制服に袖を通すのはいつぶりだろうか。
アビドスの制服ではないけど…。
「マフラー…」
どうせならホシノ先輩からもらったマフラーも…そんなことを思ったけど無いことを思い出す。
……。
少し感傷に浸ってしまった。
気を取り直して覆面を…これも我慢だ。
これは強盗の計画の使うんだ。
後々怒られる声が聞こえる気がする。
私は1人部屋を借りることが出来た。
1人暮らし。
アビドスでもしていたけどここでもできるとは思ってなかった。
ノノミやホシノ先輩に1人暮らしさせてもらえるまでは結構苦労が多かったと覚えている。
『シロコちゃんが一人暮らし?!洗濯は!ごはんは?!』
『だめだよシロコちゃん、言う事聞けないのかな?』
そんな事言われたこともあったけ…。
リボン、ネクタイの着用は自由…。
私は青いネクタイを選んだ。
アビドスっぽい。
古めかしい校舎を歩く。
どことなくアビドス高等学校を彷彿とさせてゲヘナのようなトリニティのようなそんな室内。
先生と挨拶を交わす。
彼は葉山光代と名乗った。
この世界には先生が何人もいる。
私の世界では先生は本当に一人だけだった。
「ん、転入生の砂狼シロコ。特技は体力があること。あとは銃火器を使える。よろしくね」
きっと私がこの世界に来たのは意味があるはず。
とは言っても教室には数名しか生徒がいなかった。
それでも私の自己紹介を真剣に聞いてくれたのが伝わった。
この学校授業とかどうしてるのかな?
姫野桃が私の目の前にやって来た。
「ん…私と同じ3年生だったんだね桃」
「やっぱり年下だと思ってたんだ…」
彼女はとても背が低かった。
ホシノ先輩より小さい気がする。
桃色の髪はホシノ先輩と一緒だ。
でも長さは姫野桃のが短い。
この世界は魔法の世界と呼ばれているそうだ。
元々魔法という概念はあったそうだけどそれは概念だけで魔法なんて誰も使えなかった。
でもある時、魔法を使えるくらいこの世界は大気が魔力というもので満たされたらしい。
不思議な力を扱う人達の事をみんなは魔法使いと呼ぶのだそうだ。
「桃もこの学校にいるってことは魔法使いなの?」
「…そうだよ私も魔法使い。シロコもそうなんじゃないの…?」
「ん、私?。多分そうなるのかな?」
死の神アヌビス
そう言われるとなるとそしてキヴォトスという場所を考えると私もそうなのかもしれない。
概念しかなかった世界。
まるで世界を神妖達に返したような場所。
「ん…ねぇ桃、3年生はいないの?」
「え…?あー…3年生はあんまり学校に来る人少ないから…」
「そうなの?」
「仕事とか受験とか試験とか依頼とか就職とか進学とかで追われる…」
「授業は?」
「受けたかったら2年生や1年生と混ざって授業を受けるの…。受けた授業と内容はちゃんと書いて提出しないとダメだよ…」
「ん、これは筆記で?」
「もちろん…」
電子系のが楽なんだけどな。
そう思ってはいたけどアビドスでも電子系なんてものはほとんどない。
ミレニアムでもなければトリニティでもゲヘナでもないんだから。
ミレニアムには凄腕のハッカーがそれなりにいた。
でも私の知ってる彼女達は機械の荒波に飲まれてそうなったはず。
…もし帰ったらこっそり顔だけでも見てみようかな。
顔見知りとは言えないけど。
「シロコ考え事…?」
「ん…ううん。のんびりしてるのって私くらいなのかなって」
「…どうかな…?」
「桃は何してるの?」
「私はパティシエだから…」
パティシエ…そういえばこないだ料理を振る舞ってもらった。
「桃は仕事を?」
「うん…でも進学なの」
「ん…すごいね」
「ありがとう…だからシロコも元の世界に帰る為に動いた方がいい気がする」
「ん…」
確かにそうかもしれない。
「じゃあ…何か気をつけておくことある?」
「気をつけておくこと…?最近病院でちょっと異変があったり…電車で行方不明があったりとか?」
………色々気になる話が出てきた。
「私が関われそうな話はあんまりないのかな?」
「多分…?そうだシロコ今日お店来る?」
「ん、行こうかな暇だし」
「いや…することを探そう」
そう言われてしまっても…。
私はふと授業科目が気になった。
姫野桃は私の視線を追った。
「次は体育だね…確か100m走だったかな」
「ん、行こう」
「…?なんで私も…やだ体力ないし」
「ん、行こう」
「はなして〜……」
そう言って私は姫野桃を引っ張って体育参加を決めた。
「体育2年や1年とも合同だから私は出たくなかったんだよ…」
「ん…もしかして運動が苦手?」
「とても苦手…」
ちなみに私の記録は11秒ジャスト。
もう少しで世界狙えるらしい。
私は彼女の隣に腰を降ろす。
「桃走らないの?」
「無理…」
〜〜〜〜〜〜〜
帰り道
コンビニ前で不思議な何かを見た。
「ん、ねぇ桃あれってもしかして」
「幽霊っぽい…」
私と姫野桃が顔を見合わせる。
「あれ…なんで桃は見えるの?」
「私の魔法ネクロマンサーだから…」
そう言って「ほら…シロコ」と私を呼ぶ。
時々彼女の影は怪物っぽい姿が映るのはそれと契約してるからかななんて考えて私はその幽霊に近づく。
「何してるの…?」
姫野桃が訪ねるとその幽霊は女性の幽霊だった。
『?!?!!?!!』
「ん…大丈夫?」
『わ、わわわわたたしが見える?!』
「ん…「うん…」」
私は店内を覗くと女の人が気怠そうにレジを打っていた。
ぱっと見ノノミに似てなくもない。
「あの人を見てたの?」
私が聞くと幽霊は頷く。
「ん、あなたの名前は…?」
『私は…朝比奈…でもここから思い出せないの。でも私はあの子に走ってほしいの。昔は陸上選手で責任感もあって一緒にすごい活躍してたのに…今だってきっと…』
その言葉に私と姫野桃は顔を見合わせる。
「あ…やばい。ごめんシロコ…。仕事遅れる。これ私の連絡先」
「え??」
こういう時に社会人?というのはめんどくさい。自分の予定と責任を優先させるのだから。
姫野桃はまだ学生のはずなんだけどやってることは先生みたいな言葉を時々言う。
『あぁ行っちゃった。ねぇ…えっと』
「シロコ、私は砂狼シロコ」
『かわいい名前』
「ん……」
ちょっと恥ずかしい。
『ねぇシロコ。あの子をどうにか店の外に出せない?』
「…なんで?」
『お願い!』
「ん…外に出してどうするの?」
『これに参加させてほしいの。
マラソン、走るの楽しいしめっちゃおもしろいよ!』
朝比奈が指差したのは駅伝マラソンだった。
仮に外に出させたとしてどうやってこんなのに。
私の考えを読んだのだろう。
『私の言った言葉をあなたが代わりに言えばいいから』
「………」
私はもう一度店内を見る。
ちょうど陸上部の女の子達らしい子がコンビニに入って水分やらお菓子を買っていた。
店員の女の人はその集団を見て小さく溜め息を吐くように見えた。
何かを見つけて…でももう自分には無理だと感じて諦観している表情。
かつてのホシノ先輩のような顔を見た。
「どうにかしてみる」
私は朝比奈に言った。
姫野桃にメッセージをこう送った。
〜〜〜〜
シロコ:桃私今から犯罪してくる
桃:は…?
〜〜〜〜
店内に入り私は手近にあった商品を触って握って店を出る。
その怪しい私の行動に店員の女の人が初めて反応した。
「お客様お会計…!」
私は朝比奈に言われた通り、ふっと小馬鹿にしたような笑顔を向け外へ走る。
ちょっと楽しい。
「ま…まってくださ…ちょっとまってー!」
女の人がカラーボールというのを投げつけてくるが私はすいすい避けて走る。
責任感があるというのは確かなようで私を追いかける地力と体力はそれなりに結構あるようだ。
普通店長とか呼ばれそうなものだけど朝比奈はこの時間この女の人しかいないということをわかってたのかもしれない。
朝比奈は止まってと言うので私は止まる。
女の人が追いついた。
「はぁ…!はぁ…!万引き!通報しますから!」
「ん、万引きなんてしてない。誤解されたくないから走って逃げた」
「じゃああのさっきの態度は何ですか!笑いましたよね!とにかく盗んだものを出して」
そう言って見せたものはーーー
「あ…れ…この品うちにあったけ…」
「ん、最初から万引きなんてしてないレシートもある。見る?」
朝比奈は隣で『シロコちゃんそんな誘い方するなんてすごい!!!犯罪の才能ある!』
なんて叫んでいた。
「他の場所に隠した可能性だって」
女の人が言い終わる前に私は言葉を重ねた。
「盗んでないのに盗んだって言うなんてあなたこそ良くないよね?」
私はさらにボイスレコーダーをチラつかせ、記録された音声を流す。
名誉毀損になるよ?と遠回しに見せた。
『えぐ!!最高!用意周到!きゃー!』
と隣で叫んでいた。
この人本当に誰にも見られてないんだよね?
「…私に何をさせる気ですか?」
女の人は少し怯えていた。
なんか内心ノノミを責めているみたいになって心が痛んだ
内心でごめんノノミと謝る。
そして私は駅伝のポスターを見せる。
「ん、これに出てほしい」
改めて見たけどソロ駅伝と書いてあった。
ソロ…1人でゴールまで走るタイプのマラソンだ。
「マラソン…なんで?」
「出てくれれば公にはしないし安心していい。でもマラソン走るの楽しいしめっちゃおもしろいよ」
その言葉を聞いて女の人は少し顔を上げたように見えて悩んでいたけれど
「まあ…わかりました」
そう言ってくれた。
『いよっしゅああああ!』
隣は大声で喜んでいた。
めっちゃうるさい。
本当に見えてないんだよね?
私は女の人をコンビニまで送り届けその場を後にする。
「ん、朝比奈はどうするの?」
『様子を見ながらかな?』
「わかった。そういえばあの女の人の名前は?」
『時坂一葉だよ。いい名前でしょ』
「ん…そうだね」
私はマラソンのパンフレットを見て頷き思う。
この人どういう経緯で死んだのだろうと。
そう思った時、姫野桃が慌てた様子で戻ってきた。
「あれ桃どうしたの?」
「どうしたのって…あのメッセージは何…」
「あー…うん」
姫野桃は朝比奈を見て私を見る。
「何があったの…?」
私と朝比奈は経緯を話す。
「マラソンだね…ふぅん…」
説明を聞き終わり姫野桃はそう言う。
「ひとまず今日は帰ろう…。朝比奈…だっけ…?一緒に来れる…?」
『私?私は……』
彼女は固まった。
『ごめん…あの子のそばから離れられないんだ』
そう呟く。
「え?そうなの…?」
姫野桃が呟く。
行きたい場所に行けず、帰る事も出来ない。
思いの欠片の残滓。
それを聞いた朝比奈は黙っていた。
曖昧な笑顔を浮かべただけだ。
「このまま朝比奈を放置は出来ない」
「ん…どうすればいいかな?」
「大丈夫…」
姫野桃の影から異形の手が伸びる。
さすがに私は少し驚いた。
隠し持ったライフルに手を伸ばすところだった。
「ネクロマンサー…だったけ桃。なにと契約…それと契約してるの?」
「うん…名前はバロム」
「う、うん…?」
正直そこまで名前は覚えられそうにないけど…でも私達の世界にもアトラ・ハシースだとかビナーだとかペロロジラとかそう言う名前は数多く不思議があった。
姫野桃…彼女もまたいろいろあったのかな。
伸びた手は朝比奈の頭上で手を開いて消えた。
「これで少しは…動けるかな…」
『え?!ほんとだ!いや最初めっちゃビクッたけど!握り潰されるんじゃ!ってヒヤッとしたもん!』
私もそう思った。
亡きものを亡き者にしてやろうみたいな…。
「シロコ、朝比奈をひとまず家に案内しよう…」
「ん、うん。家って?」
「それはもちろんシロコの家…」
「………」
私は溜め息をつく。
正直、霊を家にあげたくないというのが本音だけど仕方ない。
姫野桃は途中で帰って行ってしまった。
私は朝比奈を家に連れてきた。
『魔法使いの家!!初めてきた!こんな風なんだ!オシャレ〜!わぁー!』
「ん、私も最近来たばかりだからあんまり勝手は分からないけどね。それで朝比奈どうしてこのマラソンに彼女を…時坂一葉を誘ったの?」
『うん、まずはお願いがあるんだ』
「お願い?何?」
『シロコも一緒にこのマラソンに出てほしいんだ』