英雄になれない元勇者   作:ダンまち=スキー

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感想欄にて、MP関係の用語についてご意見を頂きました。ありがとうございやす!
で、それはいわゆる魔力切れに関する用語なんですが、マインドゼロorマインドダウンどっちが正しいのかというお話でした。
結論から言うと、わかりませんでした。すんません。
私が調べた限りでは、原作でもこの2つについて詳細は語られていなかったです。なので、本作では
『マインドゼロ=魔力切れ』
『マインドダウン=魔力消費による気絶』
とします。私が見つけられていないだけで普通に違いが明言されていたら申し訳ありません。

ついでのようで申し訳ありませんが、誤字報告ありがとうございます! 感想と違って返信が出来ないので個々に感謝を伝えることはできていませんが、とても助かっております。

それでは第2章の開幕ということで、対戦よろしくお願いします。



神会(デナトゥス)

 

「ただまー」

 

「おかえりベル君!」

 

 ギルドにLv2へのランクアップを報告して戻ってきたベルに、ソファで寝転んで本を読んでいたヘスティアが跳ぶように近付き微笑んだ。

 

「問題はなかったかい?」

 

「大丈夫と言えば大丈夫……?」

 

「おっと、不安になる回答だね」

 

 ギルドで起きた事といえば、ベルがランクアップの最速記録を1年から1ヶ月半と1/8くらい縮めた事に驚いたエイナが思わず叫んで騒ぎになったくらいだ。

 エイナはベルに平謝りしていたが、ベルとしてはむしろプラスだと思っていた。ランクアップはいずれ知られることだし、なによりダンジョンで無茶しても今回手に入れたこのカードを切れば説教は封殺できる。

 実際、ベルがランクアップするまでの記録を取っていたエイナは『真似したら100%死ぬ冒険記録』が手元に完成しても、何か言いたげな表情をするだけで説教はしなかった。ただ『死んで欲しくない』と言うだけで。

 

「ところでベル君、発展アビリティは本当にあれで良かったのかい?」

 

「ああ、むしろこれが欲しいと思ってた」

 

 発展アビリティ。それはランクアップする度に1つずつ発現する小スキル。戦闘用の剣士や魔導、生産用の鍛治や調合など、専門的な能力を開花(ある)いは強化させる。

 

 ベルは発現させる候補が『幸運』『狩人』『剣士』『拳打』『剛身』『精癒』『耐異常』『治癒』『治力』『覇撃』『魔導』『魔防』など大量にあったが、選んだのは『神秘』だった。

 

 効果は特殊な魔導具の作成。ベルの場合は元から簡単な魔導具は作成可能で、今もホームに置いてある魔石を電池として使うタイプのエアコンや冷蔵庫は市販品ではなく自作だ。しかしLv1の状態では小さな外見に大容量の中身を持つ、ファンタジー定番の空間袋とかは作れなかったので、今回のランクアップと発展アビリティで補うカタチ。

 ベルはエイナにもヘスティアにも本当にそれでいいのか聞かれたが、押し通した。ダンジョン攻略の役に立つという確信も勿論あるが、半分は正直に言うと趣味だった。しかしベルには後悔も反省もない。

 

「まあ、君が納得できるならそれが何よりさ。それじゃあボクは出掛けるよ」

 

 今日は3ヶ月に1度だけ行われる神会(デナトゥス)の日だ。またの名を、暇を持て余した神々の会合。アイズ・ヴァレンシュタインの剣姫など、ランクアップした冒険者の2つ名を決める場でもある。

 

「……俺の命運は、神ヘスティア。あなたにかかっている」

 

「……ああ、任せてくれたまえ」

 

 仰々しい見送りをするベルと、まるで死地へと(おもむ)く戦士のような雰囲気で出発するヘスティア。戦いの時は、近い。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 神会。その成り立ちは、ある程度ファミリアが成長して今を生きる苦労を忘れ時間を持て余した神々が、退屈しのぎに企画したことに由来する。つまり、この集会において、神はハジける。

 

「──決定。セティ・セルティの2つ名は、

暁の聖竜騎士(バーニング・ファイティング・ファイター)』」

 

「「「イテェエエエエエエエwww」」」

 

「うわぁああああああああ!!!」

 

 床を転げ回りながらイタすぎる2つ名をゲラゲラ笑う神々と、眷属にそんな2つ名を付けられ慟哭(どうこく)しながら崩れ落ちる神。後者は眷属への謝罪と自分の無力を呪う言葉を床に向かって延々とこぼしていた。そこは、地獄であった。

 

「く、狂ってる……」

 

「あんたの気持ちはよーくわかる」

 

 その光景を見て絶句するヘスティアの隣で、ヘファイストスが同調する。私も最初はそうだった、とどこか遠くを見ながら彼女は共感を覚えていた。

 しかしヘスティアの場合、今回は他人事では済まされない。イタい2つ名を回避するには、集会が行われる前に金品を貢ぐか、ファミリアの規模で脅迫するしかない。つまり、零細ファミリアにとってこの最悪な攻撃は不可避である。

 

 

 

 中小のファミリアがあらかた出尽くして地面に転がる被害者を量産した後、今度は上位のファミリアの出番となる。ヘファイストス、ガネーシャ、イシュタル。錚々(そうそう)たるファミリアの団員たちが列挙されていた。

 

「フレイヤぁ。おたくの子はランクアップしていないようだが、暇でも持て余しているのか?」

 

「ええ。天界の時もそう、退屈は私達を殺す毒だもの。つい足を運んでしまったの」

 

 言葉の節々に侮蔑を匂わせる美神イシュタルに、同じく美神であるフレイヤは涼しい微笑みを向けた。

 

「へぇ、そうかい。暇と言えば、おたくの子も相当らしいねぇ? 中層に留まってミノタウロスと来る日も来る日も格闘していたそうじゃないか。眷属()(おや)に似るのかい?」

 

「ふふ、そうかもしれないわね?」

 

「ああ、そういえば! 上層にミノタウロスが紛れ込んだって聞いたが……まさかアンタの仕業だったりするのかい? もしそうだったら、ギルドは何て言うんだろうねぇ?」

 

「それが、聞いてちょうだい? 私の眷属()がミノタウロスと遊んでいたら、覆面をしたアマゾネスたちが襲いかかってきたらしいの。幸いにもミノタウロスが暴走して上層に向かうことはなかったけれど……全く、不躾だと思わない? (おや)の顔が見てみたいわね?」

 

 口撃を軽くいなしたフレイヤは、それ以上言うことはないとばかりに両の(まぶた)を閉じる。対し、イシュタルは顔を盛大に歪めた。2人のやり取りはいつものことで、神々としては『はいはいアマゾネスね、イシュタルイシュタル』程度の認識である。

 

 その後は重くなった空気を司会のロキが強引にアイズ・ヴァレンシュタインのランクアップに持っていった。2つ名は変わらず剣姫、都市最大派閥の一角であるロキ・ファミリアに逆らえる神はいなかった。

 

「次で最後やな」

 

 その言葉に、ヘスティアは大きく息を吸って溜めた。

 神会が始まる直前に滑り込んだのでまさかの大トリ、さらに1ヶ月半前まで冒険者ではなかったので情報ほぼゼロ。

 

 ヘスティア・ファミリア所属──ベル・クラネル

 

「その前になぁ……ちょっと聞かせろや、ドチビ」

 

 静かに席から立ち上がるロキは、普段とは打って変わって棘のある雰囲気を(にじ)ませていた。

 

「うちらの恩恵を1ヶ月半で昇華させるっちゅうんは、

一体どういうことや?」

 

 バンッ、と音を立てて手のひらを卓上にあるベルの資料に叩き付け、鋭い視線を向けながらロキはヘスティアに問うた。

 

「うちのアイズでも1年、1年かかったんやぞ? それを1ヶ月半やと? なにアホ抜かしとんねん」

 

 8年前、過去のLv2到達最速と同率1位のその記録は、オラリオのみならず世界を震撼(しんかん)させた。

 

 神の恩恵(ファルナ)は"そういうもん"ではない。決して即席の力ではない。神ロキはそう語る。

 

 ステイタスはあくまでキッカケ。その者の秘める可能性を掘り起こし、形にすることで明確な能力として発現させる。スキルや魔法、アビリティのように。

 それら全ての能力は、その者の内側に潜在する素質。それが積み上げられる経験値を通して進化、或いは頽廃(たいはい)し、変容する。土の中に埋まる種が、環境によって異なる花を咲かせるように。故に、促進剤。神の恩恵(ファルナ)とは、外部からもたらされる万能の力ではなく、自己実現の鍵である。

 

「おいコラ、ドチビ、説明せぇ」

 

 凄みを()かせてくるロキに、ヘスティアはだらだらと汗を流す。

 

 だって、そう言われても、だ。

 

 ベルはステイタスを刻んだその瞬間から勇者のスキルを発現した。最初から呪詛を無効化していたし、精霊の寵愛を一身に受けていたし、天界から冥界までを繋ぐまさに世界そのものとも言える世界樹の恩寵を持っていた。

 

 魂が勇者のカタチでもしてんのかい!

 

 ベルの過去については、長く戦ってきたとは聞いているが、それだけ。説明なんて出来ない。なんならヘスティアが説明して欲しいと思っているくらいだ。

 

「言えんのか? まさか力を使ったんじゃないやろな」

 

「そんなことするわけないだろ!」

 

「じゃあ言うてみぃ。後ろめたい事がないんなら楽勝やろ?」

 

「うっ……」

 

 神としての力の行使……つまり、ベルを改造したのではないかという疑い。隣にいるヘファイストスも流石に口を挟めないようで、非常に困った顔をしていた。今やヘスティアは神々の視線という視線を集めていた。万事休すか、とヘスティアが諦めかけたその時。

 

「あら、別にいいじゃない」

 

「……あぁん?」

 

 ヘスティアに向けられていた視線が、一斉に声の主へと引き寄せられる。椅子に深く腰掛けるフレイヤは、あっけらかんと言い放った。

 

「ファミリアの内部事情には不干渉、とりわけ団員の能力(ステイタス)を暴くはタブーだもの」

 

 一筋の銀髪をすくい、耳へと流す。大した関心もなく、ありのままの事実をただ告るかのように、フレイヤは言った。

 事実、ベルは改造などされていない。人ならざる者の手など一切加わっていない。にも関わらず、神造の英雄よりも遥かに強く、遥かに美しい魂をしている。だからこそ、欲しい。

 今フレイヤの心にあるのは、早く街娘としてあの少年とランクアップの祝賀会に行きたいという、ただそれだけの純粋な想いだった。

 

「……1ヶ月半やぞ? この数字の意味わかっとんのか、色ボケ女神」

 

「ふふ、どうしてそこまで強情になっているの? 私には、今のあなたの態度の方が不思議に思えるけれど……もしかして、やきもち? ヘスティアの子に抜かれたから」

 

「んなわけあるか」

 

 吐き捨てるロキに対し、フレイヤは余裕の微笑みを崩さない。

 

「確かに数字単体を受け取れば耳を疑ってしまう。けれど、この子は"奇跡的にも"あのミノタウロスを倒したのでしょう? 過去の因縁もある、特別な相手。これによって得られた経験値(エクセリア)は、特別な意味を持つ……」

 

 ならば、ランクアップも有り得るかもしれない。そう神々は思った……フレイヤの、思惑通りに。

 大切なのは、納得させること。仲の悪い2人なら、片方に因縁くらい付けるかもしれない。奇跡が起きてミノタウロスを倒せたのなら、その戦いに過去の因縁があって特別な経験を積んだのなら、ランクアップするかもしれない。

 納得というパズルを組み立てさせる。フレイヤは、ピースを散りばめてやるだけでいい。作戦は、成功した。ロキの舌打ちと胡散臭げな視線によって、フレイヤはそれを確信する。そして、席を立った。

 

「急用があるから、失礼させてもらうわね? せっかくだし、彼の2つ名を決めておきたいところだけど、そうね……どうせなら、可愛い名前にしてあげて?」

 

「「「おっけー!!」」」

 

 美神の今日一番の微笑みに、男神たちは清々しい満場一致をみせた。女神たちは、彼らに対しゴミを見るような視線を送る。

 

「しかし完全にノーマークだったな。情報がねぇ!」

 

「外見、特徴……白髪に赤眼……ウサギ……兎吉(ピョンキチ)とか?」

 

「いやそれ既出。ヴェル何とかとか言う鍛冶師が自分の使った防具につけてた」

 

「まじかよ、神より先に行くとか何者なんだ……」

 

 話し合う神々を見て安心したヘスティアを、気付けば己の席から立ったロキが見下ろしていた。そして機嫌の悪さを隠そうともせず口を開く。

 

「ドチビにこんな忠告するような真似すんのも(しゃく)やけど……あのアホに好き勝手やられんのはもっと我慢ならん」

 

 コケにしおって、と忌々しそうにこぼしたロキの自然を追うと、フレイヤがちょうどこの場を後にするところだった。

 

「忠告って、一体なにを言っているんだい?」

 

「気付けアホ、あの女神(オンナ)子供(オトコ)を庇ったんやぞ?」

 

 あほくさ、と呟いて去るロキの背中を見ながら、ヘスティアは嫌な予感を胸の中に芽生えさせていた。

 





毎日ソロでLv1の限界とされる11~12階層に一日中滞在。冒険者になって1ヶ月未満でインファント・ドラゴンと、1ヶ月半でミノタウロスの強化種とタイマンして勝利。
ベルくんの記録は、端的に言って『死ね』と書いてあるようなものでした。こんなもん公開できるわけないよねという話。情報漏洩で怒られてたエイナさんも、この件に関しては報告書を作ってもらったとこ悪いけどこれボツね、ごめんね、と謝罪される始末。

可愛い名前にしてあげて、はベルくんへのお茶目なイタズラです。この女神、正体を知りながら普通に嫌なことは嫌だと言うし顔にも出すし怒ってもくれることがこの上なく嬉しいらしいっすよ。
ベルくんが『ダル……』とか言うとめっちゃ嬉しそうな顔します。

『幸運』
ヘスティアの推し。勇者として世界に愛される幸運SSSランクのベルくんには必要無い。ただしベルくんは自分ばかり運が良いのは申し訳ないと思ってるので、世界の方がベルくんの想いをくんで普通くらいの運勢に調整している。ただし必要に駆られれば凶悪すぎる本領を発揮する。

『魔導』
エイナの推しその1。普通なら魔導師に必須だが、自力で魔法円を構築・展開できるベルには必要ない。発現させれば一応は大規模な魔法を使う時に魔力制御が少しだけ楽になる。

『精癒』
エイナの推しその2。簡単に言えば自動MP回復。
スキルの精霊の寵愛に上位互換として付属している上に、世界樹の恩寵はそれに加えて自動HP回復も付いているので必要ない。ベルくんは自分で周囲の魔素を取り込んだりもしてるし、魔力制御が極まりすぎてるしで燃費がとんでもなく良いので、なんなら一番いらない。
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