英雄になれない元勇者 作:ダンまち=スキー
ヘルメス「ベルくんよくここの酒場に来てるんでしょ? なーんか情報が欲しいなぁ〜?」
シル「何も教えたくないです♪」
ヘルメス「おいおい、俺のことがそんなに信じられないのかい?」
シル「はい、とても信じられません♪」
「ここが中層か……」
「光源が
中層の一層目、13階層。
頼りない明るさに関しては、夜目の効くベルと効くように変身しているリリには関係ないので、ヴェルフのみ気を付ければ良い。しかし、
「……それにしても、やっぱり派手だよなこれ」
「サラマンダー・ウールですから、仕方ありません」
3人が着ているのは光沢のある赤い生地のローブ。いわゆる精霊の護符であり、形になった精霊の加護だ。炎に強い耐性を持ち耐寒効果もあるそれは、精霊が一枚噛んでいるだけはあり、普通なら余裕でゼロが5つ並ぶくらいの値段がする。しかし、今回はベルが作成したのでほぼ無料。
「まだヘスティア・ファミリアに加入していないヴェルフ様には本来ならお支払いを頂きたいところですが……ベル様の好意に感謝してくださいね!」
「お前は本当に現金なパルゥムだな。わーってるよ、さんきゅーなベル」
「必要経費だ、それに対した手間はかかってない」
中層に進出するにあたってエイナに提示された条件が、このサラマンダー・ウールを用意することだった。なぜかといえば、それは13,14階層における死因で多いのが、ヘルハウンドだからだ。犬型なだけあって素早く、それでいて並みの防具なら溶かすほどの火炎放射を行うヘルハウンドは、
「……2体、来ます!」
「いきなりか……」
リリの変身魔法によって強化された聴覚がこちらに向かって駆けてくる足音を捉える。犬というには体格が良すぎる真っ黒な四足獣が、唸り声を上げながらこちらを見つめていた。
「オオオオオオンッ!!」
「ヴェルフ、試射! リリは作戦通りに!」
一体は前に出るが、もう一体は後方で待機。それを見たベルが2人に指示を飛ばす。
Lv2の冒険者であろうと噛み付かれたら骨を砕かれる咬合力を見せつけるかのように、口を開けて飛びかかるヘルハウンドの横っ面を、ベルは
「リリ!」
「はいっ!」
きゃいん、と可愛らしい声をあげて地面を転がる黒犬に、リリが
これこそが作戦。3人の中でもLv2
「こっちは任せろ!」
その場に残ったヘルハウンドは火炎放射を行うべく溜めに入っていた。牙の隙間から火の粉を溢れ出しているのを見て、ヴェルフが新調した大刀の切っ先を向ける。
──ズドンッ!!
激しい爆炎が、ヘルハウンドの頭を吹き飛ばした。
自分しか使わない武器だからと名付けが行われていない無銘の魔剣から放たれたのは、ヴェルフが持つ唯一の魔法、世にも珍しい
リリも魔槍で結界を張れるので、Lv1の2人はサラマンダー・ウールと合わせて遠距離攻撃への対策も万全だった。
「っと、また来るぞ!」
「あれは、ベル様?!」
次にやってきたのは可愛らしいウサギの外見を持つアルミラージ。敏捷性だけは高く他はLv1でも対処可能な相手だが、3匹ともが石斧を所持しており、かつ彼らは連携を取ってくる。
「2体4か……冗談キツイぜ!」
「俺はヒューマンだッ!」
「あぁ、同士討ち……」
いじられつつファイアボルト。アルミラージは炎雷に貫かれ爆散した。無情。
「息付く暇もないってな!」
「無駄口を叩く暇もないです!」
ヘルハウンドとアルミラージの鳴き声が四方八方から響く。次々と補充されるモンスターの群れに、予断を許さない状況が続いていた。Lv2が1人にLv1が2人、それもアビリティ的には中堅程度。既に囲まれている状況で、それでも3人は崩れなかった。
ベルは単純な動きだけでなく、判断とそれを行動に移すまでが恐ろしく速かった。時には漆黒のナイフで直接、時にはそこから放たれた炎雷の刃で、時には2人の体の周りを沿うように避けてモンスターを追尾する炎雷で、モンスターを無力化する。倒せるなら倒し、それが無理なら行動不能にして、それすら無理なら一時的に体勢を崩す。そこには行動の継ぎ目が一切無かった。迷わず、止まらず、恐ろしいほど効率的に、2人を補助している。まるで、死角も含め自分の周囲と、ついでに未来でも見て動いているかのようだった。
あまつさえ、まだ余力を残しており、魔力をいかにして節約しながら処理するかを考えていたベルだが、それも終わりを告げる。ベルの魔力感知に引っかかったのは、こちらに直進する複数の冒険者。すかさずベルは叫んだ。
「
自分たちに対処しきれないモンスターを他の冒険者に押し付ける、強引な緊急回避。客観的に見て、今のベル達に余裕は無い。なんなら危機的状況だ。そんな相手にそれをするということは、つまり……嫌がらせの域を越えて、殺人に等しい。
だが、ベルは彼らを咎めようとは思わなかった。すれ違う瞬間に目が合った黒髪の少女が、今にも泣きそうな顔をしていたからだ。許すのは、仲間の命を救うための苦渋の決断だろうから、だけではない。見ず知らずの他人を犠牲にすることに対して、涙を流せる優しさを持っているから……だ。
「焦るな!」
少なからず動揺したリリとヴェルフをベルは一喝した。どう考えても普通じゃない状況、だからこそ自分達くらいは普通でいなければならない。
逃げることはできない。なぜならヘルハウンドもアルミラージも敏捷性に秀でたモンスターだから。自分の、そしてなにより仲間たちの窮地。スキルによってベルの能力が引き上げられる。
しかし、悲劇は続く。ピキリ、と3人の頭上から不穏な音がした。その音は何度も何度も続く。出現したのは、巨大な吸血コウモリであるバットバットの群れ。天井が黒い影で覆い尽くされるが、問題はそこではない。モンスターの群れを産み出したことで穴だらけになった天井が、崩落する。
降り注ぐ殺人的な岩の雨は、面で押し潰す範囲攻撃。回避は不可能。かつ魔力攻撃に強いベルとは相性が悪い純粋な物理攻撃。ベルは咄嗟に2人を片腕に1人ずつ抱え、全力で結界を展開した。
「─────ッッ!!」
それはまるで、ダンジョンの上げる激しい怒号の如く。力を振り絞ったベルの叫びは、雨のように降り注ぐ土砂の轟音にかき消された。
「ぐっ、う……!」
「ベル様! 鼻血が!」
「ベル! 大丈夫か!」
肉体への負荷を度外視した全力全開での魔法行使に、肉体が悲鳴を上げていた。そして、大規模な魔法を使った後の、後隙。
辺りを満たす土煙の中で、見えるのは数多の光だけ。それは、火炎をチャージした、ヘルハウンドの群れ。
「──ッッ!!」
大爆炎。リリが展開した魔槍の結界に、それは直撃した。
◇
「昨日からベル君たちが帰ってないんだ!」
「なっ?!」
ギルドの窓口に体当たりするような勢いで飛び込んできたヘスティアの一言に、エイナの瞳が見開かれ、顔色が青くなる。すぐに動き出し、換金所と連絡を取って、帰ってきた答えは……ベルたちが、ダンジョンから帰還していない事を、確定させる情報だった。
「
「
「わかった、頼んだよ」
エイナは立ち上がり、急いで行動を始める。ヘスティアの恩恵が消えていないことから、少なくとも生きていることは確かだった。事態は一刻を争う。
対しヘスティアも、可能な限りの知り合いに当たる。依頼を受ける冒険者を待つのではなく、自らなるべく多くの協力者を探すのだ。
それから1時間後。ギルドの掲示版には、ヘスティアの依頼書が貼り出された。集まった依頼を確認しようと冒険者たちが掲示版の前に集まる中、その内の1人が前に出て、ヘスティアの依頼書を剥がす。
「大変なことになってますよ、ヘルメス様」
朝に人が車に轢かれて死んだというニュースを見ても、学校や仕事から帰ってきたらその事をすっかり忘れていませんか? 本人の顔写真や家族のインタビューまで見ていても、朝にあんなニュースあったよねと自分以外の誰かに言われて初めて、あぁそんなのやってたっけ……と、うっすら思い出せる程度ですよね。
コンビニやスーパーのレジには募金箱が置かれていると思いますが、中に入っているのは100円玉が精々で、なんなら100円玉はレアな方ですよね。募金箱やそこに貼ってあるイラストを見れば、支援先の人々がどんな酷い目にあっているのか大体はイメージできると思います。でも実際はそのイメージより酷い目にあっています。なぜなら募金について関心があって詳しく調べている人は圧倒的に少数派だからです。
だから、何も知らない他人のために涙を流せる事を、私はこの上ない優しさだと思っています。何も知らん他人がどうなっても、普通にどうでもいいし何も感じなくないですか?(人心無)。
まぁ要は他人への関心って思いのほかないよねって話。
なんならその気になればいくらでも助けられる募金をしない方が、見方によってはやむを得ないモンスター押し付けよりタチ悪いですからね。
ということで、大量発生+大量押し付け+不可避の落石でベルくんのリソースを削り、不意打ちでヘルハウンドの群れによる爆炎の一斉掃射。ダンジョンに恨まれてんのかってレベルのデスコンボですねぇ!