合コン狂騒曲 作:突貫工事の下働きマン
それからライブまでの二週間は激動の日々だった。
今までPoppin'Partyのカバーソングしか演奏してこなかった『Rockin'Live』が、いきなり曲を作ると決めたのだ。誰も作曲どころか作詞の経験も無いので当然だろう。
だけど少しずつ……五人とも練る間も惜しんで作っていくそれは、段々と曲として形作っていった。
──―そして本番ライブ当日の放課後。
「スゥ……スゥ……」
高田は机に突っ伏して眠りに耽っていた。昨夜ギリギリに完成した曲への興奮で寝れなかったのと、これまで積み上げて来た疲労が相まってか、スヤスヤといびきをかいている。
「おい、起きろ」
「……ん?」
遠山の声と共に肩を揺すられ、高田は重い瞼を開ける。
「もう放課後になってるぞ。HRからずっと寝てた炉」
「流石は隣の席。よく見てるな」
「そりゃ、そんだけ堂々と寝てれば、嫌でも目に付くっての」
上体を起こして、周囲を確認する。夕方の光が差し込む教室は閑散としていて、他のクラスメイト達は既に帰っていた。
ただし、遠山を含めた四人のクラスメイト達を覗いては。
「高田も眠れなかったのか? 俺も眠れねぇんぜ、今日一日ずっと寝てたぜ‼」
「全く、授業を聞いていなかったのか君は! 学生の本分として……Zzz」
「いや途中で寝るな。せめて最後まで言えよ」
「Zzz……」
「丘村、最初から寝てれば良いって訳でもねぇぞ」
相変わらず、このクラスメイト達──―『Rockin'Live』は騒々しい。そのせいですっかり眠気から醒めてしまったではないか。
高田は一度席から立ち上がると、軽く肩を上へ伸ばす。
教室の隅に置いたギターケース──あの日に買ったランダムスターを肩に担ぎ、四人全員に目を向ける。
「みんな、曲はもう覚えたよな?」
「おうよ! あんな良い曲忘れる訳がねぇだろ‼」
「当然だ。僕に掛かれば、暗記など朝飯前だ」
「あぁ、何度も頭に叩き込んだよ」
「バッチシOK。何時でもいける」
四人全員が自分の楽器ケースを担ぎ、それぞれ自信満々の反応を示す。それを見て、高田は口元が自然と歪んだ。
「──―それじゃあ」
「その前に、推しが校門の前で待ってるぞ。ほら外見てみろ」
「……へっ?」
遠山に促され、高田は慌てて窓の外から校門前を探す。そこには霞ヶ丘男子高校とは違った制服姿の少女が五人──―見間違える筈も無い。
『Poppin'Party』全員が、校門の前で待ち合わせていた。
「あっ、高田くーん! 待ってたよぉー‼」
その内の一人、星型の髪をした少女──―香澄がコチラに気が付いて手を振る。
高田は大急ぎでスマホを取り出し、何か連絡が無かったのか確認する。すると、一件だけメッセージが届いていた。
『今日ライブなんだよね! ポピパみんなでライブハウス行こっ‼』
「ぜぇ、ぜぇ……ごめん! 連絡来てたの気が付かなかった‼」
「良いよ! こっちこそ急に押し掛けてごめんね?」
「い、いや! むしろ光栄すぎて心臓が止まりそう……」
流石に何回か会っていれば、耐性が付いていた。ついこの前であれば、心臓が本当に止まっていただろう。
「お、推しがこんな近くに! ヤベェ……心臓がぁぁ‼」
「アバババババッ! う、牛込さんとまた待ち合わせデートだとぉ⁉」
「……あ、あはは。今日もみんな、元気だね」
苦笑いしながらそう言ったのは、ポニーテールを揺らす沙綾だった。その手には、お馴染み「山吹ベーカリー」の袋が提げられている。
「これ、今日のライブの差し入れ。みんなで食べて精をつけてね」
「うおおぉぉ!? 沙綾さんの、生・手作りパン……! 遠山君! これを末代までの家宝にするぞ」
「食えよ。賞味期限切れるだろ」
そんなやり取りを横目に、香澄がひょいっと高田の顔を覗き込んできた。星型の髪が揺れ、彼女の瞳が期待に満ちて輝いている。
「ねぇ、高田君! 今日は『新しいこと』やるんだよね? 遠山君から聞いたよ、オリジナル曲作ったって!」
「げっ、遠山ぁ……!?」
高田が思わず隣の遠山を見ると、遠山はそっぽをむいて誤魔化した。
「い、いやその……それは、ライブのメインイベントなんで、出来れば黙ってくれてた方が……」
「うん、内緒にしてあげる」
香澄が秘密事を共有した子供の用に、悪戯気に笑う。推しにそんな顔をされると、高山はこれ以上何かを言う事は出来なかった。
「まぁ、良いや……それじゃあみんな、ライブハウスに行こうぜ」
高田が号令を掛けて校門前を出ると、10人と言う大所帯でライブハウスへと向かい始めた。
その道すがら、ふと香澄が言った。
「話してくれたこと、私、ポピパのみんなにも話したんだ」
やっぱりかと思う反面、高田の胸はドクンと大きく跳ねる。
「……それ聞いて、他のメンバーは引かなかった?」
「ううん」
香澄が首を横に振るう。そして、Poppin'Partyのメンバーを見据えた。
「みんな『今日は絶対に一番前で応援しよう!』って言ってくれたよ。だからみんな今日此処に来てくれたんだ」
「……」
高田もまた、自分のバンドのメンバーを見据える。
「そ、その、あ、有栖川さ……頑張れよ」
「ん?遂に俺も幻聴が聞こえるようになったか? ヤベェな、丘村みたいになっちまう」
「幻聴じゃねぇよ! その、あの……マジだよ‼」
「その、馬本君……今日のライブ、頑張ってね!ウチ、応援するから‼」
「はぐぁ!ど、どういう事だ! 牛込さんから応援メッセージを直接送られるなんて、僕は今日死ぬのか……?」
「うえぇ⁉ 死ぬの⁉」
「今から大事なライブだってのに、どいつもこいつも浮かれてるな……」
「遠山君は浮かれてないの? 推しと一緒に歩いているのに」
「……実は、ちょっとだけな」
「ライブ楽しみだねー。やっぱり『ギュイーン!』って弾くの?」
「いや違うよ。どっちかと言うと『キュイーン!」って弾く感じだよ』
「それじゃあ、『ギュルギュル‼』って感じは?」
「受け入れた上で、あの反応か」
最初に合コンへ行った時と和やかな空気──―高田達の過去を知った上で、また同じように接してくれている。
一体それが、どんな気持ちであるのかまでは、高田はエスパーじゃないので計り知れない。
だが、それでも彼女達が受け入れてくれた事だけはハッキリと分かる。きっとその事は、あの四人にも伝わっている筈だ。
だから。
「……なぁ、香澄ちゃん」
「なに?」
「今日のライブ、ちゃんと最後まで見てくれ──ー俺たちなりの答えを出すからさ」
あの曲で、自分達が見つけた答えを示したいと思った。
『星』へ手を伸ばすキッカケになってくれた五人の少女へ。
そして、昔の自分と同じように、暗闇の中に居る誰かへ。
──―そうして、ライブハウス『RiNG』の看板が見えてきた。
過去も現在も含めて自分である。そして、これからやる行いもまた、自分である。