英雄になれない元勇者   作:ダンまち=スキー

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幸運と同じように精霊と世界樹の加護も『待て』が出来るお利口な祝福で、ベルくんの感情の昂りや求めに応じて出力が上がります。普段は控えめですが、レフィーヤを回復させた時とかミノタウロス(強化種)と殴り合っていた時は全開出力でした。しかしこの状態は肉体に著しい負荷が掛かるので、発動非推奨です。

発展アビリティくんは犠牲になりました。ステイタスなんて無くとも、ソーマは超凄い酒を作れますし、ヘファイストスは超凄い武器を作れます。つまり新しいことが出来るようにはなりませんし、技能の激的な強化もありません。
*ただし神々とベルくんに限る

ちなみにですが、発展アビリティと同じ効果を持つ勇者スキルの隠し効果は、ベルくん自身に由来するものです。そもそも勇者スキル自体がそうと言えばそうですね。ベルくんは勇者スキルによって強化されているのではなく、元から持ってるモノが勇者スキルとして記入されてるだけなのです。



祝賀会

 

【リトル・ルーキー】

 

 それがLv2へとランクアップしたベル・クラネルの2つ名だった。リリは微妙な顔をしていたが、Lv2らしい無難で謙虚なそれをベルとヘスティアは喜んだ。具体的には手を繋いでクルクル回るくらい。

 

 そんなこんなでランクアップの祝賀会。場所はシルに誘われていつも通り豊穣の女主人。ホームを出た瞬間に神々に追いかけられたので魔法で透明になって逃げつつ、店内へと入る。ヘスティアは神の集まりがあるとかなんとかでここにはいない。

 

一躍(いちやく)人気者になってしまいましたね、ベル様」

 

「しばらくは落ち着けないかもな……」

 

「名をあげた冒険者の宿命みたいなものです。どうか我慢してください」

 

 同じホームから出たリリも面倒な逃避行には参加していたのだが、彼女はベルとは反対にとても機嫌が良さそうだった。逃げる時にお姫様抱っこで店まで来たからである。それになにより、ベルの凄さが広まることが嬉しかった。

 

「で、お前はサボりか?」

 

「違いまーす♪」

 

「私達を貸してやるから存分に笑って飲み、そして金を使えと。ミア母さんからの伝言です」

 

 気付けば1つのテーブルでベルと対面していたシルと、その隣にいるリューは、ベルに金を使わさせるための刺客だった。カウンターの奥に視線をやると、ミアが不敵な笑みを浮かべて手をひらひらと振っている。存分に羽目を外せということだろう。

 とりあえず4人は飲み物を用意する。ベルはアルコールが毒判定されて本能が拒絶反応を起こし激マズに感じるのでただのジュース、リリもソーマの関係で酒が苦手になってしまったのでジュース、エルフのリューは水。酒場なのに、その場で酒を飲んでいるのはシルだけだった。

 

「今日はベルさんが主役なんですから、たくさん食べてくださいね? それとも飲み物のお代りですか?」

 

「……ありがとう」

 

 普通に雑談していた筈が、いつの間にか隣にいたシルに甲斐甲斐(かいがい)しく世話を焼かれるベルは、お礼を言いつつ居心地が悪そうにしていた。ここはキャバクラかよと内心で思う。

 リリは一見すると笑顔だが、その裏では恐ろしい感情を抱いているとベルには分かっていた。なぜならシルと接触するたびに隣から痛烈なつねりを受けているから。

 

「私、ベルさんとはもっともっと仲良くなりたいと思っているんですけど……ベルさんはどう思っているんですか?……私のこと、好き?」

 

「し、シル、いくらなんでもはしたない」

 

「調子に乗りすぎです!」

 

 ベルにしだれかかり、胸筋を人差し指でつーっとなぞって頬を染めるシルに、非難が殺到する。リューは流石にやりすぎたと頬を染め、リリはブチ切れながらステイタスの力でシルを引き剥がした。一方、ベルはキャバ嬢でもそんなんしねぇよと思いつつも、あまり抵抗はしない。それどころかもう少し好きにさせといてやるかとすら思っていた。

 あのミノタウロスとの一戦、久し振りに良い戦いが出来てベルは機嫌が良かった。酒は飲んでいないが、戦いの余韻に酔っていたのだ。

 

「と、ところでクラネルさん。今後はどうするのですか? 貴方達の動向が、私は(いささ)か気になっています」

 

「ふむ……」

 

 このままだと同僚が暴走してそういう店になりかねないと判断したリューは話題を変えた。それを聞いて思考に(ふけ)るベルを見てシルは大人しくなり、やがてベルの腕を全身で抱きしめながら時折り頬擦りする姿勢で落ち着いた。リリに威嚇されながら。

 

「とりあえずは装備の新調、ですかね」

 

 ベルの防具はミノタウロスと殴り合ったことによって原型を留めない程に破壊されていた。それに、ドロップアイテムの角を加工して武器も作りたい。ヘスティアには、神会でヘファイストスに会ったらヴェルフ・クロッゾの所在を聞いて欲しいと頼んであるので、上手く行けば彼と会うことになるだろう。

 

「すみません、ベル様。その日は知り合いの手伝いを約束してしまっていて……」

 

「ああ、いや、大丈夫だ。事前に伝えていなかった俺が悪い」

 

「いえ、本当に申し訳ありません……」

 

 防具の破損など予測できることではないとリリはぺこぺこ頭を下げていたが、ベルに頬を片手でむにゅっと挟んで止められた。そのままぐりぐり感触を楽しんでいると、ムッとしたシルが口を開く。

 

「でしたら、私がついていってもいいですか?」

 

「……仕事があるだろ」

 

 やんわりと断るベルに、近いうちに買い物に行く予定があるとか、可愛い女の子とデートできるとか、色々なアピールをするシル。しかし、ベルは近付いてくる気配を感じていたので、黙って真っ直ぐ前を見ていた。

 

「バカ言ってんじゃないよ!」

 

「うきゅっ?!」

 

 振り下ろされたトレイが、スパァン!と子気味良い音を立てて容赦なくシルの頭部をはたく。頭を抑えるシルを見下ろすミアの顔に、容赦の色は一切なかった。

 

「そう簡単に休まれちゃこっちもたまったもんじゃないんだよ、この不良娘……そんな目をしても無駄さ、ここじゃあアタシが法なんだからね。リュー、明日はシルを見張っておきな」

 

 恨みがましい目で抗議するシルを一蹴したミアは、返答を待たずふんっと鼻を鳴らしてカウンターに戻って行った。バツが悪い沈黙がしばらく続き、やがてシルはベルに勢い良く振り返る。

 

「ベルさん、私、傷物にされました! 頭を撫でて慰めてください!」

 

「さぁベル様! 何はともあれ明日はおひとりで良品を見つけてくださいね! リリは期待していますよ!」

 

 自分を挟んでバトルを続ける2人を見なかったことにして、ベルはリューに視線を向けて口を開く。

 

「Lv2にはなりましたけど、装備を新調してもすぐ中層に行く気はありません。まずはパーティメンバーを最低でもあと1人は探しつつ、リリのアビリティを育てます」

 

「ええ、それが賢明でしょう」

 

 エイナから中層の情報を聞いていたベルは、1人でリリを守りながらの攻略は不可能であると結論付けていた。実際のところ持久戦に極端に強いベルならいけなくもないだろうが、仲間を抱えてパーティ単位で動く以上は最悪を想定すべきだ。

 最低でも3人1組(スリーマンセル)。多数決が成立する最小人数であり、防御(タンク)攻撃(ディーラー)支援(サポーター)、或いは前衛・中衛・後衛が1人ずついて連携が機能するスタイル。

 

 それを聞いたリューは安心して(うなず)いた。しかし、1人増えると聞いてまた女が増えることを予感したシルが口を出す。

 

「でもベルさん、2人だけの方が逃げ出すのは簡単なんじゃありませんか? 人数が多いと逃げ遅れる人も出てくるんじゃあ……」

 

「一理あるが、全員で逃げてるってことは既に追い込まれた後ってことだろ」

 

「その通りです。最初から窮地(きゅうち)のことを考えるより、その局面に遭遇しないことを考えた方が建設的だ」

 

 冒険者マインドで通じ合う2人を見て、ぐぅのねも出なかったシルはベルの腕に頬を擦り付ける作業に戻った。

 

「パーティのことでお困りかぁ? リトル・ルーキー!」

 

 見ると、別のテーブルの客が酒を煽りながら声を張り上げていた。外見は、イカついチンピラ。ベルが面倒事の予感を感じていると、その男が仲間2人を引き連れてこちらのテーブルまでやって来る。

 

「仲間が欲しいんなら、俺らのパーティに入れてやろうか? まぁそう警戒すんな、同業者が困ってるから善意で誘ってやってるんだ……ただその代わりによぉ、この嬢ちゃんたちを貸してくれよ!」

 

 やっぱりなと、ベルはため息をついた。

 3人から感じる強烈な酒気に、リリは不機嫌そうな顔を隠そうともせず、シルは苦笑。しかし潔癖なエルフである筈のリューは顔色一つ変えない。元冒険者かつ酒場の店員だから慣れているのだろう。

 

「誘いはありがたいが、宛はあるから遠慮しておく。

 それから、彼女らを物扱いするのはやめた方がいい」

 

「そう言うなよ、俺たちはこれでもずっと前から中層にこもってるんだぜ?」

 

「? それなら尚のこと誘いは受けられない。俺に構わず早く下層に行けばいい」

 

「てめぇ……」

 

 その返答を挑発と受け取り怒りを見せる彼らに対し、ベルが抱いたのは純粋な疑問だった。

 可愛らしい彼女らを誘いたいのは分かるが、"ずっと"が枕詞(まくらことば)に付くほど中層に留まっていることを自慢するのは、それはもう自虐としかベルには思えなかった。だって、彼らは冒険者だ。冒険する者だ。ずっと中層にいることを、冒険とは言わない。

 

「お前がそう言ってもよ、エルフの嬢ちゃんはそうは思ってないかもしれないだろ? どうだ、俺たち全員Lv2だぜ?」

 

「わかりました。では、失せなさい。貴方達は彼に相応しくない」

 

 リューに一刀両断された冒険者の男から笑みが消え、もう一度笑う。不穏な空気が立ち込めるのを、店内にいる全ての者が感じた。

 

「そうか、そうか。そこのカスみてぇなクソガキより、俺たちは頼りねぇか……」

 

 一歩近付いた男がリューの肩へ手を伸ばし──リューの視線が男の手とジョッキとを行き来したのを確認しつつ、ベルは彼女を抱き寄せた。

 

「この女性(ひと)はお前が触っていいような存在じゃない」

 

「く、クラネルさん……?」

 

 潔癖なエルフが認めた相手以外との接触を嫌うというのは知っていた。しかしそれよりも、ベルはこの高潔なエルフに酔っ払いの鎮圧なんて些事に力を使って欲しくなかった。

 

「ごめんなさい、リューさん。これは俺の我儘(わがまま)で、独善的な行動です。後で煮るなり焼くなり好きにして欲しい。それでも俺は貴方に、こんな事の為なんかに力を使って欲しくない」

 

「クラネルさん?!」

 

 リューの顔が一瞬で真っ赤に染まる。外見の割にがっしりとした腕の中に抱かれ、普段より近いところにある顔に真剣な視線を向けられて……そんな状況に、紡がれる言葉に、らしくないほど狼狽(ろうばい)して目を逸らす。

 

「その、困る。このような事は私ではなく、シルにやってもらわなくては……」

 

「テメェら舐めやがってッ!!」

 

 そんなやり取りを見せられた男達は激昂し、物凄い剣幕でベルに襲いかかる。

 しかし次の瞬間、ガツン!と鈍い音が鳴り、3人のうち2人が地面に沈む。残る1人の男が視線を向けると、そこには半壊した椅子を持っている猫人の店員が2人。ここは冒険者向けの酒場、椅子も含めて置いてある物は大体かなり頑丈だ。それが壊れるほどの勢いで殴られたら……ベルは考えたくもなかった。

 

「後頭部がお留守になっていますよ、ニャ」

 

「男ってのは本当にめんどくさいニャ」

 

「うちのエルフはかなり凶暴だから、そこまでにしていた方がいいよ?」

 

 クロエ、アーニャ、ルノアの順にそう告げられた男は、腰に手を伸ばして短剣を抜く。流石に相手をさせるわけにはいかないとベルが前に出ると、今度は爆発音がした。

 視線を向けると、そこにはV字に変形した細長いテーブルと、拳を振り下ろしたミアの姿。その着弾地点は床まで陥没していた。先程まで強気だったアーニャたちの顔がサーっと青くなる。

 

「騒ぎを起こしたいなら外でやりな! ここは飯を食べて酒を飲む場所さ!」

 

 静まり返る店内で、気付けばそそくさと自分の仕事に戻ったアーニャたちと、青い顔をして立ち尽くす冒険者の男。

 

「で、そこのアホンダラ。そこに転がってる馬鹿どもを連れてさっさと行っちまいな。もしまた面倒を起こしたら……この店の下に埋めるからね」

 

 店の下は流石にマズイんじゃないかなとベルが思ったかたわらで、男は一言も喋れないまま上下に顔を振り、足をもつれさせながら出口へと急ぐ。

 

「アホタレぇ!! ツケはきかないよ!!」

 

「は、はいぃぃぃ!?」

 

 その怒号に殴り付けられて、男は有り金すべてを置いていったようだった。テーブルの上には大量の金貨が入った袋が投げ置かれる。

 

 そんな出来事があった後でも、周囲の喧騒は直ぐに取り戻された。酒場で酔った冒険者が問題を起こすのはよくあることなのだろう。

 

「この店の戦力は一体どうなっているんですかね……」

 

 Lv2になって長い冒険者を武器どころか椅子でワンパンKOした店員が最低でも2人いることに対するリリの疑問はスルーされ、祝賀会はその後も続いた。

 





おかしいな……当初は普通にリューさんが冒険者の男をボコる手筈だったのに……気付いたらベルくんが割って入ってたぞ……

シルが最近休みがちなのでミア母さん半ギレ。
ベルくんもちょっと睨まれた。

綺麗な魂を方向性の違いはあれ大切に思うベルとフレイヤは、お互いにその気持ちを共有できる唯一の存在だったりする。うーんロマンチック。

ベルくんはソロなら中層に住めるくらい持久戦に強いです。

次でヴェルフとの顔合わせですねぇ。
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