合コン狂騒曲 作:突貫工事の下働きマン
また本編に登場する『Night's Alive Star』の歌詞は、オリジナルで考えました。
歌詞の内容は後書きの方に記載させていただきます。
『RiNG』のライブフロアのステージ上にて。
『あっ、あー、ライブスタジオのみんなー。聞こえてるか』
ランダムスターを肩に掛け、高田はトントンとマイクを突く。
『確認しなくても聴こえるだろ。その音量なら』
ドラムが軽いテンポを打つ最中、遠山の呆れた声をマイクが拾う。
『おっしゃ! 準備完了したぜ‼ 俺は何時でもいけるぜ‼』
ゴツイ体躯と身体に似合わないキーボードを前に、有栖川は意気揚々と親指を立てる。
『こちらもだ。精々本番中にミスはないようにな』
ベースのフレーズ弾きで指を温めていたらしく、馬本の指が弦の上を軽やかに走る。
『僕も、もう準備終わってるよ』
ギターのピックを軽く親指の上で弄りつつ、丘村が普段通りの顔を見せる。
後準備できてないのは自分だけか──高田は、丁度自分の口の高さにあるマイクを握り締め、口を開く。
『どうも、『Rockin'Live』リーダーの高田です。本日は来て頂いてありがとうございます』
ライブフロア上から見える大勢の観客から、待っていましたとばかりに拍手が舞う。
だが、その次に続く言葉で、拍手は一斉に止んだ。
『いつもなら、『Poppin'Party』のカバーソングをする所ですが、今日はやりません……その代わり、俺達の曲を聴いて欲しいと思います』
ザワザワと、観客達の波が蠢き始める。『どうしていきなり?』や『ポピパの曲聴きたかったのに』なんて声も聞こえてくる。予想していたとは言え、その反響は大きかった。
少しだけ、やっぱり元のカバーバンド路線にした方と言う考えが過ってしまう──ーだがそんな動揺も、最前列に立った五人の少女達の声で変わった。
「高田くーん! 頑張れー‼」
「有栖川―! 負けるな―!」
「う、馬本君! 頑張って!」
「遠山君! 私達全員ちゃんと聴いてあげるから!」
「丘村君の『ギュルギュル』ってギター期待してるよぉ!」
その瞬間、さっきまで感じていた不安や動揺は、香澄達の笑顔を見た瞬間にすべて蒸発していた。
もしかして──『Poppin'Party』もまた、こんな風に最前列に立っていた自分達に励まされていたのかも知れない。そう思うと、途端に胸の奥から『星の鼓動』が流れ込んで来た。
「……聴いたかお前ら。推しのご要望だぞ」
高田がマイク越しではなく、背後の仲間たちへ向けてニヤリと笑う。
「言われなくても分かってらぁ! 見てろよ‼スッゲェテク見せてやっからな‼」
「フン!推しに励まされたらしょうがない!全力でやるぞ‼」
「はしゃぎすぎ、って言いたい所だけど、同意だな」
「良いよ。たえさんの前で恥ずかしい恰好は出来ないからね」
四人とも皆同じ顔をしている。一様に眩しく光り輝く表情をしている。それはまるで、最初に見た『Poppin'Party』のライブ映像に映る彼女達のようだった。
「どいつもこいつも良い顔しやがって」
──―高田は深く息を吸い、ライブハウスの天井のライトに手を伸ばす。
一年前、カーテンを閉め切った部屋で聴いていたあの曲──―そこから全てが始まった。
あの曲に出会えたから、今の自分が有る。そして、今の自分があったからこそ、ようやく『星』に手が届いた。
『……聴いてください。俺たちの『Rockin'Live』最初の曲』
だからこそ、今度は自分達が、誰かの『星』になる番だ。
暗い夜の中でも輝く、そんな星に。
「『Night's Alive Star』」
その瞬間、高田がギターの弦を一気に掻き鳴らされた。
『行き先も決めないまま』
『遠回りばかりの道』
『夕焼けの赤い空も 気づけば沈んで』
丘村のリードギターが嘶き、高田の歌声とランダムスターの音に絡みつく。そして、二本のギターが火花を散らす中、有栖川のキーボードが、粗削りながらも曲を彩る。
『笑われた言葉とか』
『飲み込んだ寂しさとか』
『胸の奥 溜まった泥が』
『僕の足を止める』
遠山のバスドラムが心臓を直接叩くような振動を刻み、馬本のベースが地を這う重低音でフロアの空気を震わせる。
(what?)
『何がしたいんだっけ?』
(what?)
『何を求めたのだろう?』
(why?)
『理由すら分からなくて』
『ムシャクシャした夜も』
四人のコールが重なり、曲の中身に厚みを持たせる。それに応える形で、高田も精一杯に声を張り出して歌い出す。
(ALL RIGHT!)
『乗り越えていこう』
(ALL RIGHT!)
『今はまだ見えなくても』
(到来!!)
『いつかは見える星』
そして次の瞬間に、『Rockin'Live』の音が弾けた。
『何万回も繰り返し』
『何万回も歌い続け』
『夜空に浮かんだあの星を』
『追いかける僕らは』
視界の端で、最前列の香澄達が大きく手を振っているのが見えた。 すると、首にかけたランダムスターを弾く力が自然と強まるのを感じる。
『何回だって立ち上がるぜ』
『何回だって歌うのさ』
『いつか手が届くその日まで』
力強い高田の歌声に反応して、『Rockin'Live』全体の音が大きくなる。その熱に充てられ、いつの間にかライブフロア全体の温度が数倍にまで上がっていた。
『終わらない 終われない 僕らの歌だ」』
──―間奏に入った瞬間、それこそ五人の音が一つに重る。汗を踏みしめながら演奏する五人は、まるで巨大な星のように眩しい光を放って輝いていた。
『何万回も追いかけて』
『何万回でも憧れて』
『駆け抜けた夜の中で』
『僕らは足掻いた』
演奏が無くなる。ライブフロアには高田の声だけが響く。
だが一人、また一人、まるで高田の声を導(しるべ)にするように、音が段々と募っていく。
──―そして最後には、『Rockin'Live』が持てる限りの音が始まった。
『足掻いた今があるから』
『逃げなかった今があるから』
『僕らはいつか辿り着く』
最後のコードを掻き鳴らし、高田は天に拳を付き出す。その拳の中には、確かな感触が残る。
『未完成で 不揃い』
『それでも 誰よりも 輝く』
『星になるんだ』
この瞬間、『Rockin'Live』は、憧れ続けた『星』になれた。
翌日、高田達は何時ものように、昼休みの屋上に揃って屯していた。
「ねぇみんな見てよ。昨日のライブの反応。超大盛り上がりだよ」
そう言って、丘村がSNSを開くと、そこには『Rockin'Party』に対する賞賛の言葉の数々が投稿されていた。
「『オリジナルソング神過ぎてヤバい』、『前から好きだったけど、これから一生推していく‼』……なんかスゲェ掌返し喰らった気分なんだけどな」
「まぁ、世間とはそういう物だろう。良い加減に学習したらどうかね」
「んだと馬本! そんな冷めた奴にゃぁ闘魂注入してやらぁ」
「それは闘魂注入じゃなくてコブラツイストだろうがぁギャァァァ‼」
「はーい。ワン、ツー」
「だからカウントするなって」
無数にも遡るコメントの中で、一際高田の目に留まったのは。
『ありがとうございます! 『Rockin'Live』のお陰で外に出る勇気を頂けました‼』
それを見た時、高田ははにかむような、満足したような笑みが浮かんだ。
「あれぇ?どうして僕のスマホを勝手に使ってるの高田⁉」
「ゲッ! 丘村⁉ そ、それはその……」
「もしかしてエッチな奴でも探してたのか?幾ら履歴が付かないからって他人のスマホでよ」
「んな事する奴に見えてんの⁉ 有栖川は普段俺をどんな目で見てんだよ‼」
「そうだぞ有栖川君! 君の残念な頭では思いつかないだろうが、世の中にはもっとバレないように履歴を消す方法が」
「止めろ馬本、丘村と高田を見てみろ。正座して受講する気になってるぞ」
──―とまぁ、特にこれと言って何かがなく、高田達はいつも通りのヒビを過ごしていた。
だが何も変わらなかったわけじゃない。
初めは自分達の『居場所』を求めて、星に手を伸ばしていた。だが今は、『誰かの居場所』を作る為に、手にした星を輝かせようとしている。
それはきっと凄い事で──ー自分達にしか出来ない事だろう。そう考えると、ふとまた笑みが零れ落ちた。
そんな折、高田のポケットから、メッセージの着信音が響いた。スマホを取り出して確認すると、なんと相手は香澄から。
『昨日のライブ良かったね! みんな凄い良い笑顔していたよ』
その文章と共に送られてきたのは、昨日のライブの写真だった。
その写真の中の五人の笑顔は何よりも輝いており──ーまるで、あの時に動画で見た『Poppin'Party』のように、楽しそうに映えていた。
「おっ、良い写真じゃねぇか! 俺にも送ってくれよ‼」
「ちょ、有栖川! 人のスマホ勝手に見るんじゃねぇよ‼」
「そう言ってる高田も、さっき僕のスマホ見てたし、コレでオアイコという事で」
「まさか推しと個人的なチャットをしているのか⁉ けしからん‼ 僕にも見せたまえ‼」
「俺も気になるな。どんな会話してんだ?」
他の四人も集まって、スマホに表示された写真を見ると、皆一様に笑顔を浮かべた。
「良い顔してんな、俺ら」
有栖川の言葉に、全員が黙って頷く。そして高田はもう一度、スマホの画面に映る自分たちを見つめた。
照明に照らされ、汗にまみれ、それでも心の底から楽しそうに楽器を掻き鳴らす五人の姿──―そこには、何処にも居場所が無くて暗い顔をしていた少年達の面影は、どこにもない。
最初は、ただのハグレ者達が寄り集まっただけの集団。それが今では居場所となり、誰かの星になれるように歌っている。
この居場所に集った人間は、誰もかれもが騒がしくてしょうがない。だけど不思議と意気は合うし、同じ夢を確かに紡いだ。
だからこれからもずっと、この五人の狂騒曲は終わらない。
相も変わらず、喧しい毎日を送る事になろうし、喧嘩なんて日常茶飯事だろうが、それもまた悪くないと想えた。
──―ピロン
『そうだ! 今度また合コンやろうね‼ アレすっごく楽しかったし‼』
「「「「「へ?」」」」」
そして、狂騒曲は第二部へと入った。
『Night's Alive Star』
《Aメロ》
行き先も決めないまま
遠回りばかりの道
夕焼けの赤い空も 気づけば沈んで
笑われた言葉とか
飲み込んだ寂しさとか
胸の奥 溜まった泥が
僕の足を止める
《Bメロ》
(what?)
何がしたいんだっけ?
(what?)
何を求めたのだろう?
(why?)
理由すら分からなくて
ムシャクシャした夜も
(ALL RIGHT!)
乗り越えていこう
(ALL RIGHT!)
今はまだ見えなくても
(到来!!)
いつかは見える星
《サビ》
何万回も繰り返し
何万回も歌い続け
夜空に浮かんだあの星を
追いかける僕らは
何回だって立ち上がるぜ
何回だって歌うのさ
いつか手が届くその日まで
終わらない 終われない 僕らの歌だ
《2番 Aメロ》
迷い続け 疲れ果てて
投げ出したままの道
強がりも尽き果てて 声さえ枯れそうで
届かない理想とか
変われない現実とか
何度でもぶつかって 傷が増えていく
《2番 Bメロ》
(what?)
まだやれるんだっけ?
(what?)
まだ信じていいのか?
(why?)
答えなんてなくても
彷徨うこの足
(ALL RIGHT!)
離さないでいこう
(ALL RIGHT!)
今も聞こえる この声を
(到来!!)
夜に駆ける星になれ
《2番サビ》
何万回も転んでも
何万回も立ち上がれ
夜に響くその声が
道を示すから
何回だって叫ぶんだ
何回だって進むのさ
まだ見えない明日に向かえ
止まらない 止まれない 僕らの旅路だ
《ラスサビ》
何万回も追いかけて
何万回でも憧れて
駆け抜けた夜の中で
僕らは足掻いた
足掻いた今があるから
逃げなかった今があるから
僕らはいつか辿り着く
未完成で 不揃い
それでも 誰よりも 輝く
星になるんだ。