モンスターを食べ切ったのだから当然だろう。
「お前ら馬鹿だろ……普通、あんな量食べ切るか?」
「あ、有咲の事を思えば、あんなの余裕で食いきれらぁ……」
「な、何言ってんだお前ぇ⁉いきなり告白紛いの事言いやがって‼」
「有咲反応しすぎー。そんなんじゃ男の子に慣れてないのバレちゃうよ?」
「オメェは慣れすぎなんだよ! なんでアイツと一緒にパフェ食べてたんだよ!」
「? だって美味しそうだったから」
「だぁぁ! お前はそういう奴だった……‼」
「あ、あの、大丈夫?凄く苦しそうだけど……」
「う、牛込さん……こんな愚かな僕を心配してくれるのか……やはり貴方は天使だ!」
「て、天使⁉」
「そ、それは流石に言い過ぎじゃ……」
「山吹さん。コイツラの話は真に受けない方が良い。脳が壊れる」
「そうだよ。でもボクの話だけは聞いても良いからね」
「丘村の話だけは一番信じるなよ」
いつの間にか、会話の流れが穏やかになっていく。あれだけの醜態を晒しておきながら、こうも上手く行くとは思いもしなかった。
すると、対面の香澄がテーブルから身を乗り出して、小声で高田に話しかける。
「ねぇねぇ高田君、みんな良い感じだよ‼ この中からカップルとか出来ちゃったりするかなぁ?」
「か、か、カップル⁉」
そう言えば、合ゴンの目的はカップルを作る事。推しに自分をアピールするのが第一ではない事を、高田は今更ながらに思い出した。
もしかしたら、この四人──―いや、自分も含めて五人の中からカップルできたりなんて妄想が頭の中に浮かぶ。そして自分以外の奴が、推しと結ばれた姿を想像して止めた。
そうして軽く頭の中で、香澄との半生を思い描いていると──ーふと、誰かがこんな事を言ったのが聴こえた。
──―そう言えば、どうしてみんなは『Poppin'Party』のファンになったの、と。
その瞬間、高田は緩んでいた顔が固まるのを感じた。
きっとそれは高田だけではない。推しと話せて嬉しそうにしていた有栖川や馬本、丘村や遠山でさえ同じ反応を示していた。
「みんなどうしたの?」
香澄が不思議そうに尋ねる。だが、誰一人として直ぐに答えようとはしない。
やがて最初に口を開いたのは、メンバーの中で一番口の上手い丘村だった。
「別に大した話じゃないよ。Poppin'Partyの曲が好きで、そこからファンになっただけ」
まるでテンプレートのような反応だった。口が回る丘村でさえも、そう応えざるを得なかったという事だろう。
「そ、そうだな! 俺もだ‼ 俺もポピパの曲が好きでハマったんだ‼」
「同意だな。僕も同じような理由だ」
「そうだ、俺も……だな」
有栖川、馬本、遠山も丘村の良い訳に合わせる価値で口々に言い訳を揃える。だが、それは何処かぎこちない口調で、静まり返った空気は戻らない。
そんな中、高田だけは言い訳を言う事が出来なかった。いや、嘘を吐きたくなかった。
Poppin'Partyも、香澄が好きなのも嘘じゃない。だけど、その本当の始まりを言う事は出来ない。
楽しかった空気はいつの間にか一変し、空気が重くのしかかる──ーきっとPoppin'Party側も、この嘘に何となく気が付いているのだろう。
そして、重苦しい空気に耐えかねた様にパンッと沙綾の掌が鳴った。
「そ、それじゃあ、みんなそろそろ帰ろうか! もう夜遅いしね‼」
纏め役らしく、わざと明るい調子の声色で、目線をみんなに目線を配る。すると一人、また一人とソファに置いたスクールバッグを手に取り、帰りの準備をし始める。
こうして、初めての合コンは何とも言えない結果で終わってしまった。悔いが残らないかと言えば無論ある。だが、それでもこの不快な空気が続くよりはよっぽどマシだった。
──―だが、会計をする時に、香澄がそっと口元を高田に寄せた。
「ねぇ、一緒に帰らない?」
思ったよりも冷たい夜の空気の中、高田はこれ以上なく体温が上昇していた。
なにせ、推しからの直接ご指名のデートだ。これで心臓がバクバクしない奴はゾンビか吸血鬼くらいだろう。
「今日は楽しかったね! みんな面白い人で良かったよ!」
少し前を歩いていた香澄が、くるりと振り返る。夜の街頭で白く染まったその笑顔は星のように輝いて綺麗に見えた。
「面白いというには、クレイジーさがオーバーフロウを起こしてると思うけど……」
「そうかな? 私はもっと喋りたいと思ったけどなぁ」
冗談じゃない、あんな激ヤバオタク共を
「ねぇ高田君」
「な、なに⁉もしかして俺の個人情報を知りたいの⁉え、えぇと趣味はお琴で……」
「さっきの、ちょっと変だったよね」
まただ。また、高田の顔が固まった。
「みんな、ポピパの曲が好きー‼ って言ってたけどさ。なんかちょっと違うなーって」
さっきまでの明るい声とは違う、どこか少しだけ静かな香澄の声。
「ねぇ──どうして嘘ついたの?」
香澄の紫色の瞳がただ真っ直ぐに捉える、それだけで高田の逃げ道は塞がってしまった。
「……」
沈黙に足が止まる。さっきまでドキドキしていた心臓が、今度はピタリと音を止めた様に冷たい。
言ってしまっても良いのだろうか──ー伝えれば、きっと香澄達に取って重荷になってしまう。その時の顔を思い浮かべると、どうしても喉が詰まってしまう。
だけど──ー香澄は待っている。急かす訳でも、無理やり口を割らせる訳でも無く。ただジッと高田の前に立って、どんな事でも受け入れると言っているように。
だからこそだろう。
高田が、その期待に応えたくなってしまった。
「……俺さ」
やがて、高田は口を開いた。
「ほんの一年前まで、引きこもりだったんだよ」
それは一度口に出してしまえば、驚く程アッサリと口に出てしまった。
「学校行くのがツマンなくてさ。ずっと家に引き籠ってた。外に出ずに人と話すのも出来なくて、何か全てがどうでも良くなってた」
一年前までの高田は学校に行く意味も、生きる意味さえも無く、ただずっと暗い部屋の中に閉じ籠っていた。
「俺だけじゃねぇよ」
だが、それだけじゃない──ーそれだけが全てじゃなかった。
「有栖川は元不良で誰ともつるまない一匹狼」
「馬本はあんな性格だから、学校でも塾でも浮きまくり」
「遠山はもう大丈夫だけど、元いじめられっ子」
「丘村はまぁ……家庭がちょっと荒れてたらしい」
他のメンバーも全員同じような境遇の中に居た。
「俺達『Rockin'Live』っては、そういうハグレ者達の集まりなんだよ」
ハグレ者──―言い得て妙だと、高田は自分で感じた。
何処にも居場所が無くて、逃げ出した先で繋がった五人組。それが『Rockin'Live』というバンドの正体だった。
「でも、Poppin'Partyのお陰で……俺達は変われたんだ」
こんな世界からハグレた自分達の事なんて、見っともなくて言いたくなかった。
でも言わなくちゃ駄目だった。自分達がどうしてPoppin'Partyを好きになったのか。
どうして、ハグレ者だった五人が集まったのか、その始まりを語る為に。
高田は、小さく息を吐いて、喋り始めた。
此処からシリアスパートに入ります。心の準備をお願い致します。