英雄になれない元勇者   作:ダンまち=スキー

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感想欄で言及されましたが、オラリオにいるエルフは全て比較的マシなエルフです。そしてオラリオの外にいるのが、そりゃ里を焼き払われもするわとすら言われるエルフです。
エルフという種属は排他的かつ他種族への蔑視をスタンダードとする、言ってしまえば人種差別主義者なので、性格が悪いとかそういう次元を超越してるんですよね。
どう擁護したものか……いや、悪いことを無理やり擁護するのも違うのか……と気付きを得ました。エルフは大体クソです、対戦よろしくお願いします。

それと、ヴェルフは火の精霊の力しか持ってないんじゃないのと質問を頂いたんですが、原作では私が確認した限りでも火・氷・風・雷の魔剣を作ってます。地水火風は最低でもいけて、光もいけそうではある。闇は呪いの領分っぽいので怪しいか、といったところ。まぁこっちはベルくんがいるので大体なんでもいけますね。

ちなみに、ベルくんはそこら辺の子供でも使える魔剣とかいう大量破壊兵器を、基本的に野蛮人な冒険者に普通に売ってるオラリオという街を正気じゃないと思ってます。



その男、鍛冶師につき

 

「やって来たぜ、11階層!」

 

 威勢のいいヴェルフの発言通り、ベル一行がいるのは11階層。目的はヴェルフとリリの経験値稼ぎ、武具の試運転、3人1組(パーティ)の慣らし。

 

 ヴェルフがやたら嬉しそうなのは、ファミリアで除け者(のけもの)にされて11階層まで潜れることが無かったからだ。上質な経験値を得るには強敵との戦いが必要だが、Lv1がソロで上層の最深部に潜るのは、自殺でもしたいのかと言われるくらいの危険行為。当然そんなことは今まで出来なかった。

 

「2人とも好きに動いていい、こっちで勝手に援護する」

 

「おう!」

 

「わかりました!……ヴェルフ様、あまり離れすぎないでくださいね?」

 

「了解だリリスケ!」

 

 オークの群れに向かって飛び出していく2人の背後から、ベルが特に何も言うことなくファイアボルトを射出する。炎雷に呑まれたオークは一撃で絶命して灰となり、その場には2体のオークが残った。

 

「……は?」

 

「呆けないでください!」

 

「お、おう!」

 

 無詠唱で複数放たれた上にオークをワンパンした常識外れすぎる魔法を見てポカンとしていたヴェルフにリリが叱責を飛ばし、2人は同時に交戦に入る。

 

 ヴェルフは前と変わらない服装で、得物は大剣。

 

 しかしリリは大きく装備が変更されていた。

 まず身に纏う全身鎧(フルアーマー)。ヴェルフ作であるこの鎧は、重量によって敏捷性を損うことのないリリのスキルを活かす防具。防具なんて硬ければ硬いほどいい。

 武器は真紅の長槍。強化種のミノタウロスからドロップした片角を加工した穂先を持つ、ヴェルフとベルの初めての合作である魔槍である。まさか最初に作るのが剣ではなく槍になるとは思わなかった、とはヴェルフの談。

 ちなみに槍の銘はミノリ。ミノタウロスの槍でミノヤリ、は語呂が悪かったのでミノリだ。ベルの防具の名前を聞いていたリリはホッとした。

 

 そして、普段とは異なり身の丈を大きく越えるバックパックを背負っていない。代わりに腰に下げられている小さな袋。これこそベルが神秘のアビリティを得てから初めて作った空間袋(インベントリ)

 外見に見合わぬ内容量を持つファンタジー定番の魔道具だが、これにはいくつかの妥協があった。ほぼ無限に物が入るほど広くは無いし、中の時間は普通に流れているし、なにより中身の重さを持ち主が引き受けてしまう。

 しかしながら、リリには関係ない。準備しすぎなくらいの荷物が入った空間袋と全身鎧があってなお、その動きは欠片も衰えず……ベルのお手本プレイと手加減が下手クソなアイズによって行われた地獄の訓練の成果が十全に発揮される。

 

 体格に優れるオークの攻撃力は脅威。しかし、言ってしまえばそれだけ。動きは鈍重で、防御力も低い。試運転にはちょうどいい相手だった。

 

 

 

 

 

「しかし、これではパーティとは言えんな」

 

「連携しようにも、リリ達はワンマンパーティにしかなれませんよ」

 

「だが、リリの動きは良かったぞ」

 

 純粋な戦力を抜きにしたら今回のMVPはリリだろうとは、ベルもヴェルフも認めるところだった。狭い範囲での瞬間的なモンスターの大量発生、怪物の宴(モンスター・パーティ)が発生した際には、複数人での立ち回りが不慣れなヴェルフとベルの仲介役をリリが上手くこなしていた。早い話、司令塔として2人を動かしていたのだ。幸か不幸か、今までずっと冒険者を観察してきたリリは冒険者の動きというのがよく分かっていた。それに、魔力を伸ばすために獣人の虎人(ワータイガー)に変身しているので、五感が鋭い。

 

 そして、そんな風に3人で反省会をしていた時、問題は発生した。

 

「──オオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 そこまで遠くから聞こえる、聞き覚えのある咆哮。思い出そうとするまでもなく、その巨体はここからでも見えた。

 

「あれは、インファント・ドラゴン?! 逃げるぞ、お前ら!」

 

 上層の最深部で活動できるパーティを数多も壊滅された、Lv2成り立てのソロではとても勝てない相手。即座に逃走を選んだヴェルフの判断は正しい。もっとも、そこにベル・クラネルがいなければという注釈は付くが。

 牙の隙間から火の粉を散らしている紛れもない竜種を見て、よしっと声を出して立ち上がり、ベルは言う。

 

「2人とも、魔槍の試運転だ」

 

「よし、じゃないが?!」

 

「……ベル様、本気ですか?」

 

 と言いつつも、リリは手を差し出したベルに槍を渡す。受け取ったベルはワクワクした表情を隠そうともせず、心配そうに自分と竜との間で視線を行き来させるヴェルフの抗議を捨て置いて飛び出す。

 

「──ガァアアアアアアアアッッ!!」

 

 雄叫びと共に放たれた火炎の波に対し、ベルは槍の穂先を向け、魔力を込める。すると、それに呼応して傘のように半円の結界が展開された。

 正六角形が集合した形の、オラリオでは見慣れない結界。正多角形に分類される図形の中で、正六角形が最多の頂点を有しており、かつ同じ面積の図形による平面充填で周の長さが最も短い。

 ハニカム構造という蜂の巣に由来する名前で知られるこのカタチは、衝撃を効率的に分散できる。そのため少ない魔力で強力な攻撃を防ぐことが可能、受け流すタイプの結界に用いるのに最適な構造なのだ。

 

「おおっ!」

 

 ヴェルフの感嘆と共に炎の中から現れたベルは、無傷。結界は見事に竜の息吹(ブレス)を防ぎ切ってみせた。

 

「フンッ!!」

 

 反撃の横薙ぎ。槍を媒体として魔法も乗せたそれは、インファント・ドラゴンの長い首を半ばから切断した。いくら竜種といえど、首を落とされたら死ぬ。ランクアップ前は少々苦戦させられたが、今回は余裕の勝利だ。

 

 

 

 

 

 ◇

 

「──ヴェルフ」

 

 信じられない声を聞いたヴェルフは、目をあらん限りに見開き、勢い良く振り向いた。声が聞こえてきた路地裏を見ると、そこには薄闇の中にたたずむ影がおり、誘うように道の奥へと入り込んで行った。

 

「おい、嘘だろう……なんでアンタがここにいる、親父!」

 

 迷わず影を追って駆け出したヴェルフが、人々の喧騒が遠いその場所で見たのは、己の実父その人だった。

 

「説明が必要か、愚息よ──我々のために魔剣を打て」

 

 返ってきたのは、聞くまでもない答え。一族(クロッゾ)の魔剣によって不敗神話とまで(うた)われた過去の栄誉を取り戻すために、戦争の道具を作らせるために、目の前の男は存在する。

 

「ふざけろ! 誰がついて行くか! 俺はもう一族とも王国(ラキア)とも縁を切った!」

 

「お前が拒むなら、都市に侵入した同志が魔剣で火を放つ手筈になっている──無論、クロッゾのな」

 

 背の大剣に伸びていた手がびたっと止まる。ヴェルフはその表情を驚愕に染めながら、次の瞬間には叫んでいた。

 

「嘘を言うな! もうクロッゾの魔剣は残っちゃいないだろ!?」

 

「いや、存在する。精霊に呪われた際、破壊を(まぬが)れた50振りが──証拠に、見ろ」

 

 一族の末端だったお前が知らぬのも無理はないと、ヴェルフの父(ヴィル)はここで初めて笑みを浮かべた。父親の手に握られている剣を見て、ヴェルフは愕然(がくぜん)とする。己に流れる血のざわつきが、紛れもなくこれはクロッゾの魔剣であると、そう知らせてきたのだ。

 海を焼き払ったとまで言われた魔剣が、都市中で行使されたのならどうなるか。間違いなく、オラリオは火の海と化し、数え切れない程の死人が出る。

 

「アレス様は約束された! 国に魔剣がもたらされれば、一族を再興させると! 富も、名誉も取り戻せる! かつての輝かしい栄光が蘇るのだ!」

 

 それまでの覇気のない様子とは打って変わって、瞳に狂気を浮かべ、顔を輝かせている父の姿に……一族の妄執に囚われた男の姿に、ヴェルフは気圧された。

 

「今手元にある魔剣を全て持って、正子(0時)に都市南西、街外れの倉庫へ来い」

 

 そもそも魔剣を持って侵入できている事といい、計画的な犯行なのは明らかだった。脱出する手筈も整えてあるのだろう。立ち尽くすヴェルフは、暗闇へと消えた父の姿に、握りしめた拳を震わせた。

 

 

 

 

 

 指定された都市南西、市壁に近い街外れの倉庫地帯にヴェルフとベルはいた。

 

「1人で来いと言った筈だぞ、ヴェルフ」

 

「俺より強い奴が無理矢理ついてきたんだ、仕方ないだろ」

 

 そう言いつつ、ベルの頭を上から掴んで揺り動かしながら、ヴェルフは吐き捨てるようにして言った。それを払って、ベルが口を開く。

 

「悪いが、うちの鍛冶師はやれない」

 

「愚息の仲間か……せっかくだが、ここでお別れだ」

 

 腰から魔剣を抜くヴィルの動きに合わせて、周囲から続々と人影が歩み出てくる。その数、およそ50。しかしながら、ベルに動揺はない。

 

「内通者とかそういうのはふん縛った後の事情聴取でガネーシャ・ファミリアに言ってくれ。俺はアンタらを止めるだけだ──魔剣、一振しかないんだろ?」

 

 それを聞いて、ヴィルは顔を引き攣らせた。ベルは事前に街中を探知して精霊の力を帯びた魔剣の所在を確認していた。ヴェルフが早めに相談してくれたのが不幸中の幸いだった。

 そして、ヴェルフも確認が欲しかっただけで、そのことには勘付いていた。悪手だったのは路地裏での一件、魔剣への異常な執着を見せてしまったことだ。そんなに過去の栄光が大事なら、成功するかも分からない計画に限られたリソースをつぎ込める筈がない。

 

「まだだ! まだこちらにはクロッゾの魔剣がある! この一振さえあればお前を消し飛ばすことなど──なぜ近付いてきている?! 離れろ!!」

 

「撃てよ」

 

 海を焼き払うとまで言われた魔剣を振りかざす男に、一切構わずベルは近付く。その顔に表情は無い。

 

「撃ってみろ」

 

 強いて言うなら、怒り。街に火を放ち、大勢の罪なき人々を傷付けようとした……そして、仲間の心に傷を付けた事に対する、怒り。普段は気まぐれで自我の薄い精霊たちの、住処を焼き払われた事に対する、怒り。2つが共鳴し、ベルの周囲を真紅に輝く粒子が舞う。魔力の圧によって蜃気楼のように空気が歪み、世界が(きし)むような存在感が放たれていた。

 

「こっ、このおおおおおおおおおッッ!!」

 

 第一級冒険者の魔砲にも匹敵する大火力が、魔剣から放たれてベルに向かう。そっと手のひらを差し出して、そのままベルは呑み込まれた。

 

「……なぜだっ!?」

 

 しかし、無傷。炎が街の一角を焼き払うことは無く、ベルの手のひらに渦を巻いて収束し、そのまま握り潰されて消失する。同時に、周りを取り囲んでいた者達の持つ通常の魔剣が砕け散った。

 物憂げにため息をついてから、ベルは目の前の男に対して腹パン、地面に沈めた。己を見下ろす2つの視線に、ヴィルは痛みを堪えながら叫ぶ。

 

「砕ける魔剣が見たくないなどと、まだ言っているのか貴様ァ! 武器など消耗品だ! 求められるのは力だけだ! 綺麗事を抜かすなァ!!」

 

「鍛冶師の本懐を忘れてんじゃねぇ!」

 

「栄誉の前ではそんなもの取るに足らない塵芥(ちりあくた)だ!!」

 

 それを聞いて、ヴェルフが爆発する。大股でズカズカと歩み寄り、両手で父の胸ぐらを掴み上げる。

 

「武器は使い手の半身だ! 苦楽を共にしてやれる、道を切り開いてやれる魂の片割れだ!! 鍛冶師(おれたち)は、矜持を持って使い手に武器を届けなきゃいけない!!」

 

「……王国を追われれば、我々に居場所などない! 貴族の栄光を失えば、一族には何も残らない、生きられないのだ! なぜそれがわからない……!?」

 

「残ってるだろ!! あんた達には! (つち)を振るえる手が! 鉄を掴める手が! ──鉄の声を聞け、鉄の響きに耳を貸せ、鎚に想いを乗せろ……全部あんた達が俺に教えた言葉だろ!!?」

 

 いい加減に目を覚ませと、ヴェルフは錆び付いた追憶の声を己の口に乗せた。

 

 (すす)まみれのぼろ臭い工房で……祖父と、父親と、自分とで……鉄を愚直に鍛え続けていた幼少の日々。魔剣を失い没落した一族を立て直そうと、魔剣に代わる武器を求めて鉄を打ち続けていた親子三代にわたる鍛冶の風景。子に血の才能が発覚するまで確かに存在していた鍛冶師としての日々。

 

 当時の光景を喚起させる子の叫びに、父であるヴィルの瞳が揺れる。ヴェルフはともすれば泣き出しそうな顔で大声を打った。

 

「鎚と鉄、そして燃えたぎる情熱(ほのお)さえあれば、武器はどこでも打てる! 貴族なんて、王国なんてクソ喰らえだ! ──鍛冶師の誇りはどこにいったァ!!」

 

 倉庫一帯に響くその慟哭に、その場にいた全ての者が動くことを忘れていた。息を切らしながら、胸ぐらを掴んだまま、ヴェルフは俯いて顔を伏せる。目を見開くヴィルの体から力が抜けていき、だらりと腕が下がる。静寂が、訪れる。

 

「もういい」

 

 ややあって、その静寂を破ったのは1人の老人だった。ヴェルフたちを囲む集団の中から歩みだし、被ったフードを脱ぎ去る。

 

「お前の意思は硬すぎる。それこそ、鉄のようにな」

 

「爺……!?」

 

「父上……っ!」

 

 そう言って浅く笑う男は、ガロン・クロッゾ。老い衰えながらもたくましい身体と伸びた背筋を持つ、ヴェルフに鍛冶師とはなんたるかを寡黙に鉄を打つ背中で教えた先代当主。

 

「栄誉を得ればお前を幸せにしてやれると思い、幼いお前に魔剣を強要させたことを悩んでいた……だが今のお前を見て、はっきりと後悔した」

 

 ヴェルフが家を出る契機となったのが、生粋の鍛冶師である祖父に魔剣を作るよう言われたことによる失望だった。そんな祖父の本心に、ヴェルフは驚いた。

 

「その身に流れる血は、一生お前について回る。一族の宿命は、お前を魔剣への道へと引きずり込む。それでも、お前は信念を曲げないのか?」

 

 年老いてなお衰えない眼光と鋭い表情で、ガロンは問う。前までの自分なら悩んでいたのだろうかとヴェルフは思う。だが、今は。ベルと出会った今の自分なら、違う。

 

「曲げねぇ!! 血筋なんて見返してやる!! クロッゾの魔剣を越える、ヴェルフの魔剣を作ってやるよ!!」

 

 その道筋は、既に見えている。後はやることをやるだけだ。それはさながら一振の剣の如く、折れず曲がらない己の野望を、ヴェルフは言い放った。

 

「生意気な小僧め……いいだろう、我々はお前から手を引く」

 

 その発言は、孫の成長に対する隠せない喜びを感じさせた。

 

「父上、それでは王国に私たちの居場所は……」

 

「やり直しだ。鍛冶貴族としてではなく、鍛冶師として。鎚と鉄、そして燃えたぎる情熱(ほのお)さえあれば、武器はどこでも打てる……だったか。全くもってその通りだ」

 

 ガロンの下す決定に、異論は出なかった。

 その後、彼らは残らず全員が投降した。

 





新たな仲間、熱すぎる鍛冶師の漢ヴェルフです。
この後のヘファイストスとの別の意味で熱いやり取りは書くだけ野暮なのでカットだ。なお小っ恥ずかしい告白が言いふらされる未来は変わらない模様。

よく結界に正六角形が使われる理由について個人的に考察して書いてみましたが、変なこと言ってたら申し訳ないです。数学って難しい……

槍の名前はトンチキ回避。やったねリリ。

勇者と言えばインベントリ。しかしかなりの劣化品です。
実は槍も含めてヘスティア・ファミリアの団員にしか起動できないようセキュリティが掛けられてます。
それに加えて空間袋は予備があり、どっちからでも同じ中身にアクセスできるので、本体を盗まれても大丈夫。
無理やり開こうとした場合、接続経路を辿って魔力を強制的に徴収し、刻まれた術式を増幅暴走(オーバーロード)させ、盗人の体内を魔力で焼き切ります。
同じ物を作れと言われたアスフィがヘルメスを半殺しにするくらいには高度なシロモノ。フェルズの場合はウキウキで解析しようとして直前でトラップに気付き、今まさに死にかけた事に顔を青ざめさせ、ウラノスに『まぁ青ざめる顔なんてもうないんだが』と骨ジョークを飛ばします。
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