4:1の花嫁   作:ドナドナ

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2026/05/02 1話を3分割して再投稿してます。

大抵のことなら三成は上杉のためになんでもします。


3話 新たな決意と三玖の自信

 気づくと、タクシーの中だった。生徒手帳で住所を調べ、五月が代表して俺を家まで送ってくれたらしい。料金も彼女がカードで会計してくれた。

 俺は二乃にかなり嫌われたらしい。まぁ、納得の好感度といったところか。

 五月から謝罪を、俺からはここまで送ってもらったことに対する感謝を伝えて後部座席から降りる。

 

「お兄ちゃん!」

「らいはか」

 

 俺の帰宅に気づいたらいはが、外まで迎え出てきてくれた。もう暗くなり、連絡もしていなかったので心配させてしまったのだろう。

 

「お兄ちゃん、今日は三成お兄ちゃんがたくさん夕飯を作り過ぎたからぜひ食べに来てだってさ。あれ、そこの人ってお兄ちゃんの生徒さん?」

「あー、そうだ」

「ど、どうも。中野五月です」

「そうだ!せっかくだし、五月さんにも来てもらったら?三成お兄ちゃん、本当に作り過ぎたらしいから」

「三成さんの作った料理が食べられるんですか!?」

「お前なぁ」

 

 三成はストレスは家事にぶつける主婦の鏡のような男なので、二乃との一件のせいで作りすぎたのだろう。

 それにしても、その料理に一発でつられてしまうこの食いしん坊は。三成の作ったクッキーで胃が掴まれたのだろうが、あまりにも早すぎるのではないだろうか。

 親父の帰宅もちょうど重なったことなので、上杉家と五月でそれほど離れていない三成の一戸建てへ向かった。

 玄関を開けると、お気に入りのエプロンを付けた三成が出迎える。

 

「五月さん、いらっしゃい」

「三成お兄ちゃん、ごめんね。突然五月さんも一緒に夕飯を食べようと誘って」

「いや、連絡してくれたしまったく問題ないよ。気にしないで」

「すみません、三成さん」

「いえいえ、どうぞ上がって」

 

 ダイニングにいくと、大きなテーブル一面に料理が並んでいた。そこに五月の分の皿なども並んでいて、いつもとは違う五人分で配置されている。なんだかストレスのせいだけではなさそうなくらいに気合が入っているように感じたのだが、気のせいだろうか。

 全員席につき、は合掌していただきますを言う。三成からの号令もあって、それぞれ食事を始める。

 

「いやー、可愛い女子が増えると、食事が華やかになるな!」

「親父」

「あ、ありがとうございます」

「三成お兄ちゃん、これはなんていう料理なの?」

「新作なんだ。簡単だから、また教えようか?」

「うん!あ、そうだ。お兄ちゃん、家庭教師はちゃんとできそうなの?」

「あー、そうだな。いや、どうだろうな。難しいかもしれない」

「まぁ、風太郎ならちゃんと全員無事に卒業させられるだろ」

「は?親父、無事に卒業させるって言ったか?いっきに難易度上げるなよ」

「ど、どういうことですか!できますよ!」

「五月さん、おかわりいる?」

「あ、お願いします」

 

 やはり三成は中野家に特効があるようだ。俺へ噛みつこうとしていた五月が今では三成からもらった白飯を片手にほくほくとしている。三成がいれば、全員無事に卒業させるのも夢ではないかもしれない。

 

「あ、そういえば三成さんのご両親はまだ帰宅しないのでしょうか。こんなにごちそうになって、一言挨拶でもしないでは帰れません」

「あ、五月」

「風太郎、大丈夫だから」

 

 俺は三成に止められて黙る。ただ、そんなに無理やり作ったような笑顔で言われては、今の言葉を鵜呑み出来ないではないか。五月は敏感に空気の変化を察知して申し訳なさそうにする。

 

「五月さん、俺の両親は二人とも小さいころに亡くなっているんだ。もしよかったら、あとで仏壇で手を合わせてくれる?」

「もちろんです。あの、すみません」

「気にしないで。ほら、どんどん食べて」

「はい」

 

 きっと、三成は表でこう言っているが、五月に対してどうしようもなく怒ってしまっているのではないだろうか。彼のいつまでも癒えない傷が、今もいて欲しかったと思ってしまう希望が、彼女の言葉で膨張してしまうから。

 少し気まずさを残しながら食事は終わり、五月は三成の両親の仏壇へ手を合わせた。その真剣な様子に、三成は薄っすらと笑みを浮かべているように見えた。

 

「ありがとう、五月さん」

「いえ、三成さん。今日は本当にありがとうございました。とてもおいしかったです」

「あんなにおいしそうに食べてくれたら作り甲斐があるよ。良かったら、その、また機会があれば食べに来てくれる?」

「はい!もちろんです」

 

 玄関までの廊下での会話に、俺は内心で驚く。あの三成が五月に対して積極性を見せたのだ。来るもの表向きでは拒まずのスタンスで極力人と関わりを持とうとしない彼には、珍しいことだ。

 社交辞令のまた今度よりは、今の言葉には彼が向ける五月への親しみが感じられる。

 

「風太郎、帰宅ついでに五月さんを」

「送るから大丈夫だって」

「そうか。それじゃ、みんなまた今度」

 

 親父、らいは、俺、五月、四人が家を出て、二手に分かれる。俺は五月を通りまで送るため、親父とらいはは帰宅である。

 太い通りまで出て、彼女が呼んだタクシーを待つ。

 

「あなたが家族のような人だと言ったのは、本当に、そのとおりの意味なんですね」

「親しみの度合いを表す言葉だと思っていたのか?」

「はい。みんなもそれくらいにしか思ってませんよ」

「ま、そうだろうな」

「彼はあのあと、あの家に一人なんですね」

「孤独なんかじゃないけどな。親戚の人が定期的に連絡をくれるみたいだし、月一回は必ず祖父母の家に行っているらしい」

「そうなんですか」

 

 彼女は何を思っているのか、俯いて何か考えている様子だった。俺をそれを横目に捉えながら、単語帳に目を通している。彼女にかける言葉は、何も思いつかない。

 

「私たちの母も、亡くなっているんです」

 

 彼女がなぜそれを話し出したのかわからず、俺は黙って彼女の顔を見るだけだった。

 

「とても悲しかった、けど、姉妹がいました。もしも、みんないなかったと思うと怖くなりました」

「大切さに気づいたとか、そういう話しか」

「そう、ですね。でも、それだけではありません。私は、あなたを見直しました」

「ん?何かしたか?」

「はい。きっと、何かしたんでしょう?三成さんに。あなたは、優しい人なんですね。今日、三成さんのあなたに対する姿を見て、そう思いました。彼も、あなたを本当の家族のように思っている。そして、感謝している。だから、二乃の態度を見て気を悪くしたというのも、少し納得できました」

「ま、まぁな」

 

 単語帳に目を向けて、なんとか熱くなった顔を隠す。

 間が良くタクシーのライトが俺達の横顔を淡く照らし出した。目の前に停まると、自動ドアが開く。ドアのもとまで歩み寄った五月は、こちらに顔だけ向ける。

 

「今日はありがとうございました。これからも、良きパートナーとしてよろしくお願いします」

「ああ、よろしく」

 

 そう言って彼女はタクシーに乗り込んだ。なんとなく、見えなくなるまでその車を見送った。

「パートナーか」

 

 まだあの五つ子全員が俺を受け入れている訳ではないと思う。特に三玖は一番小テストをするのを渋っていた。本当に山あり谷あり、骨が折れそうなバイトだ。

 しかし、希望はある。頑張ってみよう。

 休日の二日間は常に彼女たちの学力向上へどうアプローチしていけばいいのか頭を悩ませ続けることになった。三成にパソコンなどの使用を求めるのはもう少し後だろう。

 月曜日、俺はいつもより少し増した眠気を意識しながら登校する。なぜこう悩んでいる俺とは違う三成が、寝坊なんてしているのかわからないが、今日は彼を置いてきた。足取りが重いので、待っていたら俺が遅刻する。

 久しぶりに一人で登校したが、珍しいことが重なったようで、偶然あの五つ子と到着が同時だった。

 二乃には一言責め文句があったが、それよりも小テストの復習などはしたのか聞いた。反応は上々でない。

 一問目の問いを聞いてみたのだが、みんな何だったけと言うだけで、頭に残っている様子ではなかった。五月は悔しそうに、四葉がそんな問題あったっけという反応だったのに対して、他三人に関しては記憶を探る素振りすら見せなかった。

 朝の一件もあって、俺は本当にどう勉強させようか悩みながら午前を過ごす。しかし、授業を疎かにすることもできず、ロクな案も浮かばずに昼休みに突入する。

 俺はトイレに寄るので、三成にはいつもの席で待っといてもらう。こういう時に俺のせいで彼を食堂の行列に並ばせなくていいから、決まった席を日常的に使っていて本当に良かったと思う。

 俺が自分のランチを受け取っていつもの席に向かうと、三成と一緒の席に三玖がいた。仲良く談笑している様子だ。

 三成、お前は本当に中野家特効を持つ、最高の友人だ。

 

「えーっと、あ、これこれ」

「これは神ゲー。やらないのは絶対損」

「そ、そうなのか?それじゃあ、こんど中古でも買ってみる」

「それ、今度新作が出るらしい」

「へー。買うの?」

「検討中」

 

 なかなか、三玖も心を開いているように見える。流石は嫌いだけどコミュニケーションが得意な男だ。実際は、早く俺が来るよう神に祈りだしていると思うので、様子見はやめていつもの席の近くの四人用テーブルに座る二人のもとに向かう。

 

「あ!風太郎、遅いぞ!」

「フータロー、なんで」

「いつもこいつと一緒に食べているんだ。なんかなり行きで一緒に食べていたけど、風太郎も一緒でいい?」

「え、んー」

「ありがとう!ほら、風太郎、座れよ」

 

 了承かどうかわからない返事だったが、三成は無理やり良いように解釈して俺を隣に座らせる。三玖の表情を見ると、良くは思っていないことがよくわかる。

 

「風太郎、三玖さんは戦国武将が好きらしいぞ」

「や、ちょっと」

「あ、あれ?言ったらダメだった?」

「だ、だって、変じゃんか」

 

 確かに、変だ。いや、変というよりは、珍しいが適切であろう。

 

「別に、おかしくないって。本当に好きなものを変って言ったり、馬鹿にするほうが変だ。風太郎も、それを馬鹿にするような男じゃない」

 

 真剣に言っているようで、きっと内心は慌てているのであろうことがわかる長いセリフだ。彼女にはわからないだろうが。

 

「おう、もちろんだ。俺も日本史は好きな科目だぞ」

「そ、そっか」

「そうそう。あ、だから、風太郎。三玖が興味ありそうな歴史をまず教えたら?」

「そうだ!三玖、今度は戦国時代の勉強をしよう。それなら出てくれるか?」

 

 始めはそれでいい。それで少しでも俺が家庭教師として何か学ぶことができる存在だと思ってもらえれば、大きな第一歩ではないか。流石は三成。俺の家庭教師のバイトを手伝うということを忘れてはいなかった。

 三玖はしばらく黙り込み、頷くかと思ったが、そうはしなかった。

 

「私より詳しい?」

「え?」

「私より詳しくない人だったら、教えてもらうこともない」

「なに言ってるんだ!風太郎は前の日本史テストも満点だったし、歴史にチョー詳しいぞ!超賢い男だ!」

「おい、やめろ。恥ずかしいだろ」

 

 ナイス、三成。でも、その三下の太鼓持ちみたいな言い方はやめてくれ。

 

「三玖、次からちゃんと参加してくれるか」

「問題」

「え?」

「信長が秀吉のことを猿と呼んでいたという話が有名だけど、これは実は間違い。本当はなんて呼ばれているか知ってる?」

「知ってる」

「知ってるじゃなくて、答えて」

「なぁ、俺が答えちゃダメ?」

「三成はわかるの?」

「昨日のクイズ番組で出たんだって!お願い、めっちゃ言いたい!俺本当に知ってるんだって」

「三成は黙ってて」

 

 三成はむずむずと俺と三玖の顔を交互に見て、言いたい欲求を飲み込もうとする。三玖から問われた問題、確か以前授業で先生が言っていた。その名前は確か。

 

「は、ハゲネズミ」

「風太郎、正解!」

「なんで三成が言うの」

「な?俺も知ってるんだって。合ってるだろ?」

「あ、合ってるよ」

 

 三成、素が漏れているぞ。普段俺といるときはこの元気よさなのだ。というか、どれだけ言いたかったんだ。

 三玖は三成のテンションが高く声が一段と大きくなったことに少し驚いた様子だった。

 このうるさい三成が上杉家に見せる彼の自然体なのだ。これがもっとたくさんの人に見せるようになるのが、俺のちょっとした目標だ。今見せているのが、昔から変わらない、彼の明るい一面だ。

 

「三玖、これで受ける気になってくれたか?お前が知らない話もちゃんとする」

「そこまで言うなら、いいよ」

 

 俺は机の下で小さくガッツポーズとる。

 

「これ、あげる」

「これは?」

「友好の印。まだ開けてないから」

 

 彼女が差し出してきたのは、食後に飲むつもりだったのであろう抹茶ソーダ―という缶ジュースだ。

 俺はこの味を知っている。自動販売機でそれを見つけた三成が怖いもの見たさに買い、それを少し貰った。その名のとおり、抹茶とソーダが混ざった味で、うまくはない。三成により改善された日々の食生活で舌が肥えていたのだろう。もう飲まないと確信していたのだが、今こうして差し出されるとは。

 友好の印と言われて渡されては、なんとも断りにくい。

 

「大丈夫だよ、鼻水なんて入ってないから。なんちゃって」

 

 そんな茶目っ気と恥ずかしさを混ぜて微笑まれても、俺には意味がわからないのだが。

 

「え、もしかして、あの逸話知らないの?」

「え、いや、あ、あれだろ?」

「どれ?」

「えーっと」

「さっきの話、なしで。学べることもなさそうだし」

 

 最悪だ。今の三玖はなんだか俺を猛烈に馬鹿にした目をしている。それに、三玖に勉強してもらう貴重な道が断たれる。

 三玖はパクパクとサンドイッチを食べ始めてしまい、俺と話すことはもうないとでも言いたそうであった。

 俺が軽く俯きふりだしに戻ったと落胆していたときである。救世主が戻ってきた。

 

「それは俺も知らないなー。なんの逸話なんだ?」

「え?」

「誰か飲み物に鼻水入れたの?」

「入れたというよりは、大谷吉継の鼻水が垂れてお茶の中に入ったの。それを、石田三成が飲んだの」

「ええ、石田三成?俺、ちょっと三成って名前でよかったとか思ってたのに」

「ふふ、確かに同じだよね。でも、吉継はお茶を飲んでくれた彼に感動して共に関ケ原へ出陣することを決意する。三成と共に盟友として戦うことになるきっかけの話だよ?」

「へー、関ケ原か。でもなー。俺は風太郎の鼻水が入ったお茶とか飲みたくないな」

「安心した」

「なんでだよ」

「いや、飲めるとか言い出すかと思ったから」

「無理だって」

「ふふ、フータロー、振られたね」

「別に、冗談だよ」

 

 ナイス、三成。この場の空気はかなり良好となった。三玖も楽しそうに笑っている。

 

「なぁ、三玖さん、どうしても参加してくれないか?」

 

 三成の問いかけに三玖はすぐには返事せず、少し目線を逸らす。

 

「だ、だって、勉強できるとか言ってるフータローはさっきの逸話を知らないくらいだし」

「は?社会の小テスト三十二点には負けないくらい知識ありますけど」

「でも私が知りたいことも教えられない家庭教師はいらない」

「戦国将軍にまつわること専門ってか?我が儘言うなよ」

「無理やりやられても迷惑だから」

「まぁ、実際そうだよな。な、風太郎?」

 

 命拾いしたな、三玖。三成がいなかったら死んでたぜ。というくらいにはこのあとも喧嘩腰でいきそうだったのだが、三成の意図を汲んで矛先をしまう。

 このあとは三成から始まる他愛もない会話でお開きとなった。

 散々に気を遣わせてしまった三成には素直に謝った。彼は文句を言おうとしていたのだろう。先に謝られてしまい、複雑そうな顔をしているのが面白かった。

 俺はその後、放課後に彼女が好みそうな部類の本を使って図書室で勉強した。単純に三十二点に知識で負けたのが悔しかったし、そうすることで彼女が求める家庭教師に近づけるだろうと思ったのだ。そうすれば、きっと彼女も俺に対する態度を変えるだろう。

 三成の応援もあってかなり情報を詰め込んだ俺は、放課後に彼女を呼んで二人っきりになる。浮ついた内容ではない。俺が蓄えた知識を彼女に見せるのだ。

 

「三玖。戦国クイズで勝負だ。今の俺なら全て答えてみせるぞ」

「やだよ。フータロー、しつこい」

「なんだ、怖いのか?自分を超えられたんじゃないかって怖いんだろ?好きなことで負けるのがな」

 

 こういうと彼女は乗ってくる。応戦する気概の持ち主である、というか負けず嫌いの片鱗を感じていたので、ここまでは順調に作戦通り進められると踏んでいた。

 

「武田信玄の風林火山。その風が意味することとは?」

「え?やけに簡単だな」

「正解は、疾きこと風の如く」

 

 そう言うと彼女は階段の手すりをつかって器用に滑って下へ降りる。

 勉強嫌い、ひいては俺嫌いでもありそうな彼女が逃げることは、ちゃんと想定していた。手すりを使って階段を下りて逃げるとは思わなかったが、僥倖だ。階段下に俺はもしもの時のための助っ人を配置している。

 

「三成!三玖を捕まえてくれ!」

「おお、任せろ!って、ええ!」

「三成!」

 

 まさか手すりを滑って自分のもとに来るとは思っていなかったのであろう三成の驚く声も、焦る三玖の声もわかるのだが、そのあとに三玖の悲鳴はどうしたのだろうか。

 俺が駆けて階段下を覗いたのは、ちょうど三成が滑り降りた三玖を抱えるようにして衝突したタイミングだった。

 三成は大の字に倒れる。

 

「ごめん、三成。大丈夫?」

「大丈夫。でも危ないから今度からはやめような。それより、風太郎、捕まえたぞ」

「いやいや、本当に大丈夫なのかよ」

「あー、大丈夫」

 

 三成はぶつかったところをさすりながら立ち上がる。

 

「それより、勝負するんだろ?こいつめちゃくちゃ勉強して来たからさ、三玖もちゃんと相手してやってくれよ。頼む」

 

 かなり大きな事故だろうし、三成が痛みを我慢していることは全く隠せていない。そうしっかりと仕事をこなされても、俺は呆れてため息を吐くしかできない。三玖も流石に呆れたようだ。彼女は脱力して階段の二段目に腰掛ける。

 

「本当に、なんでそんなに一生懸命なの。三成もさ」

「確かにな」

「えー、俺は風太郎の手伝いをしているだけなんだけど」

「なにを頑張ってるんだ、三成」

「酷くない?」

 

 三成はその場に崩れ、座り込む。やはり効いているのだろう。

 

「なぁ、戦国クイズは?」

「お前、まだ言うのかよ」

「ふふ、もういいよ。ちゃんと授業受ける」

「え?本当か?」

「でも、日本史だけね」

「それは、いや、でも十分だ。やったぞ!三成!」

「あ、ああ、そうだな」

 

 三成は納得がいっていない様子だったが、俺は大きくガッツポーズをとって喜ぶ。これでまた一人、家庭教師をするにあたっての味方が増えたのだ。

 

「あ、そういえば、言っていたゲーム買ったぞ」

「ほんと!?もうやった?」

 

 本当に買ったのか。中古とはいえ、そういった趣味にお金を割くのは三成にとって珍しいことだ。言ってしまったからという理由もありそうだが、ぜひこれからも自分のためにお金を使って欲しい。

 

「うん。四葉さんから借りたゲームって言ってたでしょ?だから、この前四葉さんにもいろいろ教えてもらったよ」

「え?」

「あれ?何かまずかった?」

 

 三成の問いにすぐには答えず、三玖は膝を抱え込んで座りなおす。

 

「やっぱり、自分の好きなものに自信が持てない」

「本当に好きだけど、か?」

「うん。私は、五つ子の中で落ちこぼれなの。私に比べて、一花は愛想が良いし、二乃は友達が多いし、四葉は運動がもの凄く得意。五月は、誰よりも頑張り屋。私には何も誇れるものがない」

 

 三玖には自分に自信がない、ゆえに好きなものにすら自信をもてずにいるのか。それを好きであるということが間違いであるように感じてしまっているのだろう。どうやら四葉にも戦国オタクな一面は隠していたらしい。

 

「私程度ができることは、みんなもできる。五つ子だもん。だからやっぱり、フータローも私のことを諦めて」

「それはできない」

 

 俺の言葉に、三玖は顔を上げる。

 

「俺は五人の家庭教師だ。お前らを勉強させて、無事に卒業させる。それが俺の仕事だ」

「卒業ね。でも、前の小テストでわかったでしょ?私達には無理だよ」

「無理じゃない。お前にもできる。これを見ろ」

 

 俺は三玖に小テストで五つ子全員の正解した問題と間違えた問題がわかる早見表を渡す。土日に作ったものだ。受け取った三玖の横から三成が覗き、その成績に少し驚いていたが、それを教えたいのではない。

 

「おまえ達一人一人、誰かが間違えたところは、誰かが正解しているんだ。言ったよな?五つ子だから、自分ができることはみんなもできる。それなら、他のやつができることは、お前にもできるんだよ。つまり、お前たち全員百点を取る潜在能力があるんだ。もちろん三玖、お前にも」

 

 まさか散々分析した結果、三玖を励ますことに使うとは思っていなかった。

 彼女はプイっとそっぽを向く。

 

「屁理屈じゃん」

「ま、まぁ、そうなんだが」

「そう言わずにさ。三玖さんはもっと自信もって良いよ。三玖さんの戦国武将の話面白かったし」

「そ、そう?本当に?」

「本当だって。そして、俺がそう思えたのも、三玖さんが本当にそれが好きなんだって伝わってきたからなんだ。だからゲームもやりたいと思えた。もし、三玖さんが勉強を頑張るっていうなら、俺達は全力で応援する」

 

 三玖は抱えていた膝を離してしばらく地面を見つめて固まる。何を考えているのかはわからないが、何か彼女の中に変化していることはわかった。

 

「じゃあ、頑張ってみる」

「よっし、それじゃあ頑張ろう。な、風太郎」

「そうだな。三玖、これから良きパートナーとして、よろしく」

「うん」

 

三玖は俺の差し出した手を握って、固く握手してくれた。




神ゲー求む。
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