英雄になれない元勇者   作:ダンまち=スキー

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レフィーヤ再登場。

この時期のレフィーヤは原作だとキレてベルくんを追い回してばかりですが、こっちでは怪物祭での交流(というか共闘)があったのでちゃんと対等な相手として認めてもらってます。それはそれとしてアイズに気にされてるのはムカつく。



壁上鍛錬

 

 ヘスティアから、エイナがソーマ・ファミリアについて独自に調査して色々と教えてくれたと聞いて、お礼を言いに行った帰り。ギルドを出てすぐの所で、2人は再会した。

 

「あ、どうも」

 

 武器も携帯せず、私服のアイズ・ヴァレンシュタインとすれ違ったベルは、軽く挨拶だけしてそのまま通り過ぎる。それに対し、アイズは反射的にぺこりと返してギルドに入り……戻ってベルを捕獲した。

 

「えっと、なにかご用ですか……?」

 

「敬語じゃなくて、いいよ。それから、私が倒し損ねたミノタウロスのせいで、迷惑かけちゃったから……ずっと謝りたかった。ごめんなさい」

 

「……あぁ、あれか。謝罪は受け取るけど、結果的に五体満足だし、もう大丈夫。気にやまなくていい」

 

 ベルは他派閥の冒険者を殺しかけておきながら宴会をおっぱじめたロキ・ファミリアに思うことはあれど、アイズ個人には特に何もなかった。ミノタウロスの件は事故だし、最終的には助けて貰ったのだから、感謝はすれど恨むことはない。

 

「それじゃあ失礼して……まだなにか?」

 

「なにか、お詫びがしたい」

 

 安心したように小さく微笑んだアイズを見て、これでよしと帰ろうとしたべル。しかし、解放されず。お詫びと言われても、彼女は何も悪くないのだから困るワケで……そんなベルを見て、アイズは提案をした。

 

「……訓練なら、してあげられると思う」

 

「なるほど。うちのファミリアから1人だけ連れて来てもいいか?」

 

「うん、いいよ」

 

 アイズの提案は善意だけではない。

 

 ベルの強さは客観的に見て異常だ。冒険者になって2週間でミノタウロス相手に平行詠唱、1ヶ月で食人花を相手にレフィーヤの詠唱が終わるまで時間稼ぎ。その強さの秘密、一端でも知りたいという打算が、そこにはあった。

 しかし、罪悪感があるのもまた事実。せめて期待には答えようと、アイズは思った。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 訓練の約束をした次の日の早朝。オラリオを囲む高い壁の上には、予定にない1人のエルフがいた。

 

「急遽参加することになりました。レフィーヤ・ウィリディスと申します、よろしくお願いします」

 

 なぜか早朝にこっそり抜け出したアイズを発見した彼女は事情を聞き、平行詠唱を習得するため自分も参加することを決めたのだった。

 

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 そんなレフィーヤに挨拶されているのは、剣姫と千の妖精を前にしてガチガチに緊張しているリリ。普通は誰だってそうなる、ベル以外はそうなる。

 

「で、どうする」

 

「どうしようか……」

 

 顔を見合せて悩むアイズとベル。ベルはともかく、訓練に誘ったアイズはノープランらしい。うんうんと唸る2人を見て、待機しているレフィーヤとリリは早くも仲良くなれそうな気がしていた。

 

 しばらく考えて、結論を出す。取り敢えずはベルが槍を持って手加減したアイズと打ち合い、リリにお手本を見せる。それを見てリリがなんかいい感じに槍を使い、おかしいところがあったら槍を扱う者(フィン・ディムナ)が身近にいるアイズが指摘。レフィーヤの平行詠唱はベルが相手をして練習。

 

「よし、これでいこう」

 

「うん、いいと思う」

 

 さっそく槍を持ったベルと、むふんと自信ありげなアイズ。しかし、レフィーヤがそのプランに異議ありと手を上げる。

 

「待ってください! いくら私でもLv1を相手しながらの平行詠唱くらいできます!」

 

「まぁ見とけ」

 

 しかしスルー。ベルは鞘を構えるアイズに突撃した。

 

 

 

 

 

「嘘でしょ……」

 

 槍を持ってアイズと打ち合うベルを見て、レフィーヤは思わずそう口に出した。レフィーヤにとって最強の剣士であるアイズ・ヴァレンシュタインが、まるで近付けない。Lv2程度の身体能力に調整しているとはいえ、相手はそれより下のLv1。

 剣より長いリーチを活かした制空権は元より、至近距離での攻防では剣に譲る筈が、歩法での距離調整や受け流しで攻撃をいなし、あまつさえ槍頭での殴打で反撃。

 とてもじゃないが、あの槍さばきを繰り出されたら平行詠唱などしている場合ではない。レフィーヤは認めざるを得なかった。

 

 ベルは槍を使っている者を見たことはそこそこあるが、実際に自分で槍を使ったことなど数えられる程度しかない。救世の勇者として選ばれるに足る戦闘センスと実戦経験が成せる神業であった。

 しばらくして、2人は示し合わせたように距離を取り、得物を下げた。ベルはふぅ……と息を吐き、リリに槍を差し出して一言。

 

「こんな感じだ」

 

「それだけですか?!」

 

 この男、才能マンであった。

 どうやったらそんなに上手く剣を使えるんですかという問いに対し、振りやすいように振ればいいよと答えたことのあるクソボケである。

 ただし今回の場合、槍を扱う者(フィン・ディムナ)が身近にいるアイズのアドバイスを受けてこんな感じになれたらいいねという意図があるので、まだマシだった。

 

「こっちはいいとして……問題はお前か」

 

「誰が問題ですか……っ!」

 

 アイズにドナドナされていくリリを見送りつつ、レフィーヤに舐めた口をきくベル。命の恩人とて言っていいことと悪いことがあると、レフィーヤは半ギレ。このエルフ、割と短気であった。

 

「こんくらいの距離から行くぞー」

 

「……バカにしてっ!」

 

 それはレフィーヤからして結構な距離だった。走って近付かれても一撃か二撃しのげば魔法が放てるほどのハンデ。今に見ていろとレフィーヤの杖を握る手に力が入る。

 

「3,2,1でスタートなー! それじゃあ、3,2,1ッ!」

 

「『解き放……っ!?』 ちょ、待っ、あだっ?!」

 

 よーいドンと同時に飛来する木製の短剣。詠唱を中断するどころか驚いて大袈裟に避け姿勢を崩したレフィーヤに、もう一本の短剣が飛来。額をゴツンと打ち抜かれた。

 

「も、もう1回です!」

 

「……まぁいいか」

 

 何か言いたげだったベルを制して、レフィーヤはリベンジを要求。再びあの距離に戻る。しかし、今度は油断しない。

 

「3,2,1ッ!」

 

「『解き放つ一条の光、聖木の弓幹(ゆがら)』」

 

 投擲された短剣を危なげなく回避し、詠唱を続ける。

 2本とも短剣を投擲したなら、残るのは無手のLv1で、それなら対応できるだろうとレフィーヤは思っていた。

 

「『汝、弓の名手なぁぁぁ?!』」

 

 が、ダメ。近付いてきたベルを杖で殴打しようしたレフィーヤは、その勢いを利用して地面に転がされた。審判が1本ッ!と気持ち良く宣言できるくらいの完璧なカウンターであった。なんならアイズとリリがおーと声をもらして拍手している。

 

「もしかして、魔法使いながら前衛でも戦えるスタイルを目指してたりする?」

 

「は、はい! わかるんですか!?」

 

「お前、今すぐそれやめろ」

 

「えっ……?」

 

 憧れのアイズ・ヴァレンシュタインのようになりたいという自分の努力を理解して貰えたと思ったら突き落とされたレフィーヤは、この世の終わりみたいな顔をしていた。

 

「すまん、言い方が悪かった」

 

 謝りながら、ベルは説明する。

 

 平行詠唱には2種類ある。戦士が行う前衛の平行詠唱と、魔導師が行う後衛の平行詠唱だ。魔導師にとって魔法とは溜めて放つ大技だが、戦士にとっては攻撃手段の1つであり、小技でしかない。それに、レフィーヤのような純粋な魔導師の魔法は威力が大きい分だけ扱う魔力の量も多い。必然、制御に割く意識のリソースも増えるので、その分だけ近接戦闘で不利になる。それに……

 

「お前、白兵戦は素人だろ」

 

「うぐ……」

 

 痛いところを突かれたとばかりにレフィーヤは目を逸らす。彼女の目指す平行詠唱の姿は、白兵戦の最中でも相手の攻撃に対処しながら詠唱して魔法を放つ、戦士と魔導師のハイブリッドとして理想のスタイルだ。

 理想とは叶わぬから理想と言い、理想に妥協というクッションを挟んだものを現実と人は言う。

 

「レフィーヤ、意識のリソースは魔法を発動させることだけに全ツッパだ。攻撃と防御は捨てて、回避に専念しろ」

 

「でも、それじゃあ……」

 

 レフィーヤが目指すものにはなれない。渋るレフィーヤにベルは言う。

 

「ロキ・ファミリアは優秀な前衛が沢山いるだろう。むしろ足りてないのは純粋な後衛なんじゃないか? 魔法を借りる魔法も使えるんだから、後衛に専念した方がパーティ単位では絶対に強いぞ」

 

「そう……ですかね?」

 

「前衛の守りも絶対じゃないから最低限の平行詠唱は出来た方がいいと思うが、少なくとも俺は万能型より特化型が複数人のパーティのが怖い」

 

「なるほど……」

 

 考え込むレフィーヤを見ながら、どうやって平行詠唱を習得させようか悩みつつ短剣をクルクルと回して手を慰めるベルの背中に優しい刺突。

 

「ん?」

 

 アイズが鞘でツンツンしていた。元より彼女の目的はベルの強さを探ること。ロキ・ファミリアにバレるとマズイ都合上、訓練に使える時間はそう長くないのだ。

 ベルは肩で息をしているリリを確認し、休憩時間としてアイズと一戦交えることにした。

 

「貰ってばかりでは悪いから、俺も少しばかり返そうか──目覚めよ(テンペスト)

 

「なっ?!」

 

 それは、アイズ・ヴァレンシュタインの魔法。レフィーヤだけでなく、普段は感情の起伏に乏しいアイズまでもが驚愕に包まれる。

 確かに感じる精霊の気配。あれは紛れもなくエアリアルであると、アイズ自身が認識していた。しかし、アイズの暴れ狂う風とは異なり、ベルのそれは完全に調律されていた。

 

「俺も精霊には縁があってな……いくぞ!」

 

「っ?!」

 

 収束した風は短剣を延長して緑光の刃を形成し、ベルがそれを振るう度に斬撃が飛翔する。そして、ベルもまた飛んだ。重力を無視した動きで縦横無尽にアイズの周りを飛び回り、攻撃を繰り出す。アイズは防戦一方だった。

 

 

 

 

 

 そして、3分後──ベルはアイズに膝枕されていた。

 

 精霊の力を感じたことによる動揺と、自分がさらに強くなれる実感、思いのほかベルが強くてヒートアップしたアイズ。いくつかの要素が重なり、ベルは手加減を失敗したアイズに気絶させられた。

 ベルが意識を取り戻すと、視界にはアイズの顔があった。石の上なのに柔らかい感触。いい匂いもする。なんか頭を撫でられてる。遅れて状況を理解し、飛び起きて一言。

 

「な、なんで膝枕してるんですか……?」

 

「敬語は、いいよ?」

 

「いや、うん、それよりなんで膝枕……?」

 

「リヴェリアが、これをすれば喜ぶって」

 

 エルフの王族は少女漫画とか隠れて読んでるタイプのムッツリさんなのかな、とベルは思った。というか、気絶するレベルの攻撃を受けた対価が膝枕って、いくら美少女とはいえ釣り合ってなくないかと、ベルは苦情を入れたくなった。

 そして、感じる視線。チラリとそちらを見ると、レフィーヤが親の仇を見るかのような恨みのこもった視線をベルに向けていた。こいつなら膝枕のために喜んで気絶させられるんだろうなとベルは思った。

 リリは息も絶え絶えで文句を言う元気もないようだった。哀れ……

 





アイズ、残光をカンニング。

ベルくん、結構頑張ったけど3分クッキング。

ベルくん以外は全員強化。
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