合コン狂騒曲   作:突貫工事の下働きマン

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第七話:憧れだけじゃ味気ないし物足りない

「──―っていう訳で、Poppin'Partyを推してるんだ」

 

 そこまで言い終えると、高田はようやく一息ついた。

 

 実際、バンドを組んでから色々と変わった事があった。遠山のイジメ問題を解決したり、丘村の家庭事情に介入したり──ーその話をすれば、また長くなってしまうだろう。

 

 それに、一番伝えたい事は伝えた。

 

「だから感謝もしてる。『Poppin'Party』があったから……俺達は生きていられるんだ」

 

 後は香澄にどう思われるのかだけだった。

 

 こんな重い話をして、ドン引かれてもしょうがないだろう。覚悟なら話をした時点で既に出来ている。

 

 ──―だが、返って来たの予想だにしない反応だった。

 

「そうなんだぁ……」

 

 香澄の声は、高田が予想していたような同情でも、困惑でもなかった。

 

 夜風に揺れる前髪の隙間から見える彼女の瞳は、まるで深い夜空をそのまま映し出したように静かで、それでいて温かい星の光が照らしていた。

 

「すごく、嬉しいな。私たちの歌が、誰かの『始まり』になってたんだって知ることができて。……キラキラドキドキを、高田君達も見つけてくれたんだね」

「キラキラドキドキ……?」

 

 キラキラドキドキ──その言葉の意味が分からず、言葉を反芻する。

 

「うん。胸の奥がこう、熱くなって、じっとしていられなくなるような感じ! 私もね、昔は星の鼓動を探してたんだ。だから、高田君達の話を聞いて思ったの。一緒に手を伸ばそうって決めたその瞬間が、まるで私達みたいだなって!」

「俺たちが……ポピパに?」

「そうだよ! 何かを好きになって、始まって、一生懸命に手を伸ばしてキラキラドキドキする──ーそれこそが私達が伝えたかった事だもん!」

 

 高田は呆然とした。

 

 自分達は『Poppin'Party』という星を目指して走り続けて来た。だけど、香澄はもう自分達が『星』になれたと言ってくれている。

 

「──―そうか、もうそんな所まで来てたのか」

 

 今までずっと追いかけ続けて、憧れ続けていた。それがいざ目の前にあると知って、どうしようもない嬉しさが込み上げてくる。

 

 それはきっと、あの暗い部屋の中に居たら掴めなかったキラキラドキドキの感触──―香澄風に言えば、『星の鼓動』という物だろうか。

 

 それが今、胸の中で暴れているのを確かに感じる。

 

「香澄ちゃん……俺、本当に香澄ちゃんに出会えて良かったよ」

「ありがとう! 私もこんな凄いファンの人に出会えて嬉しかった‼」

 

 香澄はくるりと背を向けて、駅の方へと駆け出した。そして、振り返って大きく手を振る。

 

「これからも頑張ってね!私達もずっと応援してるから!!」

 

 そう言って、香澄は夜の街中へと消えて行く。それを最後まで見届けた高田は、ふと笑った。

 

「……推しに推されるとか、どんな逆転現象だよ」

 

 だが、悪くはない。過去を封じた偽りの自分じゃなく、本当の自分を見て推してくれる少女に出会えたのだから、寧ろ高揚感とは違う嬉しさが心に残っている。

 

 それにだ──ー香澄から『星』に慣れたと言われたその時。

 

「俺、やりたい事また一つ見つけたかも」

 

 高田の中で、一つの答えが浮かんだ。


「つぅ訳で、お前らの過去を全部香澄ちゃんにぶっちゃけました。多分、ポピパのメンバー全員に情報が共有されると思います」

「何やってんだテメェェェ‼」

「ちょ!首絞めんのやめて有栖川⁉お前のチョークスリーパーはマジで骨折れるぅ‼」

 

 翌日の昼休み、またもや誰も居ない屋上で昨日の夜の出来事を話すと、高田は早速命の危機に瀕していた。

 

「酷いじゃないか高田君! 何故ボクの話までしたんだ‼ やるなら他の奴らだけにしろ‼」

「馬本、怒る所はそこじゃないと思うぞ」

「はいワン、ツー」

「そして丘村、お前はテンカウントを数えんな」

 

 丘村のカウントがセブンの辺りで、ようやく有栖川の拘束が解かれた。

 

「ゲホッゲホッ! し、正直、悪かったと思ってる……お前らの聞かれたくもねぇ過去を離して、本当に悪い‼」

 

 高田が深々と頭を下げる。これで許される事じゃないと分かっていたとしても、自分なりにケジメを付けたかった。

 

「バッカ! そこじゃねぇだろ‼」

 

 有栖川が高田の肩を抱く。今度はジャーマンスープレックスでも掛けられるのかと思いきや。

 

「言うなら自分の口でだろ! そういう事は‼」

 

 高田は呆然と声を漏らした。てっきり、辛い過去を勝手にバラしたことにブチ切れていると思ったからだ。

 

「そうだな。こういうのは、僕が牛込さんとロマンティックな場所に出かけた時に、プロポーズと一緒にだな」

「うん、僕もたえさんと新婚旅行に行った時まで取っておこうと思ってたのに……」

「飛びすぎ飛びすぎ、どこまで想像してんだよ……でもまぁ、俺もみんなと同じ気持ちだ。こういうのは自分の口で言いたかったな」

 

 遠山が苦笑いしながら、屋上から見える晴天を見上げた。

 

「正直さ、山吹さん達に昔の話をしないまま、『ファンなんです』とかいうの何処か後ろめたかったよ。でも今は、スッキリしてる。お前が先に言ったのは癪だけどな」

 

 ──―どうやら、ハグレ者達の思考はどいつもこいつも似たり寄ったり。だからこそ、自分達は『星』へと手が届いたのかもしれない。

 

 そして、そんなハグレ者達だからこそ、自分が見つけた『答え』を今なら言える。

 

「なぁ、再来週にあるライブだけどさ……オリジナルの曲で演奏しないか?」

「「「「……ハッ?」」」」

 

 高田の提案に、四人全員が呆れたような声を出した。

 

「何言ってんだ。俺達は『Poppin'Party』のカバーバンドだぜ?何を今更オリジナルなんて」

「だからだよ」

 

 有栖川の言葉を遮り、高田は屋上の地面に立つ。そして今は未だ見えない夜の星に向かって天高く指を差した。

 

「俺達が『Poppin'Party』っていう星を目指したように。今度は俺達自身が、誰かの『始まるキッカケ』を作る星になる」

 

 高田が拳を付き出す。

 

 

「なろうぜ。『Poppin'Party』にも負けない星に」

 

 

 

 

 

「──―ハッ、言うじゃねぇか」

 

 有栖川が拳を重ねる。そして次々と高田の元に拳が集う。

 

「なってやるよ。テメェが言う一等星にな」

「承知した。僕達であれば出来るに決まっている」

「お前達だけじゃ心配だからな。しょうがないから付いていってやるよ」

「賛成。たえさん達にも負けない星になっちゃおうか」

 

 まるでバンドを始めた時のようだった。

 

 あの時はそれぞれの名前も知らず、偶然の巡り合わせで生まれたバンド。だが今は何もかもが違う。

 

 お互い傷跡を知り、時にぶつかり、そして星に手が届いた今なら、より真っ直ぐに走れる。

 

「──―っしゃあ! なら決まりだ! こっから先は果てはねぇ。それでも俺達の音で照らしていこうぜ」

 

 高田は宣言する。自分に向けて、仲間達に向けて──ーそしてまだ見ぬ未来の誰かに向けて。

 

 次は自分たちの音が、どこかで震えている誰かの夜を照らす番だ。




憧れだけじゃ、物足りない。憧れるからこそ、なってみたいと思ってしまう。
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