英雄になれない元勇者 作:ダンまち=スキー
ベルくんは大体の魔法が使えるので、レベルが高くなればなるほど出来ることが増えて手が付けられなくなり、相手に付け入る隙があったらそこから切り崩して必ず勝ち切るAI搭載の戦闘マシーンみたいになります。Lv7の時点でアルフィアがLv9にワンチャンなのに対し、ベルくんは必ず勝ちます。
魔王軍と戦っていた時は、魔王と対峙する前に勇者の戦力を削るべくひたすら手下を送られ続けている状態から、魔族の長寿と引き換えの繁殖力の低さと個体数の少なさを逆手にとって魔王軍を壊滅させたので、アルフィアとは逆に持久戦にはクソ強いです。
さらにそれを自覚しているので、これ勝てなさそうだなと思ったら勝機が見えるまでひたすら持久戦しかけてきます。かつその間ミスは絶対にしません。
つまり敵目線だとベルくんはとんでもねぇクソエネミーです。全属性の魔法が使えて物理攻撃もできて火力高くて硬くて耐性高くて回復してきてあらゆる状態異常とデバフを撒き散らしながら無限に持久戦してくるその姿はモンスターよりモンスター。
ベルくんが現れてから魔王が笑えた日は数日しかありません。それを見てゲラゲラ笑ってた邪神も笑えなくされました。怖いね(怖いね)
お詫びをしたいという名目で誘った早朝の訓練。しかし同時に、アイズは醜い打算を抱えていた。
それに、アイズはまだベルに何も教えられていない。
指導の前後で、ベルだけが何も変わっていない。
なんならアイズが指導されて強くなっている。
だから──アイズは膝枕をする。
(や、やっちゃった……)
アイズは手加減が下手だった。少しでも油断すると、ちょうど今のようにベルを気絶させてしまう。エアリアルを収束させる練習をしている時に暴発してベルを壁外に吹き飛ばした時は肝が冷えたものだ。
足にかかる少年の重み。なれない膝枕にさしものアイズも恥ずかしさを感じ、頬を赤くする。しかしながら、頭を撫でるのはやめない。
普段の大人びた態度と完成された戦闘スタイルからは想像もできないあどけない寝顔を見下ろしながらこうしている時、アイズは心が洗れていくような感覚を覚えていた。心地良い。肩から力が抜けて穏やかな気持ちになれる。戦いに明け暮れる過程で失われていたものが戻ってくるような、そんな優しい時間だ。
「……なぁ、なんで膝枕をしてるんだ?」
「えっと……こうすると、体力が早く回復するから……」
咄嗟に放たれた目を逸らしながらの苦しい言い訳は、とんでもないデマだった。
「ごめんね……本当は、私が君にしてあげたかったから……」
ベルの冷たい視線に観念してありのままの本心を明かすアイズ。ベルは一転して顔を赤く染めた。
ベルは思った。アイズをこんな風に育てたバカタレはどこのどいつだと。言動、趣向……それに、よく見ると横乳と背中が丸出しの馬鹿みたいな服装。やはりエルフの王族はムッツリなのだと確信を得る。
「やっぱり、嫌だった?」
「嫌ではないが、その、なんというか……気絶している間は不可抗力だから……」
美少女の膝枕はそら嬉しいですよと素直に言うのは難易度が高すぎた。自己保身に走るベルに、アイズが一言。
「それじゃあ、気絶している間ならいいんだね」
「えっ」
今は2人きり。何度も同じ時間に抜け出すとファミリアにバレるのでレフィーヤは自主練。リリは世話になっていた知り合いのノームが病気して看病。にじり寄ってくるアイズから逃げることは不可能だった。
「ちょ待っ、落ち着けぇ! 気絶させられるとその分だけ訓練に使える時間が減るだろ!」
「わかった」
数分後、市壁の上には容赦なく意識を刈り取られ膝枕をされる哀れなベルの姿が。頭を撫でるアイズは、ほくほく顔でご満悦だった。
アイズがベルを気絶させまくっているのは、なにも膝枕をするためだけではない。手加減しているとはいえ、油断のできない行動を多々してくるからだ。
それを目にして、アイズは当初の予定を思い出していた。強さの秘訣。高みへの可能性。それを求めてアイズはベルを誘った。
「……あの、離してもらっていいですか?」
「敬語はいい。それより、聞きたいことがある」
「アッハイ」
意識を取り戻した瞬間、素早くその場から離脱しようとするベルの顔を両手で挟み込んでガッチリと抑え、至近距離で視線を交わす。
「どうして君は、そんなに強くなれたの?」
人と話すことが苦手なアイズの、精一杯の問いかけだった。秘密を暴こうとする無茶な要求であることは百も承知だったが、それでも彼女は聞かせて欲しいと切に願った。
対してベルは、特に躊躇するでもなくあっさりと答える。
「必死にやってたらここまで来てたというか、なんというか……たどり着きたい場所があるから?」
ベルが目指す場所はハッピーエンドのその先だった。
「そっか……わかるよ」
ぽつりと呟く。それは納得できる答えではなかったが、わかるものがあった。目標があるという点で、何がなんでもたどり着かなければならない場所が遥か高みにあるという点で、2人は同じだった。
アイズはベルの拘束をとき、空を見据える。金の長髪を涼風に揺らしながら
会話が途切れる。自分たちに注がれる陽の光に、アイズは目を細めた。今日の空は一段と青く、小さなうろこ雲が晴天の空を気ままに泳いでいる。 正午を告げる都市の鐘が澄んだ音で鳴り響き、ぽかぽかとした日差しに2人は包まれた。アイズは思わず欠伸をする。第一級冒険者すら敵わない凶悪な陽気に、
「昼寝の訓練を、しようか」
「は?」
「ダンジョンでは、いつでもどこでも、寝られるようにしないといけないから」
「…………」
「すぐに体力を回復させることは、必要だよ?」
アイズの口はベルの何か言いたげな視線を受けても止まらなかった。睡魔に屈すると素直に言えない白々しい発言だった。アイズは
「……眠いなら寝ればいいと思うが」
ダメだった。アイズは顔が熱くなるのを感じる。
「訓練、だよ」
「……そうか」
この暖かな気持ちの良い空気の中だ。問い詰めるのも、眠気覚ましの魔法をかけるのも、野暮だなとベルは判断した。2人は石畳の上に寝転がり目を閉じる。次の瞬間には、
青空に見下ろされるアイズの寝顔には、屈託のない穏やかな微笑みが浮かんでいた。失った筈の優しい一時に、彼女は包まれていた
◇
「アイズ」
「うん……視られてる」
夜もすっかり
魔力感知によって下手人の場所を特定したベルが暗闇を視線で射抜く。するとやがて、監視者は影を払って歩み出てきた。目元をバイザーで隠す
──回避、できない。
殺気を感じ反射で回避行動を取るが、身体能力の差が大きすぎた。見てから余裕の対応をされ、槍がベルの顔面に迫る。しかし、抜剣したアイズがそれを防いで弾き飛ばす。 そのまま交戦、ベルはアビリティ不足により介入できない。一方、ベルの方にも敵襲あり。黒衣の集団に取り囲まれていた。
「問題ない! そっちは頼んだ!」
「……うんっ!」
その指示で、ベルを気にしていたアイズの動きが精細を取り戻す。同格のLv6にプラスアルファの増援をまとめて抑える。
ベルは格上のLv2に囲まれていたが、問題なく対処。
襲撃者たちは自分たちが重傷を負うこともいとわない苛烈な攻めを繰り出してきたが、それはベルから言わせれば普段から回復魔法を受けられることを前提とした雑な立ち回りだった。それに連携もなっちゃいない。全員が敵で日々殺し合うコロシアムでもどこかにあるのかと疑問に思うような連中だった。
ベルは内心でため息をつく。これは練習だからと抜かして気を抜いている輩は気付いていないのだ──それが本番での失敗を招くと。真面目に練習をしていなかったわけではない。その妥協が無意識に実戦で、しかもここぞという場面で出てしまうのだ。そういう戦士をベルはたくさん見てきた。
多少戦い慣れていようが、連携どころか足を引っ張り合う有象無象がいくらいてもベルは倒せない。そうしてしばらく戦っていると、Lv6の猫人が指示を飛ばして彼らは撤退していった。
「……一応聞くけど、心当たりは?」
「ありすぎて、逆に……」
ロキ・ファミリアは都市最大派閥の片翼だ。闇討ち自体はよくあることらしいが、普段はダンジョンで仕掛けてくるそうな。
取り敢えず、アイズ曰く相手は『警告』と言っていたらしいので、その日はそこで解散することにした。
女神F「添い寝なんて許せるわけないだろッ!!」
リヴェリアに熱い風評被害(その2)
女神F「このままだと普通にランクアップしちゃう……でも彼の冒険見たすぎるなぁ……どういうのがいいと思う?」
猪人従者「因縁の相手と再戦、いいと思います」
女神F「イイネ! 用意しといて!」
猪人従者「承知しました」
普通は死にかけるような激戦じゃなくてちょっと危険なことを何回か繰り返してランクアップするみたいですね。階層主へのレイド戦とか。
ミノタウロスへのリベンジ戦(なお別人、別牛?)は原作通りにはなりません。うちのベルくんなら、女神Fさんの思惑通りの戦いをするのは癪に思うだろうなと。今は『戦いってのはこうするんだよ!』と脳内シミュレーションで勝手に言ってます。
ど、どうなっちゃうんだ〜?(マジでわからん)