マラソンに出てほしい。
そんなことを言われーーー
体育の授業に私は参加した。
「身体を動かしたい」という名目で私はここにいる。
実際は………
『え!!魔法の学校も体育あるの?!!しかも走るの!!!?見たい!走る!参加しよ!参加!』
朝比奈がそんな事を言ったからだ。
姫野桃には断られた。
でも可能な限り近くにはいるとのこと。
教室の窓から小さな姿が見えた。
ああやって見ると子供のようだ。
『シロコ体力あるんだね!』
「ん、まあね。私が前にいた場所にも体力に自信がある子がいるんだ。ロードバイクで競走とかしてる」
『ロードバイク!!!うっひゃあほぅー!足腰ってやっぱ大事だよね!走る時もここは重要なんだよ!。ねぇシロコ!体育終わったら外に出てほしいんだけどいい?』
「ん…、いいけど何かあるの?」
『うん!ある!大きな公園があるの分かる?走れるところがあるんだ!あそこに来て!』
あそこ…?
走れる公園がどこか分からない。
姫野桃に聞くも分からないとの事だが詳しい人がいるとの事で教えてもらった場所に向かう。
体育の授業が終わった後に私は公園に向かう。
公園に着くと朝比奈がいた。
『おーーーーーい!!』
朝比奈は大きな声を掛けていた。
でもその声は私に向けられたものじゃない。
ジョギングをする時坂一葉の姿があった。
『おーーい!!一葉ーー!!!腕大きく振らない!ペース乱さないでーー!』
大きな声で背一杯、朝比奈は声を出していた。
聞こえているかのように振る舞う。
痛々しい……思わずそう思ってしまった。
姫野桃には死者の姿が見えていたが彼女がいなければその姿は私にしか見えていない事になる。
脳裏に浮かぶのはヘイローを失った先輩だった姿。
私も…そんな先輩に声を掛けていたっけ。
『帰ろう…先輩………ホシノ先輩……帰ろう』
動かなくなった先輩に向かって声を掛けていたような気がする。
返事なんて…来るはずも聞こえるはずもないのに。
あまりに悲しくて辛いのに忘れたくても忘れられないこと。
「朝比奈、声聞こえてないよ」
私は言う。
でもそれはわかってると言うように朝比奈は叫ぶ。
『シロコさ…走るの好き?』
唐突に言われた。
「ん、そうだね。私は好きだよ」
『そっかそっか!私も好きだよ!
どう好きかって言うとーーー………』
「うん?」
『とにかくね!一葉は…時間が出来るとずっとここで走ってるんだよ。なのにもう走らなくなっちゃった』
どう好きか…その先の言葉を突然切れたように別の言葉を紡いだように見えた気がした。
「走ってるよ?」
『走ってないよあんなのは走ってない』
「ん…どうして?」
『私は一葉に走ることを返したいんだ』
その瞳は笑っているのに笑ってない表情。
走ることを返す?
私は走ってる時坂一葉に向かっていく。
私の姿を見つけた彼女は引き攣った顔をした。
「こ、こんにちは…」
ノノミに少し似た顔立ちの彼女が私の前で止まりぎこちなく挨拶した。
「ん、こんにちは」
『やあやあ一葉元気かい?私は元気だよー!!今日も性が出るね!』
少しやかましい。
「私もマラソン出る事にした」
「え…?これ結構体力いりますよ」
「ん、知ってる」
「自信があるんですね…」
「ん…あなたは自信がないの?」
「あるわけがないじゃないですか。あなたに脅されてなかったら参加なんて……」
そういえばそういう形で参加させたんだった。
『参加すると決めたら参加!走れば答えは出るよ!!』
「………」
「それでは私はタイムを縮める為にもう少し走りますから」
「ん、わかった」
『よし!がんばって!!私も一緒に走るよ!』
時坂一葉は走ってコースへ戻っていく。
朝比奈は追いかけるように付いていく。
まるでずっとそこにいるかのように声を掛けている姿を私はただ眺めていた。
『ペース乱さないー!!がんばってー!一葉ー!』
朝比奈の声が聞こえて私は前を向く。